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―― 第五章 ―― 百鬼夜行
【064】浄癒の力
「夜市さん! 舞子さん!」
思わず桜子は叫んだ。白虎の上に乗った舞子がおり、ずるりと体が床に落ちそうになっている夜市を慌てて支える。背中の軍服が割け、露出している肌には酷い裂傷がある。
「桜子さん……書斎、書斎はどこ?」
「二階です」
桜子はぎょっとした顔をしているが、ちらりと詩乃を見る。執事から鍵を受け取っている様子だ。
「書斎に何があるんですか?」
「まだ、まだ、助けられるかもしれないって、礼人様が」
「詩乃、ご案内を」
そう言いつつ、咄嗟に桜子は両手を前に出した。涙ぐんでいる、見たことのない舞子の姿に、こちらまで動揺しそうになったけれど。けれど、今、自分にはできることがあるし、なにより舞子と夜市を助けたいという強い思いがあったから、桜子は言った。
「ただ、私に……私に任せて下さい」
「桜子さん?」
そのときには、桜子の掌からは淡い光が漏れ始めていた。舞子が涙を睫にのせたままで、それを見ている。
「わ、私……浄癒の力を使う訓練をしていて……私でも、いいえ、私が助けます」
人に使うのは初めてだったが、桜子は必死で断言した。
体がこれまでにはないくらい熱くなっていく。次第に桜子の掌からもれる光は大きく温かなものへと変わっていく。練習中、アリアは『なるべく冷静にね』と話していたと思い出しながら、桜子は全神経を集中させた。
「うっ、あ」
すると意識を失っていた夜市が呻いた。
「夜市!」
舞子が声をかける。その前で、夜市がうっすらと瞼を開ける。
背中の傷はすでに塞がりつつあった。
もう少し。もう少し。桜子はそう念じながら、力を解放する。
「あっ……舞子様」
「夜市!」
体を起こした夜市に、舞子が抱きつく。そして泣き始めた。感情をここまで露わにしている舞子は珍しい。桜子は全身にびっしりと汗をかいていた。治せ、た? と、己の手を見る。光が収束していく。
「ありがとう、桜子さん!」
「いえ。いえ……よかったです。でもきちんとお医者様に」
「ええ。ううっ……ああ……」
舞子がボロボロと泣いている。
夜市はしばしぼんやりとしていたが、それから我に返ったように、舞子を見た。
「舞子様、ご無事ですか?」
「無事じゃなかったのは、あなたよ!」
「……っ、泣かないでくれ。俺は、舞子様が無事なら、それでいいんです」
夜市が優しく笑った。するとさらに舞子が泣いた。
「詩乃、書斎はだいじょうぶみたい。応接間に用意と、お医者様にお声を」
「かしまりました」
こうして三人が移動する。
桜子は大きく息をし、胸を撫で下ろす。そうしながら、舞子を見た。舞子は隣から夜市の体を支えている。もう夜市は歩けるのだが、舞子はそうしないではいられないらしい。
「あ、あの、礼人様は……?」
桜子の声に、舞子が顔を引き締めた。そしていつも見せる凜とした表情になった。
「私達を逃してくれたの。正直、状況は苦しかった」
「……」
「ごめんなさい。私は逃げることを選んだの」
「舞子さん。謝ることではないです。それにきっと礼人様なら――……」
礼人、なら。
「私のところに戻ってきてくれます。私はそう信じています」
桜子が微苦笑した。本当は不安でいっぱいだったけれど、そう願い、礼人を信じることに決めた。
約束できないと言っていたけれど、絶対に帰ってくるとそう願う。
「私は、信じたいんです」
思わず桜子は叫んだ。白虎の上に乗った舞子がおり、ずるりと体が床に落ちそうになっている夜市を慌てて支える。背中の軍服が割け、露出している肌には酷い裂傷がある。
「桜子さん……書斎、書斎はどこ?」
「二階です」
桜子はぎょっとした顔をしているが、ちらりと詩乃を見る。執事から鍵を受け取っている様子だ。
「書斎に何があるんですか?」
「まだ、まだ、助けられるかもしれないって、礼人様が」
「詩乃、ご案内を」
そう言いつつ、咄嗟に桜子は両手を前に出した。涙ぐんでいる、見たことのない舞子の姿に、こちらまで動揺しそうになったけれど。けれど、今、自分にはできることがあるし、なにより舞子と夜市を助けたいという強い思いがあったから、桜子は言った。
「ただ、私に……私に任せて下さい」
「桜子さん?」
そのときには、桜子の掌からは淡い光が漏れ始めていた。舞子が涙を睫にのせたままで、それを見ている。
「わ、私……浄癒の力を使う訓練をしていて……私でも、いいえ、私が助けます」
人に使うのは初めてだったが、桜子は必死で断言した。
体がこれまでにはないくらい熱くなっていく。次第に桜子の掌からもれる光は大きく温かなものへと変わっていく。練習中、アリアは『なるべく冷静にね』と話していたと思い出しながら、桜子は全神経を集中させた。
「うっ、あ」
すると意識を失っていた夜市が呻いた。
「夜市!」
舞子が声をかける。その前で、夜市がうっすらと瞼を開ける。
背中の傷はすでに塞がりつつあった。
もう少し。もう少し。桜子はそう念じながら、力を解放する。
「あっ……舞子様」
「夜市!」
体を起こした夜市に、舞子が抱きつく。そして泣き始めた。感情をここまで露わにしている舞子は珍しい。桜子は全身にびっしりと汗をかいていた。治せ、た? と、己の手を見る。光が収束していく。
「ありがとう、桜子さん!」
「いえ。いえ……よかったです。でもきちんとお医者様に」
「ええ。ううっ……ああ……」
舞子がボロボロと泣いている。
夜市はしばしぼんやりとしていたが、それから我に返ったように、舞子を見た。
「舞子様、ご無事ですか?」
「無事じゃなかったのは、あなたよ!」
「……っ、泣かないでくれ。俺は、舞子様が無事なら、それでいいんです」
夜市が優しく笑った。するとさらに舞子が泣いた。
「詩乃、書斎はだいじょうぶみたい。応接間に用意と、お医者様にお声を」
「かしまりました」
こうして三人が移動する。
桜子は大きく息をし、胸を撫で下ろす。そうしながら、舞子を見た。舞子は隣から夜市の体を支えている。もう夜市は歩けるのだが、舞子はそうしないではいられないらしい。
「あ、あの、礼人様は……?」
桜子の声に、舞子が顔を引き締めた。そしていつも見せる凜とした表情になった。
「私達を逃してくれたの。正直、状況は苦しかった」
「……」
「ごめんなさい。私は逃げることを選んだの」
「舞子さん。謝ることではないです。それにきっと礼人様なら――……」
礼人、なら。
「私のところに戻ってきてくれます。私はそう信じています」
桜子が微苦笑した。本当は不安でいっぱいだったけれど、そう願い、礼人を信じることに決めた。
約束できないと言っていたけれど、絶対に帰ってくるとそう願う。
「私は、信じたいんです」
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