あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ

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―― 第六章(終章)―― 春の兆しとチョコレート

【069】チョコレート

 こうして放課後は、二人で四峰家の馬車に乗った。
 なんでもチョコレートは、溶かして牛乳を入れて固めるらしい。牛乳は、四峰家にはある。

「よかった。そうじゃないかと思ったの。六角うちには、牛乳はなかったのよ。その代わり、三吉のおうちから、特別にチョコレートをわけてもらったの」

 舞子の声は弾んでいる。凜としていたイメージが、今は明るい。こちらのほうが話しやすい。桜子は微笑しながら聞いていた。

 到着してから厨房へと向かい、見守る料理人と女中の前で、二人は制服の袖を縛った。そして、厨房にあった鍋にチョコレートを入れようとした。

「お嬢様がた! 奥様、舞子様! 俺はそれは違うと思います!」

 すると料理人の岡崎から制止の声がかかった。

「湯煎をした方がいいと思いますよ!」
「湯煎?」

 桜子が首を傾げると、お湯の上に器を置いて、ゆっくりとチョコレートを溶かすのだと教えてくれた。こうして周囲の手伝いのもと、二人はチョコレートを溶かし、牛乳を入れて、丸く成形した。それが一仕事終えてから、舞子が持ってきた箱に入れる。冬の寒さですぐに固まった。

「今日は夜市に、四峰のお家にお邪魔すると言ってきたの。『会いたい』と式神を飛ばして」
「まぁ。積極的です」
「だって夜市は煮えきらないんだもの。そういう優しいところも好きだけれどね」

 そんな話をしながら応接間で待っていると、礼人と夜市が並んで入ってきた。軍服姿だ。

「六角。人の家を勝手にデートの待ち合わせにしないでもらえる?」

 いつもより早い帰宅をした礼人は、腕を組んだ。舞子は肩を竦めている。
 隣で夜市が赤面しながら、礼人をぎょっとしたように見た。

「ち、違っ、俺と舞子様では身分が――」
「あら、違うの?」

 舞子の声が悲しげに変わると、今度はそちらを見て、夜市が焦った顔をした。
 礼人は桜子に歩み寄ってくると、笑顔を浮かべる。

「ただいま、桜子さん」
「おかえりなさい。あ、あの、これ……」
「うん?」
「明日は二月十四日で、そ、そのバレンタインという行事なんです」

 それを聞くと、箱を受け取った礼人が目を丸くしてから破顔した。

「バレンタインか、俺も桜子さんになにかを贈りたいけど、お返しの日もあるんだったかな。ありがとうございます。素直に嬉しいよ」

 優しい目をした礼人に本当に嬉しそうな声に、桜子は頬を染める。
 舞子は立ち上がると、夜市の前に立った。
 そしてなにやらやりとりを始めた二人を後目に、礼人が解説する。

「あの二人はね、両片想いなのに、くっつかないんだよ」
「両片想い?」
「うん、そう。夜市は、六角家とじゃ自分は釣り合わない身分出しだとか気にしていて、六角はそんなことは関係ないから自分のものになってほしいと話していて。双方の気持ちが分からないわけではないけれど、平行線を辿っているんだよね」
「二人とも想い合っているのなら……添い遂げられたらいいのに……」

 桜子が呟くように言うと、目を伏せて礼人が頷いた。

「今、一条大佐が、見合い話をまとめようとしているから、すぐに婚約するんじゃないかな」

 二人には聞こえない声音で、礼人はそう述べた。
 その後は舞子と夜市も四峰邸で食事をすることになり、四人で洋食を食べた。本日は煮魚だ。それを終えてから、礼人と夜市が、チョコレートを食す。

「美味しい……」

 夜市が呟くと自慢げに舞子が笑う。桜子は、礼人におずおずと尋ねた。

「どうでしょうか?」
「うん。美味しいよ」
「よかった。みんなが手伝ってくれたんです」
「それは嬉しいけど。この品は、桜子さんに俺が愛されてる証左だね」

 冗談めかして礼人がいう。和気藹々とした空気の中、夜が過ぎていった。
 舞子達は泊まっていき、明日は軍も女学院もお休みなので、それぞれ出かけようかという話をしたのだった。


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