追放された聖女は隣国で幸せをみつける

ゆるり

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2.婚約破棄

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 今日は祈りの時間が終わっても休息を取れなかった。婚約者が来ているらしい。
 歴代の聖女は王子と結婚する。つまり、未来の王妃になるのだ。当然ユリアの婚約者も王子であり、現在王太子であった。

「遅いぞ」
「……申し訳ありません、クリュガー殿下」

 草臥れたユリアとは反対に、煌びやかな服を纏い溌剌とした美青年がユリアを見て顔を顰める。クリュガーは孤児の聖女ユリアを昔から厭っているのだ。
 ユリアは無気力にクリュガーに謝罪した。ユリアの頭に今あるのは、一刻でも早く寝たいということだけである。

「ふんっ、いつまでたっても可愛げがない奴だ。まあ、今日でお前ともおさらばできるがな」
「……はい?」

 クリュガーが何を言っているのか分からなくて首を傾げる。疲れすぎて頭が回らないからだろうか。

「お前は聖女じゃない。俺のマリアンナが聖女だと分かったからな」
「……え?」
「お前はグズか?なぜ理解できない?お前は、偽聖女なんだよ!この嘘つきめ!無愛想で、民からも不満が出てたんだ。身の程知らずの孤児め!」
「……私は、聖女じゃない……」

 クリュガーはなにやら罵り続けていたが、ユリアはその言葉だけが頭を巡っていた。

「お前は聖女じゃないから、俺との婚約も当然破棄される。神殿に住まう資格もない。明日には神殿を出ていけ!」
「……でも、急に出されても、私、お金もなくて」
「あ?お前どんだけ散財してんだよ!」

 散財と言われても、ユリアは聖女として務めを始めてから1銅貨も受け取っていない。食事は出されるし、自由時間もないからお金を必要とせず、給料を主張できなかった。
 クリュガーの言い方だと、聖女という役職はそれなりの金銭がもらえる筈なのだと思われる。ユリアに支払われる筈のお金はどこにいったのか。

「ちっ、これでも持ってけ!お前の顔を見なくて済むならこれぐらい安いもんだ」

 ユリアに革の袋が投げつけられた。額に硬いものが当たり激痛がユリアを襲う。
 クリュガーはユリアが痛みに蹲っている間に面会室を出ていった。

「痛い……」

 辛うじて残っていた力で額を治癒し、血を拭う。革袋の中には金色の輝きが光っていた。

「金貨……」

 これがユリアの6年に及ぶ辛い務めの対価であろうか。低くはないが、決してその務めの対価に足りるものではないだろう。それでも―――

「私は聖女じゃない。もう辛い務めはしなくていい……」

 その日初めてユリアの瞳に希望の光が灯った。




 食事も用意されず、蔑む様な眼差しを受けつつ部屋で休んだ。
 翌日の朝には辛うじて1枚持っていた平服を着て、金貨の入った革袋だけを持って神殿を出る。

「……くそっ。あいつがいなくなったせいで、聖女の金を使えなくなっちまったじゃねぇか。つくづく使えねぇ奴だ」

 後ろから聞こえたダリオの声に振り向くことはなかった。真実は薄々分かっていたことだったから。そんな過去のことはもうどうでもいい。






「やっと解放された。もう辛い務めなんてしなくていい」

 ユリアの心は随分と軽くなった。早朝に結界水晶に魔力を注ぐ務めがなかっただけで、体も軽くなっていた。失われていた多くの魔力が、少しずつユリアの身を満たし体を回復させていくのが分かる。頭も今まで靄がかっていたのが嘘のように冴えていき、視界さえ綺麗になっていくようだった。

「もうこの国からは出て行こう。1つも良い思い出なんてないもの。新天地で私らしく生きるのよ」

 決意を固めて足を踏み出した。


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