追放された聖女は隣国で幸せをみつける

ゆるり

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16.治癒石の増産

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 アイザックが領主館に帰った後、ユリアが治癒の業務を終えるとすぐに神殿長イライジャから呼び出しがあった。用件は治癒石作りについて。アイザックは早速領主を介して神殿に依頼したらしい。イライジャはユリアが普段の業務に加え治癒石作りをすることが負担になるのではと危惧していたが、ユリアは全く無理ではないし、何か不具合が出るほど無茶はしないと約束して、領主からの依頼を受けることに決まった。

「よし、これに注げばいいのよね」

 預かってきたたくさんの空の治癒石を前に少しだけ気合を入れる。作業するのは神殿内の一室だ。イライジャが用意してくれていた。
 神殿に依頼されたことなのだから、この程度を用意するのは当たり前だと言って、温かい飲み物がいつでも飲める魔法瓶や軽食まで用意されていた。至れり尽くせりだ。ユリアが座る椅子も程よいクッションがあって座り心地がいい。恐ろしく高そうな椅子なので、万が一にも傷つけないようにしようと密かに心に決めた。

「光が放たれればそれでいいわけだから、最初は少しずつ注ぐ、と―――」

 最初の治癒力測定のように過剰に力を注いでしまえばその分だけ無駄になる。慣れるまでは慎重に力を注ぐことにした。力が尽きる気はしないが、無駄遣いは余計な疲れを生むだろう。
 力を注いで治癒石を1個ずつ作っていくと次第に慣れて作るスピードが上がっていく。さすがに少しずつユリアの身にある力が減っていくのが分かった。力の回復量より消費量の方が増えているのだろう。

「……もしかして、休憩なしに作り続けているのか?」
「えっ」

 集中していたユリアは突然聞こえた声に驚いて顔を上げた。積まれた治癒石の先、正面にアイザックが心配そうに座っていた。

「一応言っておくと、ちゃんとノックしたからな。返事がないから心配になって入ってきたら、集中して治癒石作り続けてるから、余計に心配になったよ」
「……気づきませんでした」

 アイザックはちゃんとタイミングを見計らって声をかけてくれたらしく、ちょうど出来上がったばかりの治癒石を机の右側に置いた。空の治癒石を積んでいた左側には石が後数個ほど。右側にはたくさん積まれている。いつの間にかほとんどに力を注いでいたようだ。

「イライジャが心配していた理由が分かったよ。依頼した身だが、君に無理をしてほしいわけじゃないんだ。休憩は適度にとらないと、いくら治癒師といえども体調を崩しかねないぞ」
「すみません……」

 アイザックが言うとおりだ。ユリアがしていることは、周りに迷惑をかけるだけになりかねない。

「……いや、まず感謝が先か。依頼を受けてくれてありがとう。ちょっと小言が先に出てしまったのは大目に見てくれ」
「いえ、私が悪いですから」

 心配からの小言を邪険にできるわけがない。気まずげなアイザックに微笑んで首を振った。

「しかし、凄いな。これ全部治癒石か」
「ええ、そうですね」

 残り数個の石にもさっと治癒の力を注ぎ、今日の分を終わらせた。まだ余力はあるが、初日から頑張りすぎるのも余計イライジャやアイザックを心配させるだろう。

「まぁこれでも飲め」

 わざわざアイザックがお茶を注いで軽食とともにユリアの前に置く。次期領主にこんなことをさせていいのだろうかと思いながらも、その気遣いを無下にするのも気が引けて、感謝の言葉とともに頂いた。

「……凄いな。さすが、ケッカ国で聖女をしていただけのことはある」

 治癒石を見ながら放たれた言葉に、ユリアはぴたりと動きを止めてアイザックを凝視した。

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