23 / 25
23.帰郷
しおりを挟む
懐かしさを感じる神殿へと馬車で進んだ。街中は幸いなことに難民が溢れかえるということもなく、以前とあまり変わらなかった。ケッカ国から押し寄せた難民は町への出入りを制限しているらしく、ユリアがかつて通った国境検問所とケッカ国の間に野営地が築かれている。周囲を簡易の防御柵で囲み、ドンゴの冒険者がその周囲の魔物討伐をしているようだ。今後、旧ケッカ国難民による新たな町が築かれるかもしれない。
「ここも変わっていなくて良かったわ」
「ユリアがお世話になった人たちがいるんだったな」
神殿の前庭で馬車から降り、懐かし気に神殿を眺めた。治癒所にはある程度患者がいるようだが、混雑しているというほどではない。既にユーラビアから遠く離れたこの地でも治癒石がよく流通するようになっているのだ。今の治癒師の仕事の大部分は治癒石作りが占めている。
「……ユリアさん?」
「お久しぶりです、リアナ様」
「久しぶりですね。もうユリア様と呼んだ方がいいのかしら?」
神殿から出てきたリアナに挨拶すると、揶揄うように聞かれた。ユリアの近況については時々手紙を出していたので知っているはずだ。貴族位をもらったこともアイザックと結婚したことも、手紙で祝福をもらっていた。
「今まで通りで呼んでください」
「ふふっ、ではそうしますね。アイザック様、私はこの神殿の副神殿長リアナと申します」
「ああ、ユリアから聞いている。この国に来てすぐとても世話になったのだと」
「私たちがしたことなんて些細なことですよ。むしろ、ユリアさんがユーラビアの地から治癒石を普及してくれたおかげで、ドンゴの治癒師たちもとても助かっているんですよ」
穏やかなリアナの言葉に、思わず笑みがこぼれた。アイザックも嬉しそうに微笑んでいる。
「ステファノももうすぐ来ると思うのだけど」
「ユリアにユーラビアを紹介してくれた御仁か」
リアナが治癒所の方を見て、首を傾げる。
ユリアたちにとって、この町は通り道にすぎない。旧ケッカ国の状態は非常に悪いので、できる限り早く向かう必要があるのだ。今日もこの町に長く滞在する時間はなかった。
「私の方からご挨拶に―――」
ユリアが言ったとき、治癒所の方からステファノが走ってくるのが見えた。
「いや、すみません。急患の対応をしていたら出遅れました。ユリア、久しぶりですね。元気そうでよかったですよ。アイザック様には初めてお目にかかります、治癒所所長のステファノと申します」
「お久しぶりです、ステファノ様。お元気そうでよかったです」
「ユリアが世話になったな。あなたがユーラビアを紹介してくれたおかげで、俺はユリアに出会うことができた」
「遅れましたが、ご結婚おめでとうございます。私はさながら愛の神の使いというところですかね」
「ははっ、確かにそうだ」
愛の神の使いというのは、恋人が出会うきっかけになった人をさす言葉だ。明確に愛の神という存在がいるわけではなく、俗語とされている。それを神官でもあるステファノが言ったのが面白かったらしく、アイザックが楽し気に笑った。ユリアも思わず笑ってしまう。
「……ステファノ、あなたあまりいい加減なことを言わないでくださいよ」
「リアナさんは頭が固いですねぇ、時代に柔軟に対応するって大事ですよ?こう、若い人に合わせた交流をですね―――」
「ステファノ?」
「……はい」
にっこり笑うリアナの目を見たステファノが、言葉を止めて苦笑する。意外とリアナは怖いところもあるらしい。
「楽しい時間をありがとう。俺たちはもう行かなければならないが、帰りにもここを通る。その時はもう少し滞在できるはずだ」
「必ずまた帰ってきますね」
もう時間らしい。アイザックが告げたのを聞いて、ユリアは名残り惜しいが別れを告げた。今度はきっとすぐに再会できるだろう。
「結局ケッカ国に向かうことになったんですね……。人を思いやり助けようとするあなたの精神は素晴らしいものだと思いますよ。無理せず、元気に帰ってきてくださいね」
「ユリアさん、行ってらっしゃい。くれぐれも無理はしないように。アイザック様、ユリアさんを宜しくお願い致します」
心配そうなステファノとリアナに、ユリアは精一杯笑んだ。
「はい。無理せず、私ができることをして来ます。いってきます!」
「ユリアのことはちゃんと俺が守る。安心してくれ」
ステファノとリアナの笑顔を背に、ユリアは再び旧ケッカ国への旅路に戻った。
「ここも変わっていなくて良かったわ」
「ユリアがお世話になった人たちがいるんだったな」
神殿の前庭で馬車から降り、懐かし気に神殿を眺めた。治癒所にはある程度患者がいるようだが、混雑しているというほどではない。既にユーラビアから遠く離れたこの地でも治癒石がよく流通するようになっているのだ。今の治癒師の仕事の大部分は治癒石作りが占めている。
「……ユリアさん?」
「お久しぶりです、リアナ様」
「久しぶりですね。もうユリア様と呼んだ方がいいのかしら?」
神殿から出てきたリアナに挨拶すると、揶揄うように聞かれた。ユリアの近況については時々手紙を出していたので知っているはずだ。貴族位をもらったこともアイザックと結婚したことも、手紙で祝福をもらっていた。
「今まで通りで呼んでください」
「ふふっ、ではそうしますね。アイザック様、私はこの神殿の副神殿長リアナと申します」
「ああ、ユリアから聞いている。この国に来てすぐとても世話になったのだと」
「私たちがしたことなんて些細なことですよ。むしろ、ユリアさんがユーラビアの地から治癒石を普及してくれたおかげで、ドンゴの治癒師たちもとても助かっているんですよ」
穏やかなリアナの言葉に、思わず笑みがこぼれた。アイザックも嬉しそうに微笑んでいる。
「ステファノももうすぐ来ると思うのだけど」
「ユリアにユーラビアを紹介してくれた御仁か」
リアナが治癒所の方を見て、首を傾げる。
ユリアたちにとって、この町は通り道にすぎない。旧ケッカ国の状態は非常に悪いので、できる限り早く向かう必要があるのだ。今日もこの町に長く滞在する時間はなかった。
「私の方からご挨拶に―――」
ユリアが言ったとき、治癒所の方からステファノが走ってくるのが見えた。
「いや、すみません。急患の対応をしていたら出遅れました。ユリア、久しぶりですね。元気そうでよかったですよ。アイザック様には初めてお目にかかります、治癒所所長のステファノと申します」
「お久しぶりです、ステファノ様。お元気そうでよかったです」
「ユリアが世話になったな。あなたがユーラビアを紹介してくれたおかげで、俺はユリアに出会うことができた」
「遅れましたが、ご結婚おめでとうございます。私はさながら愛の神の使いというところですかね」
「ははっ、確かにそうだ」
愛の神の使いというのは、恋人が出会うきっかけになった人をさす言葉だ。明確に愛の神という存在がいるわけではなく、俗語とされている。それを神官でもあるステファノが言ったのが面白かったらしく、アイザックが楽し気に笑った。ユリアも思わず笑ってしまう。
「……ステファノ、あなたあまりいい加減なことを言わないでくださいよ」
「リアナさんは頭が固いですねぇ、時代に柔軟に対応するって大事ですよ?こう、若い人に合わせた交流をですね―――」
「ステファノ?」
「……はい」
にっこり笑うリアナの目を見たステファノが、言葉を止めて苦笑する。意外とリアナは怖いところもあるらしい。
「楽しい時間をありがとう。俺たちはもう行かなければならないが、帰りにもここを通る。その時はもう少し滞在できるはずだ」
「必ずまた帰ってきますね」
もう時間らしい。アイザックが告げたのを聞いて、ユリアは名残り惜しいが別れを告げた。今度はきっとすぐに再会できるだろう。
「結局ケッカ国に向かうことになったんですね……。人を思いやり助けようとするあなたの精神は素晴らしいものだと思いますよ。無理せず、元気に帰ってきてくださいね」
「ユリアさん、行ってらっしゃい。くれぐれも無理はしないように。アイザック様、ユリアさんを宜しくお願い致します」
心配そうなステファノとリアナに、ユリアは精一杯笑んだ。
「はい。無理せず、私ができることをして来ます。いってきます!」
「ユリアのことはちゃんと俺が守る。安心してくれ」
ステファノとリアナの笑顔を背に、ユリアは再び旧ケッカ国への旅路に戻った。
39
あなたにおすすめの小説
聖女を騙った罪で追放されそうなので、聖女の真の力を教えて差し上げます
香木陽灯
恋愛
公爵令嬢フローラ・クレマンは、首筋に聖女の証である薔薇の痣がある。それを知っているのは、家族と親友のミシェルだけ。
どうして自分なのか、やりたい人がやれば良いのにと、何度思ったことか。だからミシェルに相談したの。
「私は聖女になりたくてたまらないのに!」
ミシェルに言われたあの日から、私とミシェルの二人で一人の聖女として生きてきた。
けれど、私と第一王子の婚約が決まってからミシェルとは連絡が取れなくなってしまった。
ミシェル、大丈夫かしら?私が力を使わないと、彼女は聖女として振る舞えないのに……
なんて心配していたのに。
「フローラ・クレマン!聖女の名を騙った罪で、貴様を国外追放に処す。いくら貴様が僕の婚約者だったからと言って、許すわけにはいかない。我が国の聖女は、ミシェルただ一人だ」
第一王子とミシェルに、偽の聖女を騙った罪で断罪させそうになってしまった。
本気で私を追放したいのね……でしたら私も本気を出しましょう。聖女の真の力を教えて差し上げます。
婚約破棄して泥を投げつけた元婚約者が「無能」と笑う中、光り輝く幼なじみの王子に掠め取られました。
ムラサメ
恋愛
「お前のような無能、我が家には不要だ。今すぐ消えろ!」
婚約者・エドワードのために身を粉にして尽くしてきたフィオナは、卒業パーティーの夜、雨の中に放り出される。
泥にまみれ、絶望に沈む彼女の前に現れたのは、かつての幼なじみであり、今や国中から愛される「黄金の王子」シリルだった。
「やっと見つけた。……ねえ、フィオナ。あんなゴミに君を傷つけさせるなんて、僕の落ち度だね」
汚れを厭わずフィオナを抱き上げたシリルは、彼女を自分の屋敷へと連れ帰る。
「自分には価値がない」と思い込むフィオナを、シリルは異常なまでの執着と甘い言葉で、とろけるように溺愛し始めて――。
一方で、フィオナを捨てたエドワードは気づいていなかった。
自分の手柄だと思っていた仕事も、領地の繁栄も、すべてはフィオナの才能によるものだったということに。
ボロボロになっていく元婚約者。美しく着飾られ、シリルの腕の中で幸せに微笑むフィオナ。
「僕の星を捨てた報い、たっぷりと受けてもらうよ?」
圧倒的な光を放つ幼なじみによる、最高に華やかな逆転劇がいま始まる!
【完結90万pt感謝】大募集! 王太子妃候補! 貴女が未来の国母かもしれないっ!
宇水涼麻
ファンタジー
ゼルアナート王国の王都にある貴族学園の玄関前には朝から人集りができていた。
女子生徒たちが色めき立って、男子生徒たちが興味津々に見ている掲示物は、求人広告だ。
なんと求人されているのは『王太子妃候補者』
見目麗しい王太子の婚約者になれるかもしれないというのだ。
だが、王太子には眉目秀麗才色兼備の婚約者がいることは誰もが知っている。
学園全体が浮足立った状態のまま昼休みになった。
王太子であるレンエールが婚約者に詰め寄った。
求人広告の真意は?広告主は?
中世ヨーロッパ風の婚約破棄ものです。
お陰様で完結いたしました。
外伝は書いていくつもりでおります。
これからもよろしくお願いします。
表紙を変えました。お友達に描いていただいたラビオナ嬢です。
彼女が涙したシーンを思い浮かべ萌えてますwww
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。
ぽっちゃりおっさん
恋愛
公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。
しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。
屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。
【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。
差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。
そこでサラが取った決断は?
聖女になる道を選んだので 自分で幸せを見つけますね[完]
風龍佳乃
恋愛
公爵令嬢リディアは政略結婚で
ハワードと一緒になったのだが
恋人であるケイティを優先させて
リディアに屈辱的な態度を取っていた
ハワードの子を宿したリディアだったが
彼の態度は相変わらずだ
そして苦しんだリディアは決意する
リディアは自ら薬を飲み
黄泉の世界で女神に出会った
神力を持っていた母そして
アーリの神力を受け取り
リディアは現聖女サーシャの助けを
借りながら新聖女として生きていく
のだった
【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします
ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに
11年後、もう一人 聖女認定された。
王子は同じ聖女なら美人がいいと
元の聖女を偽物として追放した。
後に二人に天罰が降る。
これが この体に入る前の世界で読んだ
Web小説の本編。
だけど、読者からの激しいクレームに遭い
救済続編が書かれた。
その激しいクレームを入れた
読者の一人が私だった。
異世界の追放予定の聖女の中に
入り込んだ私は小説の知識を
活用して対策をした。
大人しく追放なんてさせない!
* 作り話です。
* 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。
* 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。
* 掲載は3日に一度。
聖女姉妹の姉は、妹に婚約者を奪われました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミレッサと妹シアノは数週間前に聖女の力を得て、聖女姉妹と呼ばれていた。
一週間前に私はルグド王子、シアノは侯爵令息カインとの婚約が決まる。
そして――シアノの方が優秀だから、婚約者を変えたいとルグド王子が言い出した。
これはシアノの提案のようで、私は婚約者を奪われてしまう。
ルグド王子よりカインは遙かにいい人で、私は婚約者が変わったことを喜んでいた。
そして数ヶ月後――私の方が、妹より優れていることが判明した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる