1 / 5
1.
しおりを挟む
ドレスを纏って綺麗に化粧をしたが、私に声をかける者はいない。何故だって?私はこの国の王子の婚約者であり、またこの国の聖女という尊い立場だからだ。気軽に話しかけられる身分ではない。
だが、私はとにかく暇だった。婚約者のフレッドの学園卒業祝いをしにこのパーティーに参加しているのに、肝心のフレッドがいないのだ。エスコートを断られた時点でおかしいなと思ったが、フレッドが私を蔑ろにするのはいつものことだったから気にしなかった。まあ、蔑ろにされてること自体は気にすべきなんだけど、もう慣れてしまったのだ。
1人ポツンと立っていた私を気遣ってか、王が王族の席に招いてくれたのだが、それで余計に私に話しかける人がいなくなった。貴族たちとにこやかに上っ面な会話をしたいわけではないが、暇すぎて疲れてきてしまった。
「アリシア!」
「あら、いらしたのね、フレッド殿下」
漸く婚約者のフレッドがやって来て、久しぶりに口を開くことができた。微笑みを浮かべてフレッドを見ると、何故か舌打ちされる。王子の癖に行儀が悪い。私は彼のこういうところが嫌いだ。
「お前は、何故王族の席に座っているんだ?!ここはお前が居て良い場所じゃないぞ!」
「殿下、少し声が大きいわ」
「言い訳するな!」
言い訳なんかしてないじゃない。私はただ、彼の場違いな大声で集まった視線が居心地が悪かっただけよ。
「私、陛下に呼ばれてここに座っておりますの。婚約者がいらっしゃらなくて、私が暇をしていたからでしょうね。殿下は陛下の意に異議を唱えるの?」
「なっ?!……父上がお許しなら仕方ない」
顔を歪め、納得していない風情の彼を冷たく見据える。彼のこういうところも嫌いだ。自分の思い通りにことが進まないと、すぐに機嫌が悪くなる。
「それより、私にそちらの方を紹介してくださらない?」
フレッドの腕に手を絡ませて寄り添う女性を呆れた思いで見つめる。なんだか怯えた風情に見えるが、何故彼に寄り添っているのか。
「……紹介せずとも知っているだろう」
「あら、初対面だと思うのだけど」
「白々しい!お前がリリィを虐めていたのを知っているんだぞ!」
「虐め?私が、その見知らぬ人を?」
意味の分からぬことを喚くフレッドを見てため息をついた。なんでこんな人が王子で、私の婚約者でなんだろう。王がこの王子の不出来具合を嘆いているのは知っている。だが、長子継承の伝統があるため、フレッドを廃嫡できないのだ。こんなのが王になったら民も不幸だろうに。
「見知らぬ人だと?!言い逃れもいい加減にしろ!お前のその悪辣さには嫌気がさしているんだ!お前との婚約は破棄させてもらうからな!」
「まあ……!それは、王子としての発言ですの?」
「当然だ。第一王子として宣言する!私は聖女アリシアとの婚約を破棄する!」
ビシッとアリシアを指差すフレッドは本当に礼儀がなっていない。あまりに不快でため息をついた。
「聖女との契約を破るということですわね?」
「契約?」
「ええ。聖女はいずれ第一王子と結婚することで聖女を引退し王妃となる。その代わりにそれまでは聖女としての務めを果たす。そういう契約だったはずですわ」
聖女は処女しかなれない。だが、聖女でなくなった後も、元聖女はそこにいるだけで国に幸せを齎すと言われている。だから、どこの馬の骨とも知れない者と結婚して国を出るのを防ぐために、王子と婚約しているのだ。歴代の聖女は、結婚後の王妃としての豊かな生活を望んで、結婚前は聖女の務めを果たしている。
だが、私はとにかく暇だった。婚約者のフレッドの学園卒業祝いをしにこのパーティーに参加しているのに、肝心のフレッドがいないのだ。エスコートを断られた時点でおかしいなと思ったが、フレッドが私を蔑ろにするのはいつものことだったから気にしなかった。まあ、蔑ろにされてること自体は気にすべきなんだけど、もう慣れてしまったのだ。
1人ポツンと立っていた私を気遣ってか、王が王族の席に招いてくれたのだが、それで余計に私に話しかける人がいなくなった。貴族たちとにこやかに上っ面な会話をしたいわけではないが、暇すぎて疲れてきてしまった。
「アリシア!」
「あら、いらしたのね、フレッド殿下」
漸く婚約者のフレッドがやって来て、久しぶりに口を開くことができた。微笑みを浮かべてフレッドを見ると、何故か舌打ちされる。王子の癖に行儀が悪い。私は彼のこういうところが嫌いだ。
「お前は、何故王族の席に座っているんだ?!ここはお前が居て良い場所じゃないぞ!」
「殿下、少し声が大きいわ」
「言い訳するな!」
言い訳なんかしてないじゃない。私はただ、彼の場違いな大声で集まった視線が居心地が悪かっただけよ。
「私、陛下に呼ばれてここに座っておりますの。婚約者がいらっしゃらなくて、私が暇をしていたからでしょうね。殿下は陛下の意に異議を唱えるの?」
「なっ?!……父上がお許しなら仕方ない」
顔を歪め、納得していない風情の彼を冷たく見据える。彼のこういうところも嫌いだ。自分の思い通りにことが進まないと、すぐに機嫌が悪くなる。
「それより、私にそちらの方を紹介してくださらない?」
フレッドの腕に手を絡ませて寄り添う女性を呆れた思いで見つめる。なんだか怯えた風情に見えるが、何故彼に寄り添っているのか。
「……紹介せずとも知っているだろう」
「あら、初対面だと思うのだけど」
「白々しい!お前がリリィを虐めていたのを知っているんだぞ!」
「虐め?私が、その見知らぬ人を?」
意味の分からぬことを喚くフレッドを見てため息をついた。なんでこんな人が王子で、私の婚約者でなんだろう。王がこの王子の不出来具合を嘆いているのは知っている。だが、長子継承の伝統があるため、フレッドを廃嫡できないのだ。こんなのが王になったら民も不幸だろうに。
「見知らぬ人だと?!言い逃れもいい加減にしろ!お前のその悪辣さには嫌気がさしているんだ!お前との婚約は破棄させてもらうからな!」
「まあ……!それは、王子としての発言ですの?」
「当然だ。第一王子として宣言する!私は聖女アリシアとの婚約を破棄する!」
ビシッとアリシアを指差すフレッドは本当に礼儀がなっていない。あまりに不快でため息をついた。
「聖女との契約を破るということですわね?」
「契約?」
「ええ。聖女はいずれ第一王子と結婚することで聖女を引退し王妃となる。その代わりにそれまでは聖女としての務めを果たす。そういう契約だったはずですわ」
聖女は処女しかなれない。だが、聖女でなくなった後も、元聖女はそこにいるだけで国に幸せを齎すと言われている。だから、どこの馬の骨とも知れない者と結婚して国を出るのを防ぐために、王子と婚約しているのだ。歴代の聖女は、結婚後の王妃としての豊かな生活を望んで、結婚前は聖女の務めを果たしている。
71
あなたにおすすめの小説
逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
傷物の大聖女は盲目の皇子に見染められ祖国を捨てる~失ったことで滅びに瀕する祖国。今更求められても遅すぎです~
たらふくごん
恋愛
聖女の力に目覚めたフィアリーナ。
彼女には人に言えない過去があった。
淑女としてのデビューを祝うデビュタントの日、そこはまさに断罪の場へと様相を変えてしまう。
実父がいきなり暴露するフィアリーナの過去。
彼女いきなり不幸のどん底へと落とされる。
やがて絶望し命を自ら断つ彼女。
しかし運命の出会いにより彼女は命を取り留めた。
そして出会う盲目の皇子アレリッド。
心を通わせ二人は恋に落ちていく。
聖女の力に目覚めた私の、八年越しのただいま
藤 ゆみ子
恋愛
ある日、聖女の力に目覚めたローズは、勇者パーティーの一員として魔王討伐に行くことが決まる。
婚約者のエリオットからお守りにとペンダントを貰い、待っているからと言われるが、出発の前日に婚約を破棄するという書簡が届く。
エリオットへの想いに蓋をして魔王討伐へ行くが、ペンダントには秘密があった。
魅了魔法に対抗する方法
碧井 汐桜香
恋愛
ある王国の第一王子は、素晴らしい婚約者に恵まれている。彼女は魔法のマッドサイエンティスト……いや、天才だ。
最近流行りの魅了魔法。隣国でも騒ぎになり、心配した婚約者が第一王子に防御魔法をかけたネックレスをプレゼントした。
次々と現れる魅了魔法の使い手。
天才が防御魔法をかけたネックレスは強大な力で……。
だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる