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「ぐっ、リリィを虐めるような者が聖女であるものか!お前は聖女という身分を騙っているのだ!」
「まあ!私を罪人だと仰るの?聖女の身分を騙るのは極刑ものよ。そんな罪で私を告発しようなんて、それが冤罪であったときのあなたの責任が追及されることはちゃんと理解しているの?」
「お前が聖女でないことは明らかだろう!リリィを虐め、挙げ句に殺そうとする奴が聖女のはずがない!」

 喚くだけで、フレッドの言葉には中身がない。全て彼の主観の話で、何の客観的な根拠もないからだ。本当にお粗末な頭をしている。これが次期王で良いのかと、方々の偉い人たちに問いかけたい。

「前提が間違っていますわね。私はそもそもそちらのリリィさんという方を虐めておりませんわ」
「なっ、まだシラを切るか!リリィ、言ってやれ!」
「えっ、あ、あの、私、あなたに虐められたんですっ」

 挙動不審なリリィはここで話を振られるとは思っていなかったようだ。低位の者からの、あなた、なんて不快な呼び方に眉を顰めるが、今は流しておこう。

「リリィさん、私があなたに何をしたというの?第一、私はあなたと会ったことさえないと思うのだけど」
「あ、その、あ、会いましたよね!」
「いいえ?」

 何やら必死に私に同意を求めてくるが、なぜそこで私が同意すると思うのか不思議だ。どんどん顔を青くしていく少女を見て、なんだか面白くなってきた。こんな頭の弱い少女が私にわざわざ歯向かうような真似をなぜしたのか分からない。

「アリシア、またリリィを虐めるつもりか?!」
「全然虐めてなんかいないでしょう。私は事実確認をしただけよ。勝手にそちらが焦って追い詰められているだけでしょう」

 呆れを隠さない表情で言うと、フレッドがグッと息を詰まらせて私を睨みつけてきた。自分の意思が通らないからって苛立ちも露わに睨みつけるのは王子として以前に人としてどうかと思う。

「ねぇ、結局私がリリィさんを虐めたという証拠はあるの?」

 視界に渋面の王が近づいてくるのを捉えながらフレッドに聞く。ここは王族が集う場所なのだ。一時的に席を外していた王もフレッドの起こした騒ぎに気付いて戻ってきたのだろう。
「しょ、証拠……」
「まさか証拠もなしに私を糾弾したというの?」

 分かりきったことだったが王に聞かせるつもりで問うた。しどろもどろになるフレッドを冷徹に見つめる。なにも婚約者を嫌っていたのはフレッドだけではないのだ。

「そもそも、私は学園に通ってもいないのよ?私がわざわざ学園でリリィさんを虐める理由って何?」
「あ……」

 フレッドは私に言われて初めて私が学園に通っていないことを思い出したようだ。あまりに遅すぎる。リリィも目を見開いて私を見てくるが、予想外のことだったのだろうか。人に冤罪をかけようと思うなら、まず相手のことをきちんと調べるべきだと思うが。

「じゃ、じゃあ、お前以外の誰がリリィを虐めると言うんだ!お前がリリィに嫉妬して、だれか手のものを使って虐めたに違いないんだ!」

 すでに妄言にしか思えないことを叫ぶフレッドに呆れてため息をついた。きちんと王族としての教育を受けているはずなのにここまで馬鹿なのはなぜだろう。……まあ、その理由もなんとなく察しがつくから追究したくないが。

「私が嫉妬なんてするはずないじゃない。私はあなたのことなんて好きじゃないもの」
「なっ」

 驚いたように絶句するフレッドに私のほうが驚く。まさか、私がフレッドのことを好きだと誤解していたのだろうか。そんな誤解をされていたなら、とても不快だ。



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