婚約破棄された聖女は自由に生きる ―――少し呪うくらいは許してくれますよね

ゆるり

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「私たちは契約に則って婚約しているだけでしょう?まさか、あなたに愛情があるなんて誤解されていたなら不愉快だわ」
「ふ、不愉快だと……」

 衝撃を受けて落ち込むフレッドを眉をひそめて見つめた。その横で私とフレッドをただ見比べて呆然としているだけの少女はもうどうでもいい。きっと見た目だけ育って物事をちゃんと考えられない精神子どもなんだと思うことにした。こんな少女を巻き込むフレッドには呆れしかないけれど。

「そこまでにしろ」

 ようやくやってきた王に視線を向ける。渋面だが、その奥に喜色があるのを見逃さなかった。やはり、これは彼らの計画的なものだったのだろう。手のひらで踊らされて、その人生までも破滅させられようとしているフレッドに僅かに憐憫が湧くが、これは彼の選択によって生じた問題だ。私は彼の人生を背負うつもりはない。

「父上っ」
「話は聞いていた。私の許諾を得ることもなく、王の結んだ契約を一方的に破棄しようとするとは言語道断。処罰を言い渡すまでお前の蟄居を言い渡す」
「そ、そんな!」

 そんな親子であるはずなのに愛情のないやり取りを冷めた目で見る。

「そこのお前。名を名乗ることを許そう」
「ふぉ、フォレスター男爵家リリィと申します……」
「そうか。では、フォレスター男爵令嬢よ、そなたはフレッドと一緒になって貴い身である聖女に冤罪を着せ、不当に貶めようとしたな。罰が決まるまで牢に」
「えっ、そんな……」
「ち、父上、お待ちくださいっ」
「お前の意見は聞いていない。騎士よ、連れていけ」
「きゃっ、いやよ!牢なんて入りたくないわ!」

 動揺するリリィを庇うフレッドの発言を切り捨て、騎士に命を下した。騎士は粛々とリリィの腕をつかみ連行する。貴族令嬢を牢に入れるなんてあまりに異例のことだが、王の命令ならば否やはないらしい。フレッドが青い顔でリリィを見つめた。

「フレッド、何をしている。私はお前に蟄居するように言ったはずだ」
「い、今すぐですか……?」
「そうだ」

 悄然としたフレッドがトボトボと会場を出て行った。既に私への思いも存在すらも忘れているようだ。

「聖女アリシア。私の愚息の行いを謝罪する」
「……どのような罰を下すつもりですか」

 頭を下げることなく放たれた謝罪を簡単に受け入れることはしない。私まで彼らの思い通りにいくと思わないでほしい。

「……フレッドは廃嫡に。継承権を剥奪し、辺境の男爵位でも渡すつもりだ。ちょうどフォレスターは辺境の男爵だ。あれの望み通り、結婚を認めてやればいいだろう」
「殿下の言葉にはリリィさんとの結婚を望むものはありませんでしたが」
「……」

 態度を見て察するものはあっても、明確な言葉はなかった。王がフレッドの意思を知っているということは、やはり王は以前からこの事態が起きると予期していたのだろう。

「まあ、いいですわ。殿下の罰はそのように」
「……分かった」


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