白と黒の呪い戦線

界 あさひ

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呪いと祝福の境界

016 切り拓く

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「クソ喰らえだ、神様。」
 そう言って血を拭うナガトを見て、カルタは笑った。
「明らかに勝てないと分かっている相手に、立ち向かう勇気は褒めましょう。
 しかし、力がない以上、その勇気は意味を持たないのです。勿体ない。こんな所で命を捨てる事になるとは…!!」
 カルタは口角を上げて高らかに笑う。
 俺は、目の前の相手に勝てない。もしかしたら、カルタの宣言通り、死ぬかもしれない。
 死ぬのは何よりも怖かったが、もはや今のナガトにはそんな事を考える余裕はなかった。
 ただ目の前の相手を、止めろ!
 ミナミに言われたそれだけに集中していた。
「命を捨てる?
 上等だ。殺してみろよクソ!!!」
 すでにボロボロになったナガトは、血の滲む口を噛み締め、震える拳を握り締め、目を見開き、精一杯、口角を上げた。
 
 カルタの回し蹴りが、ナガトの右の横腹に鈍い痛みを与える。
 カルタの膝蹴りが、ナガトの溝落ちに当たり、少し長い一瞬、ナガトの息を止める。
 カルタのアッパーが、ナガトの顎に当たり、脳に衝撃を与え、ナガトの意識を奪おうとする。
 ナガトは既に満身創痍、限界を超えていた。立っているだけで足が震えグラつき、筋肉が悲鳴をあげる。
 けど、まだだ。まだ、こない。ミナミが来ない。ミナミが来るまで、何としてでも耐える。
 血だらけの顔をあげると、目の前に、飛んでいるカルタが、今にも回し蹴りをナガトへ食らわせようとしているのが目に映る。
 とうに限界を超えている自身の腕を何とか動かして、回し蹴りを止めた。
 その瞬間、ナガトはある事に気づいた。疲労からか、確かにカルタの力が弱くなっている。ボロボロのナガトでも、初めはまともに受けると吹っ飛んでいた蹴りを、受け止められるようになった。
 どうやらその事にカルタも気付いたようである。
 今一度、ナガトは自分の体に鞭を打った。右の回し蹴りをカルタの右腹へ打ち込んだ。
「なっ!」
 カルタの体がナガトから離れる。膝をついたナガトは、この状況に困惑した表情を、一瞬だけ浮かべた。そして、次の瞬間、今までナガトには見せたことがなかった表情を、眉間に皺を寄せ、口を噛み締めた怒りの表情で、息を荒くしてナガトを見た。
 
 いける…!勝てる…!目の前の相手に!何が起こったかは分からないけど!勝てる!!
 一瞬のうちに、そんなことがナガトの頭を駆け巡った。
 これは、神様が、諦めなかった俺へ与えた祝福だ。神なんて信じたことはなかったが、そんな事が頭の片隅に浮かんだ。動かなくなった体を動かした。カルタへ向かって走った。はあああああああああああああああとひたすらに叫びながら走る。
 カルタを殴る。蹴る。手応えがある。
 …勝てる!!!!
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