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プロローグ

忘れ物。

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「……あ! いけない、アキラったら」
「どうしたんですか?」

 三姉妹達が学校へ行き、真奈美さんと家の掃除をしていた時、テーブルに置かれたその包を見て言った。
 それは今朝作ったばかりのお弁当だった。 

「忘れて行っちゃったのね、持っていってあげないと」
「真奈美さん、それなら俺もって行きますよ」

 真奈美さんもこれから仕事だ。
 昼前にアキラの通う西条高校に向かうのなら、俺しかいない。


「ごめんねぇ、ありがとう」
「ぜんぜんいいんですよ。これくらい」

 俺がこの家でやることは、料理や掃除、その他諸々。
 洗濯に関しては真奈美さんに任せている。目のやりどころに困るからな……。

 一先ず、スマホでアキラに「お弁当忘れてる」とメッセージを飛ばし、昼休みに合わせて持っていくことを伝えた。

 返事は「あざっす」とだけ、だいぶ砕けた内容。叶が言っていたように、他人行儀な空気は無くしていこうを実行している結果だ。
 それは良い事だけど、それとは別に一つ気になることがあった。
 アキラが通う西条高校がどのような校風なのかが、だ。

 番長としてアキラが君臨しているらしいが、わざわざ番長と名乗るくらいだ、ちょっと荒くれているのかもしれない。
 それに関しては愛花も叶も同じなんだけど。

「さて、とりあえず残りの事をするか」


★★★


 しばらく家のことを済ませて、時計の針がどちらも上を指した頃。
 俺は弁当箱片手に西条高校へやってきた。

 のだが、まぁなんだ。

「テメェこら何見てんだオラ」
「部外者が入ってきてんじゃねーぞゴラ!」

 不良1号、不良2号みたいな男子生徒に絡まれた。
 それこそ俺が思い描くような、番長のようだった。鍛えているのか、かなりがたいが良い。

 俺がこの二人と喧嘩でもしようものなら、あっという間にやられてしまうのは目に見えていた。

「いや、あの……これを八月朔日アキラって子に届けに来ただけで……」

 アキラの名前を出すと、1号と2号は信じられないと言った様子で。

「な……なんであんたみたいなのが、アキラさんに……」
「まぁ、少し事情がややこしくて……」
「い、いやまて。弁当を届けに来るような関係だぞ?」

 コソコソと二人で話しだした。

 疑っていたわけではないが、やはりアキラはここの番長なのだ。こんなに強そうな男二人がアキラに対してさん付けをしている、それだけでも異質さがわかる。


「……なぁ、一ついいか?」
「な、なんだよ」
「アキラが番長ってのは知ってるけど……あの子、そんなに喧嘩が強いのか?」

 それはただの興味本位だった。

 知らないなら知らないといえばいいし、強いなら強いぜの一言だけで良かったのだが……。
 どうやら、この発言がこの二人のなにかに火をつけたようで。

「あったりまえだ! アキラさんは強すぎる! 意味わからねぇくらい!」
「男とか女とか、喧嘩にゃ関係ないんだって思い知らされたくらいだ! 常識を曲げられちまった。だが! それもあるがっ! アキラさんは──」

 そこで1号2号は息を揃えて言い放った。

「「めちゃくちゃ可愛いんだよ!!」」
「へ?」

 予想していなかった言葉に間抜けな声が出てしまった。
 ……それが番長であることと何か関係があるのか?


「番長ってのはカリスマ性もいるんだよ! 実際アキラさんの下にいるのは、実質ファンクラブみたいなもんだ」
「そしてこれが、女子生徒の協力により手に入れられたアキラさんの生写真だ」
「ばか! 殺されるぞ!」
「構いやしねーよ! みろ! これなんか体操服に着替える途中の──」

「へぇ、そりゃ私も気になるな」

「そうでしょう!? ほら、この汗拭いてるところペッ」
「あっ、アキラさん! これはちがっ、すんまポッ」



 その小さな拳が不良たちの顎を的確に捉えた。
 ヒートアップする背後から迫ってきているのは、わかっていたけど教えなかった俺は悪いやつなのかな。

「ったく、こいつらはホント……」
「良いことじゃないか、慕われてるってことは」
「盗撮じみてることは事はごめんすよ」

 それもそうだな、と笑い俺はアキラに弁当箱を手渡す。
 アキラはそれをまじまじと見て、俺を見上げた。

「これ、楓太さんが作ったんすか?」
「そうだね。口に合えばいいんだけど」
「作ってくれたものに、文句なんか言わないすよ」


 時折見える礼儀正しさになんだかほのぼのとする。
 カリスマ性、とさっきの1号達は言っていたが、確かにそうかもしれない。

 強さだけじゃ、誰もついてこない。だからアキラを慕う人もたくさんいるのだろう。

「アキラさーん! お昼にしましょーよー!」

 遠くでアキラを呼ぶ女子生徒。
 アキラは手を振り「すぐ行く」と応える。

「じゃあ、楓太さん。また家で」
「あぁ、午後も頑張ってな」
「ははっ」

 おかしかったのか、アキラは笑った。

「たぶん、寝ちゃうっす」

 それもある意味、高校生らしいさと俺は心の中で思った。
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