Rock You

preludio

両親に連れて行ってもらったバンドのライブで演奏を聴いたのがきっかけだった。

その当時大ヒットした映画の主題歌を提供した葉月玄がサプライズで登場したのだ。

子供でも素人でも分かるくらい別格の存在がそこにいた。

ギターを始めたのも、音大に進もうと思ったのも彼の影響だ。

自分の人生を大きく変えた人物の娘が同じ大学にいると知ったときは驚いた。

友達になりたい。

たった1曲で人生を変えてしまうような人間の近くで育ったらどうなるのだろう。

大スターの娘というともっと派手なイメージだったが、カノンは目立つことを好まない。

年下の俺にも最初敬語を使っていたし、嫌われてはいないけど一線を引かれている気がする。

どうやったら仲良くなれるだろうか。

そんなことを考えながら友人達と次の講義に向かっているときに、カノンの姿を見かけた。

「カノン！」

手を振って呼びかけると、少し戸惑いがちに手を振り返してくれた。

「あのきれいなお姉さん誰だよ」

「ガクって最近気づいたらいなくなっているときあるよな」

「付き合ってんのか」

「違うって。友達になったの！」

「その割に気まずそうじゃなかったか？」

「仲良くなっている途中なんだ。……どうやったら俺のこと知ってもらえるかな」

相手に心を開いてもらうには、まずは自分から開示していかないと。

「今度ライブやるって言ってたじゃん、誘ってみたら？」

「でもライブハウスにいそうな雰囲気の人じゃなかったな」

「ライブ……」

誘ったらカノンは来てくれるだろうか。

「ちょっと俺チケット渡してくる！」

「頑張れ～」

「骨は拾ってやるよ」

次の講義に遅れないように全力で走った。