imitation

優未

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「メジスト侯爵家から婚約のお話をいただくだなんて思いもしなかったものですから」

 横に座る父が滝のような汗を流している。難しい商談を幾度も成立させてきたとは思えない情けない姿だ。これなら母に来てもらったほうがよかったとすら思ってしまう。私は早くこの時間が過ぎるのをひたすら待つことしかできなかった。

「あとは若い2人でゆっくり話すといい」

 メジスト侯爵様がそう言うと父も共にいなくなってしまった。非常に気まずい。ゆっくりも何も私に話すことはないのです。そもそもどうしてこの人と婚約することに…。家格も釣り合わないし、メジスト侯爵家の資金繰りが悪いなんて話も聞いたことがない。この婚約に何の意味があるというのか。でも我が家から断るわけにはいかないわ。これはほぼ決定ということよね。だから父は私が問い詰めるまで何も言おうとしなかったのだろう。何かの間違いだったとメジスト様側からなかったことにはしてくれないかしら。

「ミクリィ?」

「はいっ」

 いけない。思考に気を取られていたわ。

「と呼んでもかまわないかな」

「はい」

「僕のことも名前で呼んでくれると嬉しいな。君とは親しくなりたいと思っているから」

「ア、アスター様は今回のお話を」

「やめるつもりはないよ。でも少し急だったから先日君と話をしようと思ったんだ」

「そうでしたか。ですが、私の考えはこの前お伝えした通りでございまして」

「引き続き僕で男避けをすればいいよ」

「あなたを利用するのはもうやめると決めたのです。それにメジスト侯爵家が得るメリットもないでしょう」

「いい加減身を固めろと両親もうるさくてね。君が婚約者になってくれたら僕も助かるんだ。それに、僕の名前を出してくれるくらいには結婚してもいい条件が揃っているんでしょ?僕は君の家の財産目当てではないし。あと学院で少しかじった程度だけど、商会の経営に少しは力添えできると思うし」

 少しかじった程度なんて嘘だ。この人は語学も堪能でそれを生かして貿易会社を設立していたはず。

「僕は次男で家を継ぎようもないし、フォーゼン家だっていずれ婿を取らないとでしょう?」


 もう皆の憧れの王子様には近付かないと決めたのに、私に断る術はなかった。
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