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第九十二話 先代の日記

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日記には毎日の様子が記されていた。

○年○○日
 今日も魔王城は平和だ。
 俺にはやらなきゃならない事がある。
 魔王として死ぬ事だ。
 勇者達は弱い、とてもじゃないがガスに敵うとも思えない。
 戦わせる訳にはいかない。勇者を元の世界に返す為になら
 俺はどうなっても構わない。親友だけでも生きて戻って欲しい。

○年○○日
 とうとう勇者達が近づいてきた。
 準備は整った。ガスを足止めして絶対に帰ってこないようにできた。
 これなら勇者に会う事はないだろう。

○年○○日
 何故かガスが戻ってきた。
 というか、ブレス吐くの!?
 たった一回のブレスで死にそうになってる!
 回復をかけないと。いや、魔物が襲おうとしてる!
 まずはガスを追放しよう。
 竜なんて強すぎる。
 
○年○○日
 ガスに吹き飛ばされた勇者を転移で送った村にポーションを
 置いてきた。
 ほかに足りない物はすぐに用意させた。
 次はガスに合わないようにしなければ…。
 まずは殺してしまおうか?
 いや、そもそも俺では倒せないのでは?
 竜って強すぎるだろ?

○年○○日
 勇者は順調に回復したようだ。
 転移させて近隣の村へ送ってやったのがよかった。
 死なずに済んでよかった。
 ズタボロだが、戦闘意識だけはあるようだ。

○年○○日
 再び勇者がきた。
 今度こそ、殺されてやらなければ…。
 大事な親友に、生きててもらう為に。
 自分の正体は言えない。言っちゃいけないのだ。
 あいつはきっと俺が死んでレベル上限が外れたと思っている
 だが、そのせいで俺は魔王としての称号を得て復活してしまった。
 こんな事なら、一緒に戦いたかった。

○年○○日
 この日記も今日で最後だろう。
 きっと来世の魔王達も同じ気持ちなのだろう。

 気をつけるのだ。ガスは絶対に側に置いてはならない。
 勇者を大事に思うのなら、すぐに追放するのだ。
 あとで取り返しがつかなくなる前に…。


読み終わると、一気に疲れた気がした。

春樹はため息を漏らすとガスを呼びつけていた。

「どうですか?読めましたか?」
「あぁ、しっかり読めたよ。ちょっと訓練がてら、俺と戦ってくれるか?」
「えぇ、いいですよ?場所はどうします?」
「そうだな~、この付近に無人島があっただろ?あそこにしようか?」
「分かりました。」

ガスの一声でワイバーンが飛んで来ると春樹はそれに乗った。
ガスは自前の翼で飛び立つと腕試しの為に島へと向かった。
ここなら殺すつもりで戦っても被害は少ないだろう。

「全力が知りたいんだ。いいか?」
「はい!大丈夫ですよ」
「なら、ブレスってのを頼みたい。俺のバリアがどこまで耐えるか知り
 たいんだ」
「えーっと、それは魔王様に攻撃するって事ですよね?受けるんでそれ
 はやめませんか?」

よっぽど魔王が弱いと思っているらしい。
自分のブレスにすら耐えられない…と。

甘く見られたもんだと思う。

「うん、なら俺の攻撃を全部凌いでくれ。あとで感想を聞かせてくれよ?」
「はい、それなら…」

前にレベルは低いが竜を倒している。
称号にもドラゴンキラーってのがあったはずだ。
これをお表にして、一気に攻撃を叩き込む。
周りの冷気を凍らせ生物の熱を奪っていく。
そして一気に暖めて灼熱の壁で囲む。

「おぉ~今度は暑いですね~」

余裕をかますガスの前で一気に冷気を送り込んだ。

「インフェルノ」

一気に同時に灼熱の壁と冷気を押し寄せる。
お互いがぶつかり合うと一気に蒸気がはじけて爆発が起きた。
春樹はバリアを何重にも展開し防ぐ。
そのまま立つだけのガスは凄い衝撃が加わったはずだった。

目の前で爆発したのだ。
しかし、収まってみれば、鱗が焦げたくらいで、パンパンと叩くて綺麗な鱗が
見えてくる。
汚れただけらしい。

ギリギリ防げたくらいだというのに、これはまさに反則だった。

「痛みはあるのか?」
「そりゃ~ありますよ。しかし、このくらいじゃくたばりませんって。魔王様
 をお守りするのが役目ですから」

(これは骨が折れそうだ…)

春樹は無尽蔵の魔力があるらしい。
魔王という称号を手に入れているうちは尽きることのない魔力を使える。
そして、それは強すぎる故に部下達はその魔力を見に吸収すると耐えられない
らしい。

濃度の濃い血液みたいなものか?
と解釈している。

ララはそれで身体が崩壊した。
そんな事のせいで唯一と思われた理解者を失ったのだ。

「メテオ!」

大きな岩が形成されるとガスの頭上から幾重にも重なるように落ちてくる。
重ねがけをすると一気に畳み掛ける。
その間にもツタを這わせるとガスの足元へを囲うように這わせると一気に絡
み付かせる。

この蔦にはあらかじめ幻覚を見せる作用がある。
それを引っこ抜いてきてララと共に品種改良を加えた。

死んだ勇者の血と、肉片で改良を加えられた蔦は思いのままに絡まり、強い
幻覚と現実の境目を失くさせる。

解く方法はただ一つ。

自分で自傷するしかない。
他人につけられた傷は蔦が勝手に治療していくので余計に深く落ちていく。
もちろんこっそりガスの鱗も使わせてもらった。
その為、ガスには効き目は強いはずだった。

そこに外部からの攻撃が加われば一気に精神だけ持っていけるはずと考えたのだ。

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