52 / 92
第二章
19話 対人戦
しおりを挟む
今日のメニューは全員で走り込みのうえ、木刀でのペアでの打ち込み
だった。
「おい、お前!副団長を倒したって本当か?」
ケイルの目の前の同じく見習い兵士は顔を真っ赤にしながら呼吸が乱れ
ている。
「偶然な…たまたま躓いたところに一撃が入ったんだ。いい偶然だった」
適当に答えるとうんうんと勝手に解釈したようだった。
「それはそうだろう、お前みたいなガキが敵うはずがないんだ。俺にだ
って勝てるはずはっ!」
今はバフもかけていないので力も一般的だった。
目の前の男の剣を受け流し反撃するも、簡単に受け止められてしまう。
まぁ、これがケイル自身の実力なのだろう。
小手先の器用さはあるが、やっぱり力や速さは簡単には身につかない。
ただ、人と違うところは実践経験の差だろう。
一瞬の判断はいつも的確で危ないと思う攻撃はしっかりと避けている。
そして、受けてもいい攻撃のみ、受け流す。
何度も打ち合っていても人間の攻撃パターンは面白い。
魔物は一撃、一撃が急所を狙って来るが、人は違う。
相手の目の動きでどこを狙うか分かるが、ケイル自身どこを狙っていい
のか迷って、なかなか攻撃に出れない。
腕を狙うか?腕なら付け根か?
首を狙うか?木でも突けば打ちどころ次第で死んでしまう。
なら、足か?
しかし、明日も走るならやり過ぎると困るだろうな~。
考えているだけで、実行できない。
「おいおい、打ち返しもできないのかよ!軟弱だな~」
「うーん、別にそう言う訳じゃないんだが…」
「だったら打ってこいよ!俺の速さにかわすのが精一杯だろ?」
なんか勘違いされてる気がする。
が、まぁそれでも構わない。
目立ってもいいことはないだろう。
ただしひたすら避け続けると終了の鐘が鳴った。
みんなが汗だくで息が切れている中でケイルは平然としていた。
いつもと運動量が違うのだ。
イリアとだったらこんなもんじゃ済まない。
休憩なんてものはほぼない。
木刀を返すと全員で湯浴みへと行く。
その様子をじっと眺めている人影があった。
ケイルは気づいている。
殺気だっていないが、それでもずっと眺めていられれば嫌でも気づく。
他の兵士は気づいていないかもしれないが、散々死地を体験してきた
ケイルには気付けてしまう。
「どうした?」
「うん、ちょっと用事を思い出したから、後で行くよ」
「おう、早くしろよ?」
ノックに伝えるとそのままさっきの場所へと引き返した。
物影から出て来た人物は誰も居なくなった訓練場に一人佇んでいた。
「誰かお探しですか?それとも…何か話でも?」
「気づいていたのか?」
「それは…そうですね~、訓練始めた辺りからずっと眺められれば、嫌で
も気づきますよ?」
「それは悪かったな…君が冒険者ギルドから来たケイルでいかな?まだ15
だと聞いたが?」
一応入る時に、年齢を偽ったはずだが…この男は知ってるらしい。
と言うことは、ただ一人しかいない。
「はい、ヘイラス団長」
「俺は名乗ったか?」
「いえ、僕の事を知っているのも、ギルドからの依頼を知っているのも団長
だけのはずなので」
「なるほど。幼い割に頭も回るのか?」
納得したのか、側まで来るとケイルを見下ろして来た。
「手を見せてもらっても?」
「いいですけど…何か?」
ケイルは幼いながらに、手を見る限りは何度も豆が潰れたようなあとはない。
確かに皮膚は硬くなって来ているが、長年剣を持っていた手には見えない。
「ふむ…」
「剣を握っていた手ではないって言いたげですね?」
「何でも見抜かれていたか?」
「そうですね…僕の手に豆ができると姉が嫌がるんですよ。だからすぐに回復
させちゃうんですよね…」
「回復だと?なら、姉とは教会の人間なのか?」
団長もやっぱりそう思うのだろう。
「いえ、違います。教会に見つかると連れていかれるんでしたっけ?僕らはそ
んなところに行くつもりはないので。」
「そうか…回復が使える冒険者かぁ~、確かかなり強いと聞いたが?」
「それって言わなきゃダメですか?今、関係ないですよね?」
ケイルは訝しむと団長を睨みつけた。
「あぁ、答えなくてもいい。ただ、気になってしまってな。君といい、姉とい
い、なぜそこまで強くいられるのかと思ってね」
団長のヘイラスはただの好奇心だと言った。
好奇心で何でもかんでも答えるわけにはいかない。
「僕たちの事は秘密です。冒険者ギルドにでも聞いてみて下さい」
「では、質問を変えよう…君はこのまま騎士団に残る気はあるか?」
「それは…依頼が終わってもという事でしたら、お断りします。僕は姉と一緒
に冒険者になったんですから」
キッパリというと、そのまま戻っていったのだった。
だった。
「おい、お前!副団長を倒したって本当か?」
ケイルの目の前の同じく見習い兵士は顔を真っ赤にしながら呼吸が乱れ
ている。
「偶然な…たまたま躓いたところに一撃が入ったんだ。いい偶然だった」
適当に答えるとうんうんと勝手に解釈したようだった。
「それはそうだろう、お前みたいなガキが敵うはずがないんだ。俺にだ
って勝てるはずはっ!」
今はバフもかけていないので力も一般的だった。
目の前の男の剣を受け流し反撃するも、簡単に受け止められてしまう。
まぁ、これがケイル自身の実力なのだろう。
小手先の器用さはあるが、やっぱり力や速さは簡単には身につかない。
ただ、人と違うところは実践経験の差だろう。
一瞬の判断はいつも的確で危ないと思う攻撃はしっかりと避けている。
そして、受けてもいい攻撃のみ、受け流す。
何度も打ち合っていても人間の攻撃パターンは面白い。
魔物は一撃、一撃が急所を狙って来るが、人は違う。
相手の目の動きでどこを狙うか分かるが、ケイル自身どこを狙っていい
のか迷って、なかなか攻撃に出れない。
腕を狙うか?腕なら付け根か?
首を狙うか?木でも突けば打ちどころ次第で死んでしまう。
なら、足か?
しかし、明日も走るならやり過ぎると困るだろうな~。
考えているだけで、実行できない。
「おいおい、打ち返しもできないのかよ!軟弱だな~」
「うーん、別にそう言う訳じゃないんだが…」
「だったら打ってこいよ!俺の速さにかわすのが精一杯だろ?」
なんか勘違いされてる気がする。
が、まぁそれでも構わない。
目立ってもいいことはないだろう。
ただしひたすら避け続けると終了の鐘が鳴った。
みんなが汗だくで息が切れている中でケイルは平然としていた。
いつもと運動量が違うのだ。
イリアとだったらこんなもんじゃ済まない。
休憩なんてものはほぼない。
木刀を返すと全員で湯浴みへと行く。
その様子をじっと眺めている人影があった。
ケイルは気づいている。
殺気だっていないが、それでもずっと眺めていられれば嫌でも気づく。
他の兵士は気づいていないかもしれないが、散々死地を体験してきた
ケイルには気付けてしまう。
「どうした?」
「うん、ちょっと用事を思い出したから、後で行くよ」
「おう、早くしろよ?」
ノックに伝えるとそのままさっきの場所へと引き返した。
物影から出て来た人物は誰も居なくなった訓練場に一人佇んでいた。
「誰かお探しですか?それとも…何か話でも?」
「気づいていたのか?」
「それは…そうですね~、訓練始めた辺りからずっと眺められれば、嫌で
も気づきますよ?」
「それは悪かったな…君が冒険者ギルドから来たケイルでいかな?まだ15
だと聞いたが?」
一応入る時に、年齢を偽ったはずだが…この男は知ってるらしい。
と言うことは、ただ一人しかいない。
「はい、ヘイラス団長」
「俺は名乗ったか?」
「いえ、僕の事を知っているのも、ギルドからの依頼を知っているのも団長
だけのはずなので」
「なるほど。幼い割に頭も回るのか?」
納得したのか、側まで来るとケイルを見下ろして来た。
「手を見せてもらっても?」
「いいですけど…何か?」
ケイルは幼いながらに、手を見る限りは何度も豆が潰れたようなあとはない。
確かに皮膚は硬くなって来ているが、長年剣を持っていた手には見えない。
「ふむ…」
「剣を握っていた手ではないって言いたげですね?」
「何でも見抜かれていたか?」
「そうですね…僕の手に豆ができると姉が嫌がるんですよ。だからすぐに回復
させちゃうんですよね…」
「回復だと?なら、姉とは教会の人間なのか?」
団長もやっぱりそう思うのだろう。
「いえ、違います。教会に見つかると連れていかれるんでしたっけ?僕らはそ
んなところに行くつもりはないので。」
「そうか…回復が使える冒険者かぁ~、確かかなり強いと聞いたが?」
「それって言わなきゃダメですか?今、関係ないですよね?」
ケイルは訝しむと団長を睨みつけた。
「あぁ、答えなくてもいい。ただ、気になってしまってな。君といい、姉とい
い、なぜそこまで強くいられるのかと思ってね」
団長のヘイラスはただの好奇心だと言った。
好奇心で何でもかんでも答えるわけにはいかない。
「僕たちの事は秘密です。冒険者ギルドにでも聞いてみて下さい」
「では、質問を変えよう…君はこのまま騎士団に残る気はあるか?」
「それは…依頼が終わってもという事でしたら、お断りします。僕は姉と一緒
に冒険者になったんですから」
キッパリというと、そのまま戻っていったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります
はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。
「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」
そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。
これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕!
毎日二話更新できるよう頑張ります!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる