異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

文字の大きさ
55 / 92
第二章

22話 危険なかおり

しおりを挟む
遠征当日。
大掛かりな出発パレードが開かれたのだった。

列をなして街の中を凱旋して出ていく。
皆の期待を一身に受けて騎士団のお揃いの制服に身を包み歩いていくのだ。

家族がいる人は家族が見送りに来ているらしい。

新米兵士の何人かは沿道に手を振っていたのを見つけた。

ケイルはキョロキョロとイリアの姿を探したが、見当たらなかった。

「冒険者の依頼でもこなしてるかな…一人が長かったし自分がいなくても
 平気そうだな…」

自分で言って、ちょっぴり寂しい気分になった。
これは自分で言い出した事だから、文句を言うのは間違っている。
でも、毎日ずっと一緒にいたのが数日ぶりなのだ。
顔くらい見たくなるものじゃないか!

見当たらないイリアを何度も振り返って探してしまっていた。

「なんだ?お姉ちゃん探してるのか?」
「ケイルのお姉さんってどんな人?綺麗な人なんだろうね~、ケイルも可愛
 いし、きっとそっくりかな~」

ナシスが楽しそうに言って来た。

「姉弟って言っても血は繋がってないから…」
「そうなのか?」
「なんか複雑なの?」
「いや、姉は…すっごく厳しい人だけど、誰よりも優しい人だから…」

ケイルには過保護過ぎると言いたくなるほど過保護だった。

多分遼馬が、圭子を大事に思っていた気持ちと同じなのだろう。
今のケイルにとってもイリアにとってもお互いが一番大事なのだ。

血は繋がっていないけど、魂はいつも家族であると思っている。

そんなやり取りをじっとりと眺める視線があった。
貴族出身のエドガーだった。

彼は裏ギルドに女性の拉致を頼んだのだが、結局誰も受ける人はいなかっ
たせいで今回の遠征に連れていける女がいなかったのだ。

「チッ…」

舌打ちをしながら周りを眺めるとまだ幼く、男女の区別もないような容姿
を持つ人物が騎士団にいる事を知った。

先輩であって、しかも貴族の自分に逆らえる者など、団長以外にはいない。
唯一貴族の団長には文句も言えないが、その他の有象無象には立場が違う
とハッキリと言える。

「これは使えるな…」

ギルドの依頼を取り下げると、このパレードに途中から参加したのだった。

合同の風呂場でも見た通り、彼は華奢な身体つきにか弱そうな容姿。
ここでは強い者が全てを手にする。
舌舐めずりをすると、機会を待つ事にした。

遠征が始まり、厳しい道のりを延々と歩いていく。
途中休憩はあるが、それ以外は歩き詰めだった。
夜になると、ケイルのいる天幕に差し入れだと言ってお菓子が届けられた。

「なんだこれ?」
「うわぁ~これって有名な店のお菓子じゃないですかぁ~」

ナシスが飛びつくように目を輝かせた。
誰がこんなものを?

ノックが手に取ろうとしたのを奪い取った。
すぐに鑑定をかけると睡眠導入剤の反応があった。

「おい、なんだよ~自分だけで食べる気か?」
「これは食べたらダメだ。毒が入ってる」
「えっ…なんで?そんなぁ~ひどーい!」

残念がるナシスにノックは納得いっていない様子だった。

「そう言って独り占めする気じゃないだろうな?」
「しないよ。ただ食べたかったら食べればいいけど、僕は知らないよ?」
「それは…」
「まぁ人体にはそこまで害はないけど…そうだね、いい方法があるよ」

そう言ってケイルはノック達を連れて馬車の方へといく。
馬達のそばでは野生の動物もたまに顔を出す。
そこにお菓子を粉してばら撒いた。

見ているとゆっくり近づいて来た。

「あぁ、勿体無いなぁ~」
「静かに…」

クンクンと匂いを嗅ぐとハグハグと食べ始めた。
すると、パタリと横になる。
他の小動物も同じようにパタリと倒れたままになった。

「おい、あれって…」
「うん、僕たちも食べてたら、あんな風になっていたって事だね」
「嘘だろ…誰がなんの為に…」
「と言うか、ケイルはなんでわかったんだ?」
「それは…僕はいつも毒を盛られてたから…なんとなくね」
「…そうか…悪い」

聞いてはいけない事を聞いたとノックもナシスも口を瞑った。

物陰から見ていた人物は舌打ちするように離れていく。
あのまま、お菓子を食べてしまえば今日楽しめたのにと苛立ちを募らせた。

それからは、何度か水差しに異物の混入や、色々とあった。

「なんかこの遠征やばくないか?」
「そうだね。遠征以前にどこかおかしいよね…」
「僕、思うんだけど…」

ナシスがずっと考えていた事を口に出した。

「初日に差し入れされたお菓子あるじゃん?あれって結構高くて庶民が簡単
 に買えるものじゃないんだよ…だから…」

言いたい事を理解したノックがすぐに言葉を放つ。

「貴族の仕業か!なら、あいつしかいねーじゃん。エドガーの野郎だろ?で
 もなんで俺たちなんだ?なにか目につく事したっけ?」
「違うと思う。…多分だけど、ケイルじゃないかな?いつもなら彼は女を遠
 征に連れて来てるって聞いてたけど、今回連れて来れなかったんじゃない
 かな?」
「それで、なんでケイルなんだ?」
「それは…代わりだよ」
「ん?女のか?ケイルは風呂でも見たけど男だぞ?」

ノックは鈍いのかまだわかっていない。だが、ケイルの方が意味を理解した。

「それって僕を抱こうとしてるって事でいいかな?」
「うん…ケイルには嫌かもしれないけど、気をつけた方がいいかも。ほら、
 見た目は誰より可愛いし…」
「なるほど…この世界でも男色家はいるって事か…まぁ、そう簡単にはさせ
 ないけどね…。」

どこ世界でも、面倒な奴はいるものだと思ったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります

はぶさん
ファンタジー
ブラック企業で心をすり減らし過労死した俺が、異世界で手にしたのは『ポイント』を貯めてあらゆるものと交換できるスキルだった。 「今度こそ、誰にも搾取されないスローライフを送る!」 そう誓い、辺境の村で農業を始めたはずが、飢饉に苦しむ人々を見過ごせない。前世の知識とポイントで交換した現代の調味料で「奇跡のプリン」を生み出し、村を救った功績は、やがて王都の知るところとなる。 これは、ポイント稼ぎに執着する元社畜が、温かい食卓を夢見るうちに、うっかり世界の謎と巨大な悪意に立ち向かってしまう物語。最強農民の異世界改革、ここに開幕! 毎日二話更新できるよう頑張ります!

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました

月神世一
ファンタジー
​「命を捨てて勝つな。生きて勝て」 50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する! ​海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。 再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は―― 「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」 ​途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。 子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。 規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。 ​「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」 ​坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。 呼び出すのは、自衛隊の補給物資。 高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。 ​魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。 これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...