異世界で最強無双〜するのは俺じゃなかった〜

秋元智也

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第二章

23話 強行手段

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エドガーは遠征が始まって一週間、ずっとイライラしていた。

ことごとくケイルを拉致する計画が不発に終わっている事が原因だ。

「何が悪い!なぜ、飲まない!なぜ食べないんだ!」

差し入れも、部屋にある水差しも全部がすぐに捨てられた。
それなのに、彼らは平然としているのが、もっと気に入らない。

貴族には逆らわないのがあたり前の世界だ。

文句を言いにくればそれをきっかけにいう事を聞かせればいいと思って
いたが、それすらない。
全く何もなかったようになっているのだ。

食べ物や、飲み物は毒味もなければ何もないはずなのに、全く食べる気
配すらない。

そして危険な遠征中だということも忘れて、最後の手段にでる。
自分の金で雇った傭兵団をこの野営地へと送り込んだのだった。


その頃、やっと依頼を完遂して帰ってきたイリアはギルドへの報告をしに
やって来ていた。

「そう言えば、見ましたか?騎士団の遠征パレード」
「遠征…パレード?」
「えぇ~、見なかったんですか?結構派手にやったんですよ?」

受付嬢の興奮はまだ今も続いているらしい。

若い人が多かったらしく、手を振りながらきゃっきゃっとしていたそうだ。

「ケイル…送り出せなかったなぁ~」

すっかり忘れていたのを思い出すと久々に裏ギルドにも顔を出した。
あの胸糞悪い依頼はどうなったのだろう?

すぐにイリアの姿を見ると誰もが口を噤んだ。

「今日はどう言った依頼がいいですか…」
「あの依頼はどうなったの?」
「あぁ、あれでしたら依頼主が撤回なされました。適当に自分で見繕うと」
「そう、なら、自分で最初からやればいいじゃない」
「まぁ、男ばかりの場所で見繕うとのも大変でしょう。ですが、今回はね」

言葉に引っかかりを覚える。

「男ばかり?なんでそんな事言えるの?街なら女なんて…」
「おいおい、騎士団は男しか入れないんだぜ?」

外野から聞こえた声に一瞬顔を顰めた。

「騎士団?騎士団の中に依頼主がいるの?」
「それは…」
「いるのね。そして騎士団の中で見繕うとっていうのね?それは…新人
 でって意味かしら?答えなさい。」
「それは…なぁ~、今回可愛い顔した新人が混ざってるって噂なんだよ」

思いつくのはケイルしかない。
前は普通の容姿だったし、彼女もいなかったからそこまで焦らなかったけ
ど、この世界に来て、そうも言ってっられなくなった。

15歳なのに、いまだに可愛らしい容姿は変わっていなかった。
鍛えてもあまりつかない筋肉に本人も悩んでいたが、イリアにとってはそ
のままでいて欲しかった。

こうしてはいられない。
すぐに追いつかなくては…

依頼どころではなくなったのだった。



遠征の方は予想外に難攻していた。
大型の魔物を何体も屠っているが、いくらでも湧いてくるのだ。
魔法師は次々に枯渇するまで撃ち続けている。
その間も兵士は突撃を繰り返す。

「ノック、今だよ!」
「おう、うおぉりゃぁ~!」

ちから技で押し切る。
その横でケイルが次々に切り刻んでいく。

人間技とは思えなかった。
団長も前線に出て戦うが、彼も互角以上に戦えていたのだ。

その横に大きな斧を持った副団長のジングが来ていた。

「なんだありゃ…本当に新人か?それともあの剣が別物なのか?」

それはノック達だって知りたかった。
硬い魔物の皮膚をいとも簡単にスパッと切ってしまうあの剣は何なのだ
ろう。
腕だけではない。

彼は人より体力はあると思っていたが、ここまで使えるとは思いもしな
かった。
劣勢に見えた戦況も、だいぶんと落ち着いて来た。

そして、あらかた敵を倒し終わると、やっと休憩できた。

「ケイルはすごいな…まさかこれほどまでとは」
「いえ…魔物は慣れていますから」
「はい、これ。差し入れだよ~、もう僕はこのまま今日は魔物を見たく
 ないよう」

飲み物を持って来てくれたナシスは愚痴を言いながら横に座った。

目の前にいる団長にはいつもだったら敬礼してガチガチになるところだ
が、今は打ち解けていて、疲れからかそんな気力もないらしい。

「おいおい、ナシス!そんな事でどうするんだ?ケイルは俺たちよりよ
 っぽど幼いって忘れたのか?俺たちがしっかりしなきゃだろ?」

ノックもそれをいうと側に座った。

渡されたコップを手に取ると口をつける前に少ない魔力で鑑定をかけるか
迷ったが、そのまま飲み干した。

疲れた身体には水でも美味しく感じた。

そして目の前にいるはずの団長達に視線を向けてから後悔した。

「なっ…なんで…」
「これは、まさか…」

団長に気づいたらしい。
横ではナシスとノックが寝そべるように倒れている。

今ここで魔物に襲われたら…
そんな事を考えると恐ろしくなった。

すると、ゆっくり近づいてくる足音に聞き覚えがあった。
いつも陰から眺めていた人物。
唯一貴族の息子であり、何かとケイルをジロジロ見てきた先輩騎士だった。
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