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お騒がせ夫婦
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さいとうゆうき。彼の仕事は被写体を綺麗に撮りきること。
どんな被写体であっても自然に、そして、美しく。
誰でも彼のようには撮ることが出来ない為、色々な依頼が来る。
今日もまた依頼が舞い込んできた。
チリーン、チリーン。
「いらっしゃーい。撮影の依頼ですか?」
女性が入ってきた男性に依頼書を差し出した。
「ご依頼内容は何でしょう?」
周りをキョロキョロと眺めながら女性しかいない事務所を見回していた。
「何か気になりますか?」
「いえ、ここはあの有名な済藤裕貴先生のところですよね?家族写真を頼みたいんです。ですが・・・」
「どんな依頼でも満足するように撮って見せますので、心配は要りませんよ」
「はい、私達は今週末に離婚するんです、その前に記念に写真を残したいのです。妻はそれをどうしても納得してくれなかったのですが、拝み倒して了解させたのですが・・・」
「そうですね。表情が硬くなってしまうでしょうね。」
「そうなんです。お願いできますか?」
「はい。お任せください」
自信を持ってはっきりと女性に言われてしまって男性は笑ってしまった。
「すいません。ここまではっきりと言われると清々しいですね」
「はい、田中悟さんですね。前金で払って貰いますがいいですか?」
「わかりました。ここに。」
鞄から料金を出すと、領収書を受け取ってまた明日家族と来ることになった。
帰っていく後ろ姿を見送ると女性はカツラを取った。
「さーて、下調べに行くかなっ」
着替えると事務所を後にした。別れる妻とやらに会いに行くのだ。
スーパーで働いているという事だったのでネームプレートの田中さんを探した。
すると品出しをしていた女性が田中とかいてあったので近づくと声をかけてみた。
「すいません、コーヒーの豆って何処にあるかわかりますか?」
「はい、案内しますね。こちらです」
近づきざまにポッケトに入っていたボールペンを弾いて落とす。
直ぐに拾うと『落ちましたよ』と、にこやかに渡した。
「あっ、ありがとうございます」
そう言って、いつ落ちたんだろうと思っている女性の手を握った。
中性的な顔つきであるためか女性受けはいい。
男性にすら惚れられる事も多々あるがそちらには興味がない。
依頼されれば綺麗に撮るためのシチュエーションを整えたりするぐらいだ。
「こちらです」
「ありがとう」
礼を言うと少し頬を赤らめて戻っていった。
彼女を触ったときに見えたのは今も旦那を思っていることだった。
ただ、浮気が気に入らない為に別れる事にしたらしい事がわかった。
しかし、旦那の方はそんな事はなく、全くの誤解であった。
奥さんが見たスマホの画像は女性の裸体を撮ったものだったが、それは旦那の鞄に仕込まれた物だったようだ。
そんな事を言っても信じて貰えず今に至るわけだ。
女性の素性を調べると別れさせ屋という事をやっている女性であった。
触れる事が出来ればその人間の隠している感情や過去をも見ることが出来るこの能力は強みだった。
今は他のターゲットを狙っているらしく、他の男性に腕を絡めていた。
横を通りすぎる時に鞄から彼女のスマホをスリ取った。
しばらく距離を置くとスマホのデータをコピーした。
席を立つと帰ろうとしているさっきの女性に少し体を当てた。
「きゃっ、ちょっとあなたね」
「すいません、少しよそ見をしていたので。お怪我はありませんか?」
と、話しかけると自然に肩に触れた。
大体の事情は探れたのであとはスマホを彼女の鞄に戻しておいた。
これで依頼はスムーズに行く。
事務所に戻ると旦那の無実を裏付ける証拠を作っておいた。
奥さんには早めに来るように田中さんに言っておいたのでその日の朝、撮影より1時間前に一人でやって来ていた。
その日も女性を装い彼女にあった。
今週末に離婚するといっていたのに二人は離婚届けを提出済みだったようだ。
「いらっしゃいませ。こちらにお掛けください」
黙って椅子に腰かけた。そこにコーヒーを差し出しながら今日の行程を説明した。
「では、旦那さんがきたら場所を移動してもらいます。」
「撮って終わりじゃないの?聞いてないわよ」
「えぇ、言ってません。それにこれも見てください」
差し出したのはある女性の口座の入金記録と写真の数々だった。
「これは、どういうことですか?」
「これは、こういう職業の女性だってことです。そしてあなたが見た画像もここに。そしてその時のスマホはこんなのじゃなかったですか?」
写真に写っているのはスマホの写真や、ターゲットの隠し撮りの写真だった。
証拠は整えておいた。
「まだ、別れたいですか?」
と。
みるみるうちに顔色が変わり涙が出てきた。
「じゃーあの人は浮気などしていないの?」
「そういうことです。そしてこれから撮影に行くところが嵐山です。あなたたち夫婦が最初にであった場所です」
「なぜそれを?あの人が?」
「えぇ、大事に思っている場所です」
それから田中さんが来ると移動して京都、嵐山に来ていた。
撮影場所は渡月橋。そこで撮影が開始された。
奥さんはメイクをし直すと満面の笑みで微笑んでくれた。
事情を知らない旦那さんは事務員が撮るのかと驚かれてしまった。
そして自分が済藤裕貴であると話した。
1時間もすると事務所へと帰って来た。
「写真は後日送りますね。それとこちらを」
そう言って封筒を渡した。そこには婚姻届けが入っていた。
勿論、奥さんのところは埋まっていた。
「これは!どうして・・・」
「これでお別れではなく、ここから始まるんです」
依頼者はそのまま何度も頭を下げていった。
翌日、とても綺麗な写真が出来てきた。
幸せのただ中にいるような、そんな笑顔の美しい写真だった。
きっと、気に入ってくれるだろう。
そう思いながら梱包すると郵便で送ったのだった。
どんな被写体であっても自然に、そして、美しく。
誰でも彼のようには撮ることが出来ない為、色々な依頼が来る。
今日もまた依頼が舞い込んできた。
チリーン、チリーン。
「いらっしゃーい。撮影の依頼ですか?」
女性が入ってきた男性に依頼書を差し出した。
「ご依頼内容は何でしょう?」
周りをキョロキョロと眺めながら女性しかいない事務所を見回していた。
「何か気になりますか?」
「いえ、ここはあの有名な済藤裕貴先生のところですよね?家族写真を頼みたいんです。ですが・・・」
「どんな依頼でも満足するように撮って見せますので、心配は要りませんよ」
「はい、私達は今週末に離婚するんです、その前に記念に写真を残したいのです。妻はそれをどうしても納得してくれなかったのですが、拝み倒して了解させたのですが・・・」
「そうですね。表情が硬くなってしまうでしょうね。」
「そうなんです。お願いできますか?」
「はい。お任せください」
自信を持ってはっきりと女性に言われてしまって男性は笑ってしまった。
「すいません。ここまではっきりと言われると清々しいですね」
「はい、田中悟さんですね。前金で払って貰いますがいいですか?」
「わかりました。ここに。」
鞄から料金を出すと、領収書を受け取ってまた明日家族と来ることになった。
帰っていく後ろ姿を見送ると女性はカツラを取った。
「さーて、下調べに行くかなっ」
着替えると事務所を後にした。別れる妻とやらに会いに行くのだ。
スーパーで働いているという事だったのでネームプレートの田中さんを探した。
すると品出しをしていた女性が田中とかいてあったので近づくと声をかけてみた。
「すいません、コーヒーの豆って何処にあるかわかりますか?」
「はい、案内しますね。こちらです」
近づきざまにポッケトに入っていたボールペンを弾いて落とす。
直ぐに拾うと『落ちましたよ』と、にこやかに渡した。
「あっ、ありがとうございます」
そう言って、いつ落ちたんだろうと思っている女性の手を握った。
中性的な顔つきであるためか女性受けはいい。
男性にすら惚れられる事も多々あるがそちらには興味がない。
依頼されれば綺麗に撮るためのシチュエーションを整えたりするぐらいだ。
「こちらです」
「ありがとう」
礼を言うと少し頬を赤らめて戻っていった。
彼女を触ったときに見えたのは今も旦那を思っていることだった。
ただ、浮気が気に入らない為に別れる事にしたらしい事がわかった。
しかし、旦那の方はそんな事はなく、全くの誤解であった。
奥さんが見たスマホの画像は女性の裸体を撮ったものだったが、それは旦那の鞄に仕込まれた物だったようだ。
そんな事を言っても信じて貰えず今に至るわけだ。
女性の素性を調べると別れさせ屋という事をやっている女性であった。
触れる事が出来ればその人間の隠している感情や過去をも見ることが出来るこの能力は強みだった。
今は他のターゲットを狙っているらしく、他の男性に腕を絡めていた。
横を通りすぎる時に鞄から彼女のスマホをスリ取った。
しばらく距離を置くとスマホのデータをコピーした。
席を立つと帰ろうとしているさっきの女性に少し体を当てた。
「きゃっ、ちょっとあなたね」
「すいません、少しよそ見をしていたので。お怪我はありませんか?」
と、話しかけると自然に肩に触れた。
大体の事情は探れたのであとはスマホを彼女の鞄に戻しておいた。
これで依頼はスムーズに行く。
事務所に戻ると旦那の無実を裏付ける証拠を作っておいた。
奥さんには早めに来るように田中さんに言っておいたのでその日の朝、撮影より1時間前に一人でやって来ていた。
その日も女性を装い彼女にあった。
今週末に離婚するといっていたのに二人は離婚届けを提出済みだったようだ。
「いらっしゃいませ。こちらにお掛けください」
黙って椅子に腰かけた。そこにコーヒーを差し出しながら今日の行程を説明した。
「では、旦那さんがきたら場所を移動してもらいます。」
「撮って終わりじゃないの?聞いてないわよ」
「えぇ、言ってません。それにこれも見てください」
差し出したのはある女性の口座の入金記録と写真の数々だった。
「これは、どういうことですか?」
「これは、こういう職業の女性だってことです。そしてあなたが見た画像もここに。そしてその時のスマホはこんなのじゃなかったですか?」
写真に写っているのはスマホの写真や、ターゲットの隠し撮りの写真だった。
証拠は整えておいた。
「まだ、別れたいですか?」
と。
みるみるうちに顔色が変わり涙が出てきた。
「じゃーあの人は浮気などしていないの?」
「そういうことです。そしてこれから撮影に行くところが嵐山です。あなたたち夫婦が最初にであった場所です」
「なぜそれを?あの人が?」
「えぇ、大事に思っている場所です」
それから田中さんが来ると移動して京都、嵐山に来ていた。
撮影場所は渡月橋。そこで撮影が開始された。
奥さんはメイクをし直すと満面の笑みで微笑んでくれた。
事情を知らない旦那さんは事務員が撮るのかと驚かれてしまった。
そして自分が済藤裕貴であると話した。
1時間もすると事務所へと帰って来た。
「写真は後日送りますね。それとこちらを」
そう言って封筒を渡した。そこには婚姻届けが入っていた。
勿論、奥さんのところは埋まっていた。
「これは!どうして・・・」
「これでお別れではなく、ここから始まるんです」
依頼者はそのまま何度も頭を下げていった。
翌日、とても綺麗な写真が出来てきた。
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