レンズに映るのは裸の君

秋元智也

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新しい生活

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斎斉藤は近藤と共に武藤の部屋に入った。するとそこには倒れて動かない葛野の姿とそれを蹴り飛ばしている手下の姿があった。
葛野は胃の物を吐き出したのか、回りに吐瀉物が散らかっていた。意識はなく今も痙攣を起こしていた。
駆け寄ると服が汚れることも気にせず抱き起こした。
すると、吐瀉物が喉に詰まっているのか呼吸も僅かだった。
口の中に手を入れると吐き出させた。幾分か吐き出させると近藤が水を用意してくれたので、それを飲ませたが自力では飲めなかった為、口に含むと無理矢理口を開けさせ流し込んだ。
ゴクン。と喉が動き嚥下したのを確認するともう一口飲ませた。
落ち着いてから近藤が口を開いた。
「これはどうゆうりょうけんか聞こうかの?武藤、何をしとった?」
「いや、これはそいつがわしの精液を飲みたがっておったので飲ませてやったものを、いきなり吐き出してな!」
「まだ、そんなことをしとったのか?いい加減やめろと言ったはずだが?」
「すいませんでした。せがまれてつい・・・今度からは食事をもっと減らせばこのようなことには・・・」
「もういい、二度とこの坊主には手を出すな。今度少しでもちょっかいを出したら東京湾で魚と戯れてむらうからな。」
そう言うと斉藤と共に葛野を連れ出すと湯あみへと案内した。
「すまんことをしたな。着替えはこちらで用意しておく。それと、車で送らせよう。」
「すいません、お言葉に甘えさせて貰います。」
ぐったりとした葛野の体を支えながら風呂場に入った。
体を流し髪にも着いてしまった汚れをとろうとすると、意識が戻ったのか斎藤をじっと見つめると抱きついてきた。
「えーっと。葛野くん?」
「俺、まだ生きてるんだよな?さっきさ、無理矢理飲まされてから気持ち悪くて、それからいきなり苦しくなって息が詰まったみたいになってさ・・・このまま死んだらイヤだなって。あんたの所に行きたい。無理だってわかってる。せっかくまともなご飯食べれたのに・・・」
涙が溢れ弱々しい彼をそっと抱き締めると後ろを向かせ水をぶっかけた。
「つめてっ・・」
「さっさと洗って一緒に帰ろう?」
「!。いいのか、俺がいっても?」
「うん、近藤さんには話をつけてある。もう、ここには二度と来なくていい。」
「そっか・・・あんた、すげーやつなんだな。」
「そんな事ないよ。ただのカメラマンだよ」
そういうと組の者に事務所まで送ってもらった。
「ありがとうございます。近藤さんによろしく伝えておいて下さい」
黒塗りの車はそのまま走り去っていった。
それから事務所を施錠すると、データだけもって自宅に向かった。
一軒家にしてはかなり広い間取りであった。
「ここには誰が住んでるんだ?」
「俺だけだけど?」
「?・・・一人で?こんなに広いのに?」
「あぁ、狭いと近所で煩がられると嫌だったしね。でも、これからは君もここに住むんだよ。それと、これも書いてね」
渡されたのは養子縁組の書類だった。
「何でこんなの書く必用があるんだ?」
「君にはまだ、身内がいるからね。その人たちに君の権利を主張されないためだよ。また、売られるのは嫌でしょう?俺が嫌なら無理にとは言わないけど?」
じっと見つめていたが、首を横に振ると書き始めた。
「明日にでも出してくるから。これで完全に自由だよ、ちょっと口開けて?」
そう言って目の前に立つと一気に緊張するのが分かった。
「安心してよ、変なことはしないから。あーんして?」
恐る恐るゆっくりと開くとそこに小さなあめ玉を入れた。
「ん?・・・あめ玉?」
「そう、あめ玉。さっき吐いちゃってお腹に何も入ってないでしょ?そのままよりは甘いものを嘗めてれば多少落ち着くかなって!」
そう言ってキッチンの近くの篭に一杯のあめ玉が入っていた。
「これ、好きなときに食べてていいから。あと、冷蔵庫の物は好きに食べていいよ。あとは、一階のそこが作業部屋だから、そこ以外なら好きなとこ使っていいから。」
「何で・・・なんでそんなに良くしてくれんだよ、俺の事なんて殆ど知らないだろ?金もって逃げるかも知れないんだぞ?」
斉藤は紳士に見つめると笑いだした。
それを見て怒る葛野の腕を強引に引くと抱き締めた。
「そんな事は絶対しない。俺には分かるんだ。なんだったら今からゲームをしようか?心宛てゲーム」
「心宛てゲーム?わかるわけねーじゃん?」
「じゃ、負けたら買った人の言うことを何でも聞くってのはどう?」
「おもしれーじゃん。いいよ。やってやろうじゃん」
「ルールは簡単。今から紙に文字を書いて、お互いにそれを当てる。何を書くのも自由だし、短くても長くても自由だよ」
そう言ってメモ帳を切って渡した。
斉藤はさらさらと書いていき、葛野は何か悩みながら書いていた。
机の上に紙を伏せるとお互い手を握った。
「さて、これから俺は君の書いたことを、君は俺の書いたことを宛てて貰う。質問は1回のみ。どう?」
「じゃー俺からな、それは食べ物か?」
「いいや、違うね。君に関係することだよ」
「で?質問はなんだよ」
「ありがとう」
「えっ・・・なんで?見てねーよな?」
にやにやしながら頭を撫でた。
「俺の勝ち。それじゃーやてもらうことは・・・」
「なんで勝ちってわかるんだよ!当たるかも知んないじゃん?」
「当たらないよ。ほら?」
そう言って紙を見せた。
そこには明日の日程が書かれていた。
「こんなのずりーじゃん。わかる分けねーし!」
「勝負は勝負だよ。明日から事務所で働いてもらう訳だけどこの衣装を着て貰うから」
そう言ってた渡したのはヒラヒラのフワッとしたスカートのメイド服だった。
「冗談だろ?こんなん着るぐらいなら閨の相手をしろって方がましだ」
「したかったのかい?」
「いやっ・・・そうゆう訳じゃないけど・・・」
「言ってなかったけど、俺はこれね?」
と、見せられたのは同じような感じのロングバージョンだった。
「なっ・・・どういう事だよ」
「だから、素顔を晒さない為にいつも女装で対応してるんだって!近藤さんにはばれてるし、お得意様だからそのままだったって訳。そんな顔してもダーメ。これからは有希ちゃんって呼ぶから」
そう言うとキッチンに入っていった。
「そうそう、そんなに閨の相手をしてほしいの?」
「そんなわけあるかー!」
つい、声を荒らげてしまった。向こうで斉藤が笑っているのがわかる。
それでもこの人といると安心できる気がする。
なんでかなんてわかんないけど。直感がそう言ってる。
昨日あったばかりの人なのに、俺の口の悪さも知った上で俺を養子にしようなんて物好き滅多にいない。と、思う。
「可愛いからだよ。結構感情が顔に出るよね有希は!」
いつから聞いてたのかいきなり言われて驚いた。
どこから出てきたんだよ変態。そう思いながら落ち着かせると眉をひそめる斉藤の姿が映った。
「変態はないんでない?斉藤か裕貴のどちらかで読んでよ」
「変態で十分だろ?」
そう言うといきなり近づいてくると押し倒された。ビックリしているとクスッとまたも、笑われた。
「こんなに簡単に押し倒されちゃダメでしょう?そんなに俺の事が好きなの?」
「そんなわけねーよ」
「そのわりには、今期待してたでしょう?俺にはさちょっと変わった能力があってさ。人の心が聞こえるんだ。だから隠そうと思ってもムダだよ。俺の前では全てが裸なの。そんなにあからさまに期待されるとほんとに襲うよ?」
「期待なんかっ、してねーし」
「はいはい。愛してるよ?っほら、赤くなった。」
「違うっつーの」
裕貴に言葉で弄ばれながらなんだか嬉しくて、向きになって否定した。きっと、そんな事お見通しなんだろうなぁと思いながら。
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