好きになっていいですか?

秋元智也

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39 撮影

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最初は嫌だったが、ここまで来ると、最後まで付き合ってみようという気にもなる。
メイクも着替えも終わり三宅仁美が待つ別室へ向かう。
終始角谷恭子が睨んできたが、それは気にしない事にした。

 ヒトミ「あっ!終わった?いいじゃない?さすが恭子ちゃんね。」

キョウコ「勿論だ。このダメダメ素材を上手く活かしてやれるのは私ぐらいなものだわ」

 ヒトミ「リヒトくん、いや田嶋くんのがいいかな?そこに立って」
 リクト「田嶋でいいよ。そっちの名前はやめてほしい」
 ヒトミ「おっけ。」
キョウコ「ナマイキね」

和装のセットの中に立つとカメラを構えた仁美からの指示が飛ぶ。

 ヒトミ「ちょっと、そこで止まって。ちょっと上見て、そのまま体の
     角度を左に切って」
 リクト「こう、かな?」
キョウコ「黙って、従いなさい。クズが…」
 リクト「…」
 ヒトミ「いいよ、そのままで…、次はその場でぐるっと回って、カツラ
     を自分の地毛だと思わせるようにふんわりとなびかせてー。」

その後も指示が飛び、帯がしっかり閉めてある為か、いつも以上に疲れて
きた。
そのあとは和傘を待って後ろ姿だったり、上から長めの羽織を着せられた
かと思うと、前だけはだけさせて足をおもむろに出した姿など、様々な
ポーズを取らされた。
顔は横か、後ろを向いているのでほとんど映ってはいなかった。
映ってはいても、これでは利久斗であるとは誰もわからない気はしないで
もなかった。

 ヒトミ「お疲れ様~、今日はよかったわ。すっごくいいのが撮れたわ。
     それと、もう一個ね。」

そう言うと、次のスタジオへと廊下を通って向かう。
すれ違うのはアニメなどのコスプレをした人達で、それも衣装が作り
こまれていて、どれも綺麗だった。

キョウコ「おい、どこ見てるんだ!グズが。さっさと脱げよ。次が
     あるんだ」
 ヒトミ「恭子ちゃんったら。急がせなくてもいいわよ」
 リクト「分かってるって。で、ここで着替えればいいの?」
キョウコ「さっさとしろ?脱がされたいのか?変態が!」
 リクト「はぁ、なんでそんなにイライラしてるの?僕、何か怒ら
     せる事言った?」
キョウコ「存在がムカツク」

部屋から出て行かない角谷恭子を無視して帯を緩め、ほどき始める。
カシャっと後ろから音がして、カメラを構える三宅仁美がいた。

 リクト「ここも撮るの?」
 ヒトミ「あぁ、気にしないで。ただ面白そうだなって思って撮っ
     てるだけ」
 リクト「そう…」

脱ぎ終わると女性用の下着を投げつけられた。

 リクト「はぁ?ちょっと待って!これって」
キョウコ「さっさとはけ!その粗末なモノを少しでも隠せるだろう!」
 リクト「分かったよ」

薄い布のドレスを着ると横は腰までスリットが入っていて、下着が
見えている状態だった。

 リクト「これでいいの?」
 ヒトミ「できた?いいね、いいね。早速こっちきて」

そこは薄く水が張ってあるだけの空間になっていた。1センチ位の水
は動くたびに波紋をたてる。
ドレスの裾は水が染みてきて動き辛く、体に張り付き始める。

 ヒトミ「ちゃっちゃと行くよ。そのまま、まっすぐ歩いてきて。
     そこで回って。スカートをはためかせるようにね。いいよ。」

言われた通りに動き、その次の指示を待つ。

 ヒトミ「視線は常に下から上に動かして。カメラを見ちゃダメ」

すると、いきなり三宅仁美が近づいてくると、胸の辺りを引っ張る
と中にパットを2つ押し込んできた。

 ヒトミ「よし。これで、もう一回やるよ」

(あー。胸が無さすぎたんだな。そりゃそうだろ?男だし)

なんとなく分かっていたが僕で女性の被写体の代用をさせる方が
間違いな気がした。
とは、言うものの女性が着るにはあまりに露出が多く、ほとんど
下着や、素肌が出過ぎている気がする。

 ヒトミ「いいよ。あとは今から恭子ちゃんがやる動きをゆっくり
     とやってくれる?」

三宅仁美はカメラを構えたまま、指示を飛ばす。
前に来ていた角谷恭子は舞踊の舞の様な動きをゆっくりとしだした。
それに合わせるように利久斗も同じ動きを繰り返す。視線はどうして
も恭子の方に向いてしまうが、それは何もいわれなかった。

 ヒトミ「今のを、覚えれた?」
 リクト「あぁ、だがどうしてだ?」
 ヒトミ「今のを目を瞑った状態でやって欲しいのよ、できる?」
 リクト「分かった。」

一通りを見た通りに踊ってみる。終わった後に目を開けると、満足
そうな三宅仁美の顔があった。

 ヒトミ「今日はお疲れ様。今度写真のデータ持ってくね。」
キョウコ「ノロマのくせに、時間かかりすぎだ」
 リクト「どーも、じゃ、着替えていい?」
 ヒトミ「どうぞ」

今度は控え室の方には恭子も来なかった。さっさと自分の服に着替
えると会場の出口で2人が待っていた。

 ヒトミ「ご飯、行かない?」
 リクト「いや、悪いが早く帰って自炊したいんだ」
 ヒトミ「へー。自炊してるんだ~、今日はご飯奢るよ」
 リクト「断らせてもらうよ。じゃ、夜のバイトもあるんで」
キョウコ「生意気な、奢ってやると言うのに…今度は貴様が奢れよ」
 リクト「なんでそうなるんだ~。はぁ~気に入らないなら僕を誘わ
     ないでくれ」

それだけ言うと、駅に向かった。早く帰ってご飯を作らねば優馬が
帰ってくるので、それまでにと家路を急いだ。
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