好きになっていいですか?

秋元智也

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49 現場

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林医師は外科担当だった。
利久斗もそれを分かって呼んだのだ。

 林医師「僕を呼んだのは正解だったな。すぐに家族へ連絡と
     この状態では事後承諾になりそうだ。手術室は取って
     あるか?」
 リクト「はい、さっき連絡して、もうすぐ空くはずです。」

CT結果を踏まえて、判断は正しかったようだ。
何度か頷くと、利久斗にも手術の助手として入るように命じた。
早く気づけたおかげか、患者の手術は成功し今はぐっすりと眠っ
ている。
経過観察と気づいた点など、患者のカルテを作成し手術の事など、
これからの方針も書き添えて置いた。

 林医師「なかなか、やりやすかったぞ。後期研修は僕のところ
     に来なさい外科の手法をしっかり叩き込んでやろう」
 リクト「あ、はい。ありがとうございます。」

今の研修中に自分のやりたい科か、学びたい先生を決めれれば
これからがやりやすくなる。
もちろん、地位ある先生につくもよし、実力ある先生につくも
よしであった。
林医師は真面目で、出世をあまり考えず、患者に向き合う人だった。
その逆に内科担当の堤翔、彼は医師でありながら、出世欲に
飲まれて、論文も自分で書くのでは無く、研修生に書かせて、いい
出来のやつを自分の名前にして提出させていた。
いい噂は無く、強い者には尻尾を振るタイプだった。
知識はあるのかもしれないが、あまり真似したくはないタイプだった。
帰りは遅くなってしまったが、それなりに充実していた。
帰りの電車が来る音が聞こえて慌ててホームへと走る。
多少疲れていたせいか足がもつれて、転びそうになると横を通り過ぎる
人が咄嗟に支えてくれた。  

 リクト「すいません。ありがとう…」
 イツキ「りく…利久斗だよな?」
 リクト「え!樹?どうして東京に?」
 イツキ「偶然こっちに仕事でさ。元気だった?」
 リクト「あ、うん。毎日忙しくてさ」
 イツキ「俺さ、この近くに住んでるんだ、今度遊びに来いよ」
 リクト「そうだね、懐かしいし。今度お邪魔するね。」

思わぬ再会を果たし、電車が来るまでたわいもない話をした。
樹は警察官を目指し、今は現場研修である事。
利久斗は医者を目指し臨床研修で近くの病院で働いている事。
あれから、普通の生活を送っている事や。
今同棲中の人がいる事などを話した。
もちろんそれが男である事はまだ、話していない。

 イツキ「そっか、彼女できたのかぁ~…そっか」
 リクト「まだ同棲してるだけだけどね」
 イツキ「本当はさ、りくに…話したい事があったんだけどな」
 リクト「ん?なに?」
 イツキ「いや、いいや。また今度な。ほら電車きたぞ」
 リクト「うん、またね~」

伝えられなかった想いは樹自身の中に押し込めて、蓋をする。

(そうだよな、利久斗が幸せなら、それでいいよな。もしお前
に男の恋人なんて出来てたらって思うと、嫉妬しそうだったけ
ど、普通の恋愛できてよかった)

自分に言い聞かせる様に電車を見送った。
知らぬうちに涙が溢れて来ていた。
あぁ、そうか。失恋したんだ。初めて気づいた恋心。
いつも昔は側にいた存在。
あの事件以来会うことも出来なくなって初めて気づいた自分の
気持ち。
本当は竜也に嫉妬していた自分。
でも、一歩を踏み出せなかった弱い自分に腹がたった。
もし、あの時好きだと言っていれば、何かが変わったのだろうか?
あれから、立派な大人になろうと警察官を目指した。
家に帰ると、真っ暗の部屋の静けさが、余計寂しく感じた。
テレビをつけると流れる宣伝。
宣伝の中で一際目を引くのが男性が一枚の写真を
胸に抱いて、回想するシーンだった。
そこで使われている女性は写真の中だけの過去の人。
それをいつまでも待つというものだった。
気になったのはその一枚の写真に映っている人物。
紛れもない三宅仁美の展覧会の時の一枚だった。
樹はただ惹かれる程度だった。
しかし今日はなんだかその写真に写る女優が気になった。
ネットで検索をかけても出てこない。
ただの一般人の写真を使ったとだけ書き加えられていた。

 イツキ「りくは好きだけど…男が好きって訳でもないみたいだな」

写真の彼女に一目惚れした自分に失恋の後ってこんなに簡単に好きに
なるのかと少し自分に呆れた気がした。
いっその事、笑い話しとして今度利久斗と話そう。
こんな愚かで思いあがりの男の事など。きっと、笑い飛ばしてくれる。
それで、またここから良い友達でいよう!それだけの事なのだと、
言い聞かせる様に目を閉じた。


利久斗は遅くなってしまった為、惣菜を買って家に急いだ。
ちょうど家に着いた時、優馬も遅くなったのか同時にドアに手を伸ばし
ていた。

 リクト「おかえり」
 ユウマ「おかえり。遅くなったのか?」
 リクト「うん。急患が入ってね。それと、外科の林先生に次の研修の
     お誘い貰っちゃった」
 ユウマ「よかったな。外科だっけ?」
 リクト「そうそう。外科ってやりがいあって気になってたんだよね。
     難しいんだけど。それでも、命の最前線みたいで…僕も昔
     は助けて貰ったし、今度は多くの命を救いたいなって」
 ユウマ「いいと思う。利久斗らしくてさ」
 リクト「うん、それで今週末空いてる?」
 ユウマ「なんだ?空いてるぞ。かーさんにでも会ってくれるのか?」
 リクト「うん、そうしよっかな」
 ユウマ「…」
 リクト「…」
 ユウマ「マジか」

利久斗が頷くと、そのまま押し倒されると強く抱きしめられていた。

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