好きになっていいですか?

秋元智也

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56 日課という名の口実

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樹は一人部屋に取り残された。手錠の鍵は机の上に放置してあり
取って外す事は容易にできる。
が、彼は帰ってこない。
こんなつもりじゃなかったのに…。
彼が発展場に顔を出すことがないのは、彼氏が既にいたという
事なのだ。しかも親公認とか…。

 イツキ「ありえねーだろ…」

やってしまった行為はもう、戻らない。
ただ眺める事しかできない自分が歯痒かった。
その日から日課のように、彼のアパートを見張っている。
別に拉致して強姦しようなど、もう思わない。
ただ、彼を一目みたいという衝動に過ぎない。
どこに住んでいるのか気になって悶々とした日々に比べたら、
明らかにましと言えよう。
職場の病院でも周りからはなんの違和感もなく、好かれていて
昔の人懐っこい彼のままだった。
研修医であるにもかかわらず、医師からの評価も高く才能という
より、彼の努力の成果だろう。
いつも真っ直ぐで、頑張り屋だったから人の信頼も取れるのだろう。
自分も、そんな彼の側にいたからよくわかる。

そんな彼が、見舞いに行った時に取り乱したのは正直、ショックだ
った。
駆けつけた時には意識はなくて、間に合わなかったと思った。
無くしてしまったのだと思ったが、それでも生きててくれて。
ただ、笑顔が見たくて…それだけの事も許されなくて。
最後に見せた、恐怖に歪む顔が忘れられなかった。

(俺は奴らと同じような事をしようとしたのか…)

近くの塀に拳を叩きつけた。
本当に欲しかったのは、彼の隣。
友人としての自分の位置だったはずなのに…。
自分で壊してしまった。
職場に入る彼を陰から見送ると、一旦その場を離れる。
街の安全を警邏すると言って見張っているのは彼の行動だった。
相方を振り切っていつもの日課のように行き帰りの跡をつける。
イカれてると言われても、それでもいい。
それが、本当に偽りない自分なのだから。



病院の一室で目を覚ました男がいた。
下腹部が痛くて病院に来たまでは覚えている。
しかし、途中で意識が途切れたのを記憶している。
病室の前では看護師達がワイワイと、騒がしい。
意識が無くなる前に天使を見た気がした。あの写真の被写体。
誰か、分からずじまいだった彼女を一瞬見た気がしたのだ。
看護師達の顔を全員覚えるくらいに見たが、それらしい女性は
いなかった。
医師は男性ばかりで、見る価値すらない。

ユウセイ「見間違い?…そんなはずはない…と思う」
 看護師「お加減はいかがですか?」
ユウセイ「大丈夫だ。それより、看護師は何人いるんだい?
     全員に挨拶したんだが…」
 看護師「え~50人ちょっとくらいですよ~。挨拶なんていい
     ですよ~これが仕事ですもの。今は私が担当ですよ~」

担当についた看護師は何かと、部屋を訪れてくる。
他の看護師は部屋の外で、こそこそと声が聞こえていた。
しばらくして主治医が訪れた。

 林医師「あれからいかがですか?看護師が何かと煩いかもしれ
     ませんが。それも、心配しての事でしょうし…」
ユウセイ「えぇ、順調です。痛みが消え去ったみたいで。助かり
     ました」
 林医師「これなら、来週には退院できますね。何かあれば、
     看護師に言いつけて下さい。言いにくいなら研修医
     をつけましょうか?」
ユウセイ「男の人ですか?」
 林医師「もちろん。まぁ、女性がいいなら別ですが」

悠星が看護師にうんざりしてきているのを察したのか研修医を
回すと言ってきている。
男に興味はないが、ここ数週間は周りが騒がしてくどうにも気
が散って仕方がなかった。
誘惑しようとする看護師もちらほらいて、少しうんざりしてき
ていた。
そのまま、担当を一週間だけ研修医に変えてもらう申し出をした。
ただ、夜勤などもある事から、今この病院にきている2人の研修
医で交代制になった。
すぐに挨拶に来てくれたのが納戸響という爽やかな青年だった。

 ヒビキ「今日から暫く担当させていただきます。納戸です。
     よろしくお願いします。」
ユウセイ「すまないね。看護師達がちょっとね」
 ヒビキ「あー。そうですよね。杉本さんは有名人ですから、
     皆んな噂していましたよ。スカウトされれば一生安泰
     だって。僕らには関係ないですけど~。僕と田嶋が暫
     く付くので何かあったら言ってください。田嶋ってい
     うのは同じ研修生なんですけど、結構優秀なんですよ。
     杉本さんが倒れたのに気づいてストレッチャー準備し
     てすぐに林先生呼んで、手術の助手までやったんです
     よ。僕はまだやらせてもらえないのに~」
ユウセイ「今、なんと?」
 ヒビキ「手術の助手ですか?結構やらせてもらえないんですよ~」
ユウセイ「俺をすぐに見つけてくれた?意識がはっきりしてなくて
     な!その田嶋というのは看護師じゃないのか?」
 ヒビキ「何言ってるんですか?僕と同じ研修医ですよ。それに、
     男です。」
ユウセイ「女性を最後に見かけた気がしたのだが…」
 ヒビキ「それ、田嶋ですね。きっと。ぱっと見勘違いしそうです
     から。身体見ればどう見ても男ですから。午後から来る
     んで、挨拶に来ると思いますよ。」

そう言って納戸響は病室から出て行った。
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