好きになっていいですか?

秋元智也

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78 混沌の眠り

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樹は利久斗の好きなケーキを買うと、休憩時間に家へと
戻ってきた。
すると玄関は開けっぱなしで、中は散らかっていた。
利久斗の部屋のドアは無理やりこじ開けたようになって
いて、中にいるはずの利久斗の姿が見当たらなくなって
いた。
お守りに入っている発信器を頼りにスマホで位置情報を
検索すると、港の倉庫街で点滅していた。
ここは管理がヤクザのお膝元とあって、本当なら警察じゃ
手出しができない。
なのでまず、現状を優馬に電話で伝えた。

 ユウマ「ふざけた事しやがって。まってろ、今から
     向かう。」
 イツキ「俺も現場に向かう。場所は送っておく。」
 ユウマ「おっけ。落とし前つけさせてやる。」

優馬は昔のヤンチャだった頃のメンバーを招集して、現地
に向かわせた。
樹はいち早く現場に着くと、そこには病院で見た人物が
必死でこちらに走って来ていた。

 イツキ「ちょっと待った!聞きたいんだが田嶋利久斗を
     知らないか?」
 ヒビキ「あんたは…助かった。助けてくれ!俺を保護して
     くれよ」
 イツキ「利久斗は一緒じゃないのか?」

少し俯くと首を左右に振った。

 ヒビキ「もう、手遅れだ。助からない。」

言葉の意味をどうとっていいのか分からず、駆け出していた。
納戸が走って来た方角へと真っ直ぐに走った。中では男達の
声が何人も聞こえて来ていた。
中を覗くと、好き放題に犯されている利久斗の姿があった。
尻に肉棒を突き入れられ首を絞められていた。
カッと血が昇り、一気に走り出していた。
手前にいた男から殴り倒していき、利久斗の元へと行こうと
すると、眼前に立ちはだかられた。

 『おい、なんのつもりだ?俺たちは依頼されてやってんだ、
             用事がないならさっさと帰りな』

 イツキ「貴様ら、よくもりくに手を出したなー。ただじゃ
     済まさない!」

 『おい、コイツの連れかよ。もう、ガバガバで使えねーん
                だよ。代わりになるか?』

 イツキ「ふざけるな!よってたかって卑怯な事しやがって。」

多勢に無勢。樹には不利でしかなかった。
本当は優馬が来るまで待ちたかったが、納戸の言い方だと一刻
を争うような予感がしてならなかった。駆け出すと殴りかかっ
た。
最初の初撃はストレートに決まり、膝で顔をぶつけ一人を沈め
た、しかし続きがうまくいかず、後ろから殴られ床へと転がっ
た。
そこに次の攻撃が来てうずくまる。追い討ちをかける様に殴ら
れ続けた。
殴られている間も利久斗が心配で振り向くと放り出されたまま
ピクリとも動かなかった。
下半身は血で染まり昔の様を思い起こさせた。

 『往生際がわりーなー。お前も混ざれよ。もう、コイツは使い物
                       になんねーしな』

 イツキ「ふざけるなっ。お前ら全員逮捕してやる」

 『おいおい、逮捕だとよ。面白い事ゆーねー。』

 『おい、これって警察手帳じゃねーか?』

 『マジで警官か。だったら、この子と一緒に薬物塗れにして
                       やればいい』

 イツキ「な…に…。りくに何をしたぁぁぁぁーーー」

 『はははっ。威勢がいいな!薬物を投与して気持ちよーく俺らと
  セックスを楽しんでたんだよ。い~ぱい入れてやったからな。
  飛んじゃってるぜ。』

泣きそうだった。そんな事、あってたまるか!!そんな思いは拳
を握り締めると目の前の男に突っかかっていった。
簡単に避けられ蹴り飛ばされても、すぐに立ち上がった。
すると、奥から鉄パイプを持ってきて、樹の方へと向けてきた。
流石にあれで殴られたら、洒落にならない。
でも、ここで逃げる訳にはいかないと覚悟を決めた瞬間。閉まっ
ていたドアが勢いよく蹴り飛ばされた。

そこには優馬と、その昔の仲間達が勢揃いして立ちはだかったの
である。
男達は全員動けない程度に殴り倒され、ロープで拘束し警察へと
引き渡された。
利久斗はというと救急車を手配し病院へとはこばれていった。
優馬は付き添って病院へと向かった。樹は後処理に追われ次の日
の夕方にやっと病院の方へと顔を出せた。


 イツキ「どうだ?りくの具合は?」
 ユウマ「あれからずっとこの調子なんだ。一向に目を覚さない。
     薬物の異常摂取で混沌してるって。もし起きたとしても
     痛みに耐えられずおかしくなるかもって。多分体の方が
     相当痛いはずだって言われた。」
 イツキ「すまない、もっと早く気づいていれば…」
 ユウマ「お前こそ、傷の方はいいのか?」
 イツキ「りくの痛みの方がよっぽど痛いよ」
 ユウマ「樹はよくやったよ。せっかくの男前が台無しだな?」
 イツキ「りくが居なくなったら、どっちみち必要ないだろ?」

二人は気落ちしながら、お互い慰め合った。


あれから一ヶ月。
目覚めないまま病室で過ごす利久斗を見舞うと新しい家へと帰った。
いつ起きてもいいように。

 ユウマ「利久斗…新しい家はちゃんとセキュリティもいいから、
     今度こそ安全だよ。早く起きて帰って来いよ。俺ら待っ
     てるからさ。…お前が居ないと、何話していいか分かん
     ねーんだよ。母さんも心配してるんだぜ。もう自分の息
     子だって言ってさ。」

毎日見舞いに来ているが一向に回復の兆しは見えなかった。


強い薬だったらしく、普通は二本でラリって気持ちよくなる物らし
いが、床に転がっていたのは六本にも及んでいた。
そのまま、亡くなる事もある量の摂取だったと説明された。
後に納戸が持っていたビデオカメラからその様子も写っていた。
押収して確認している間も樹は怒りが込み上げてきていた。
署での取り調べも淡々と進んでいた。

 イツキ「今回の誘拐から監禁、性的暴行の依頼をしたという事
     だが?間違いないか?」
 ヒビキ「…はい。」
 イツキ「何故、そんな事をしたんだ?何か恨みでもあったとい
     うのか?」
 ヒビキ「…ない…です。ただ、ムシャクシャしてて、辞めて
     いった同僚が何してるかなって思って…そしたらな
     んか悔しくなってきて…」
 イツキ「…くだらない!今も目覚めないままだというのに…」
 ヒビキ「助けて下さい。俺も狙われるかもしれないんです。
     それに俺は殺せとは言ってないです。ただ、無茶苦茶
     に犯してくれって…頼んだだけで…」
 イツキ「薬まで使うとは思わなかった?体が裂ける程の痛みを
     味わせたかったか?りくがどんな人生歩んで来たかお
     前に分かるか?俺はもう、あんな辛い思いはさせたく
     無い。お前にかける情けなど持ち合わせちゃいないか
     らな。お前は強姦罪の教唆として罪を償ってもらう事
     になる。もし、りくに何かあれば集団暴行致死傷罪に
     なって無期懲役か、少なくとも6年の懲役刑になるだ
     ろう」
  ヒビキ「…」

響きはその場で目を伏せると後悔でいっぱいになっていた。

  イツキ「まぁ、もしりくに何かあれば、俺がお前を殺してやるよ」

深い闇を孕んだ声ではそっと囁くとゆっくりと席を立った。
納戸は黙って俯くとそれ以上何も話さなかった。
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