好きになっていいですか?

秋元智也

文字の大きさ
79 / 89

79 おはようのキス

しおりを挟む
三ヶ月が経とうとしていた。病院の方も自宅療養にするか
別の病院への転院を進めて来た。

 イツキ「まだ目を覚さないんですよ!どうして退院なん
     ですか!」
 医師 「そう言う決まりなんです。容体も変化無いですし。
     回復の兆しがないままここにいても…そろそろ潮時
     なのかもしれませんよ。」
 イツキ「それでも医者か!患者を見捨てるのか?」
 医師 「仕方ない事です」

医師は伝えるだけ伝えると、仕事に戻って行った。
樹は容体と今後の治療方針を聞く為に先に来ていたのに、後か
ら来る優馬になんて話そうかと迷っていた。
実際は、点滴を変える以外は体を拭いたり少し動かしてマッサ
ージして血流を促すくらいしかやる事がないのである。

 ユウマ「お!樹、早かったな。先生から話があるって聞いた
     んだが?」

周りを見回してもいないので、優馬は遅かったか?と聞いて来た。

 イツキ「話は…転院を考えるか、自宅療養を進められたよ」
 ユウマ「あー。そうなるのか。自宅に連れて帰ろうぜ」

優馬の言葉にハッと顔をあげると、利久斗の髪を撫でながら優しく
微笑む優馬の姿があった。

 ユウマ「なぁ~。一緒に帰ろうぜ。もう、病院で一人は嫌だろ?
     これでも医者の息子だぜ!ずっと側にいるって約束した
     からな!目が覚めるまでずっと話かけてやるよ。いつか
     目が覚めたら、おはよって言って抱きついてくれれば、
     それまでの苦労も帳消しにしてやるよ。」
 イツキ「そうだな。一緒に帰ろう。なんでも手伝うよ」
 ユウマ「もし、もし辛い様なら、俺一人でも…」
 イツキ「いや…りくが生きたいって思ってる間は弱音なんか吐いて
     られねーよ。」

新居のベットに利久斗を運び込むと側に点滴を吊した。
栄養摂取と水分補給は全て点滴で賄っている。
その為、もともと華奢な身体付きだったのがもっと細くなった様に感
じた。
点滴の変え方も優馬の母親に教えて貰い自分達でできるようになった。

 イツキ「おはよ、りく。今日はいい天気だよ。早く起きて一緒に散歩
     行こうな。」
 ユウマ「利久斗。駅前に新しいスイーツの店ができたぞ、早く目を覚
     さないと、俺達で食べに行っちゃうぞ」

朝が来る度、夜がふける度に利久斗の眠る部屋に来ては声をかけていく。
日課の様になっていった。
今日あった事や、新しい店。仕事での愚痴も含めて話しかけていた。
今にも起き上がって眠そうな顔で笑いかけてくれると信じていた。
季節は流れ、たまに三宅仁美と角谷恭子も訪れる事があった。
いつも悪態しか言わなかった角谷恭子も、今回ばっかりは何も言わなか
った。身体の傷の方は大分と良くなり、脈も、心拍も正常値を示してい
た。ただ精神が目覚める事を拒絶している様に思えた。

 ユウマ「利久斗…会いたいよ。こんなに近くにいるのに…遠いんだ」

泣き言など言わなかった優馬でさえ、最近では言い始めていた。

 ユウマ「起きてくれよ。もしこのまま死んだりなんかしたら…絶対に
     許さないからな…恨むからな。ずっと、ずーっと、恨んでや
     るからな。」

事件があってから…利久斗が眠ったままになってから一年が経とうとし
ていた。
顔色は良くなって来ている、ちゃんと生きようとしている。
そう思いたいだけなのかもしれないがそう思わずにはいられなかった。
頬はコケて来ていて、いつだって嫌な予感だけが頭をよぎる。
髪も伸びて肩までかかって来ていた。


外は雪が積もって、白銀の世界になっていた。
凍てついていく心を震いたたせながら優馬は利久斗の部屋へと入る。

 ユウマ「利久斗~。雪だぞ。一緒に雪合戦し…よう…!」
 リクト「……」

目を覚ました利久斗の姿を久しぶりに見た気がした。
何か話そうとするのだが声にならないのか、口元を動かして必死に
何かを言おうとしていた。 

 ユウマ「利久斗~!!よかった。目が覚めたんだな。本当によ
     かった~。」

ベットの側に駆け寄ると利久斗の腕を握り締めた。細くて今にも
折れてしまいそうなほど痩せ細ってしまったけれど、今一度目を
覚ましてくれた事に感謝した。
優馬の声に慌てて樹も部屋へと入ってきた。

 イツキ「りく…よかった。本当にこのまま目覚めないかもって
     思ってたから…生きててくれるだけで…それだけでい
     いから。」

涙を流しながら喜んだ。
声は出ないが、しっかりと二人の方へ見ていた。
そう、見ていたのだ。すぐに医者を呼んで見てもらったが、視力
に異常は見られなかった。
ちゃんと二人が見えている。そして二人の事も分かっている。
おかしいとすれば、時間軸があっていない事だった。
優馬と付き合い始めたあたりからの記憶しかなかったのだ。
樹が大人になって出会った時くらいから今に至るまでがすっぽり
と抜け落ちていたのだ。
面影があるので樹だと分かる程度で、なぜ一緒に暮らしているの
かも分からないでいた。

 ユウマ「いいよ。ゆっくりで。辛いなら思い出さなくてもいい
     今から新しい思い出を作ればいいだろ?」
 イツキ「そうだぞ。今からが大事なんだ。焦る必要ない!」

いっそ、思い出さないでくれと二人は願った。
思い出して発狂してしまうくらいならこのままでいて欲しかった。

 リクト「ごめん、覚えてなくて…二人は仲がいいの?」
 ユウマ「あぁ、利久斗の事が世界で一番好きって事では仲がいいな」
 リクト「なにそれ?」

笑いながら冗談として流していた。

 イツキ「本当だぞ。俺はりくを心から愛してる。神に誓ってもいい」

伸びた髪を透かすと先端に口づけした。

 イツキ「俺の姫は、いつもりくだけだ」

優馬も負けじと利久斗の手の甲にキスを落とす。

 リクト「え~っと、これってそう言う事?え…なんで…」

二人に笑顔に圧倒され現状を悟った。

 リクト「僕ってまさか…二人とそういう関係だった訳?」
 ユウマ「もちろん。」
 イツキ「あぁ。そうだ」

顔を真っ赤にすると、性事情を察して顔を背けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

  【完結】 男達の性宴

蔵屋
BL
  僕が通う高校の学校医望月先生に  今夜8時に来るよう、青山のホテルに  誘われた。  ホテルに来れば会場に案内すると  言われ、会場案内図を渡された。  高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を  早くも社会人扱いする両親。  僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、  東京へ飛ばして行った。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

処理中です...