推しのドスケベ動画が見れるとか現実か?

みんくす

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第四話

4−1 悲しんでいる場合ではない

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「俺は最低な人間だ……」


 推しのアイドルである陽一郎と、ラブホテルに行くという奇跡。
 挿入こそ無かったものの、もはやセックスをしているのではないかという、夢のような出来事が起こった翌日。
 この日は休日なので、仕事は休みである。だが、一睡もできなかった友渕のメンタルは、どん底状態だった。
 昨日どうやって家に帰ってきたのかすら、記憶が定かではない。

 陽一郎に対して、恋心や劣情を抱いているにも関わらず、臆病になってしまった。その結果、陽一郎があのような行動に出た理由を察することができず、傷つけてしまうことになった。

「陽一郎くんに、あんな顔させるなんて……。俺、もう生きてる価値ない……」

 ベッドにうずくまって、悲しみに打ちひしがれていると、スマホが着信を知らせてきた。
 画面を確認すると、友人である片岡の名前が表示されている。重い動きでスマホを手に取り、応答ボタンをタップする。

「……はい」
『友渕お前、なんで昨日の夜メッセージ返信してこなかったんだよ』

 会社の同僚でもあり、グリスタを布教してきた人物でもある片岡。多少の年齢差はあるものの、プライベートで友渕がやりとりをしている数少ない友人だ。
 グリスタのイベント後には、その日に良かった点などを、メッセージでやりとりするのがお決まりになっている。

「……すみません」
『元気ないな。何かあったか?』

 ボソボソとはっきりしない声で話す友渕に、異変を感じた片岡が問いかけてきた。

「うう……俺は、もう生きてる価値なんてないんですーーー!!」
『うるせぇ。急にどうした』
「うううゔ~~~……」
『埒が明かないな。お前の家行くから、待ってろ』


 数十分後。
 部屋のチャイムが鳴り、友渕が重い足取りでドアを開けると、コンビニの袋を提げた片岡が立っていた。

「片岡さん……俺、おれぇぇぇ……!!」

 一人は抱えきれない気持ちが溢れそうで、友渕は涙で顔を濡らす。

「とりあえず部屋の中いれろ」
「すみません……」

 友渕の自宅である、ワンルームのアパートの一室。
 陽一郎のポスターやらタペストリー、ブロマイドを入れた写真立てなどが、いたるところに飾られている。
 そんな圧倒されるであろう光景に、片岡は眉ひとつ動かすことなく、床に置かれたクッションの上に座りこむ。

「おい友渕、なんなんだ一体。お前があそこまで泣き喚くなんて……」
「俺……、陽一郎くんをめちゃくちゃ傷つけてしまったんです……。だからもう、生きてる価値ないんです……」

 友渕は先ほどまで泣き喚いていたというのに、今は魂を抜かれたような、虚な目をしている。

「厚海ママを傷つけただと!? おい、ちゃんと説明しろ」
「きっ、昨日なんですけど……」

 只事ではないと感じたのか、眉をしかめる片岡に、友渕は昨日の出来事をかいつまんで説明した。




 友渕の話を聞き終わった片岡は、一度目を伏せてから、カッと目を見開いて叫んだ。

「おっまえ……!! この大馬鹿ヘタレ野郎!!」

 ここまで感情を爆発させている片岡を、友渕は未だかつて見たことがなかった。

「友渕お前、厚海ママのこと『抱きたい』だの『雄っぱいに埋まりたい』だの散々言ってたくせに、いざそうできるって思ったら怖気付いたってか!?」
「……っ!! う、うう……」

 まさに片岡の言う通りである。
 陽一郎の気持ちが、自分に向いていることに気がつけず、結果傷つけることになってしまった。

「もう次のイベント行けないです……。そもそも、俺なんか陽一郎くんに二度と会っちゃいけないんだ……」
「いいか、よく聞け。そんなウジウジしてるお前に教えてやる! ……このままだと、厚海ママが気の毒すぎだ」

 深呼吸した片岡は口を開いた。

 自らの推しである明石に頼まれ、過去の握手会の時に、陽一郎から手紙を貰ったこと。
 手紙には、『裏チャンネルの噂』を伝えてほしいと書かれていたこと。そして、この噂は友渕にしか伝えていないこと。
 手紙から伝わってきた、陽一郎が友渕に対して抱く気持ちだけを除いて、片岡はその日の出来事を友渕に話した。

「あの時の握手会で、片岡さんが陽一郎くんのところに行っていたのって……。そういうことだったんですか」

 予想もしていなかった話に、友渕は驚きを隠せない。

「そうだ。このまま終わらせるなんて、馬鹿な真似するな」

 片岡の言葉に、友渕は自分の情けなさを痛感した。それと同時に、自分の中にある陽一郎に対する気持ちを、頭の中で整理していく。

 今まで通り一人のファンとして応援していけばいいなどと、思えるはずもない。
 愛する陽一郎に触れた温度を、忘れることなどできない。
 アイドルとしてだけではない、一人の人間として陽一郎が大好きだと言う気持ちを、自分の中で留めておくことなどできない。
 この気持ちを止めることなどできない。
 もう一度だけ、直接話がしたい。気持ちを、ちゃんと伝えたい。

「こんな情けない俺でも……陽一郎くんは、もう一度話を聞いてくれるでしょうか……」
「それは、本人に直接聞かないと分からないな」
「う……」
「……まあ、当たって砕けたら、推しへの気持ちが報われないファン仲間として慰めてやるよ」
「片岡さん、ありがとうございます。俺、もう一度陽一郎くんと話がしたいです」


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