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第四話
4−3 重なり合う心
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一週間後、再び行われたグリスタの握手会。
ある決意をした友渕は、今までの握手会とは全く違う心持ちで、この場へやってきた。
「こんにちは、友渕さん」
「……っ」
他のファンにも見せるような、『アイドルの顔』をした陽一郎の笑みを目の当たりにし、友渕の心にチクリと痛みが走る。
距離を置かれていると、はっきり突きつけられた気がしてしまう。
だがここで怖気付いていたら、陽一郎の気持ちが自分に向くことは、もう二度とないだろう。
陽一郎を目の前にすると、言葉では伝えられないと思い、友渕はこの日のために手紙を書いてきた。
「握手しましょう?」
「陽一郎くん。今日は、プレボに手紙入れたんだ」
差し出された陽一郎の手を、友渕はそっと握る。
いつものオドオドとした様子とは違い、自分の気持ちを伝える決意をした表情をしている。
今までに見たことのない真剣な様子の友渕に、陽一郎の鼓動がドクンと跳ねた。
「え……」
「イベント終わったら、手紙を読んでほしい」
きっかけを作ってくれたのは、いつも陽一郎からだった。だが、今日は自分がきっかけを作る。
「俺、待ってるから」
「……っ!」
あの時、陽一郎が自分に言ってくれた言葉を告げ、友渕はその場を後にする。
陽一郎が何か言いたげにしていたが、友渕はあえて振り向かない。
今はまだ、伝えて良い時ではない。
イベント終了から数時間後。
友渕は会場から離れた、とある駅にある公園へとやってきた。駐車場もあり、家族連れやカップルに人気の大きな公園だ。
しかし冬の冷たい風が吹く夜に、長い時間留まっている人は居ないようだ。
ポツリポツリとあった人影や車も、いつの間にか無くなり、ここに居るのは友渕一人になっていた。
──陽一郎くん、来てくれるかな……。いや、俺は待つ! 何時間だって待つ!
相手が来てくれるかどうかも、全く分からない待ち合わせ。だが友渕は何時間でも待つつもりで、ここまでやってきた。
陽一郎へ渡した手紙には、『今夜話したいことがあるので、この公園へ来てください』とだけ書いていた。
友渕に対する陽一郎の気持ちが、まだ残っているのであれば、手紙を読んで、ここへ来てくれるかもしれない。
一時間ほど経っただろうか。コートやマフラーをしていても、身体の芯まで冷えてしまいそうだ。
「手袋も持ってくるんだった……」
友渕は若干後悔しながら、冷えた手をコートのポケットに入れて、その場に留まる。
そんな時、一台の車が駐車場に入ってきた。
ヘッドライトで照らされ、友渕は眩しさに腕で顔を覆う。すぐにドアが勢いよく閉まる音がして、静かな公園に声が響いた。
「友渕さん!!」
「え……」
走ってくる足音が聞こえたかと思った瞬間、眩しさが遮られる。
慌てて顔を上げると、今にも泣き出しそうな表情の陽一郎がいた。
「よっ、陽一郎くん……!」
「こんな寒い場所で、ずっと待っててくれたんですか?」
「うん……」
あれほど眩しかったヘッドライトの灯りは、陽一郎の大きな身体で遮られ、後光のように射している。
まるで、ステージ上でライトに照らされているようではある。だが、心持ちが全く違う。自分のためだけに、今ここに存在している陽一郎が、友渕はなによりも愛おしい。
「友渕さん、俺……」
「陽一郎くん、待って。俺の話を聞いてほしい」
「はい……」
口を開きかけた陽一郎を、友渕は止める。ここは自分が切り出さなければいけないところだ。
「陽一郎くん、この間はごめんなさい。陽一郎くんがどんな思いで、俺のことを誘ってくれたのか、気づくことができなかった」
「友渕さん……」
「あの時……二人きりの時間を過ごせて、すごく嬉しかった。なのに俺が怖気付いたせいで、陽一郎くんを傷つけた。その……謝っても許してもらえないかもしれないけど、謝らせてほしい」
友渕は、深々と頭を下げて謝罪した。
そんな友渕の言葉に、陽一郎は首を何度も横に振り、その言葉を否定しようとする。
「元はといえば、友渕さんが俺を応援してくれてる気持ちを、利用したのがいけないんです」
「ちっ、違うよ陽一郎くん!! 俺がもっと、自分の気持ちに正直になっていたら……!」
「アイドルやってるくせに、大切なファンの友渕さんにあんなことして。それで、嫌われたと思って……」
唇を噛み締め、涙を堪える陽一郎。
友渕はたまらず、陽一郎の大きな身体に抱きついた。
「俺が、陽一郎くんを嫌いになるはずない!!」
「……──っ!」
「陽一郎くんが、大好きです……っ! アイドルとファンじゃなくて、こっ、恋人として! 俺と付き合ってください!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らし、友渕が自分の気持ちを告げる。
その瞬間、陽一郎の目から涙が溢れ、友渕をギュッと抱き締めた。
「俺、友渕さんが大好きです! ずっと……ずっと、言いたかった……!」
そう言いながら流れている二人の涙は、お互いにとって世界で一番綺麗な涙であった。
ある決意をした友渕は、今までの握手会とは全く違う心持ちで、この場へやってきた。
「こんにちは、友渕さん」
「……っ」
他のファンにも見せるような、『アイドルの顔』をした陽一郎の笑みを目の当たりにし、友渕の心にチクリと痛みが走る。
距離を置かれていると、はっきり突きつけられた気がしてしまう。
だがここで怖気付いていたら、陽一郎の気持ちが自分に向くことは、もう二度とないだろう。
陽一郎を目の前にすると、言葉では伝えられないと思い、友渕はこの日のために手紙を書いてきた。
「握手しましょう?」
「陽一郎くん。今日は、プレボに手紙入れたんだ」
差し出された陽一郎の手を、友渕はそっと握る。
いつものオドオドとした様子とは違い、自分の気持ちを伝える決意をした表情をしている。
今までに見たことのない真剣な様子の友渕に、陽一郎の鼓動がドクンと跳ねた。
「え……」
「イベント終わったら、手紙を読んでほしい」
きっかけを作ってくれたのは、いつも陽一郎からだった。だが、今日は自分がきっかけを作る。
「俺、待ってるから」
「……っ!」
あの時、陽一郎が自分に言ってくれた言葉を告げ、友渕はその場を後にする。
陽一郎が何か言いたげにしていたが、友渕はあえて振り向かない。
今はまだ、伝えて良い時ではない。
イベント終了から数時間後。
友渕は会場から離れた、とある駅にある公園へとやってきた。駐車場もあり、家族連れやカップルに人気の大きな公園だ。
しかし冬の冷たい風が吹く夜に、長い時間留まっている人は居ないようだ。
ポツリポツリとあった人影や車も、いつの間にか無くなり、ここに居るのは友渕一人になっていた。
──陽一郎くん、来てくれるかな……。いや、俺は待つ! 何時間だって待つ!
相手が来てくれるかどうかも、全く分からない待ち合わせ。だが友渕は何時間でも待つつもりで、ここまでやってきた。
陽一郎へ渡した手紙には、『今夜話したいことがあるので、この公園へ来てください』とだけ書いていた。
友渕に対する陽一郎の気持ちが、まだ残っているのであれば、手紙を読んで、ここへ来てくれるかもしれない。
一時間ほど経っただろうか。コートやマフラーをしていても、身体の芯まで冷えてしまいそうだ。
「手袋も持ってくるんだった……」
友渕は若干後悔しながら、冷えた手をコートのポケットに入れて、その場に留まる。
そんな時、一台の車が駐車場に入ってきた。
ヘッドライトで照らされ、友渕は眩しさに腕で顔を覆う。すぐにドアが勢いよく閉まる音がして、静かな公園に声が響いた。
「友渕さん!!」
「え……」
走ってくる足音が聞こえたかと思った瞬間、眩しさが遮られる。
慌てて顔を上げると、今にも泣き出しそうな表情の陽一郎がいた。
「よっ、陽一郎くん……!」
「こんな寒い場所で、ずっと待っててくれたんですか?」
「うん……」
あれほど眩しかったヘッドライトの灯りは、陽一郎の大きな身体で遮られ、後光のように射している。
まるで、ステージ上でライトに照らされているようではある。だが、心持ちが全く違う。自分のためだけに、今ここに存在している陽一郎が、友渕はなによりも愛おしい。
「友渕さん、俺……」
「陽一郎くん、待って。俺の話を聞いてほしい」
「はい……」
口を開きかけた陽一郎を、友渕は止める。ここは自分が切り出さなければいけないところだ。
「陽一郎くん、この間はごめんなさい。陽一郎くんがどんな思いで、俺のことを誘ってくれたのか、気づくことができなかった」
「友渕さん……」
「あの時……二人きりの時間を過ごせて、すごく嬉しかった。なのに俺が怖気付いたせいで、陽一郎くんを傷つけた。その……謝っても許してもらえないかもしれないけど、謝らせてほしい」
友渕は、深々と頭を下げて謝罪した。
そんな友渕の言葉に、陽一郎は首を何度も横に振り、その言葉を否定しようとする。
「元はといえば、友渕さんが俺を応援してくれてる気持ちを、利用したのがいけないんです」
「ちっ、違うよ陽一郎くん!! 俺がもっと、自分の気持ちに正直になっていたら……!」
「アイドルやってるくせに、大切なファンの友渕さんにあんなことして。それで、嫌われたと思って……」
唇を噛み締め、涙を堪える陽一郎。
友渕はたまらず、陽一郎の大きな身体に抱きついた。
「俺が、陽一郎くんを嫌いになるはずない!!」
「……──っ!」
「陽一郎くんが、大好きです……っ! アイドルとファンじゃなくて、こっ、恋人として! 俺と付き合ってください!!」
涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らし、友渕が自分の気持ちを告げる。
その瞬間、陽一郎の目から涙が溢れ、友渕をギュッと抱き締めた。
「俺、友渕さんが大好きです! ずっと……ずっと、言いたかった……!」
そう言いながら流れている二人の涙は、お互いにとって世界で一番綺麗な涙であった。
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