吸血姫デスゲーム×バトルロワイヤル～突然吸血鬼にされた女生徒３２名が一人になるまで殺し合う……蠱毒な戦い～

デス・ゲーム８日目 優笑がいない！？

　
　優笑を見送った優楽は林の中でも落ち着かない。
　いつもは心地よく聞こえる鳥の鳴き声もうるさく思ってしまう。

「ねぇ、優楽」

「優笑ちゃんが、優笑ちゃんが礼拝堂に入ったらすぐ行こう！」

「優楽、ちょっと二人で話がしたかったんだけどさ」

　スズメが珍しい事を言う。
　隣にいるショウをちらりと眺めた。

「今？」

　優楽もこんな時に、という顔をしてしまう。
　最近苛立ってしまうとすぐ表情に出てしまうのを優楽も自覚しているがどうにもできない。
　
「二人で話せる時間ってあんまりないでしょ」

　確かにそれはそうだ。
　
「じゃあ僕は離れた先で礼拝堂に向かうよ」

　ショウは自分から提案した。
　邪魔者扱いされて傷つくような人でもない。

「すみません」

　スズメの軽い謝罪にショウは軽く手をあげて歩いて行った。
　今日は虫の音もうるさい。
　
「なに……？　話ってさ」

「あのさ、前に小さい頃、怪我をして優笑に助けてもらったって言ってたでしょ」

「……うん……」

　死にかけていた自分を大好きな優笑が助けてくれた奇跡のような思い出。
　優笑は忘れてもいい。
　自分だけは絶対に忘れない、恩と絆。
　
「血の奴隷になるって……話があったじゃない？　優笑がソフィアに助けられた存在でさ……その優笑の血で……優楽は助けられたんじゃないの？」

「え……そう……？」
　
　なんとなくは、そう思っていたが優楽はわざとに知らなかったような声を出した。
　
「じゃあ優楽は優笑の血の奴隷かもしれないって事になるよね」

「私が……？」

「そう」

　はっきりと言われると、優楽の心にも動揺が走る。
　
「私は生まれた時から優笑ちゃんが大好きだよ！　それに……そうだとしても、優笑ちゃんは私を操ったりしないし私は優笑ちゃんを自分の意志で守りたいって思ってるよ」

「それがもう洗脳状態かもしれないよって」

「何を言いたいの……！？」

　感情を顕にする優楽に対してスズメはいつも通り冷静だ。
　
「私はいつでもどんな時も優楽の味方だよって事。あ、そろそろ行こう」

「……なんなの……？」

　優楽の苛立ちをスズメは無視しているのか気付かないのか、草原を駆けていく。
　
「待ってよ！」

　優楽もすぐにその後を追った。
　礼拝堂の窓際で様子を伺っているショウに合流した。

　確かに聖奈一人だ。
　三人で礼拝堂の周りを確認し、死角部分もできるだけ覗いたが隠れている信者はいない。

「……本当にじゃあ……親切心で……？」

「……どうだろうな……僕の主観になってしまうが、闘った時に奴から慈愛も何も感じなかった。こんな状況で打算もなく話を聞くなんてありえないと思うんだが……」

　ショウの聖奈への疑心は変わることはない。

「私も信じ切ってはいないけど……」

「でも見て……」

　優笑と聖奈。
　二人は静かに話をしている。
　そして講演台に隠れるように二人は座り込んだ。

「よく見えない……」

　ぐるりと回ったが、何故か窓から見えない死角になっている。
　ただ、話す声は聞こえるので優笑の無事はわかった。

「……話は終わった……？」

　急に静かになった。
　会話は終わった？

「見えない……よ」

「出て行ってないですよね？」

「あぁ、もちろんあの講演台から誰も出てきてはいない」

「み、見てくる！」

「あ！　優楽！」

　スズメが止めるのも聞かずに、優楽は窓から礼拝堂に飛び込んだ。

「優笑ちゃん！　優笑ちゃん！？　……いない！　優笑ちゃんがいない！」

　優楽が絶叫する。
　スズメとショウも後に続いたが、まるで魔法のように優笑の姿も聖奈の姿も消えていたのだ。

「うそ……なんで！？　どうして……優笑ちゃんっっ！！」

　断崖絶壁に当たる波の音と、カモメの鳴き声。
　悲痛な少女の叫び声が響く。

　◇◇◇

　その双子の片割れが叫ぶ地上から地下通路を下った岩浜。
　殴られ額から血を流した優笑が、縛られ聖奈と信者二人に見下ろされていた。

「……さぁ……儀式の時間です……」