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デス・ゲーム8日目 聖奈の正体

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 礼拝堂の地下通路を抜けた先の岩浜。
 荒い波と海風が激しい音を立てる。
 
「う……」

 そんな岩場に乱雑に転がされた優笑。
 手首を縛られていた。
 殴られた衝撃で目眩がするが、必死に目を開ける。
 猿ぐつわをされているが噛み切ってやると噛みつく。

 今通ってきた、地下通路に隠れていたんだろう。
 菊池ゆりえと、もう一人の信者の原口梨々花。
 二人が優笑を一気に地下に引きずり込んだ。
 聖奈も通路に飛び込むようにして隠れ、今の状況だ。
 
「こいつだけは絶対に許さない……!」

 やはり菊池ゆりえは嘘をついていた。
 何か小さな鈴のようなものを鳴らして唱えているシスター聖奈の前。
 ゆりえは優笑の髪を引っ張り持ち上げた。

「ぐ……!」

「ゆりえさん、シスター聖奈の前です。そして……命が天に還る時、心を鎮めなければ……」

「り、梨々花さん……うう……私はずっと後悔しているんです……あんな話に、あんな口車に乗せられなかったらぁ!」

 あんな話……?
 泣くゆりえが言う言葉を優笑は冷静に聞いている。
 絶体絶命ではあるが、最後まで諦めない。

 こんな騙され方をして死んでたまるか!

 珍しく激高した優笑がブツリ……と猿ぐつわを噛み切った。
 自分でも驚いたが牙でも生えたんだろうか。

「シスター聖奈! どうしてこんな事を!?」

 優笑が叫ぶ。

「あ、こいつ!」

 ゆりえに頬を殴られた。
 
「まぁ……おやめなさい。ゆりえさん。地上にはこの声は届かないでしょうし、あの仕掛けに気付いても内側から開けられないようにしてきたのです……最後の言葉くらい言わせてあげたい」

「わ、私はこんなところで死ぬつもりはないです……!」

 岩場に転がされ波しぶきが顔にかかった。
 
「……貴女を解放してあげたいのです……」

「解放……?」

「二人も今日、解放されるのですよ」

 ゆりえと梨々花も手製なのかベールをかぶり、静かに聖奈の前で跪く。
 
「ふ、二人共……まさか聖奈さんに喰われる気!?」

「そんな汚らわしい言い方はやめてください……」

「そうだ!」

「……今の現世に囚われていては恐怖に負けてしまうだけ……」

「……じゃああなた達だけで勝手にすればいい! 私は喰われる事なんて望んでいない! 帰して!」

「……それはできません……」

 こんな状況なのに、お祈りをするような目を瞑ったような表情をする聖奈が今は不気味に思える。

「それならば、貴女はただの人殺しよ! 聖女なんかじゃ……ぐっ」

「もう黙りなさい!」

 聖奈を侮辱したからか、梨々花に新たな猿ぐつわをさせられる。

「……さぁ、梨々花さん。これまでの貴女の助けに感謝します……」

「あぁ……聖奈様……これが私の天命……一つになれる事は何よりも喜びです」

 こんな儀式は本来はあり得ないもの。
 それを聖奈が勝手に創り出したのだ。
 間違っている! と優笑は叫ぶが、もちろん猿ぐつわで言葉にはならない。

「儀式が始まるのよ! 黙れ!」 
 
 今度はゆりえに乱暴に背中に乗られ、髪を引っ張られた。
 乗られた重みで身体がゴツゴツの岩にあたり激しく痛んだ。
 優笑はこの距離ならば! とバーサーカーを包んだ時のように血の盾の応用でゆりえを拘束する。
 
「きゃあ!? なにこれ!?」

 両腕と胴体を縄で縛られたような圧迫にゆりえは驚き、ひっくり返った。
 優笑はそのまま立ち上がる。

「何をしたの!? 動けない……」

 聞かれても答えられるわけはない。

「梨々花さん、彼女を捕まえて足を縛って」

「はい!」

 崖の上、礼拝堂の方から優楽の叫び声が聞こえる。
 降りてきた通路階段はむき出しだ。
 あそこを登って逃げれば……!

 しかし梨々花が立ちはだかる。

 梨々花は血の長針を手にじりじりと詰め寄ってきた。
 岩浜は狭い。海はすぐに深くなり波も荒い。手を縛られた状態で落ちればすぐに溺れ死ぬだろう。
 ゆりえの拘束もいつ外れてしまうのか自分でもわからない。

「大人しくして……!」

 優笑はまた猿ぐつわを親指で引っ掛けずらす。
 
「私を騙して、殺そうとする状況で大人しくなんかしてられない……! 優楽ーーーーーーーーーー!!」

 崖に向かって優笑は叫ぶ。

「くっ……!」

 聖奈が顔をしかめる。
 初めて見る表情だ。
 彼女は血のナタを手に持った。
 地上に戻る通路の前に立つ。
 優笑の逃げ場は封じられてしまった。

「梨々花さん、首を出して……!」

「聖奈様? で、でも儀式がまだ……」

「時間がないわ……早く……早く首元を出しなさい」

「は、はい……」

 梨々花が慌ててリボンとワイシャツのボタンを外して聖奈の元に跪くと、儀式も祈りもなしに聖奈は梨々花に噛みついた。

「えっ……嘘……」

 じゅるじゅるじゅるじゅるじゅる……。

「あぁ聖奈様ぁあああ」

「今までありがとう。貴女は本当に役に立ってくれたわ……さようなら……」

 あまりにもだった。

「せ……せいなさま……あ、あの……」

 ゆりえも驚いたようだ。

「ゆりえさんも……さぁ……こちらへ」

「ひっ……ちょっとま、待ってください……」

 聖奈が手首を翻すとナタは更に厚みを増してマチェットのような剣になった。
 
「怖がる事はありませんよ……私と一つになるのです……」

 ザァーン! と大きな波が弾けて、ゆりえと聖奈に水しぶきがふりかかる。

「い、嫌がってるわ! 逃げて!」

 優笑は、ゆりえの拘束を解いた。
 即座に立ち上がるゆりえ。
 優笑を見たが礼は言わない。

「ふふ……さぁ黙って私に捕食されなさい……新入りの忠誠心など最初から期待はしていないの」

「シスター聖奈……! それが貴女の本性なのね!?」

「聖奈様……みんなをどんな気持ちで食べたんですか……っひどい……!!」

「みんな望んで私に自分を捧げた……それ以外に何かあるかしら……ゆりえさん、優笑さんを捕まえて! その子は絶対に必要なの」

「どうして私を……!?」

「先程の話は本当なのでしょう? 吸血鬼に助けられた娘? そんな特別な力は私こそがもつに相応しいもの!」

 また激しく波が弾ける。
 これ以上、海が荒れればこんな岩浜にいる人間など簡単に海にさらわれてしまいそうだ。

「貴女は一体何を狙って……」

「当然、吸血鬼の頂点……吸血姫になるため。それ以外になにかあるかしら……? 地位も名誉も富も既に持っていた私がこんなゲームに巻き込まれてゴミのように死んで誰かの養分になるだなんて信じられない……私が一番、吸血姫にふさわしいのよ!」

 聖女から漏れる言葉は……誰よりも生々しかった。
 
「みんなを養分だなんて……!」

「妹に汚れ役をさせて、自分だけ綺麗なつもり……?」

「な……」

「私に何か言う権利があるの? ……貴女みたいな人を偽善者って言うんじゃないのかしら……ほほほ」

 言い返せない。
 いつも優楽に守ってもらっているのは事実。
 そして自分はまだレベル1……。
 
「貴女の妹が今は一番の驚異……でもそれも貴女を喰えば崩れるでしょう。最初はあの妹がソフィアと関係してるのかと思っていたら違ったのは驚いたわ」
 
 縛られた優笑。
 後ろは海。
 逃げ道の前には剣を構えた聖奈。

 絶体絶命だ。
 
「さぁ、二人共大人しく私に召されなさい」
 
 
 
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