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第三章

嵐の中で

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 「……なるほど、確かにチートだね。こんな嵐の中でも寝ようと思えば寝られそうなんだから」

 群島を離れて5日目。
 ……いや、正確には昨日辺りからそんな気配はしていたんだ。

 降っている雨がやけにじっとりとしていて。
 夜が近づくにつれて風が強く吹き、波も高くなってきたから。

 ……高校の実習で、船で沖に出た経験はあっても、こんな嵐の中で海に取り残されるなんて経験は勿論皆無だ。

 「凄い。世紀末って感じ……」

 釣り船DX如き小舟は木っ端の様に波に弄ばれ……ては、いない。

 そして、凄まじく吹き付ける雨風も、気配は大いにあれど、この船の中は快適そのものだった。

 船室内ではもちろん、甲板に出てもそうだ。
 ……流石にこの荒波に釣竿を垂らす勇気はないけど。

 いや、この結界の範囲外にちらとでも出れば、この目の前の光景そのままに、私みたいなちっぽけな人間など海の藻屑と消えるだろう。

 風が唸り、大粒の雨が滝のように降り、ビカビカと稲妻が神の怒りの鉄槌とばかりに続けざまに海面に突き刺さり、果ては竜巻まで発生する、この嵐のド真ん中では……。

 この転覆しない、風と水の精霊の守護のお陰で雨も突風も波も全く感じない、この船の上で、そのチート性能に改めておののいた。

 しかし、体感は無くとも視界も聴覚も健康な私としては、こんな光景の中寝食を楽しめる程肝は据わっていなかった。

 ……幸い揺れないから船酔いはしないけど。

 元々乗り物酔いする様なタチじゃないけど、流石にね。この光景のままに揺れれば流石に私でも気持ち悪くなるよ、これは。

 とにかくこの嵐の範囲外に出たくて、ひたすら船を飛ばす。

 そんな無茶をしたせいだろうか。

 「“経験値が規定量貯まりました”」
 ……ん?

 クルーザー、もしくは漁船の、更にその先の選択肢が現れた。

 新たなる進化先の選択肢は――

 「これは……また……」

 海、船と聞いて一度は思い浮かべる、帆船。
 “商船”とあるが、みるからにカリブの海賊映画に出てきた、大きな帆船、と。

 本来なら重油を燃料に動く、フェリー。
 これは、少し小さめのタイプか。
 レベルアップさせたら、最近話題の新造船みたいな、動くビジネスホテルみたいな船になったりしないかな?
 ……船に乗せる車は無いんだけどね。
 

 そして帆船は……うん、憧れるけどねぇ……。
 どう考えてもコレ一人じゃ操縦出来ないよね?

 よし、フェリーに決めた!

 ステータス画面を操作し、決定する。

 と――目の前が、光一色になり――
 その眩しさに思わず目を閉じた。
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