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第六章

どうしようもない世界で

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 神様が土下座し、その神様を精霊達が説教し、オルカが戸惑う。

 ワタシ、すんごく蚊帳の外。

 「……ねぇ、用がないなら私、もう帰っていい? つか、用もないのにあんな苦労させてまで呼んだの? 何の為に?」

 「ああ! いや、待って。用あるから!」

 慌てて神様が私を引き止める。

 「君も知りたいだろう、色々と」

 「……教えて貰えるんですか?」

 「私が、知る限りの事は」

 「ではまず第一に。何故私はこの世界に転移して来たのです?」

 「ああ、それは――」

 曰く。


 この世界には既に私も知っての通り、人間のみならず多くの種族が存在する世界である、と。

 時代によってはそれぞれの種族が仲良く暮らしていた事も合ったけれど、ここ百年程でびっくりする位種族間の対立が酷くなった、と。

 「特に酷いのは人間族……というか彼らは種族感のみならず、人間族同士の国家間でもいざこざを起こしてるんだけどね……」

 そんな時。複数の国で“神託が下った”らしい。

 「おかしいよねー。私、そんな神託した覚えは全く無いんだよ……。そもそも私の声を正しく聞ける神官や巫女も最近じゃ滅多に居ないのに」

 その神託と言うのが、それぞれ勇者なり聖女なり賢者なり、その他諸々を異世界から召喚せよ、との事だったらしく。

 「本当なら、一人でも異世界から人を招くと言うのは大変な事だよ。色んな根回ししなくちゃいけないし、結構な無理を通すんだからペナルティだってあるし……」

 だから、そんな神託を下すわけがない、と。

 「この世界には、魔王も邪神も異世界からの侵略者も居ないから。自分達の戦争くらい自分達で決着をつけるのが当然だろう?」

 だから、それぞれの召喚術に干渉し、妨害したらしい。

 妨害しなきゃ、私以外に十数人程、それぞれ別の国に召喚されるハズだった、らしい。

 しかし、あまりにも無茶を通そうとした国が多すぎて。
 それを阻止するのに神様も予想以上に力を浪費してしまったらしく。

 「世界の壁が、その一瞬物凄く不安定になってしまったんだ」

 その、ほんの一瞬。脆くなった壁が一部崩れてしまった。

 「勿論急いで修復したよ。だけど……」

 運悪く、私はその穴に吸い込まれ、複数の召喚術に干渉されてこの世界に落ちてしまった。

 「勿論君の世界の神々は激怒していてね。……だけど、一応修復したとはいえ世界の壁が受けた損傷は大きくて。完全回復には程遠くて……」

 今は壊れた家の壁や屋根を仮にブルーシートで覆った様なものに過ぎず、本格的な修理が済むまで不用意に世界を繋ぐ道を開けられない、と。

 「つまり、帰れない……と?」

 「ごめんなさい!」
 神様は、私の前で再び見事な土下座を披露するのだった。
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