上 下
97 / 162
第九章

ニアミス

しおりを挟む
 「……あれ?」

 獣道を四苦八苦しながら前進するが、時間は容赦なく過ぎていく。

 途中でモンスターにも遭遇したが、これも初心者ならいざ知らず、俺にとっては一人で片手間に倒せる程度の敵だ。

 が。

 「これか……。洞窟型のダンジョンみたいだな」

 一番スタンダードな奴だ。

 改めてコンパスを確認すると……

 「あれ?」

 明らかに目の前の洞窟とは明後日の場所を指し示すコンパスの針。

 あたりはすでに薄暗く、流石にこれから土地勘のない森の中を歩く気にはなれず。

 「……対象も寝床に帰ったか。これは今夜は無理に探さずここで夜明かしして、対象が来るのを待つほうが良さそうだな」

 そう判断して、俺は早速野営の支度を始めた。

 火を熾し、買ったばかりの携帯食の干し肉を軽く炙って齧る。
 美味いモンじゃないが、安いんだよ。

 あんまり何日もこんな食事なのはゴメンだし。

 「明日、来てくれるとありがたいんだが。長丁場にならない事を祈るしかないか」



 そう、彼が到着する数十分前の事。

 「いやー、初めての銅の宝箱! 私達には無用の武器だったけど、結構いい値段で売れそうだったよね!」

 「宝箱もそうだが、それよりドロップ装備のが貴重品だったぞ? ……金属鎧じゃ売るしかないのは同じだが」

 ほくほくで出てきた晴海達は。


 「うん、働いた後のご飯は美味い! はー、新鮮なお刺身にご飯が合う~♪」

 「……不味いとは言わないが、やはり生の魚を食うのは不安なんだが」

 「じゃ、こっち試してみる? ちょっと炙ったやつと、酢〆にしたの」

 「う、酢〆……嫌に酸っぱくないか?」

 「そりゃ、酢ってそう言う調味料だからね。昆布でも入れればもう少し旨みの甘みで酸味も緩和されるかもだけど……」

 「こっちの炙りは美味いな。魚ってこんな甘いものだったのか……?」

 夕飯の刺し身について絶賛議論中であった。



 ――因みに。

 「え、嘘! 何でまた示す先が今来た方向指してる訳~?」

 倒した杖が示した先に涙目で視線を向ける少女が一人。


 そして、ひよこを手にした男は。

 「私はっ、不審者ではないと言っているでしょうッ! 失礼なっ!」

 ダンジョン島近くの街で、警備兵に職質を受けていた。

 「しかし……ねぇ?」

 怜悧な美貌の男が可愛らしい黄色いヒヨコをピヨピヨ言わせながら歩いていれば……そのギャップからくる不審感は、周囲の人が警備兵を呼びたくなる位にはあった、と。

 「はぁ、まあ他に妙な物も持ってなさそうだし今回は注意だけで済ませるけど、あんまり人を混乱させないでくれよ」

 「……クッ、私のせいではないのに!」
しおりを挟む

処理中です...