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第十三章

一方その頃……

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 「……あの変態、まさかこの国の兵士に命令出来る立場だったとは」

 街のど真ん中で、あまりに多勢に無勢だった。
 やすやすと彼女を奪われてしまった。

 その気になれば――全力で取り戻そうと思えば出来た。
 ……が、そうすると今後この国では活動し辛くなる。

 それを避けようと思えば無理も出来ず。

 「……お前たちは宿に戻って待て。俺はあいつを追って連れ戻して来る」

 アルトは早速馬車の後を追ったのだが。

 これが中々に難航したのだ。

 軍事国家だけあって、兵士の練度は悪くない。……それ故下手な尾行はすぐにバレる。

 それも相手は馬車だ。いくら吸血鬼の足が速くても、ずっと馬車について走れる程ではないし、馬で追うにも近づきすぎればすぐバレる。

 仕方なく馬車には術の目印をつけて、それをかなりの後方から追っていた。

 そしてその馬車は王城の中へと吸い込まれて行った。

 流石に先日の小国の城と違ってここは軍事国家の本丸の要塞にもなる城だけあって堅固である。
 アルトも前準備なしにいきなり足を踏み入れればあっという間にお縄になる。

 一度城下町に宿を取り、情報収集に動く。

 幸いここは魔物の多い国。主義主張は異なるものの、吸血鬼族もこの国には居る。
 おかげで種族で目立つことはない。

 そもそも街に到着したのが馬車に遅れること一日。
 情報収集に一日。

 さあ、いざ忍びこもうとした、その日の事。

 突如城が騒がしくなった。

 何事かと思えば何故か皆上を指差し呆けた顔で空を見上げている。

 その視線を追ってみれば……

 「あ、アイツ何やって……!」

 見覚えのある男の首根っこ引っ掴み、空を飛んでいる。

 向かう先は……まぁ、あの方向は港だな。

 さっさと戻って捕まえてしっかり事情を聞かなければ。

 俺は馬を借り、早速跨り全力で駆けさせる。

 街を出るまでは気づかず呑気に飛んでいたが、流石に人の居ない道を一人馬を駆る様になれば、彼女も気づいたらしい。

 手を振りながら降りてくる。

 俺も馬を止め、彼女を睨んだ。

 「それで、言い訳は?」

 「へ? あ、うっかり攫われちゃったこと?
 ……けどあれは仕方ないと思うんだよ、相手はプロ、それも公的組織の方々でしょ?
 下手に抵抗したほうが余計に怪我するじゃん。
 あ、勿論転んでタダで起きるのも損だし、ちゃんと情報は仕入れてきたよ。あと人質。
 この人“賢者”って呼ばれてた王様とも謁見できる、どこぞの部署の長だって自分で言ってたし、王様も確かに賢者って呼んでたから嘘じゃないと思う。
 情報は……今話した方が良い? 私的にはこの人が目を覚ます前に船に戻りたいんだけど」

 「……」

 俺は黙り込む他なかった。
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