小料理屋「和膳」へようこそ!

彩世幻夜

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ワンオペママ

北口商店街

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    〝次は商店街入口、商店街入口です。お降りの方は――〟
    アナウンスを聞き流し、ブザーに手を伸ばす。
    〝次、止まります〟
    自動アナウンスの声と同時にブレーキが踏まれ、手すりに捕まる手に力が入る。
    「商店街入口です」
    運転席のICカードリーダーにSuicaをかざし、バスを降りる。
    次が終点のこのバス停で新たに乗り込む客は居ない。
    バス停手前の交差点の横断歩道を渡り、一本向こうの商店街を目指す。
    通勤客は一旦落ち着き、通学中の学生の姿を多く見かける。
    まだ9時近いこの時間からシャッターを開けている店は少ない。
    ただ、クリスマスも近いこの時期はそれでも装飾が賑やかで、忙しないくせにどこか浮かれた雰囲気がある。
    「おう、旭さんお早う!」
    「お早うございます、大将」
    表に居た店主に声をかけ、半開きのシャッターをくぐり、奥のスペースでさっさと着替えを済ませる。
    厨房のフライヤーに点火。そのまま放置し、調理台にまな板をセットする。
    ……そこからはひたすらキャベツに玉ねぎ白菜と野菜のみじん切りを量産する。
    キャベツは一箱八玉入を二箱。
    玉ねぎは赤いネット一つにだいたい一ダースを三つか四つ。
    ――勿論ゴーグルは必須アイテムだ。
    更に白菜一箱四玉を三箱。
    他にもニラやら何やら、とにかく沢山。
    山になった微塵の野菜を挽き肉と合わせる。
    大きめのボウルをいくつも用意して、コロッケ用、メンチカツ用、餃子用、春巻き用とそれぞれ配分の違う種を作る。
    作業中に温まった油で次々に揚げていく。
    表では加工の済んだ精肉をショーケースに並べ、着々と開店準備が進んでいく。
    「コロッケ揚がります!」
    「あいよ!」
    やがて、商店街中に10時を知らせるメロディが流れ出す。
    一部の飲食店を除き北口商店街の開店時間だ。
    「あーい、いらっしゃいいらっしゃいいらっしゃい!」
    待ってましたとばかりに威勢のいい声が響き渡る。
    「今日はブリがお買い得だよー、切り身が198円、刺身用の柵は280円だよー!」
    「今日は白菜赤字覚悟の出血大サービスだよ!    今日の夕飯に鍋!    ネギも安いよー!」
    今時珍しい、個人の八百屋や魚屋の親爺が声を張り上げる。
    「鶏肉、七面鳥の予約はお早めに!    生肉も、調理済みもお客様のご都合に合わせて承りますよ!」
    負けじと店主も声を張る。
    「おじさん、鳥手羽10本とベーコンちょうだい」
    「合挽き300頼む!」
    「メンチはあとどれくらいで揚がる?」
    すぐに近所の常連客が集まり始める。
    あっという間に忙しさを増すが、こんなのはまだまだ序の口。お昼前と夕方のピークは最早戦場に等しい。
    昼過ぎになってやっと店主の奥さんが店に下りてくる。
    「そこ代わるから休暇行ってきな!」
    店に休暇出来るようなスペースなんか無いから、追い出されるようにして外へ出て。
    「あ、おねーさんもどうぞ!」
    ティッシュ配りの女の子に広告入りのそれを手渡された。
    「小料理屋『和膳』……?」    
    
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