小料理屋「和膳」へようこそ!

彩世幻夜

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老いの尊と害

一人呑み

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    人事に退職する事を告げ、彼は会社を後にした。
    退職はすんなり認められ、あと何度か手続きのために出向けば、それで終わり。
    ――酒でも飲みたい。
    が、家に帰ってもつまみもなしに一人家呑みビールは侘しすぎる。
    「男の顔なぞ見ながら呑みたくもないが……」
    うるさいチェーンの飲み屋に行くのも億劫で。
    ただ、暖かい料理が食べたい一心で店の暖簾を潜り、引き戸を開けた。
    「いらっしゃいませー」
    店には小娘が一人。
    男の姿がない。
    「和人君、拓海君、お客さんだよー!」
    「たく……み?」
    いや、よくあるありふれた名だ。
    「おや、こないだの。いらっしゃい」
    名を呼ばれた料理人が出てきた。
    「……とりあえず、ビールを。あと何かつまみを適当にくれ」
    「ビールに合わせるなら……今日は肉屋のお姉さんお勧めのブランド鶏の鶏皮ポン酢はどうです?    ホタテとブロッコリーのバター醤油炒めとおでん盛り合わせもお勧めですよ」
    「……鶏皮ナントカとおでんをくれ」
    「かしこまりました。少々お待ち下さい」
    大きな鍋の中身を掬い小さな鍋に移して火にかけ、冷蔵庫から小鉢を出す。
    「ねぇ、拓海君は?」
    「奥で飯食ってるから、お前も行って来い」
    「あーい」
    「……お待たせしました。ビールと鶏皮ポン酢です」
    グラスに注がれたビールをぐいっと一気に飲み干し、小鉢に盛られたそれを摘まむ。
    生姜と舞茸の香りとポン酢の酸味。舞茸が鶏皮の旨味と余計な脂を吸い、鶏皮のもきゅもきゅした歯ごたえを純粋に楽しめる。
    いつだったか出張先で食べた酢モツに似ているようだが、臭みがない分素直に美味いと感じる。
    「おでんの盛り合わせです」
    ほかほか湯気の立つ皿に盛られているのは。
     大根、卵、こんにゃく、結び白滝、竹輪、はんぺん、厚揚げとがんもどき。
    定番中の定番のネタだ。
    まず大根に箸を入れて割り、口に運ぶ。薄味のようで出汁がしっかり仕事をしている。
    最近濃い味の外食中食が続いて疲れた胃に染みた。
    卵も黄身まで出汁が染みているのに、もくもくしすぎず食べ易い。
    「これは、美味いな……。大根だけおかわりは出来るか?」
    「出来ますよ」
    「二つくれるか」
    だしの染みた白滝やこんにゃく、練り物も美味いが、胃は大根だけを要求していた。
    「お疲れのご様子で。……胃がキツいならいか納豆はいかがです?    梅と紫蘇の葉でさっぱりいけますよ」
    「……貰おう」
    いけすかない男だが、料理の腕だけは認めよう。
    白飯と共に出されたそれもやっぱり美味いのだから。
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