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彩世幻夜

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老いの尊と害

砂の楼閣の如く

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    暗い。
    これまでいつも煌々と暖かな明かりが灯されていた家が、今は門灯一つ点されていない。
   ピンポン一つで開いたはずの玄関を、わざわざ鍵束の中から苦労して玄関の鍵を探しだし自ら解錠し、靴を脱いで電灯のスイッチを入れる。
    ようやく明るくなったリビングで服を脱ぎ散らかすが――着替えは何時まで経っても出て来ない。
    下着だけでは寒過ぎるこの季節、風呂に入りたくとも勿論沸いていない以前に掃除もされていない。
    寝室のクローゼットを引っ掻き回して何とか着替えるも、何時まで待っても食事の支度は整わない。
    これまで家事などしたことの無い男は広いばかりの部屋で辛うじて湯を沸かし、戸棚に残っていたカップラーメンを啜った。
    今日の昼食が思いの外美味かったせいで、余計に侘しい。
    それでも仕事さえ順調なら、家政婦でも雇えば済んだ話も、仕事を失えばそれも出来なくなる。
    転職するにも難しい歳で、この先どうしろと言うのか。
     ――しかし運命は彼に更なる追い討ちをかけた。
    翌朝早く、まだ日も出ない時間に電話がなった。
    電話番号は母が世話になっている施設のそれ。告げられたのは、母の訃報だった。
    まず先に会社に忌引き休暇の連絡をし、息子に連絡。妻には弁護士に頼んで知らせて貰う。
    ……かつて実父と妻の義両親それぞれの葬儀の際は喪主として最低限の仕事の他は全て妻に丸投げだったせいで何から手をつければいいのかさっぱりだ。
    ……これまで仕事さえしていれば大威張り出来たはずが。
    どうしようもない無力感に打ちのめされる。
    どうして自分ばかりがこんな目に合わなくてはならないのか。
    「……そりゃ人の話もろくに聞けない、自分ばっか正しいって根拠もなく信じきって周りを見下す野郎に将来も手助けもあるワケないだろ」
    妻からは手伝いを拒否され。
    息子からは今後一切関わりを持つなと正式な書類へのサインと引き替えになら手伝ってやると返され。
    私は施設と雇った葬儀屋の言うがままに従い簡易な葬儀をあげ、独りで母を見送り墓に入れた。
    まだまだ後処理が大量にあるのだが、一週間等あっという間に過ぎ忙しい中出社。
   「おや、この忙しい時期に一週間もお休みですか。せめて事前連絡が欲しかったです」
    ……庶務の言葉にカッとすれば嘲笑され。
   「あらやだ、いつも貴方が仰られていた台詞ですよね?」
    いつしか離婚寸前な事まで広まっていて。
    ……ひそひそされ続ける職場に耐えきれず、結局早期退職を余儀なくされた。
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