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第三章

降って湧いた縁談

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    ノアが突然居なくなって、約一ヶ月が経とうとしていた。

    秋の終わりの収穫祭から一月も経てば季節はすっかり冬に入り、魚の美味しい――けれど寒さの厳しい毎日が例年通りに過ぎていた。
    そんなある日の事。

    私はまた、家令の執務室に呼ばれていた。

    「お嬢様に、王家より縁談の話が来ています」
    「……相手は?    ノア?」
    「――いいえ。アゼル様との縁談です」

    貴族の結婚なんて、大半が政略結婚で、顔も知らぬ相手――下手すれば親どころか祖父程に歳の違う男に嫁がねばならないことだってままある。
    そして、辺境伯と言えど王家からの縁談をこちらから蹴れる訳がない。

    ……あれ。おかしいな。私、本当に乙女ゲームのヒロインなの?
    攻略する前から攻略対象者の一人と婚約とか……。これで他の対象者に粉かけたらただのビッチぢゃん!?
    勿論ヒロインする気はないし、ましてや電波系困ったヒロインなんて真っ平ごめんだ。

   「……私、何も喋ってないわよ?」
   「ええ。……ですが王家としては保険をかけておきたいのでしょう。アゼル王子も上に兄王子のいらっしゃる身であらせられますから、いつかは自ら公爵家を立ち上げるかいずれかのお家に婿入りせねばなりませんから」
    「……王太子でない王族の嫁にいくなら辺境伯の爵位で問題ないでしょうけど、婿入りするには……。ウチは回りは海で、陸続きの国境を持つ他の辺境伯家と違って戦の可能性もない。お姫様の降嫁ならまだしも……」

    「お嬢様は精霊姫。もしも男爵や子爵家程度の家格だろうとも、どこぞの上級貴族と養子縁組させてでも欲しい人材です」
    しかも辺境伯家の一人娘。
    流石に王太子やスペアの第二王子はやれないが、第三以下の王子であれば十分美味しい話、なんだそうで。

    「……王家との縁談の話でも、お父様達は帰っていらっしゃらないのね」
    「王家との縁談です。いずれお嬢様は王都の学園へ通う必要がございます。その際にご挨拶する機会もあるでしょう」

    あ!    しまった!     ……王都の学園、か。行きたくなかったのに。
    やっぱりヒロインなしじゃゲームが始まらないから?    これがいわゆる強制力ってやつ?

   「王都でも問題なく過ごせるよう、お勉強を頑張りましょうね?」
    ……にっこり微笑む家令の黒い笑み。

   「アクアじゃないけど淑女教育なんてイヤー!    領主教育ならいくらでもやるけど!」
   「勿論領主教育も同時進行でいきますよ。……王子殿下もそういった教育は受けられるはずですが、当家は特殊ですから、その分お嬢様に頑張っていただかないと」

    ……うへぁ。
    ――声に出しては言えないけど。
   (王家なんて嫌いだ)
   「お嬢様?」
   「な、何でもないっ!」
    恐るべし、我が家の家令。……この男の前では油断しないようにしよう。
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