唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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スキル「クリエイト」を獲得しました。

将来のための選択をします。

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    パーティーも終わり、疲れきっていた私がドレスを着替えるために連れてこられた部屋は、生まれてすぐから今朝まで使っていた部屋とは全く違う部屋だった。

    「お嬢様、今日からはこちらのお部屋をお使い下さい。お荷物は既に運び込んでございますので」

    これまでは廊下から扉を入ったその一室だけで、寝るも遊ぶも全部その部屋の中で完結していた。
    でもこの部屋は風呂やトイレとはまた別に続き部屋がある。
    廊下から入ってすぐの部屋はリビングになっているらしく、寛ぐためのソファーと、お茶を楽しむためのテーブルと椅子がある。そこから繋がる勉強机が置かれた部屋と寝室。サニタリーも風呂とトイレの他にパウダールーム付の洗面まで完備されている。

    ……この世界の貴族のお嬢様がどんな暮らしをしてるのかなんて本当のところは分からないけど。
    前世ではマンション暮らしのド庶民だった私には贅沢すぎる部屋だ。

    ビックリしすぎて、その後の着替え中も風呂の世話をされている時もされるがまま。
   そのままベッドに放り込まれれば、ハードスケジュールに疲れきっていた幼い体はあっという間に眠りに誘われる。
    結局そのまま、翌朝いつもの習慣でいつもの時間に目を覚ますまで熟睡してしまった。
    おかげで朝っぱらから「知らない白い天井が……」と一人呟いてしまったじゃないか!

    ……いや、いいや。今日は昨日は試し損ねた魔法を試すんだから、身仕度くらいさっさと済ませよう。
    着替えてリビングに出ると、タイミング良くノックの音が響く。

    「お嬢様、お食事の支度が整いました」

    私はリビングをそのまま素通りし、食堂へ向かう。
    「おはようございます」
     既に着席していた両親に挨拶し、自分も席に着く。
    「いただきます」
     今朝のメニューはどうやら昨日のパーティー料理の余りをリメイクしているらしく、朝食にしては豪勢だけど少し重めな献立だ。
    まあ、三歳児の健康な胃袋にはなんて事ないけど。
    朝からお肉があるのはむしろ嬉しい。
    でも、先に食べ終えたお父様は少し苦しそうだし、お母様はいつもより食べるペースが落ちていた。

    朝食が済んで食卓の上が片付くと、お父様が食後のお茶を一口飲み。

    「アンリ、昨日のパーティーはどうだったかな?」
    「はい、たくさんのお客様とお話出来て楽しかったです。でも、ちょっと疲れましたし、夜には違うお部屋で寝ることになってビックリしました」

    「そうか。うん、アンリは昨日三歳になった。鑑定式も済ませ、〝神眼石〟を得た以上は、もう赤ん坊ではない。勿論まだ大人ではないから、親である私たちにはアンリの養育義務がある。でもねアンリ、ただ親鳥から餌を貰うだけの雛鳥のままで居ることは許されない。今日からは将来巣立つ時に備えて学ばなければいけない。部屋を替えたのもその為だ」
    「アンリの為に先生をお呼びする準備は整っているわ。後はアンリが何を学びたいか選んだら、時間割りを組んで一日のスケジュールを決めるわ。さあ、どうする?」

     学びたい事……。以前から書庫の本である程度は学んでいるんだけど。
     「お父様、お母様。学ぶ事が必要なのは分かりました。でも、それを選ぶ前に少しだけ時間を下さいませんか?    お父様とお母様にお願いしたい事があるのです」

    「なんだい、アンリ?    私はアンリが大好きだけど、だからといって甘やかすつもりはないよ。勉強をサボるならご飯やおやつは抜きにするよ」
    「いいえお父様、サボるつもりはありません。ただ、昨日ご挨拶させていただいたお祖父様と、ユリス様のお父様にお願いしていただきたいのです。お祖父様に、職人の工房を見せていただきたいのと、ユリス様のお父様に旅のお話をお聞きしたいのです。――私が将来の為に何を学ぶべきなのかを知るために」
    「ほう?」

    「お祖父様が言っていました。どんな仕事があるのか知らないと仕事にならない、と。私も何を学ぶべきなのかを知らなければ選べません」
    学びたい事を好きに選べる贅沢。このチャンスは最大限に生かしたいから。
    「昨日の鑑定式で得たのが魔法のスキルだったら、私は迷わず魔法を学びたいと言いました。でも、実際は何に向いているのか分かり難いスキルで、だったら何がしたいか自分でちゃんと決めたいのです」

    スキル「クリエイト」生産系チートスキルとは分かったけど。
    そうして得たスキルも、ただバカみたいに持っているだけでは宝の持ち腐れになりかねない。
    新たなスキルの獲得を狙うにしろ、今あるスキルを更に磨くにしろ、あれもこれもと欲張って中途半端に投げ出した結果がただの器用貧乏じゃ、私の目標には届かない。
    「だから今は、最低限の教養とマナーの先生にだけお願いして、その他の先生を決めるのを少しだけ……お祖父様達のお話を聞くまで待って欲しいのです」

    私はまだ、この世界を本の中の文字情報でしか知らない。
    百聞は一見にしかず、と言う。

    「そうか、ちゃんと考えがあるなら良い。お祖父様にはすぐお願いしてみよう。……ただ、ユリスの御大が話が長いのはかなり有名な話でね、うーんどうしようか。ああ、来週、商業ギルドの会合の前に彼との商談がある。その時で良いかい?」
    「はい、ありがとうございますお父様」
    「では先に教養とマナーの先生にお願いしましょう。明後日には来ていただけるはずよ」

    「では、今日と明日は何をすれば良いですか?」
    「アンリ、今日は土曜日で明日は日曜日だ。休日なんだから好きに過ごしなさい。勉強しなければご飯抜きとは言ったけど、それは勉強の時間にサボったらの話だよ。休みの日にまで勉強しろとは言わないよ」
    「うちの使用人にだって、ちゃんとローテーションで週に二日の休日は与えているし、お仕事の日だって休憩時間はあるわ。勿論アンリにもね。お休み時間なら気分転換にお茶を飲んだり庭を散歩したりは好きにすると良いわ」

    「では、昨日は忙しかったので、今日はお部屋でゆっくり過ごしたいと思います」
    「そうか。ああ、新しい部屋で何か必要と思うものがあれば言いなさい」
    「はい、お父様」
    明後日からは少しずつ忙しくなりそうだし。
    とにかく魔法を試したい。

   私は部屋に戻ると、すぐに勉強部屋にこもった。
    魔法で一番定番で分かりやすいのは「ファイヤーボール」等の火魔法なのだけど、こんな室内で加減も分からないままぶっぱなして小火騒ぎなんて洒落にならないし。
    無害そうな魔法……

    ふと、部屋の外の景色に目を留めた私は部屋の窓を開け放った。
    窓の外にそびえ立つ大木。
    その生い茂る葉の一枚に狙いを定め――
    「水鉄砲で葉を射抜け」
     と唱えれば、シュッと宙空から突然出現した鋭い水流が狙った葉に向かい、葉を射落とした。

    「フフフフフ」
    できた。
    思わずにやける。

    「後は……スキルに光と闇の属性が無いんだけど、試してできたらスキルゲットできるかな?」
     スキルという保証の無い状態での試しだ。より慎重に唱える呪文を選ぶ。
    「この部屋を暗闇で満たせ」
     途端、開け放った窓から入り込んでいたはずの日差しもどこへやら、部屋は全くの暗闇に閉ざされた。
    一寸先も見えない、真の闇。
    慌てて「闇よ去れ、部屋に明かりを!」と叫べば、元の明るさが戻っていた。

    ステータスノートのスキル一覧を見ると、「クリエイト」の下に「初級魔術(光属性)    Lv.1」「初級魔術(闇属性)    Lv.1」が新たに書き加えられていた。

    「ふふ、ふふふふふ」
    思わず笑いが漏れる。
    「決めたわ。魔法の先生には絶対来て貰いしょう」
    将来がどうなるにしろ、せっかく魔法のある世界に生まれたのだからこれは極めておきたい。

    アンリは「部屋でゆっくりする」と言った事をすっかり忘れて両親の元へ駆けつけたのだった。
 
   
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