唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

文字の大きさ
19 / 370
私の従者が可愛すぎる。

お迎えは盛大に!

しおりを挟む
    教会前の綺麗な広場も、一本裏通りに入れば雑多で言葉は悪いけど薄汚れた感じの町並みが続いていて。
    スラム街とまでは言わないけど、比較的貧しい者達の住まいが集まる街区らしい。

    そんな中を、私は馬丁のライルに頼んで馬車を走らせる。
    馬車には、お父様に売った商品の代金の代わりに用意して貰った駄菓子を沢山詰めた袋を積んでいる。
    また作品作りで余ったハギレで作ったハンカチやぬいぐるみ等の小物も。

    ……物で釣る様でちょっと思うところはあるけどね。
    手っ取り早く子供の好感度をあげるには有効な手段でしょ?
    あんまりのんびりもしていられないしね!

    そもそも「よくあること」という都合の良い言い訳を使い、レイフレッドを虐げた者達だ。
    それでもまだ善悪の判断のつかない子供達は百歩譲って許し、プレゼントで好感度を上げ、去り際にイメージ向上を狙おうと考えたワケ。

    でもね、その子供達を教え導くべき大人こそが率先して彼を虐げた話を耳にしたから勿論彼らへのお土産なんか持って来なかったし。
    いや、実を言うと持って来ようとはしたんだよね。
    超高級品で「医者要らず」との俗名が付くほど健康に良いと言われるお茶の葉を。――ただし、超絶激マズで一瞬あの世が見えるとかで「地獄茶」とも呼称されてるんだけど。
    熟練の茶師が秘された特殊な淹れ方をした場合のみ、天国が見える美味になるとかで王候貴族がせっせと買うから高級品扱いされるんだ。
    ……高級品過ぎて、流石のカーライル商会でも昨日の今日で手に入れられる代物じゃないから断念したけどね。

    「お嬢様、見えましたぞ。おそらくあの建物ですな」
    「ええ、慈善院と書かれているのが見えるから間違い無いわ」
    こんな裏通りに小なりとは言え荷馬車以外の馬車が入って来るなんて滅多にないからだろう、わらわらと子供が湧いて出て来る。
    「子供を轢いてしまったら大事になるわね。いいわ、ここでもう降りてしまうから車を止めてちょうだい」
    ライルに言って馬車を止め、ひょいと車から飛び降りた。

    「何、誰?」「女の子……?」「お前、貴族か?」「バッ、なんて口きいてんだよ、ホントにお貴族様だったらお前殺されるぞ!」「お姫様きれー」

    口々に騒ぎ立てる子供達の大半は私より(実年齢的には)年上で、私はあっという間に囲まれ埋もれた。
    「お、お嬢様!?」
    ライルがその様に慌てているけど、まあ子供というのは手加減を知らないから、わちゃくちゃともみくちゃにされては堪らない。

    「静まりなさい!」
    慌てず騒がず、私は大きな声で彼らを一喝する。

    「私はアンリ=カーライル。今日はレイフレッドを迎えにここまで来たのよ。さあ、レイフレッドはどこかしら?    皆様案内していただける?」
    ……遺憾なことに悪役令嬢の必須アイテムたる扇が無いのだけど。
    大見得切って子供達を退かせる。

    表の騒がしさに気付いたか、一人の男が出て来た。
    「お前達、どうしたね?    ……失礼だがあなたは?」
    パッと見好好爺に見える穏やかな初老の男。
    「私はアンリ=カーライル。こっちはウチの使用人のライルよ。貴方がここの責任者で間違いないかしら?」
    がめつそうでもなければ子供を虐待するような人間にも見えない。

    が。

    「ええ、私がここの管理運営をしておりますクルスですが……」
    「そう、なら子供達に言った私の用件を改めて申し上げましょう。私はこのクルス慈善院に暮らすレイフレッド少年に用があって来たのよ」

    レイフレッドの名を聞いたとたんに顔色が変わった。

    「……も、申し訳ありません!」
    用が何かを言うより早く、彼はペコペコと頭を下げ始める。
    「それは、何に対する謝罪かしら?」
    「えー、だって姉ちゃんはレイフレッドを迎えに来たんだろー?    アイツが何かやらかしたからドレーにされるんじゃねーの?」
    「けどさー、アイツなら今居ないよー、アイツいっつも昼間どっか行っちゃうからさー」

    「…………」
    思わず頭を抱える。
    「私は別に苦情を入れに来たのでも彼を咎めに来たのでもないわ。彼を私の家で雇い入れる為に話を付ける事と彼の身柄を預かる事が目的なのだから」

    彼らの誤解を解こうと目的を言えば、皆ぽかんとしてしまって宇宙語でも聞いた様な顔をする。
    「あ、あの……先程カーライルと聞いた気がするのですが……。まさかあのカーライル商会の……?」
    「ええ、そうよ」

    「……お前達、アレを探して連れて来い」
    子供達はよく分からないままにも彼の指示に従いばらけて駆け出していく。
    「通りで立ち話もなんですから、どうぞ中へ――汚い所ですが」

    謙遜はするけれど。
    確かに建物自体は古く、ガタの来ている箇所も目立つ。けれど掃除は行き届いていて、職人ギルドの有り様を見た後では十分に清潔が保たれている様に見える。
    家具や小物も外見こそ粗末なものだけど、使うに困る様な物は一つも見当たらない。

    どう見ても物語に良くある「悪徳孤児院」ではない。むしろ少ない予算で精一杯の努力を子供達の為にしている良心的な院に見える。
    ……そんな場所でさえ差別と虐めが平然と行われる。
    種族差別の闇の深さを重い知らされた気がして、ため息を吐きたいのを堪えながらクルス院長について歩く。

    案内されたのは職員室の隅に囲われた応接スペース。
    折り畳みの椅子と長机を並べて置いてあるだけの場所。
    上座に私が座り、その後ろにライルが立つ。
    その対面に院長が座る。

    「では改めてご用件を確認させていただいてもよろしいか?」
    「ええ。まず、レイフレッドがここで暮らして居るのは間違いありませんね?」
    「……はい。ですがご存じではないのですか、彼がその――」
    「彼が吸血鬼という事なら勿論知っているわ。お父様にも話は通してあるしね」
    「それで彼を雇いたい、と?」
    「ええ、彼の意思を確認してからになるけれど、こちらとしてはカーライル家の使用人として雇う用意が整っているわ」
    「……奴隷ではなく、使用人として、ですか?」

    乙女ゲームの設定には表記の無かったはずの奴隷制度が、この世界にはある。
    「犯罪奴隷」と「労働奴隷」。

    前者は文字通り犯罪を起こした者が罰として労役刑となったときに落とされる身分で、所有するのは国や国の主だった高官――この国で言えば王や貴族がそれに当たる――者達が例えば鉱山など過酷で不人気な職に就かせるのに使われ、罪を償い切るまで元の身分に戻ることは許されない。

    後者は、一般職に就けなかった者や借金を返し切れなくなった者が、所有者に一定の衣食住を保証される代わりに無給で働かされる。
    借金が元の奴隷なら借金分を働けば解放されるけど、「職に就けなかった」者はその理由が解消されなければ一生奴隷のままだ。

    レイフレッドが懸念していた「奴隷落ち」の理由は彼が孤児で身元がはっきりしない事以上に吸血鬼だからという、自分の努力ではどうにもならないものだったから。
    その不利を覆すほどの何かがなければ、一生奴隷生活の未来が待つとか……必死になる訳だよね。

    あ、勿論ウチの使用人は皆ちゃんとお給金払って雇ってるから。
    レイフレッドもその扱いが適用される。

    「いんちょー、レイ連れて来たよー」
    「屋台広場に居たよー」
    院長が困惑の表情をしかけた時、子供達の足音が聞こえ、わいわい騒ぐ声の中から院長を呼ぶ一際高い声が部屋に入ってきた。

    「おお、ありがとう。私は今少し難しい話をしているのでね。レイだけ置いて皆はあちらで遊んでおいで」
    「はーい」
    子供達は素直に院長に従う。
    が、唯一の例外は半眼になった。

    「……アンタ、マジで来たのか」
しおりを挟む
感想 79

あなたにおすすめの小説

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~

翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

処理中です...