唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜

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職人街で弟子入りします。

嵐到来の知らせ

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    鉱山の仕事と言えば危険でキツくて汚いの三拍子が揃う不人気職で、犯罪奴隷がまず送られる先と言われる。

    けれど、ルクスドから馬車で三十分の距離にあるこの鉱山は別だ。
    まるで連邦の様に連なる山からは金、銀、銅、鉄に加えてミスリル等の希少金属も採れる。
    他にはないトロッコ列車も敷かれていて、入山料を払ってでも掘りたい者が勝手に集まってくる。
 
    そもそもルクスドが城塞都市として作られた理由がこの鉱山帯。
    ここもルクスドに比べれば劣るものの堀と頑丈な壁に守られた宿場町がある。

    ……前回の失敗を受けて、敢えてグレードを落としたつるはしを持って坑道に入る。
    入り口近くは流石にもう掘り尽くされているから、どんどん奥の方へトロッコに乗って進んでいく。

    きちんと通風用の縦穴が通されているからこんな奥間出来ても息苦しくはならない。
    が、私は大量に流入してくる情報を処理しきれず頭痛がしていた。
    まさか看破スキルが岩肌の奥に隠れた原石の在処まで見抜けるとは……ありがたいけど今は嬉しくない。

    これには敵わず、私は散々迷って放置していた解析スキルを取得し「賢者」を会得した。
     視界のマーキングはそのままに、頭痛がすうーっと消えていく。

    マーキングが示す通りに掘れば石が出てくる。
     ……楽しい。
     当然体力的には全然楽じゃないけどね。

    るんるんしながら帰ると、レイフレッドが既に食事の支度を終えていた。
    食卓に並ぶのは美味しそうなチキングラタン。
    ……けれど、その顔色が優れない。
   「どうしたの、具合悪い?    風邪?」
   「いいえお嬢様、身体は健康で問題ありません。――問題なのはこの便りの内容です」
    スッと差し出したのはカーライル家の便箋だ。
    一月に一度、互いに出し合っている近況報告書。

     この街に着いた当初は予想通りに「レイフレッドを追い出せ」「私から遠ざけろ」と騒ぎ、お父様は既にレイフレッドは屋敷から離れたと報告しやり過ごした。
    次には私への謝罪要求と早期の身柄引き渡しを求めてきたらしい。
    曰く、貴族に恥をかかせる者は死罪になるから、それが嫌なら早急に貴族の礼儀を叩き込むのだと。
     ……つまりは私を人質として確保しお父様から金を搾り取るつもりなんだろう。
    お父様は、いくら平民の娘とはいえそんな幼少時から囲う方が貴族の間で噂になるとのらりくらりとかわしていた。

    と、前回までの報告書には記されていた。

    私は新しい報告書に目を通す。
    「馬鹿の癖に、嫌な事ばかり思い付く……」
    奴等は私の身柄を要求する傍らで、人にレイフレッドの行方を探させていた。
    ――彼を始末するために。

    私達が国境を越えたまではすぐに調べがつく。
    そして子爵様御本人が動けば大事になる事も人を使えば、特に隠蔽工作等していなかった私達の足取りを追う事は難しくない。

    つまり、ここに居ることが知れたと。
    他国の辺境伯領に子爵様が直接干渉はできないけど、秘密裏に兵を忍ばせるくらいは出来る。

    「まだ一年経ってないのに、もうこの街を離れなきゃならないなんて……」
    けど、お父様もこの先の当てを探している最中のようで。

    これは確かに大変と私も気分が落ち込んだ所で、玄関をノックする音がした。
    レイフレッドがでると、そこに居たのはシリカさんだった。

    「よう、しばらく里帰りするんで挨拶に来たんだけど、良かったら一緒に来ないか?」
    「里帰り……というと……」
    「無論我らが吸血鬼一族が住む魔属の国に帰るのさ」
    往復と滞在期間合わせて二ヶ月強。
    「結論を出す前に見ておきたいだろう?」
    渡りに舟。
   「出発はいつですか?    必要な支度は?」
    「出発は一週間後。同行者は私と私のパートナーだ。支度は普通の旅支度と、あとレイフレッド、冒険者ギルドで馬車を借りておけ。私とパートナーの馬車はあるから、お嬢ちゃんと二人で乗れる馬車をな」
   ……断る理由もない。
   「分かりました。よろしくお願いします」
   
   ――どうやら念願の揺れない馬車を作るべき時が来たようだ。
 
    私はギルドで派遣の仕事を一時休止手続きをし、材料調達に走り。
   空間に籠った。

   まずは丈夫で錆びない、でも柔軟性にも富んだ金属を錬成、整形、組み立てて、肝心の車の足回りシャーシを造る。

    まずは車輪。
    自転車のホイールを原型にした車輪には弾力性に富んだ皮のチューブを仕込み、空気をいれて膨らませ、その上から丈夫で厚い皮を被せてゴムタイヤの代わりにする。
    更に車輪と車軸の接合部にベアリングと板バネを仕込めば、車輪ごとにある程度の衝撃を緩和させられる。

    次に横揺れに対応する仕組みを組み立てる。
    まずは土台となる特に丈夫な板を用意する。
    車軸の長さより少し短い横に長く縦に細い板の左右中央の両端に緩くカーブを画く山形の凸部を二つ作り、中央に穴を開ける。
    同じサイズの穴を車軸の左右中央に開け、土台の穴から金属棒を通して固定する。
    板を土台にシーソーの様に左右が上下する車軸。
    その板と車軸の両端にバネを仕込み、左右の傾きを緩和する。

    同様の仕組みで前後の車軸を繋げば足の骨組みは完成。
    最後に前後のバンパーや車輪の上半分を覆うカバーまで一体の立体シャーシを取り付ければ台車部分も完成。

    続いて極薄で軽い金属の板を何枚も用意。
    カンナで削った木目シールを片側に張り、もう片側には断熱材と木板を重ねた合板材を使って荷台部分を組み立てていく。

    まずは土台と主要な柱を立てて骨組みを作り、角を金属で補強する。
    全てに防火防水自己修復を付与した木板を張って壁を作り、ドアと窓を設置。
    平らな天井の上に切妻屋根を乗せて出来た天井裏収納。足回りの骨組みの隙間と高さを利用した床下収納。

     御者席はスプリングと綿入り布団を皮で覆ったふかふか仕様の長椅子を設置。ついでにシートベルトも付けてみた。
    勿論、椅子下の空間も余さず収納スペースに。

    馬車への出入口は後部中央に付けた。
    戸を開けるとまず右側に御者席とほぼ同じ仕様の二人がけの椅子。
    左側には腰までの高さの戸棚、その上に置いた荷物が滑り落ちないよう柵で四隅を囲い。
    扉と同じ幅を残して左右天井まで届く棚を二つこちらに向けて設置。
   その奥に寝台を置き、通路には片開きのカーテンをかけた。窓は御者席後ろの寝台の上に横に細長い通気用の窓一つと扉に一つ。
    椅子の後ろと戸棚の後ろ上部に一つずつ。
    全てガラスを張り、外から格子で保護。
    中と外にそれぞれ錬金術で作った特殊染料で塗装を施して。

    私は念願の「揺れない、広い馬車」を手に入れたのだった。
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