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雌伏の時

魔族の皇帝サマとの謁見

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    さて。依頼の方はほぼ片付き、後は皇都への移動を残すのみ――なのだけど。それより前にもう一つの締切日が迫っていた。
    ん、ノルマ?    勿論とっくに終わってますとも。
    「……皇帝陛下が是非にも直に城にお招きしたいと申されておりまして」
     わざわざ魔族でも貴重な空間属性持ちの臣下を寄越してまで城へご招待されちゃった!    テヘペロ♪
    ……あー、ぷるぷる震えていたお父様の顔色が酷いことになってたけど。
    転移の術を使って、魔族の国の皇都へ先にお邪魔する事になりました。
    こちらの同行者はレイフレッドと商業ギルドのシレイド支所のギルマス。そして――お父様とお母様。
    術者さんが展開した魔方陣に乗った、その先で待っていたのは。
    「お久しぶりですね、お嬢さん」
    にっこり微笑むその顔には見覚えがあった。
    「領主様……」
    「おっと、ここでは皇帝陛下の数居る皇子の一人に過ぎません。いやはや、貴女の様な素敵な女性を伴侶にお迎えできれば大手柄となったのでしょうが……」
    ニコニコ隙のない笑顔で迎えてくれた彼はちらりとレイフレッドを盗み見る。
    「――馬に蹴られる趣味はありませんからね、また別の手で攻めるとして……。では、ご案内させていただきますよ、我が父であり我らが帝国の皇帝陛下の元へ」
    ……一応パーティー用の正装を来てきたお父様達も、皇帝の城の中では完全に田舎のお登りさんだ。
    私とレイフレッドは――事前にシリカさんにこっそり入れ知恵して貰っておいて正解だったと互いに目配せしてその判断を称えあった。
   ……それにしても。
   王様と皇帝ってこうも違うのか……と、今でこそちょっとしたお金持ちのお嬢様やってるけど前世はド庶民だった私の目には眩しすぎてその価値すら分からない高そうなモノで溢れる空間。
    その場違い感と言ったら……。
    例え今後いくら稼ごうとも、私はこんな金キラ御殿には住まないぞ。リラックスも何もあったもんじゃない。
    可愛い装飾は好ましいけど、基本はシンプル・イズ・ザ・ベスト。機能的で効率的なのが一番だ。そう、空間に建てた私のお屋敷のような――ね。
   けどまあ……流石にセンスは良い。バカみたいにただ金キラにしてる訳じゃないんだよね。
    私は落ち着かないけど、ちゃんと計算し尽くされた絶妙な美が成立する空間。
    その中でも、一際飾り立てられた扉の向こうは――ある意味見た事のある、けれど初めて見る場所。
    皇帝の謁見の間。
    広さも豪華さもこちらの方が圧倒的に上だけど、こういう場は初めてではない。
    シリカさんの所で教わった通りの礼で皇帝陛下の前にレイフレッドと並んで跪く。
    内心はどうか分からないけれど、お父様達も、自分達の知る貴族への礼儀に沿って跪いた。
    「――ふふっ、ようやく会えたな、アンリ=カーライルよ。待ちわびたぞ?」
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