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幕間① - とある宿場町で -
小話①:経験値 - ケント視点 -
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それは、国境に一番近い街までもうあと少しという時の事。
その事に最初に気付いたのはやっぱりイマルだった。
――俺は。冒険者としては確かにひよっこだ。
けど。俺が生まれ育った村では家のすぐ裏手はもう林で、子供の足でも少し歩けばもううっそうとした森で、朝飯を腹に詰めてから家を出て、母ちゃんに怒られずに済む時間に帰って来られる距離に山があった。
そこはゴブリンやスライム程度しか出ないから、昔から俺の庭みたいなもんだった。
雨が降ろうが風が吹こうが畑に出ざるを得ない貧しい村では、こんな天気で野山を駆け回るくらい当たり前の日常で。
――そんな日常を知らない貴族のお姫様のはずのマリー(様)が平気そうにしているのにはびっくりしたけど。
マリー(様)以上に気を付けてあげなきゃいけなかったヒカルの異変にすぐに気付いてあげられなかった。
マリー(様)が彼女の発熱を確認してからの対処だってすぐに的確な行動を指示できる。
……悔しいけど、勇者パーティーに選抜された実力は確かだ。
もし。
ヒカルに声をかけられた次の日に、彼と出会えず彼女と二人きりでパーティーを組んでいたら……。
俺では彼女の鑑定代も装備代も用立てられず、早急な現金収入を求めて単発依頼を受けようと安易に考えた可能性を否定出来ない。
スライムやゴブリン程度なら大丈夫とヒカルを街の外にそのまま連れていっていたら……?
……剣の腕には自信がある。勇者になったあいつにだって勝てる確信がある。
だけど、それだけで当時のヒカルを守り通せたか?
イレギュラーがなければ、90%。イレギュラーがなくとも絶対とは言いきれない。ましてや冒険には付き物のイレギュラーが起きていたら?
……今日この日ここまでの間ずっと、当たり前の様に彼女だけでなく俺らまで完璧にサポートしてくれる。
彼の実力なら、もっと上のランクのパーティーだって喉から手が出る程欲しがるはずなのに。
その格好良さに憧れもするのに、一方では同時に強く嫉妬もしている。
冒険者としてはまだひよっこなのは認めるけど、敵との戦いでは相応の成果は上げているし、ヒカルに剣を教えているのは俺なのに。
俺より厳しく当たるイマルに文句は言っても何だかんだで慕っているみたいなのは分かるから。
「……もう少し優しくしてあげても良いんじゃないの?」
以前、イマルに言った事があった。
「――俺は、彼女に不相応な無理はさせてない。彼女が耐えられる限界は見極めているつもりだ」
けど、それに対して返された答えがそれだ。
「いやいや、それは当然だから。そうじゃなくてもう少し余裕を持たせてあげたら……?」
「いや。それは彼女の為にはならない。……彼女はこれまで生きてきた過去のほぼ全てを失くしたんだ。今は空になった場所をとにかく埋めてやる方が色んな意味で効果的なんだよ」
その彼の言葉には完全には同意できなかったんだけど、何故か妙に実感が込められているようで、僕は反論を口にできなかった。
でも、今回は彼もヒカルの限界を読み違えた。
その事で随分落ち込んだ様子だったのを知るのは、多分俺だけだろう。
夜闇に紛れカイルに乗ってどこかへ飛んで行ったのを見たのは俺だけで。戻った時には薬を手にしていたから。
あんな、たった一晩で治る薬がいったいいくらしたのか。何処まで買いに行っていたのか。
今の俺には逆立ちしたって真似できない芸当に、その晩、俺は黙って白旗を上げた。
その事に最初に気付いたのはやっぱりイマルだった。
――俺は。冒険者としては確かにひよっこだ。
けど。俺が生まれ育った村では家のすぐ裏手はもう林で、子供の足でも少し歩けばもううっそうとした森で、朝飯を腹に詰めてから家を出て、母ちゃんに怒られずに済む時間に帰って来られる距離に山があった。
そこはゴブリンやスライム程度しか出ないから、昔から俺の庭みたいなもんだった。
雨が降ろうが風が吹こうが畑に出ざるを得ない貧しい村では、こんな天気で野山を駆け回るくらい当たり前の日常で。
――そんな日常を知らない貴族のお姫様のはずのマリー(様)が平気そうにしているのにはびっくりしたけど。
マリー(様)以上に気を付けてあげなきゃいけなかったヒカルの異変にすぐに気付いてあげられなかった。
マリー(様)が彼女の発熱を確認してからの対処だってすぐに的確な行動を指示できる。
……悔しいけど、勇者パーティーに選抜された実力は確かだ。
もし。
ヒカルに声をかけられた次の日に、彼と出会えず彼女と二人きりでパーティーを組んでいたら……。
俺では彼女の鑑定代も装備代も用立てられず、早急な現金収入を求めて単発依頼を受けようと安易に考えた可能性を否定出来ない。
スライムやゴブリン程度なら大丈夫とヒカルを街の外にそのまま連れていっていたら……?
……剣の腕には自信がある。勇者になったあいつにだって勝てる確信がある。
だけど、それだけで当時のヒカルを守り通せたか?
イレギュラーがなければ、90%。イレギュラーがなくとも絶対とは言いきれない。ましてや冒険には付き物のイレギュラーが起きていたら?
……今日この日ここまでの間ずっと、当たり前の様に彼女だけでなく俺らまで完璧にサポートしてくれる。
彼の実力なら、もっと上のランクのパーティーだって喉から手が出る程欲しがるはずなのに。
その格好良さに憧れもするのに、一方では同時に強く嫉妬もしている。
冒険者としてはまだひよっこなのは認めるけど、敵との戦いでは相応の成果は上げているし、ヒカルに剣を教えているのは俺なのに。
俺より厳しく当たるイマルに文句は言っても何だかんだで慕っているみたいなのは分かるから。
「……もう少し優しくしてあげても良いんじゃないの?」
以前、イマルに言った事があった。
「――俺は、彼女に不相応な無理はさせてない。彼女が耐えられる限界は見極めているつもりだ」
けど、それに対して返された答えがそれだ。
「いやいや、それは当然だから。そうじゃなくてもう少し余裕を持たせてあげたら……?」
「いや。それは彼女の為にはならない。……彼女はこれまで生きてきた過去のほぼ全てを失くしたんだ。今は空になった場所をとにかく埋めてやる方が色んな意味で効果的なんだよ」
その彼の言葉には完全には同意できなかったんだけど、何故か妙に実感が込められているようで、僕は反論を口にできなかった。
でも、今回は彼もヒカルの限界を読み違えた。
その事で随分落ち込んだ様子だったのを知るのは、多分俺だけだろう。
夜闇に紛れカイルに乗ってどこかへ飛んで行ったのを見たのは俺だけで。戻った時には薬を手にしていたから。
あんな、たった一晩で治る薬がいったいいくらしたのか。何処まで買いに行っていたのか。
今の俺には逆立ちしたって真似できない芸当に、その晩、俺は黙って白旗を上げた。
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