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磨いた結果は自分次第です
4-8 ケントの独壇場
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普段はぽやんとしたかわいい子犬みたいな男の子で、魔物との戦闘中はちょっと精悍さが全面に出て頼もしく見える。
けど、こんなにも好戦的な笑みを浮かべる彼は初めて見た気がする。
タッと誰より速く駆け出し、ひょいひょいと軽く剣を操り、草の葉の先を刈る様に小刻みに横へ刃を薙いでは縦横無尽に剣を走らせ、自らもまた広い平原をまるで元気の良い牧羊犬のようにあちらへこちらへと駆け回る。
彼の通ったあとには綺麗に首だけ落とされたラトルの遺骸が点々と落ちている。
「……これは俺の出番は無さそうだな。――蒼夢、後片付けを手伝え」
「もう、何て事かしら! 狩り残しが一匹も居ないじゃありませんの!」
ケント君の剣の腕前が凄いのはまあ何となくながら知っていたつもりだったけど。
これまでイマルさんのパーフェクターぶりに隠れてあまり目立ってはいなかったのに。
自身で十八番と豪語しただけあって、見事なまでの独壇場だ。
回収作業以外、手を出す隙が無い。
ただ剣を振り回しているだけにも見えるのに、よーく集中して見ていると、奴らの動きを完全に読みきり、完璧な太刀筋で数匹まとめて綺麗に首を落としていくその複雑ながら美しい軌跡は確かに剣神と呼ぶべき能力だ。
「凄いな。あれは正しく農村民の天敵の天敵だ」
イマルさんも時折作業の手を止めその光景に見入っていた。
ラトルの相手をする内にやがて日は地平線の向こうへ完全に姿を消し、月明かりの無い満天の星空が空を飾ると、ホーンゴートとウリボーの群れが地鳴りのような足音と共に迫り来る。
「さあ、そろそろ私にも見せ場を下さってもよろしい頃合いでしょう?」
マリーさんが改めて装備を構え直し、その立派な槍斧を片手でブンッと振り下ろした。
彼女の盾目掛けて突進してくるウリボーをシールドバッシュで弾き返し、槍先の斧で薙いで首を落とす。
ホーンゴートにはファイヤーボールをぶつけて怯ませたところで槍の穂で頭蓋を突き、斧で首を切り落とす。
……本当に、貴族のお嬢様だったのか疑わしく見える光景だ。
でも、彼女の討伐ペースがまるで児戯のように思えるほど、ケント君の奮闘ぶりが凄い。
そろそろ頑張っても私の動体視力程度じゃその剣筋を追いきれなくなってきた。
ただ、彼が駆け抜けた後にはそこに居た全ての魔物が骸と化す。
私だって頑張ったけど、他の誰もケント君のペースについていけてない。
ニールやザルマならスピードだけは勝てるだろうけど、こうも見事な切り口で首を落として血抜きしていく絶妙な技までは真似できない。
「今後この手の依頼はケントに一任するか」
イマルさんは早々に戦闘参加を放棄して言った。
……こうして大量に得た獲物を翌朝住人に披露すると、主に男性から歓声が上がった。
見た目はあまり好感の持てない奴らは、実は食肉としては庶民的なレベルの食材としてはかなり美味しい部類に入るらしい。
高級和牛の味は期待してはいけないが、ブランド鶏程度には美味な肉らしく、彼らにとってはご馳走なんだとか。
特に若い男性は我も我もと手を挙げ解体を手伝い、バーベキュー用の調理場を支度する。
用意された場と食材で、奥様方が料理の腕をふるい。
その日は一日村中に美味しそうな匂いが漂い続けていた。
けど、こんなにも好戦的な笑みを浮かべる彼は初めて見た気がする。
タッと誰より速く駆け出し、ひょいひょいと軽く剣を操り、草の葉の先を刈る様に小刻みに横へ刃を薙いでは縦横無尽に剣を走らせ、自らもまた広い平原をまるで元気の良い牧羊犬のようにあちらへこちらへと駆け回る。
彼の通ったあとには綺麗に首だけ落とされたラトルの遺骸が点々と落ちている。
「……これは俺の出番は無さそうだな。――蒼夢、後片付けを手伝え」
「もう、何て事かしら! 狩り残しが一匹も居ないじゃありませんの!」
ケント君の剣の腕前が凄いのはまあ何となくながら知っていたつもりだったけど。
これまでイマルさんのパーフェクターぶりに隠れてあまり目立ってはいなかったのに。
自身で十八番と豪語しただけあって、見事なまでの独壇場だ。
回収作業以外、手を出す隙が無い。
ただ剣を振り回しているだけにも見えるのに、よーく集中して見ていると、奴らの動きを完全に読みきり、完璧な太刀筋で数匹まとめて綺麗に首を落としていくその複雑ながら美しい軌跡は確かに剣神と呼ぶべき能力だ。
「凄いな。あれは正しく農村民の天敵の天敵だ」
イマルさんも時折作業の手を止めその光景に見入っていた。
ラトルの相手をする内にやがて日は地平線の向こうへ完全に姿を消し、月明かりの無い満天の星空が空を飾ると、ホーンゴートとウリボーの群れが地鳴りのような足音と共に迫り来る。
「さあ、そろそろ私にも見せ場を下さってもよろしい頃合いでしょう?」
マリーさんが改めて装備を構え直し、その立派な槍斧を片手でブンッと振り下ろした。
彼女の盾目掛けて突進してくるウリボーをシールドバッシュで弾き返し、槍先の斧で薙いで首を落とす。
ホーンゴートにはファイヤーボールをぶつけて怯ませたところで槍の穂で頭蓋を突き、斧で首を切り落とす。
……本当に、貴族のお嬢様だったのか疑わしく見える光景だ。
でも、彼女の討伐ペースがまるで児戯のように思えるほど、ケント君の奮闘ぶりが凄い。
そろそろ頑張っても私の動体視力程度じゃその剣筋を追いきれなくなってきた。
ただ、彼が駆け抜けた後にはそこに居た全ての魔物が骸と化す。
私だって頑張ったけど、他の誰もケント君のペースについていけてない。
ニールやザルマならスピードだけは勝てるだろうけど、こうも見事な切り口で首を落として血抜きしていく絶妙な技までは真似できない。
「今後この手の依頼はケントに一任するか」
イマルさんは早々に戦闘参加を放棄して言った。
……こうして大量に得た獲物を翌朝住人に披露すると、主に男性から歓声が上がった。
見た目はあまり好感の持てない奴らは、実は食肉としては庶民的なレベルの食材としてはかなり美味しい部類に入るらしい。
高級和牛の味は期待してはいけないが、ブランド鶏程度には美味な肉らしく、彼らにとってはご馳走なんだとか。
特に若い男性は我も我もと手を挙げ解体を手伝い、バーベキュー用の調理場を支度する。
用意された場と食材で、奥様方が料理の腕をふるい。
その日は一日村中に美味しそうな匂いが漂い続けていた。
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