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if童話
もしも桃太郎が……漆
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椿が襖の向こうへ声をかけ、返事が帰ってきた途端に開け放たれたその先をマヌケな表情のままみやると、そこは落ち着いた畳の一室で、上座には
一体の紛れもない鬼がいた
厳格な顔つきは原始的な恐怖を煽り、娘の可憐な姿が一輪の花とするなら、ただそこに座っているだけの堂々たる姿は神木のようなある種の神々しさ、荒々しさを秘めている。丸太のように太い腕や首に、今まで見たどの鬼よりも立派な角。
娘のそれとは違う深い蒼の瞳は、針のように鋭い厳格さと、海のように深い叡智を讃えている。
鴬茶と少量の油色の糸で織られた着物は、巌のような雰囲気とよく合っている
ここに来るまでに見かけたどの鬼ともワケが違う
これが鬼の頭領……
「……まずはそこへ座れ、人の子」
低く、落ち着いた声だった
促されるまま、私はこの鬼の正面に座った
「紹介しよう。私の父で現頭領、逢魔 海棠だ」
椿の真面目な顔の中に少し笑いを堪える気配がしたのは気のせいだろうか
「そして改めて、私は逢魔 椿という。周囲には"姫"と呼ばれてはいるが、私自身はあまり好まん。椿とだけ呼んでくれ」
「そ、そうか……自己紹介が遅れたな、私は桃太郎。己が使命によってこの場に参上した」
静寂
「それでは、その使命とやらについて聞こうか」
沈黙を破ったのは鬼の頭領・海棠だった
「私の使命は、村を襲った鬼どもを倒し、村から奪われたという宝を取り返すことだ。ああそうだ……本来ならこのように話などせず、即座に切り捨てればよい、いや!切り捨てなければいけないのだ!」
それまでの正座から右の足を立て、抜刀しようと左腰の刀の柄に手を触れた時だった
「待て!」
鋭く響く一声
声の主は椿だった
紫の瞳は何かを訴えるように強く光り、毅然とした態度でこちらを見つめている
するとその父は強い意志をその眼に映し、あたかも諭すように言った
「人の子…桃太郎といったか、そう決めつけるのは早計というものだ。私の話を聞いてからでも遅くはあるまい」
長考の末、海棠のいうことにも一理あると思った
「……ならば聞かせて貰おうか」
再び腰をおろし─今度は胡座で─座る
「ここに来るとき、1度目は集落の長から、2度目は案内役の鬼から聞いた事だ」
そこで少し息を吸い、続く言葉を言い切る
「"本物の鬼"というのは、どの鬼のことだ」
この問に対して、頭領は少しの間黙り、やがておもむろに口を開いた
「その問に答えるのは非常に難しいが、一言で言うならば"心の醜さ"となるだろう。これはなにも鬼に限ったことではない」
「むしろ欲にまみれた人間こそが、本物の鬼と言えるだろう……」
一体の紛れもない鬼がいた
厳格な顔つきは原始的な恐怖を煽り、娘の可憐な姿が一輪の花とするなら、ただそこに座っているだけの堂々たる姿は神木のようなある種の神々しさ、荒々しさを秘めている。丸太のように太い腕や首に、今まで見たどの鬼よりも立派な角。
娘のそれとは違う深い蒼の瞳は、針のように鋭い厳格さと、海のように深い叡智を讃えている。
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ここに来るまでに見かけたどの鬼ともワケが違う
これが鬼の頭領……
「……まずはそこへ座れ、人の子」
低く、落ち着いた声だった
促されるまま、私はこの鬼の正面に座った
「紹介しよう。私の父で現頭領、逢魔 海棠だ」
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「そして改めて、私は逢魔 椿という。周囲には"姫"と呼ばれてはいるが、私自身はあまり好まん。椿とだけ呼んでくれ」
「そ、そうか……自己紹介が遅れたな、私は桃太郎。己が使命によってこの場に参上した」
静寂
「それでは、その使命とやらについて聞こうか」
沈黙を破ったのは鬼の頭領・海棠だった
「私の使命は、村を襲った鬼どもを倒し、村から奪われたという宝を取り返すことだ。ああそうだ……本来ならこのように話などせず、即座に切り捨てればよい、いや!切り捨てなければいけないのだ!」
それまでの正座から右の足を立て、抜刀しようと左腰の刀の柄に手を触れた時だった
「待て!」
鋭く響く一声
声の主は椿だった
紫の瞳は何かを訴えるように強く光り、毅然とした態度でこちらを見つめている
するとその父は強い意志をその眼に映し、あたかも諭すように言った
「人の子…桃太郎といったか、そう決めつけるのは早計というものだ。私の話を聞いてからでも遅くはあるまい」
長考の末、海棠のいうことにも一理あると思った
「……ならば聞かせて貰おうか」
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