刹那よ、永遠に

イチ

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「颯希お待たせー」


考え事をしていたせいで着替えるのに時間がかかった秋風が正門前でスマホを弄りながら待ってる春野に声をかけた。


「もう待たせすぎだよー。普通女子より男子の方が着替えるの早くない?私より正門に来るの3分27秒遅かったよ」


「遅れたのは申し訳ないけど、その普通はよく分からないとして時間計測してたのかよ」


「まぁ時間計測してたのは適当に言っただけだけど」


春野がイタズラをした子供のような顔を浮かべた。
1つ結びにまとめた髪の毛が風で揺れている。
まるで、犬がしっぽを振って喜びを表しているかのように。


「いや、嘘なんかい」


そういえば昔から春野はこのような冗談を言うのが好きだったな秋風は感じた。
いくら年月が過ぎ去ろうと変わらないものがそこにはあった。





「もうすぐ県総体(県高校総体の略)だね」



「その前に地区予選を勝ち抜かないと行けないけどね」



「それぐらい分かってるってば。…そういや、さっき正門来るの本当に遅かったけど何かあったの?」


自宅への帰り道、少し向かい風を感じながらも平地だからそこまで影響がないと思いながら、お互い自転車をこいでたわいの無い話をしていたら春野が尋ねてきた。


「んー?いや、少し考え事してただけだよ」


「考え事って地区予選のこと?」


「まぁそうだね」



「私みたいな凡人じゃなく、陸上エリートの秋風くんでも悩むことがあるんですねー。何だか嬉しいなー」



春野は頬を緩めながら喋った。


「人が真面目に悩んでたんだからその言い方はないんじゃないの。それに陸上エリートだったら、去年の新人戦で地区予選免除を勝ち取ってたし」



「ごめんごめん。でも隼人が陸上の事でそんなに悩んでるのが意外でさ。ほら、私たちって幼なじみじゃん?小さい時から家族ぐるみで付き合いとかもあったし。その時から隼人が走ってる姿をずっと見てきたけど、走ってる時の隼人は本当に楽しそうで幸せそうだったからさ。今でも、陸上を楽しみたいって言ってるのもあるし。もちろん、楽しいってだけじゃなく自分の走りについて常に考えて憂鬱になることもあると思うけど、そんな姿今まで表に出さなかったからどうしたのかなって」


春野が先程までの和やかな表情とはうってかわって真剣な表情になって話した。


長年の付き合いということもあり、今更真剣なことを話すことの恥ずかしさからいつもおちゃらけた雰囲気になる事が多かったので、秋風はこのように真剣な表情で話す春野を見るのは初めてであった。


秋風は少し逡巡した後、春野につい最近起きた出来事を話すことを決めた。



「なぁ颯希。少しそこの公園で話さないか」
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