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第34話 王都から飛行船乗り場への道のりーーー3日目から5日目(スープの効能、灰色大狼、神速、盗賊団、屈強なコテージ)
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王都出発から3日目の早朝
早めの朝食を終えて、私たちは再び東へ進路を取りながら、幹線道沿いに戻って歩きだしていた。
昇ったばかりの太陽が、低い位置で眩しく輝いている。
時折休憩を挟みながら、3刻ほど走る間に速い馬車や魔導車とすれ違っていた。たまにヒトが走っていたりもする。
多くはヴェルニカへの物資の配送のための荷馬車やヒト、ヴェルニカに用のある魔導車だ。
東からやってくる方の馬車や魔導車とすれ違うことはほとんど無い。
東の飛行船乗り場からこちらへ来る人たちは、大抵飛行船を乗り継ぎ移動するからだ。
ヴェルニカからも、南側の幹線道から物資が運ばれることがほとんどだ。
シナップくんが管理する塔型迷宮の入り口である洞窟がある山岳地帯もすでに通りすぎ、いよいよ王都から離れていく。
さらに言えば、バベナの東からカルディナ方面と、ヴェルニカ方面へ向かう道の分岐点以降、東の幹線道はあまり利用されなくなるばかりか、道の存在すら怪しげな場所も多々出てくる。
太陽がかなり高い位置に来たところで、ガイアスくんが言った。
「今日はかなり進めた。一度大きく休憩を取らないか。腹が減って倒れそうだ」
「賛成」「賛成です」「賛成なのだ」
ロデリックくんが時刻魔導具を確認しながら、周辺を見回して言った。
「良いだろう。今のところ上出来だ」
そうロデリックくんが言ったので、バッシュくんたちの表情がパッと明るくなった。
昼食も兼ねて2刻ほどを休憩に充てる。
道から少し離れ、邪魔にならなさそうな場所を見繕うと、バッシュくんたちと結界を張り、早速休憩の準備をはじめた。
休憩場所の広さを決めると、
「このあたりからは少し強化した結界にしたいね」
そう言ってバッシュくんたちが小さな魔石を地面に何ヵ所も置いていった。
全部で12個を置き終わると、防御陣を発動させた。
ガイアスくんの方は石を組んで釜戸を作ってくれた。
「煮炊きが出来るようになったぞ」
「了解、お疲れさま」
シナップくんが用意してくれた作業台や、椅子にテーブルが揃うと、屋根が無いだけで立派な家みたいだ。
バッシュくんとノアくんが、ロデリックくんになるべく結界に触れないように注意していた。
ロデリックくんが迂闊に触れると、結界が魔力を消費して、効果時間が減るそうだ。
弱まらない代わりに、魔力を犠牲にして維持するんだね。
「私が触ったぐらいで壊れるような結界などより、ちゃんとしたものを作りたまえ!」
と、少し憤慨していた。
◇
野菜とお肉がたっぷり使われたスープの匂いを、吸い込むようにしてシナップくんが言った。
「良い匂いなのだ」
「味見してみる?」
エレイナさんはそう言うと、小皿に出来上がったばかりのスープを掬い入れてシナップくんに渡した。
「飲んでもいいのだ?」
「熱いから気を付けてね」
「うんなのだ」
シナップくんが、小皿に入ったスープをソッと飲む。
すると金色の目を見開いて動きを止めた。
「どお?味が薄かったかな?」
エレイナさんが少し心配になったのか尋ねた。
「美味しいのだ!すごく美味しい」
「よかった」
安心してエレイナさんが笑った。
シナップくんが、少し残った小皿のスープを美味しそうに飲み干した。
日の光が反射したのか、心なしか、シナップくんが光った気がする。
出来上がった料理をお皿に盛りつけ、テーブルに置く。
昼はホイさんのお店で買った『魔雉』のスープだ。
昨日は南側で購入した雉肉の煮込み汁だった。
晩と違い、透き通った煮汁に仕上がっている。
野菜は市場の南側でロデリックくんが購入したものだ。
朝の光が反射すると鍋に入ったままでキラッと光るし、シナップくんの反応からしても、味に非常に期待が持てる。
テーブルに水の入った湯呑茶碗と、ふかした芋、パンとチーズ、炊いたごはん、野菜の盛付け、薄く削いで焼いた肉が並んだ。
「よし、しっかり食べないと動けないからな」
並べられた料理と、まだ乗せていない鍋の料理を確認してガイアスくんが満足そうに、真っ直ぐに立って腰に両手を添えた。
◇
昼の長めの休憩を済ませ、幹線道沿いに戻った私たちは、再び東へ向かって歩く。
「いったいどの食材が良かったんだ?」
「わからん、市場の野菜と魔雉。どちらも可能性がある。複合的な効果の可能性もあるな」
話しているのは、食事に現れた効能についてだ。
現れたのは疲労回復と大幅な魔力の回復。
効能は「僕たち、結界に結構魔力を使ったはずなんだよね」と言って、バッシュくんが最初に首をかしげたことで判明した。
感じるだけでなく、その気になれば魔力を視ることも出来るらしいので、彼らがわざわざ言う『回復』は気のせいではない。
疲労回復だけであれば、休息によるものとも考えられるのだけれど、魔力が大きく回復したとなると、それでは片付けられない。
ひとまず私たちが取った行動は、効能付きのスープの一時的な保存である。
「魔力を使って保存するだけの価値は一応ある」
という判断だ。
「魔雉は雉の中でも特に魔力が高いものですから、効能が現れても不思議ではありませんが」
「今までにも魔雉の料理はたまには食べてるもんね」
バッシュくんとノアくんが顔を見合わせたところで、ロデリックくんが買った野菜と、魔雉肉の相性が良かったと結論付け、今に至っている。
「色々試したいところだが、魔雉の肉が足りなさそうだ」
「野菜もよ。お肉と野菜の分量の影響も考えると、同じ食材で同じようにスープを作るのが無難ね」
「今日の晩も、魔雉と野菜のスープで決まりだな」
ガイアスくんがそう言うと、ロデリックくんが待ったをかけた。
「晩ではどのみち休息するだろう。試すなら明日の昼だ」
「魔雉の肉も低温保存か」
「それが望ましい」
アルファルト大陸の中央から南にかけては温暖な気候だ。
通常の気温での生鮮食品の食材保存は、専用の保存紙を使ってもあまり長くもたない。
冷やす、凍らせる以外だと魔力紙を使った特殊加工の保存紙が流通しているものの、仕入値も高価で店などで普通使われない。
ロデリックくんは元々、白銀月の満月の影響を受けた食材が手にはいることを期待して買い物をしていたけれど、スープの効能は予想外だったようだ。
満足げな表情で「明日は琥珀月が満月だ」と言った。
てっきり昨日が満月だと思ったけれど、違ったらしい。
「狩りをしている時間なんか無いんじゃないのか?」
ロデリックくんの様子に、ガイアスくんが言うと、「夜に出る。お前たちは休んで待っていると良い」と、返した。
どうやら数日の間、夜のうちだけ一人で狩りと、採集に出るつもりのようだ。
◇
お昼に取った食事休憩後、数度の短い休憩を取りながら、東へ進むこと3刻。
辺りは夜が近づき次第に暗くなりはじめていた。
山の方では雨が降っているらしく、上空に雲が広がり、山は白く煙るように霞んで見えている。
私たちがいる場所に雲はなく、雨が降る様子は今のところ無い。
「そろそろ休む場所に行くか。この辺にテントを張っても問題なさそうに思えるが」
「一応、人や馬車が通る道だから」
見回すと、周辺に見える建物らしきものが遠く小さくなって、道も整備が追い付いていない様相の箇所が増えてきた。
ヴェルニカ方面への分岐地点はとっくに通りすぎて、遠く南に半球型の結界で覆われたヴェルニカが霞んでいる。
ガレディア領内と定められてはいるけれど、それは人が決めた取り決めに過ぎない。
──魔物と、魔獣、野に生きるあらゆる動植物。
──果てはどれにも属さぬ魔を持つ生物たち。
この地は実質、彼らの世界。
都市を離れれば余所者は人の方である。
『そもそも、この世界が人のものじゃないのだ』
ジュエルスライムのエドくんが、まるで私の内心を読んだかのように言った。
私たちの周囲に魔物が現れ、衝突は避けられそうにもない。
「灰色大狼に似ているが違う。魔物か?」
「黒い霧が出ているので、魔物です」
「違ったとしても、体の殆どが変質した魔力に置き換わってる」
ガイアスくんの問いかけに、ノアくんとバッシュくんが順に答えた。
「不死か」
──不死
身体の回復力がうまく機能せずに、変質した魔力が欠損した体をそれっぽく構築してしまった状態の生きる屍。
魔力で構成された部分の殆ど無い、人や野生動物では見られない、魔獣特有の魔物化だ。
もはや身体に備わった本能によって、肉体を模倣した再構築が繰り返され、生存本能が体をただ動かし続けているに過ぎない。
「休憩場所を探してただけなんだけどなあ」
ガイアスくんが技能で『大盾』を展開する。
瞬間、灰色大狼型の魔物が一瞬弾かれ後退した。殆ど同時に、バッシュくんとノアくんが私たち全員に身体強化の魔導術を発動。
素早くジャックくんとロデリックくんが前方へ飛び出し、こちらへ向かおうとする大狼に連続で打撃による攻撃を加えた。
ズザァァッ!
という音が辺りに響き、反動と衝撃で、地面を抉るように不死の大狼の体が横倒しになった。破壊された大狼の体から黒い霧が吹き出し、夜の闇が一層濃くなったように感じられる。
『マクスくん、この“魔物”を、不死にしたものが近くにいるかも知れないのだ』
エドくんが言った。
言われてみるとそうだ。
私は慌てて魔物の黒い霧に染まったままの、周囲を見回した。
バッシュくんとノアくんも一緒に辺りを探る。
作動させた私の魔物探知機に特別な反応は見られない。
「離れた場所に大きな反応がいくつかあるので、そのどれかにやられてしまったのかも知れません。この辺りで灰色大狼に勝てる魔物や魔獣は、同種の灰色大狼以外だと……ワイバーンとかドラゴン?」「そうとは限らないよ。病気で弱っていたらもっと弱い魔物でも」
バッシュくんとノアくんが最終的に首をかしげた。
ひとまず、目の前の大狼の魔物に集中していれば大丈夫そうだ。
王都のアリオン迷宮の魔物を、一撃で倒せてしまえるロデリックくんでも、この大狼には何度も攻撃を加えている。
ただ、苦戦しているというよりは、魔力による見せかけの再構築を終わらせるのに時間がかかっている印象だ。
「残念だけど。何度も死にすぎて、キミはもう魔物ですらないのだ」シナップくんが言った。
灰色大狼の姿をした不死の魔物。
その全てが喪われ、夜の風に吹かれて塵のように散っていくまで。それを時間に表すと、さして多くの時間はかかっていなかった。
本来、魔獣である灰色大狼であれば、死んで残すはずの肉も、骨も、毛皮も、血の一滴さえも残らなかった。
わずかに散った灰のような塵が、あの不死の魔物が魔獣であった証だっただろうか。
◇
テーブルの上に並べられたパンとチーズに器に盛った白いごはん。鉄の板で焼いた厚切りのトントン肉、コッコ肉、焼き野菜、焼きキノコ。
バッシュくんとノアくんが構築した防御陣の中に、晩の食事の準備が整いはじめた。
ロデリックくんは、先にエレイナさんと下ごしらえを終えた達成感からなのか、早くも椅子で一人寛いでいる。
4ヶ所に吊るした携帯式灯火と焚き火が辺りを照らし、月明かりも手伝って夜だというのに室内にいるかのように明るい。
違うといえば、明るさが場所によってばらついているくらいだ。
「いただきます」
「いただきまーす」
「いただきます、なのだ」
『ますのだ!』
野菜もお肉も、塩で軽く味を整えただけだけど、美味しい。
「肉の脂が野菜と合うんだよな」
ガイアスくんも、お肉と一緒に焼いた薄切りの野菜とキノコを、美味しそうにバクバクと食べている。
ジャックくんが塊のお肉に切れ目を入れて、鉄板の上に追加した。エレイナさんはチーズを投入している。
私は野菜を追加する。
焼き上がった肉と野菜を、バッシュくんたちも取り皿に取って、美味しそうに食べている。
「野菜が甘くて美味しいのだ!」
「ほんとだね」
「脂で焼けたところが、特に美味しい」
『のだ!芳ばしいのだ』
4人とも、昨日より距離もたくさん歩いているけれど、調子は良さそうだ。朝までしっかり休めば問題ないだろう。
◇
バッシュくんやシナップくんがテントで休む時間帯。
夜の警戒はエレイナさん、ジャックくん、ロデリックくん、ガイアスくん、私、エドくんが交代で行う。
「エドちゃんは眠って良いのよ」
と、エレイナさんが言ったけれど、エドくんは『見張る』という意思を示したので、シナップくんが許可したのである。
「わかったのだ。なら頑張るのだ」
『うん』
「じゃあ、エドは最初の2刻をジャックと一緒に見張って、何かあれば俺たちを起こす役だ」
『わかったのだ』
ガイアスくんがそう言うと、エドくんが素直に返事をした。
エドくんは強いので正直頼もしい。
アリオン迷宮でも『鉄蟻』や『鉄蜘蛛』の攻撃で怪我をする風もなく、ロデリックくんは地下9階でエドくんが加勢するのを止めていたくらいである。
地下10階では魔導術が効きにくい魔物たちを、魔導術で倒していた。
ただ人語を話せるだけのジュエルスライムではない。
◇
夜24刻頃 高い場所に琥珀色の月が輝いている。
「すっかり満月のように見えるけど、本当はまだなんだね」
「そうらしい」
私が言うのに対し、ロデリックくんが月を見上げて答えてくれた。エドくんとジャックくんのふたりと交代して、防御陣の中で見張りをしている最中だ。
見張りと言っても、私は魔導具を使っているだけなんだけど。
「ところで羊君」
「なんだい、ロデリックくん」
「ジェイドから授かった鍛練はうまくいっているか」
「……」
………え?
すっかり忘れてたとか、言えそうにない感じだろうか。
本当に忘れてた訳じゃないんだけど。
「1度に4回しか使えなかった『強脚』を、1度に5回使えるようになったよ。基礎魔力が上がったんだよ」
私がどうにか答えると、ロデリックくんが無言で返してきた。
ロデリックくんのように成果を出すのが早い人にとって、私のようなのは、ものすごく遅いのだろう。
私がそんなことを考えていると、
「言い直そう。基礎体力の方はどうだ。例えば前より疲れにくくなっているとかだ。君の使える魔力が増えていることは、使っているのを見ているから、聞かずともわかっている」
私はようやく彼の聞きたいことがわかった。
「おかげさまで、疲れにくくなっているよ。今日も朝から歩いて今の時間までなんともない。前とは全然違うね」
私がそう答えると、珍しく前傾姿勢で手を組んで座っていたロデリックくんが、いつものように姿勢を正し、椅子に深く座り直した。
パチ、パチと焚き火の音が響く。
結界の外側に見える、月明かりだけがたよりの暗闇の向こう側に、いくつもの影が動いている。
「もう少し先ーーーあと50カロノーツほど先で私の知り合いが待っている。予定では迷宮で魔導具を入手しているはずだ」
おもむろにロデリックくんが立ち上がった。
立ち上がる際に足下に落ちていた小石を2個3個拾い上げて。
携帯式灯火の明かりが届かない先にいる、こちらに向かって近づいてくる黒い影。
魔物であることを認識できるか出来ないかの頃合い、私の魔力探知機が振動するのと殆ど同時に、ロデリックくんの手から小石が勢い良く放たれた。
3つの小石は、結界を通り抜ける際に一瞬わずかな歪みを生んだものの、すでにそれは修復されている。
魔物はといえば、叫び声をあげる間もなく消え去ってしまった。
おそらく、ロデリックくんは、自身が触れると結界を傷つけるので、小石を投げたのだと思うけど。
「この結界は外からの攻撃に対して強靭だが、内から外に攻撃を通す構造が欠点でもある。私が外に出るのは容易だが、その際結界が消耗してしまう。但し、それはこちら側の力をそのまま外に撃ち出すことが容易ということでもある」
つまり、ロデリックくんがさっき投げた小石には、ロデリックくんの魔力なりそれに近い力を籠めて放ったということだろうか。
「こういう対応でないと、バッシュたちに怒られる上に、修復された結界の外に私が閉め出されてしまうからな」
◇
王都出発から4日目の早朝
私たちとの見張りの交代後から、そのまま起きていたエレイナさんとガイアスくんが、魔物探知機を作動させた状態で朝食の下ごしらえをしている。
「おはよう、マクスさん」「おはようございます」
起きてきた私に気づいて、ガイアスくんたちが揃って挨拶をしてくれた。
「おはよう、ガイアスくん、エレイナさん」
しばらくすると、ロデリックくんとジャックくん、バッシュくんたちもテントから出て来た。
「おはよう」「おはようございます」「おはようなのだよ」『なのだよ』
防御陣の角に設けた水場で、それぞれが身支度を整える頃には
、テーブルの上に飲み物や料理が並びはじめていた。
今朝の献立の中心は焼き魚だ。
甘味に、市場で買った果物が食べやすいように切られてお皿に並べられている。
鍋で野菜やキノコと一緒に炊かれた穀物が、美味しそうな匂いを漂わせている。最後にそれを器に盛り、テーブルの上に並べ終えたところで食事が始まった。
「いただきます」
蒸し焼きにされた野菜が、ほどよくしゃきしゃきとした食感を残し、その甘さが白身魚の塩焼きを引き立てている。
ノアくんは火がしっかり通って、少しくたっとなった野菜の方が好きなようだ。
「朝にかけて魔物と魔獣、両方近くまできたが、魔物が魔獣の方に向かって行ったんで、特にすることはなかった」
「第一、バッシュちゃんとノアちゃんの結界は強力だしね」
と、ガイアスくんとエレイナさんが報告してくれた。
明るくなってくる時間帯で、魔獣の方は住み処に帰ったようだ。
この辺の習性の違いが、ガレディアで魔獣と魔物を区別してとらえる所以なのだろう。
◇
朝の食事を終えてしばらく進むと、北側に連なるようにあった山々が途切れた。
途中には川もあり橋を渡った。
今は北へも広い平野が広がり、代わりに南の内陸部に隆起した土地や山が現れる。
火山によって生じた地形だ。
雨も多く、いくつかの川が合流する中流から下流にかけて豊かな森林や土壌が形成される一方で、多くの魔物と魔獣、野生動物が棲息しながら、一体となってヴェルニカ周辺地域を支えている。
その様は、大陸の南側を統べるレオパルドに似ていると云われる。
「迷宮目当てにやってくる冒険者も多いらしいが、一筋縄で行かず、長期滞在者になるのが常だ」
そこであきらめて帰らないのが探索者や冒険者なんだね。
北側の山が途切れると、ロデリックくんが歩く速度を落としはじめた。
前方に立っている人影が見える。
──そういえば知り合いが待っていると言っていたような。
上から下まで動きやすそうな、濃い深緑色をした全身を被う衣服を身につけた青年が、足下に大きめの袋状の荷を置き、こちらの方を向いて立っている。
「待たせたな」というロデリックくんの言葉に、青年が「予定では昨日のうちに来るんじゃなかったか」と返す。
「こちらにも都合がある。それに、昨日のうちに私が本当に到着していて、そちらは問題なかったのか?」
悪びれる風もなく、ロデリックくんが言った。
青年が一瞬だけ苦虫を噛み潰したような表情を見せたが、すぐに気を取り直した様子で、荷の中から魔導具らしきものを取り出した。
それを勢いよくロデリックくんの顔近くに突き出し、言った。
「約束のものだ!」
ロデリックくんの表情は柔らかく、微笑んでいるようにさえ見えた。
顔の前に差し出された魔導具を確認できたのか、それを左手で受け取ると、懐から紙の束を取り出し、それを青年に手渡した。
ゴールド紙幣だ。
現行の人社会で、多くの国に共通して流通している貨幣。
他にシルバー紙幣がある。
ただ、まだ流通が少ない。
両替の必要が無く、硬貨と違い重くないため注目されているが、通常の紙幣同様、火や水、衝撃にも弱い、偽造が容易いなど、まだ課題が多い。
偽造に関して言えば、硬貨にも同じことが言えるのだけど。
青年はロデリックくんからお金を受け取ると、特別な確認はしないで自分の荷物入れに仕舞いこみ、「依頼のものをたしかに渡したし、報酬も受け取った!」と言うと、南の方へ走り去った。
一瞬でも目を離すと、すでに別の場所に移っており、その姿は驚くほどあっという間に小さな人影になってしまい、見失ったほどだ。
精鋭の百犬隊を身内に持つバッシュくんとノアくんでさえ、少し驚いている。
「ヤツは『神速』の技能を獲得している」
そんな私たちにロデリックくんが言った後、「あの技能で上級の迷宮を探索している」と続けた。
「ヒトは見かけによらないのだ!」
「じゃあ、さっきのヒトはものすごく強いんですか」
と、シナップくんとノアくんが言うと、ロデリックくんがおかしそうに笑いながら言った。
「魔物を討伐できるかどうかを強さと呼ぶなら、ノア、シナップ、きみたちの方が強い。魔導術を使わずにヤツを倒せるだろうな」
「ええ?!」
困惑するノアくんと少し違って、バッシュくんが言った。
「ひょっとして逃げ回ってるの」
「その通りだバッシュ。ヤツは驚くべき速さで攻撃を避けるし、異常なほど逃げ足が速い」
「逃げ足」
神速……。
「すごいのかすごくないのか、よくわからないスゴさがあるのだ!」
そう言ったのはシナップくんだ。
「でも、それだとどうやって迷宮を攻略するんですか」
続けて言ったノアくんに、ロデリックくんが答えた。
「ヤツが狙うのは魔物から得られる素材や魔石ではない。ヤツが求めるのは未踏破の迷宮にある、『仕掛け』だ」
「そうか、罠の先にある宝や、手付かずの資源が目当てで潜っているのか」
ガイアスくんが言うと、ロデリックくんがうなずいて言った。
「それがほぼ正解と言って良いだろうな」
◇
ロデリックくんと青年の取り引きを見届け、再び歩きはじめてから数刻が経った。
朝からまとまった休憩を取らずに歩を進めている。
「そろそろ昼飯にしていい時間だ」
ガイアスくんが歩く速さを緩めながら言った。
道から少し移動して、よさそうな場所を見繕う。
「ここなら道にすぐに戻れるし、見晴らしが良いから魔物や魔獣にも対応しやすいわ」
四方に視界を遮るものもなく、魔物や魔獣からもそれなりの距離が取れている。冒険者らしき人影もない。
北の沿岸部に街があるらしいけど、今いる場所からは遠すぎて見えもしない。
沿岸沿いには他にもいくつか小さな漁港と港町があって、交易のため物資を運ぶ荷馬車がまれに通るそうだ。
ガイアスくんが先に荷をおろし、手頃な石を見つけて座った。
エレイナさんとガイアスくんは、夜が明ける前に私たちと見張りを交代して、そのまま起きて動いている。
疲れていて不思議ではない。
するとバッシュくんたちがノアくんと揃って
「エレイナさん、ガイアスさん、おふたりは少し休んでください」「休んで」「休むのだ」『のだ』
と言って、エレイナさんしか作り方を知らないスープ以外、せっせとお昼ご飯の準備をはじめたのである。
なんて良くできた子たちなんだろうか。
スープの下準備が終われば後は丁寧にアクを取り除いて、味を調えていくだけ。
味見でシナップくんが光れば、魔力が回復する効能付きのスープ作りは成功だ。
湯気と香りが立ちのぼるスープを、小皿に注いでシナップくんに手渡した。
シナップくんが美味しそうにそれを飲み干して、力強く言った。
「……美味しいのだ!」
お鍋のスープに日が反射するようにしてキラッと光った。
◇
まだ日差しの明るい時間帯。
それでも太陽はやや傾きはじめ、東へ続く途切れがちな道の上で、乾いた土が風に吹かれて舞い上がる。
道端に点々と塊ように生えた草花が、この辺りの雨の少なさを物語っていた。
東の飛行船乗り場へ向かおうとすれば、どうしても魔物や魔獣と対峙しなければならない、という事態は必ず起きる。
時にはその相手が“人”ということもあるわけだ。
都市から離れ、国の秩序を保つものが遠のけば、そこには国とは違う秩序が生まれる。
「こんな街もない場所にヒトがいるのだ」
「大方、迷宮攻略のために南の地辺りに派遣でもされて、力不足で逃げ落ち、身を持ち崩して盗賊に身をやつした連中だ」
ロデリックくんがにべもなく言った。
武器を手にしたヒトたちが、大勢で私たちを取り囲んでいる。食事を終え、再び東へ進むために道へ戻った際、ヒトに出会したのがきっかけだ。
布で顔の半分と頭を隠した人物が「やれ!」と号令をかけた。
やり過ごそうと素通りしたが、見逃してはもらえないようだ。
「マクスさん、お願いする」
「了解」
効くといいなあ。
そう思いながら、私は打ち合わせ通りに手持ちの地縛術を発動させる。
【地縛り!】
「!?」「?!」「!!」
◇
目の前に、シナップくんが用意した捕縛用のロープで、ぐるぐる巻きにされた盗賊のヒトたちがいる。
「さすがです!マクスさん」「おかげで一網打尽に出来た」
エレイナさんたちがほめてくれる。
私にしてみればスゴいのはきみたちだよと思うんだけど。
10数えるほどしか効果の続かない私の捕縛術で、何十人もいる武器を手にしたヒトをあっさり捕まえちゃうんだからね。
「お手柄だ、羊君」
私たちの目の前で、縛られたヒトたちが怒鳴り散らしている。
「こっちだって、縛り付けたくてやってるわけじゃ無いんだけど!」エレイナさんが怒って言った。
盗賊のヒトがした言い訳が彼女をひどく怒らせた。
──『魔物や魔獣や野生動物だって人を襲うじゃないか!生きるためだ!おんなじだろ!!?何が悪い!俺たちは間違ってない!!』
「荒くれものなのだ」
シナップくんがそう言いながら、危ないと思うのか、それでも少し興味深いのか、少し離れた場所から棒で盗賊の一人をちょん、とつついた。
「この様子では、大怪我するまで大人しくしてくれないでしょうね」
エレイナさんがため息混じりに言った。大怪我させるわけにはいかないから縛っているわけだけど、縄をほどけと口汚く罵ってくる。
それにしても。このヒトたちをどうしたものか。
◇
「よし、これでいいだろう」
腰に手をあて誇らしげに立つガイアスくんとエレイナさん。
そのすぐ横に、ジャックくん、シナップくん、ノアくん、バッシュくん、エドくんとが、結界の外に立っていた。
結界の中には縄を解かれた盗賊のヒトたち。
「ギルドに緊急用の照明弾と、伝鳩と魔紙伝鳩を使ってお前たちを通報した。この距離なら3日くらいで近くにいる冒険者か、衛兵が回収しに来てくれるから、死ぬことはない。安心しろ」
ガイアスくんが明るい声で説明している。
「結界は5日間魔獣と魔物から護ってくれる。水と食料も置いてある」
ガイアスくんの説明を聞きながら、盗賊のヒトたちが、自分たちの置かれた状況を理解して飲み込みはじめた。
「待て、待ってくれ!ここから出してくれ!」
「改心するから!」
結界の内側から手を出そうとしても、バッシュくんたちが構築した高密度の魔力の壁に阻まれている。
「この陣は内も外も頑丈です」
「たくさん魔石も使ったんだよね。頑丈さは白金のロデリックくんで検証済み」
バッシュくんとノアくんが円らな瞳で言った。
「良かったな、魔獣に囲まれても結界のなかにいる間は大丈夫だ!」
ガイアスくんがさらに明るい声で言った。
「俺たちの肉をわけてやるんだから、改心して達者で暮らせ」
そう言うと、ガイアスくんは私たちに、
「行こうか」と、促した。
最後に盗賊のヒトたちをエレイナさんが振り返って言った。
「回復薬も置いてるわ。死んじゃうと効かないから、気を付けてね」
開けた大地に乾いた土、魔物の影と吹きすさぶ風と沈み行く太陽。
次第に夜の闇が深まるなかで、魔獣の咆哮が響き渡った。
「念のため、次に小屋でも見つけたら、そこでも報告しておこう」
中間地点にあたる飛行船乗り場まで、かなりの距離があるけれど、その周辺までいけば多少ヒトが集まる場所は増えてくる。
ヒトが集まれば、衛兵さんやギルドの出張所なんかも設けられるからね。
「全く。お前たちのお人好しに私は呆れている」
ロデリックくんがガイアスくんたちを見ずに言った。
「バッシュ、ノア、犯罪者のために魔力を使い、魔石を使い。水と食料までくれてやって。自分たちのほうが命を落としかねない行為だとわかっているか」
そこでいったん言葉をきって、少し間をあけてロデリックくんは言った。
「私たち冒険者は衛兵でもなければ慈善活動家でもない」
「武器を持って人を襲う連中を野放しには出来ません」
「出来ないよ」
「……俺たちの誰かが街に行って報せれば確実だが、20を超える人数を連れていくのは無理だ。どのみち何日か、かかる」
◇
私たちは今、バッシュくんとノアくんが構築した『屈強なコテージ』の室内にいる。
私たちと食事を済ませたあと、ロデリックくんは予定通り狩りに出かけた。
予定と変わったのは、ジャックくんとガイアスくんも一緒に狩りに付いていったことである。
私はバッシュくんやエレイナさんたちと留守番だ。
「これならロデリックくんたちが帰るのを寝ずに待たなくてもいいからね」
バッシュくんがあくびをしながら言った。
『屈強なコテージ』は、魔導ギルドと魔導研究ギルドで共同開発中の結界系の魔導術だけれど、専用の魔力紙を使っても術者は相応の魔力を求められる、居住施設としての機能を持ち合わせた強力な結界陣だ。結界内にいるだけで魔力や体力も回復する。
術者が魔力で登録した相手なら、出入りも不自由が無いという柔軟な構造になっていて、ご丁寧にちゃんと出入り口が設けられている。
発動させると3日間利用できるけれど、今のようにすぐに移動するような状態では、もったいないとも思える魔導術でもある。
ある程度水なども使えるので、盗賊に水を分けられたのもこの辺りが効いている。
これでまだ試作中だというのだから、魔導ギルドと魔導研究ギルドの本気度を感じずにいられない。
バッシュくんたちが、エレイナさんと別の部屋で眠りについたと思われる頃、私は部屋の小窓からソッと外を見た。
琥珀色に光る満月の下、魔物や魔獣が動き回る影がちらつく。
王都を出発した直後の日よりも、その数の多さは明白だ。
魔物は昼も夜も無関係に動くことが多いけれど、魔獣や野生動物は時間帯で行動を変えるものが多い。
夜に活発になるのは多くの場合、肉食の野生動物や魔獣だ。
夜は長い。
◇
翌日の朝早く私が目を覚ますと、いつの間にか戻っていたロデリックくんたちが寝台で横になって眠っていた。
どうやら明け方近くに狩りを終えて帰ったらしく、外に解体されて保存紙で包まれた肉の塊や骨などが台に置かれてある。
肉以外に野草なども採集してきたようだ。
毛皮から、捕らえたのは大型の草食魔獣、黒アテルディーテらしい。ここから少し北上した場所に群れで生息している。
品質や人気、夜でも活発な捕らえにくさから、店だと毛皮も含め、高めで扱われる部類の魔獣だ。
この量を運びながら、長距離の移動まで出来るのはガイアスくんだけだろう。ロデリックくんが、やって出来なさそうでは無いけれど、やらないだろうな。
しばらくすると、エレイナさんたちも起きてきた。
結界の外には魔獣がいるけれど、草食なのでこちらに興味が無いようだ。とはいえ、うっかりこちらから近づいたりすると、身を護ろうとして豹変する可能性は高い。
「僕たちがなにもしなくても、別のことで気が立つ可能性もある。でも今は大丈夫そうだね」
バッシュくんがノアくんと伸びをしながら言った。
「おはようなのだー」『なのだー』
少し遅れてシナップくんとエドくんも起きてきた。
ジュエルスライムのエドくんに、朝陽が反射してキラリと光る。
魔物スライムや通常のスライムは、たぶんこんな風に光ったりしないと思う。
◇
結界内の『建物』、『屈強なコテージ』の厨房で、朝食の準備を始める。
本格的な高火力の調理は難しいけれど、簡単な煮炊きは十分に出来る設備が整えられている。
鍋に油をいれ、切った野菜や肉などの材料を入れて、火を通せば料理が仕上がってくる。
熱源は火力ではなく、魔力だ。
厨房と一体型の食堂に、私たちが座って食事するのにちょうどの大きさのテーブルが置かれ、その上に水を入れた湯呑茶碗が並ぶ。
食堂に焼かれたお肉の匂いが漂い始めると、ジャックくんたちも起きて、食堂に顔を出した。
食事中もエレイナさんが容器に水を貯めている。
移動を再開する前に水を確保しておきたいからだ。
魔力だけで水を用意するのは、川や海など水場でなければ技術的な難しさと魔力切れの不安が増す。
「水はこれ以上今日は出ないみたいですね」
ノアくんが言った。
日ごとに限度が設定されているらしい。
「水属性の魔力と、周辺環境が影響するので、この辺りの水が少ないということです」
「川とかの近くならもっと水が出るのか?」
「うん。その場合は水属性の魔力が水を引き寄せる感じ」
ガイアスくんの質問にバッシュくんが引き継いで答えた。
なるほど。どうしても水が手に入らないと魔力で水を合成するけど、それだと質量的に魔力が大量に消費されるから、あまり水が出せなくなるわけだ。
水ばかりに魔力を消費すると、結界の維持が出来ない。だから限度を決めているというところかな。
私たちは朝ごはんを食べ終えると、再び道にもどり、東へ進路を取った。
今日は1度に6度、支援魔術『強脚』を発動させることが出来ている。
魔力切れの症状は無く、魔術として使える魔力量が増えているのは明らかだ。
ジャックくんとロデリックくんは元から足が速いので、バッシュくんたちの支援魔術も使っていない。
彼らに使っても、私たちが置いていかれてしまうというのが大きな理由だ。私たちにバッシュくんたちの支援魔術を使って移動速度をあげることは可能だけれど、それでは鍛練としての効果が薄いとロデリックくんは考えている。
進む速度を合わせるため、まだふたりには支援魔術による強化をせずに進んでいる。
ガイアスくんも、ロデリックくんも、王都を出て以降も重装備に戻さず、街中での私たちのような軽装だ。
他国である東の大陸へ持ち込むことが出来ない、という話だけど、移動速度も考えたものだろう。
ジュエルスライムのエドくんが、支援無しでも速い……。
いくどか魔物や魔獣と遭遇し、移動の速度は削がれたものの、出発直後の日よりも移動の速さが上がっているのがわかった。
“慣れ”というのもあるかもしれない。
3度目の支援が切れたところで、昼前に一度大きめの休憩をすることになった。
「無理を続けると、後で疲労が押し寄せて“来る”」
椅子に腰掛け、やけに優雅な所作で湯呑茶碗に注がれたお茶を飲みながら、ロデリックくんが言った。
「ロデリック、お前、中年のおっちゃんみたいだな」
ガイアスくんが笑った。
休憩の間にガイアスくんがバッシュくんとノアくんに、黒アテルディーテの大きさの違う魔石を3つ渡す。
「使えそうか?」
「いいんですか?かなり品質の良い魔石ですよ」
「結界作りに魔力が必要だろ。使ってくれ」
「ありがとうございます」
シナップくんには黒アテルディーテの毛皮や骨を渡す。
「これは高く売れるんじゃないのかね?」
「シナップは魔術でイロイロ作れるだろ?それも使ってくれ」
「わかったのだ!」
「他にも野草や木の実も採って来た。羊君たちも、後でいいから視てくれたまえ。ジャックやガイアスの確認では心許ないからな」
「了解!」
◇
昼前の休憩を終え、飛行船乗り場を目指す私たちは、周辺にいる魔物や魔獣、野生動物を避けつつ再び東へ、東へ。
すでに支援魔術『強脚』を3回し終えた後なので、魔導書の注意書に書かれた身体への負担を考え、今日はもう支援魔術を使わずに移動している。
太陽は少し移動しているけれど、まだ低い位置にある。
青い空には白い雲と薄い水色の雲、それに虹色の雲がわずかばかり薄く上空で流れながら、穏やかに晴れている。
「肉の補充もすんでるから、とりあえず回避だ」
「りょうかーい」
遠くからでもわかるくらい大きな野生の牛が、草を食んでいるのが見える。
ウッシーのごとくおとなしそうに見えるが、野生である。
私たちは距離を保ちながら東へ進む。
時おり野生の牛の周りで草がキラリと輝くのは、魔力を貯えた野草を牛が選んで食べているからだろう。
そういう野草の中には、他より多くの魔力を宿すものも現れ、たまに魔力が光を放つ。
まだまだ先は長い。
けれど、振り返ってもホレスさまの領地である宿場町バベナさえ、もう、見えない場所まで来ている。
「そろそろ休む場所に行こう。近くにヒトが使えそうな小屋は見当たらないな」
休憩小屋には街などとの連絡手段が用意されていたりすることがある。馬を休ませる屋根付きの厩舎は時折設置されているのだけれどヒトが休めそうとは言えない。
東へ進路を取ったまま、道をやや離れて休憩場所になりそうなところを探すうち、いつの間にか太陽は高く登っている。
そうして昼時を迎える頃、ようやく魔物や魔獣と距離のある場所を見つけた。
魔物と魔獣の距離も近くなってきている。
ただ南側を見ると、この辺りよりも魔物も魔獣も多そうで、北側も少ないとは言えない状態だ。
「この先は休憩する場所を探すのにも工夫がいるな」
釜戸を作るために石を組み上げながら、ガイアスくんが言った。
「いっそ魔物だらけの方がわかりやすい」
◇
今日のお昼ごはんの準備はロデリックくんとガイアスくん、ジャックくんの3人に任せたものだ。
お昼の準備を任せる間に、私たちは彼らが採って来た野草の選別を行っていた。
昔から天麩羅や揚げ物、煮物に使われる野草のほか、水と一緒にすり潰して洗浄液として使える木の実。
特に目を引いたのが、ロデリックくんが摘んできた福鷺草の花だ。瑞々しくてつやつやとしているし、日中でわかりにくいけれど光っているかも。
「これは天麩羅や揚げ物以外にも、煮物やおひたしにして食べられる、季節のお野菜ですね」
幅広の葉に包まれるように、白い鷺のようにも見える小花が集まって咲いている、見た目に可愛らしい食べられる植物だ。
これも色々な食材でスープを試すと、効能が期待できるかもしれない。
私たちはちょっぴりそんな期待をしながら、植物の選別を終えた。
「いただきます」「いただきます!」
テーブルに並ぶのは、切り分けられた果物と、焼き上げられた厚切りの黒アテルディーテの肉、厚切りのトントン肉、厚切りの焼き野菜、凍らせておいたものを温め直した魔雉肉と野菜のスープ。大きめのお皿に並べて盛り付けられた焼き菓子。
果物はヴェルニカの特産品。中の実は匙で掬える柔らかさだ。
「三人ともお疲れさま。野草で食べられないものは無かったし、どれも煮物とかスープとか、料理に使える。魔力をたっぷり持った良質なのもあったわ」
「木の実には食べられるもの以外にも、洗浄効果のあるものがありました。こちらは魔力を多く含む、良質な実がほとんどです」
エレイナさんたちがそうやって報告すると、ガイアスくんがホッとした様子になった。
「調合に使えそうなものは採らずに、食料確保を優先したんだ」
ガイアスくんがそう言いながら、焼いた肉を口にいれた。
「暗がりだと、植物が魔力で光ったときはわかりやすい。魔物や魔獣と紛らわしいこともあるけどな」
「そういえば、少ないけど光りっぱなしの植物って、どうして光ってるのかしら。光るための魔力が必要だし、目立って良くなさそうに思うんだけど」
「そうですよね」
「派手な色で虫に見つけさせる植物もある。なんか都合がいいんだろ」
彼らのそんな会話を聞きながら、道の灯り替わりに大切に世話をされているであろう、街中でやさしく光る植物の光景が、ふと私の脳裏に浮かんだ。
◇
昼食を終えてからも私たちは移動を続ける。
太陽が傾いて沈むまで、休憩を挟みつつも東へ進路を取り続け、数度、魔物や魔獣と追いかけっこのようにしながら、休息場所を見つけた。
四方開けて見通しは良い。
岩や石が多く、薄く赤茶けた砂が目立つのは、東西南と海が無く、北の沿岸部からも遠いうえ、近くに高い山もないという立地が重なり、雨が少ない乾燥状態が続いているせいだろう。
「やっぱり、バッシュたちの『コテージ』は快適だな」
バッシュくんたちの結界陣『屈強なコテージ』の食堂の椅子で、ガイアスくんがくつろいだようすで言った。
大柄なので、手足を伸ばしてのびのびとはいかないものの、不自由は感じていないらしい。
実際私から見ても、ロデリックくんが、「なぜ最初から使わない」と言ったのに頷きたくなるくらいには、快適なはずだ。
「魔力が結構たくさんいるから、もったいないじゃない」
エレイナさんがバッシュくんたちに代わって言った。
3日間効果がある結界を、一晩のために使うのはもったいないと思うのも人情だ。
昼間も魔力を消費しているし。
厨房から美味しそうな匂いが漂ってきているのに気がついて、バッシュくんたちがエレイナさんと火加減を見に行った。
厨房は食堂と続き部屋になっている。
私たちも、料理を盛るお皿や湯呑茶碗を用意して、晩ごはんの準備の仕上げに取りかかった。
シナップくんとバッシュくん、ノアくんが順に料理が盛り付けられたお皿を運び、私やガイアスくんがそれを受け取ってテーブルに並べていく。
窓に魔物探知機能が備えられた『屈強なコテージ』は、塔型迷宮でお目見えしたときよりも進化していた。
食堂にいながらにして、外のようすが四方映像で見ることが出来るようになっている。これは一部の魔獣や、伝梟の見たもの聞いた音を記録し、再現する能力を参考に研究し組み上げられた技術だ。
さらに屋上が付き、弓など投擲が地上より高い位置から行えるようになった。
しかも、広さを変えるため設計図である魔方陣が書き込まれた魔力紙を組み合わせて大きな『屈強なコテージ』を構築、発動させるには、バッシュくんたちが緻密に計算を行い、矛盾無く式を整え魔術文字に変換する必要があったのが、今はより簡単に、術者の都合で組み合わせて使用できるように改良されているらしい。
「ボクたち現場の声が届きました」と、小さな胸をノアくんがはった。
魔導ギルドに行った際に、使用についての報告のほか、要望と提案もしていたそうだ。
残念ながら通信は近距離でしか備えていない。
「情報を受け取る中継点がまだ足りていないんだ」
バッシュくんが残念そうに言った。
魔紙伝鳩もあまり遠くへは飛ばせない。距離が遠いと力尽きてしまう。載せた情報が複雑過ぎても跳ばせないのである。
万能性を誇る魔力だけれど、取り扱うのには技術も量も必要で、思った通りにはなかなかならない。
魔力で身体が構成されているはずの魔物ですら、この世界を別段思い通りに出来てはいないだろう。
自分以外の何かが存在する以上、自分以外の何かの都合も存在するのだから。
窓から外を覗けば、丸い琥珀色の月が輝いて、魔物と魔獣と野生動物が暮らすこの地を照らしているだろう。
明かりが届くことも、届かないことにも、そこに月と太陽の意志は存在しない。
ふと気がついたようすでガイアスくんが言った。
「3日経たずに『コテージ』を解除した時に“オマケ”で、『魔力ポット』が出てきたみたいだが、魔力で還してくれたりはしないんだな」
「そうしたくても出来ない感じ」
バッシュくんが答えると、ノアくんがあとを続けた。
「一度色々な物に創り変えれる状態にした魔力は、圧縮して魔石に出来なくは無いんですが、時間と無駄な消費も激しいんです」
「ちっこい魔石にするより、使えるもので返した方が無駄がないわけか」
ガイアスくんが言うとバッシュくんが頷いて言った。
「うん。発動させた時点で魔力はほとんど使ってるから、出来上がる魔石はすごく小さくなる。その点、魔力ポットは何度かお湯をちょっと沸かしたら消えちゃって終わりの魔導具だけど、魔石も水も要らないし、役に立つからね」
バッシュくんが円らな瞳で言った。
夜も更けてくる時間。
「それじゃあ、私たちは先に休むわね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなのだ」
『おやすみなのだ』
エレイナさんたちが揃って自分たち用の部屋に入っていく。
「俺たちも寝よう」
「そうだね」
私たちも自分たち用の部屋に入り、各々の寝台で横になった。
ロデリックくんは明日、また晩のうちに採集に出るつもりのようだ。新しい魔導具を試すために。
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□共有アイテム□
◇主な食料の在庫
内訳(長期保存食料143食分)
『追加保存食78食分』
『保存肉(10袋入り)低温保存中』
『シュトロンガビス鹿肉7カロ低温保存中』
『黒アテルディーテ肉9カロ低温保存中』
『冷凍魚80カロ低温保存中』
『黒アテルディーテの肉2,990カロ低温保存中』
『コッコ鶏肉255カロ(低温保存中)』『トントン肉203カロ(低温保存中)』『塩漬け肉500カロ』『果物80カロ』『野菜260カロ』『塩漬け野菜400カロ』
◇冷凍中◇
『魔雉肉と野菜のスープ(少)』『魔雉肉と野菜のスープ』
◇嗜好品お菓子(魔導系回復あり)、各種調味料、未調理穀物10日分
『カマルの特産品はちみつ5個と焼き菓子セット2箱』
『食堂のぬいぐるみ(中)』『2名食事券』『2名宿泊券』
◇魔力回復ポーション(EX102本、超回復74本、大130本、中640本、小947本)
◇治癒ポーション(治癒薬EX107本、超回復69本、大880本、中2,060本、小4,565本)、薬草(治癒1,059袋)1,059袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス (魔力回復薬小3本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本
ジャック (魔力回復薬小4本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬1本)
エレイナ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大6本、中1本、小3本)(治癒薬EX3本、超回復3本、小10本)薬草(治癒5袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
マクス (魔力回復薬EX3本、超回復5本、大5本、中5本、小9本)(治癒薬超回復5本、大5本、中10本、小18本)薬草(治癒18袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
バッシュ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
ノア (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』
□背負袋
ガイアス 『共有アイテム』『バッシュとノアの本』『エレイナ、バッシュ、ノア、シナップの荷物』『食糧』『魔導石』『入門!魔術』『魔術図鑑(魔力紙付)』
ジャック (魔力回復薬EX11本、超回復10本、大50本、中210本、小140本)(治癒薬EX1本、超回復85本、大35本、中80本、小120本)薬草(治癒10袋、解毒10袋)麻痺解除薬2本)『もしもの時の燻製肉』『魔導石』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』『野菜』『果物』
エレイナ (魔力回復薬EX3本、超回復10本、大20本、中50本、小100本)(治癒薬EX5本、超回復25本、大30本、中50本、小50本)薬草(治癒60袋、解毒20袋)麻痺解除薬2本、万能薬3つ)『お菓子』『加工魔石(高)』『魔導石』『長期保存食料2食分』
『保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』『野菜』『果物』『チーズ』
マクス (魔力回復薬大10本、中100本、小100本)(治癒薬超回復50本、大100本、中200本、小200本)薬草(治癒1,000袋、解毒30袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬4つ、万能薬4つ)『草』『魔導石』『図で解る魔導書』『焼き菓子セット1箱(7個入り残り2つ)』『長期保存食料1食分』『ロデリックの魔導書』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』『野菜』『果物』
バッシュ (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本、石化解除薬1つ、万能薬5つ)『カリカリフード』『魔導石』『長期保存食料2食分』『本』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』
ノア (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬2つ、万能薬5つ)『カリカリフード』『魔導石』『長期保存食料2食分』『本』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』『入門魔術』『魔導石』『長期保存食料12食分』『果物』
早めの朝食を終えて、私たちは再び東へ進路を取りながら、幹線道沿いに戻って歩きだしていた。
昇ったばかりの太陽が、低い位置で眩しく輝いている。
時折休憩を挟みながら、3刻ほど走る間に速い馬車や魔導車とすれ違っていた。たまにヒトが走っていたりもする。
多くはヴェルニカへの物資の配送のための荷馬車やヒト、ヴェルニカに用のある魔導車だ。
東からやってくる方の馬車や魔導車とすれ違うことはほとんど無い。
東の飛行船乗り場からこちらへ来る人たちは、大抵飛行船を乗り継ぎ移動するからだ。
ヴェルニカからも、南側の幹線道から物資が運ばれることがほとんどだ。
シナップくんが管理する塔型迷宮の入り口である洞窟がある山岳地帯もすでに通りすぎ、いよいよ王都から離れていく。
さらに言えば、バベナの東からカルディナ方面と、ヴェルニカ方面へ向かう道の分岐点以降、東の幹線道はあまり利用されなくなるばかりか、道の存在すら怪しげな場所も多々出てくる。
太陽がかなり高い位置に来たところで、ガイアスくんが言った。
「今日はかなり進めた。一度大きく休憩を取らないか。腹が減って倒れそうだ」
「賛成」「賛成です」「賛成なのだ」
ロデリックくんが時刻魔導具を確認しながら、周辺を見回して言った。
「良いだろう。今のところ上出来だ」
そうロデリックくんが言ったので、バッシュくんたちの表情がパッと明るくなった。
昼食も兼ねて2刻ほどを休憩に充てる。
道から少し離れ、邪魔にならなさそうな場所を見繕うと、バッシュくんたちと結界を張り、早速休憩の準備をはじめた。
休憩場所の広さを決めると、
「このあたりからは少し強化した結界にしたいね」
そう言ってバッシュくんたちが小さな魔石を地面に何ヵ所も置いていった。
全部で12個を置き終わると、防御陣を発動させた。
ガイアスくんの方は石を組んで釜戸を作ってくれた。
「煮炊きが出来るようになったぞ」
「了解、お疲れさま」
シナップくんが用意してくれた作業台や、椅子にテーブルが揃うと、屋根が無いだけで立派な家みたいだ。
バッシュくんとノアくんが、ロデリックくんになるべく結界に触れないように注意していた。
ロデリックくんが迂闊に触れると、結界が魔力を消費して、効果時間が減るそうだ。
弱まらない代わりに、魔力を犠牲にして維持するんだね。
「私が触ったぐらいで壊れるような結界などより、ちゃんとしたものを作りたまえ!」
と、少し憤慨していた。
◇
野菜とお肉がたっぷり使われたスープの匂いを、吸い込むようにしてシナップくんが言った。
「良い匂いなのだ」
「味見してみる?」
エレイナさんはそう言うと、小皿に出来上がったばかりのスープを掬い入れてシナップくんに渡した。
「飲んでもいいのだ?」
「熱いから気を付けてね」
「うんなのだ」
シナップくんが、小皿に入ったスープをソッと飲む。
すると金色の目を見開いて動きを止めた。
「どお?味が薄かったかな?」
エレイナさんが少し心配になったのか尋ねた。
「美味しいのだ!すごく美味しい」
「よかった」
安心してエレイナさんが笑った。
シナップくんが、少し残った小皿のスープを美味しそうに飲み干した。
日の光が反射したのか、心なしか、シナップくんが光った気がする。
出来上がった料理をお皿に盛りつけ、テーブルに置く。
昼はホイさんのお店で買った『魔雉』のスープだ。
昨日は南側で購入した雉肉の煮込み汁だった。
晩と違い、透き通った煮汁に仕上がっている。
野菜は市場の南側でロデリックくんが購入したものだ。
朝の光が反射すると鍋に入ったままでキラッと光るし、シナップくんの反応からしても、味に非常に期待が持てる。
テーブルに水の入った湯呑茶碗と、ふかした芋、パンとチーズ、炊いたごはん、野菜の盛付け、薄く削いで焼いた肉が並んだ。
「よし、しっかり食べないと動けないからな」
並べられた料理と、まだ乗せていない鍋の料理を確認してガイアスくんが満足そうに、真っ直ぐに立って腰に両手を添えた。
◇
昼の長めの休憩を済ませ、幹線道沿いに戻った私たちは、再び東へ向かって歩く。
「いったいどの食材が良かったんだ?」
「わからん、市場の野菜と魔雉。どちらも可能性がある。複合的な効果の可能性もあるな」
話しているのは、食事に現れた効能についてだ。
現れたのは疲労回復と大幅な魔力の回復。
効能は「僕たち、結界に結構魔力を使ったはずなんだよね」と言って、バッシュくんが最初に首をかしげたことで判明した。
感じるだけでなく、その気になれば魔力を視ることも出来るらしいので、彼らがわざわざ言う『回復』は気のせいではない。
疲労回復だけであれば、休息によるものとも考えられるのだけれど、魔力が大きく回復したとなると、それでは片付けられない。
ひとまず私たちが取った行動は、効能付きのスープの一時的な保存である。
「魔力を使って保存するだけの価値は一応ある」
という判断だ。
「魔雉は雉の中でも特に魔力が高いものですから、効能が現れても不思議ではありませんが」
「今までにも魔雉の料理はたまには食べてるもんね」
バッシュくんとノアくんが顔を見合わせたところで、ロデリックくんが買った野菜と、魔雉肉の相性が良かったと結論付け、今に至っている。
「色々試したいところだが、魔雉の肉が足りなさそうだ」
「野菜もよ。お肉と野菜の分量の影響も考えると、同じ食材で同じようにスープを作るのが無難ね」
「今日の晩も、魔雉と野菜のスープで決まりだな」
ガイアスくんがそう言うと、ロデリックくんが待ったをかけた。
「晩ではどのみち休息するだろう。試すなら明日の昼だ」
「魔雉の肉も低温保存か」
「それが望ましい」
アルファルト大陸の中央から南にかけては温暖な気候だ。
通常の気温での生鮮食品の食材保存は、専用の保存紙を使ってもあまり長くもたない。
冷やす、凍らせる以外だと魔力紙を使った特殊加工の保存紙が流通しているものの、仕入値も高価で店などで普通使われない。
ロデリックくんは元々、白銀月の満月の影響を受けた食材が手にはいることを期待して買い物をしていたけれど、スープの効能は予想外だったようだ。
満足げな表情で「明日は琥珀月が満月だ」と言った。
てっきり昨日が満月だと思ったけれど、違ったらしい。
「狩りをしている時間なんか無いんじゃないのか?」
ロデリックくんの様子に、ガイアスくんが言うと、「夜に出る。お前たちは休んで待っていると良い」と、返した。
どうやら数日の間、夜のうちだけ一人で狩りと、採集に出るつもりのようだ。
◇
お昼に取った食事休憩後、数度の短い休憩を取りながら、東へ進むこと3刻。
辺りは夜が近づき次第に暗くなりはじめていた。
山の方では雨が降っているらしく、上空に雲が広がり、山は白く煙るように霞んで見えている。
私たちがいる場所に雲はなく、雨が降る様子は今のところ無い。
「そろそろ休む場所に行くか。この辺にテントを張っても問題なさそうに思えるが」
「一応、人や馬車が通る道だから」
見回すと、周辺に見える建物らしきものが遠く小さくなって、道も整備が追い付いていない様相の箇所が増えてきた。
ヴェルニカ方面への分岐地点はとっくに通りすぎて、遠く南に半球型の結界で覆われたヴェルニカが霞んでいる。
ガレディア領内と定められてはいるけれど、それは人が決めた取り決めに過ぎない。
──魔物と、魔獣、野に生きるあらゆる動植物。
──果てはどれにも属さぬ魔を持つ生物たち。
この地は実質、彼らの世界。
都市を離れれば余所者は人の方である。
『そもそも、この世界が人のものじゃないのだ』
ジュエルスライムのエドくんが、まるで私の内心を読んだかのように言った。
私たちの周囲に魔物が現れ、衝突は避けられそうにもない。
「灰色大狼に似ているが違う。魔物か?」
「黒い霧が出ているので、魔物です」
「違ったとしても、体の殆どが変質した魔力に置き換わってる」
ガイアスくんの問いかけに、ノアくんとバッシュくんが順に答えた。
「不死か」
──不死
身体の回復力がうまく機能せずに、変質した魔力が欠損した体をそれっぽく構築してしまった状態の生きる屍。
魔力で構成された部分の殆ど無い、人や野生動物では見られない、魔獣特有の魔物化だ。
もはや身体に備わった本能によって、肉体を模倣した再構築が繰り返され、生存本能が体をただ動かし続けているに過ぎない。
「休憩場所を探してただけなんだけどなあ」
ガイアスくんが技能で『大盾』を展開する。
瞬間、灰色大狼型の魔物が一瞬弾かれ後退した。殆ど同時に、バッシュくんとノアくんが私たち全員に身体強化の魔導術を発動。
素早くジャックくんとロデリックくんが前方へ飛び出し、こちらへ向かおうとする大狼に連続で打撃による攻撃を加えた。
ズザァァッ!
という音が辺りに響き、反動と衝撃で、地面を抉るように不死の大狼の体が横倒しになった。破壊された大狼の体から黒い霧が吹き出し、夜の闇が一層濃くなったように感じられる。
『マクスくん、この“魔物”を、不死にしたものが近くにいるかも知れないのだ』
エドくんが言った。
言われてみるとそうだ。
私は慌てて魔物の黒い霧に染まったままの、周囲を見回した。
バッシュくんとノアくんも一緒に辺りを探る。
作動させた私の魔物探知機に特別な反応は見られない。
「離れた場所に大きな反応がいくつかあるので、そのどれかにやられてしまったのかも知れません。この辺りで灰色大狼に勝てる魔物や魔獣は、同種の灰色大狼以外だと……ワイバーンとかドラゴン?」「そうとは限らないよ。病気で弱っていたらもっと弱い魔物でも」
バッシュくんとノアくんが最終的に首をかしげた。
ひとまず、目の前の大狼の魔物に集中していれば大丈夫そうだ。
王都のアリオン迷宮の魔物を、一撃で倒せてしまえるロデリックくんでも、この大狼には何度も攻撃を加えている。
ただ、苦戦しているというよりは、魔力による見せかけの再構築を終わらせるのに時間がかかっている印象だ。
「残念だけど。何度も死にすぎて、キミはもう魔物ですらないのだ」シナップくんが言った。
灰色大狼の姿をした不死の魔物。
その全てが喪われ、夜の風に吹かれて塵のように散っていくまで。それを時間に表すと、さして多くの時間はかかっていなかった。
本来、魔獣である灰色大狼であれば、死んで残すはずの肉も、骨も、毛皮も、血の一滴さえも残らなかった。
わずかに散った灰のような塵が、あの不死の魔物が魔獣であった証だっただろうか。
◇
テーブルの上に並べられたパンとチーズに器に盛った白いごはん。鉄の板で焼いた厚切りのトントン肉、コッコ肉、焼き野菜、焼きキノコ。
バッシュくんとノアくんが構築した防御陣の中に、晩の食事の準備が整いはじめた。
ロデリックくんは、先にエレイナさんと下ごしらえを終えた達成感からなのか、早くも椅子で一人寛いでいる。
4ヶ所に吊るした携帯式灯火と焚き火が辺りを照らし、月明かりも手伝って夜だというのに室内にいるかのように明るい。
違うといえば、明るさが場所によってばらついているくらいだ。
「いただきます」
「いただきまーす」
「いただきます、なのだ」
『ますのだ!』
野菜もお肉も、塩で軽く味を整えただけだけど、美味しい。
「肉の脂が野菜と合うんだよな」
ガイアスくんも、お肉と一緒に焼いた薄切りの野菜とキノコを、美味しそうにバクバクと食べている。
ジャックくんが塊のお肉に切れ目を入れて、鉄板の上に追加した。エレイナさんはチーズを投入している。
私は野菜を追加する。
焼き上がった肉と野菜を、バッシュくんたちも取り皿に取って、美味しそうに食べている。
「野菜が甘くて美味しいのだ!」
「ほんとだね」
「脂で焼けたところが、特に美味しい」
『のだ!芳ばしいのだ』
4人とも、昨日より距離もたくさん歩いているけれど、調子は良さそうだ。朝までしっかり休めば問題ないだろう。
◇
バッシュくんやシナップくんがテントで休む時間帯。
夜の警戒はエレイナさん、ジャックくん、ロデリックくん、ガイアスくん、私、エドくんが交代で行う。
「エドちゃんは眠って良いのよ」
と、エレイナさんが言ったけれど、エドくんは『見張る』という意思を示したので、シナップくんが許可したのである。
「わかったのだ。なら頑張るのだ」
『うん』
「じゃあ、エドは最初の2刻をジャックと一緒に見張って、何かあれば俺たちを起こす役だ」
『わかったのだ』
ガイアスくんがそう言うと、エドくんが素直に返事をした。
エドくんは強いので正直頼もしい。
アリオン迷宮でも『鉄蟻』や『鉄蜘蛛』の攻撃で怪我をする風もなく、ロデリックくんは地下9階でエドくんが加勢するのを止めていたくらいである。
地下10階では魔導術が効きにくい魔物たちを、魔導術で倒していた。
ただ人語を話せるだけのジュエルスライムではない。
◇
夜24刻頃 高い場所に琥珀色の月が輝いている。
「すっかり満月のように見えるけど、本当はまだなんだね」
「そうらしい」
私が言うのに対し、ロデリックくんが月を見上げて答えてくれた。エドくんとジャックくんのふたりと交代して、防御陣の中で見張りをしている最中だ。
見張りと言っても、私は魔導具を使っているだけなんだけど。
「ところで羊君」
「なんだい、ロデリックくん」
「ジェイドから授かった鍛練はうまくいっているか」
「……」
………え?
すっかり忘れてたとか、言えそうにない感じだろうか。
本当に忘れてた訳じゃないんだけど。
「1度に4回しか使えなかった『強脚』を、1度に5回使えるようになったよ。基礎魔力が上がったんだよ」
私がどうにか答えると、ロデリックくんが無言で返してきた。
ロデリックくんのように成果を出すのが早い人にとって、私のようなのは、ものすごく遅いのだろう。
私がそんなことを考えていると、
「言い直そう。基礎体力の方はどうだ。例えば前より疲れにくくなっているとかだ。君の使える魔力が増えていることは、使っているのを見ているから、聞かずともわかっている」
私はようやく彼の聞きたいことがわかった。
「おかげさまで、疲れにくくなっているよ。今日も朝から歩いて今の時間までなんともない。前とは全然違うね」
私がそう答えると、珍しく前傾姿勢で手を組んで座っていたロデリックくんが、いつものように姿勢を正し、椅子に深く座り直した。
パチ、パチと焚き火の音が響く。
結界の外側に見える、月明かりだけがたよりの暗闇の向こう側に、いくつもの影が動いている。
「もう少し先ーーーあと50カロノーツほど先で私の知り合いが待っている。予定では迷宮で魔導具を入手しているはずだ」
おもむろにロデリックくんが立ち上がった。
立ち上がる際に足下に落ちていた小石を2個3個拾い上げて。
携帯式灯火の明かりが届かない先にいる、こちらに向かって近づいてくる黒い影。
魔物であることを認識できるか出来ないかの頃合い、私の魔力探知機が振動するのと殆ど同時に、ロデリックくんの手から小石が勢い良く放たれた。
3つの小石は、結界を通り抜ける際に一瞬わずかな歪みを生んだものの、すでにそれは修復されている。
魔物はといえば、叫び声をあげる間もなく消え去ってしまった。
おそらく、ロデリックくんは、自身が触れると結界を傷つけるので、小石を投げたのだと思うけど。
「この結界は外からの攻撃に対して強靭だが、内から外に攻撃を通す構造が欠点でもある。私が外に出るのは容易だが、その際結界が消耗してしまう。但し、それはこちら側の力をそのまま外に撃ち出すことが容易ということでもある」
つまり、ロデリックくんがさっき投げた小石には、ロデリックくんの魔力なりそれに近い力を籠めて放ったということだろうか。
「こういう対応でないと、バッシュたちに怒られる上に、修復された結界の外に私が閉め出されてしまうからな」
◇
王都出発から4日目の早朝
私たちとの見張りの交代後から、そのまま起きていたエレイナさんとガイアスくんが、魔物探知機を作動させた状態で朝食の下ごしらえをしている。
「おはよう、マクスさん」「おはようございます」
起きてきた私に気づいて、ガイアスくんたちが揃って挨拶をしてくれた。
「おはよう、ガイアスくん、エレイナさん」
しばらくすると、ロデリックくんとジャックくん、バッシュくんたちもテントから出て来た。
「おはよう」「おはようございます」「おはようなのだよ」『なのだよ』
防御陣の角に設けた水場で、それぞれが身支度を整える頃には
、テーブルの上に飲み物や料理が並びはじめていた。
今朝の献立の中心は焼き魚だ。
甘味に、市場で買った果物が食べやすいように切られてお皿に並べられている。
鍋で野菜やキノコと一緒に炊かれた穀物が、美味しそうな匂いを漂わせている。最後にそれを器に盛り、テーブルの上に並べ終えたところで食事が始まった。
「いただきます」
蒸し焼きにされた野菜が、ほどよくしゃきしゃきとした食感を残し、その甘さが白身魚の塩焼きを引き立てている。
ノアくんは火がしっかり通って、少しくたっとなった野菜の方が好きなようだ。
「朝にかけて魔物と魔獣、両方近くまできたが、魔物が魔獣の方に向かって行ったんで、特にすることはなかった」
「第一、バッシュちゃんとノアちゃんの結界は強力だしね」
と、ガイアスくんとエレイナさんが報告してくれた。
明るくなってくる時間帯で、魔獣の方は住み処に帰ったようだ。
この辺の習性の違いが、ガレディアで魔獣と魔物を区別してとらえる所以なのだろう。
◇
朝の食事を終えてしばらく進むと、北側に連なるようにあった山々が途切れた。
途中には川もあり橋を渡った。
今は北へも広い平野が広がり、代わりに南の内陸部に隆起した土地や山が現れる。
火山によって生じた地形だ。
雨も多く、いくつかの川が合流する中流から下流にかけて豊かな森林や土壌が形成される一方で、多くの魔物と魔獣、野生動物が棲息しながら、一体となってヴェルニカ周辺地域を支えている。
その様は、大陸の南側を統べるレオパルドに似ていると云われる。
「迷宮目当てにやってくる冒険者も多いらしいが、一筋縄で行かず、長期滞在者になるのが常だ」
そこであきらめて帰らないのが探索者や冒険者なんだね。
北側の山が途切れると、ロデリックくんが歩く速度を落としはじめた。
前方に立っている人影が見える。
──そういえば知り合いが待っていると言っていたような。
上から下まで動きやすそうな、濃い深緑色をした全身を被う衣服を身につけた青年が、足下に大きめの袋状の荷を置き、こちらの方を向いて立っている。
「待たせたな」というロデリックくんの言葉に、青年が「予定では昨日のうちに来るんじゃなかったか」と返す。
「こちらにも都合がある。それに、昨日のうちに私が本当に到着していて、そちらは問題なかったのか?」
悪びれる風もなく、ロデリックくんが言った。
青年が一瞬だけ苦虫を噛み潰したような表情を見せたが、すぐに気を取り直した様子で、荷の中から魔導具らしきものを取り出した。
それを勢いよくロデリックくんの顔近くに突き出し、言った。
「約束のものだ!」
ロデリックくんの表情は柔らかく、微笑んでいるようにさえ見えた。
顔の前に差し出された魔導具を確認できたのか、それを左手で受け取ると、懐から紙の束を取り出し、それを青年に手渡した。
ゴールド紙幣だ。
現行の人社会で、多くの国に共通して流通している貨幣。
他にシルバー紙幣がある。
ただ、まだ流通が少ない。
両替の必要が無く、硬貨と違い重くないため注目されているが、通常の紙幣同様、火や水、衝撃にも弱い、偽造が容易いなど、まだ課題が多い。
偽造に関して言えば、硬貨にも同じことが言えるのだけど。
青年はロデリックくんからお金を受け取ると、特別な確認はしないで自分の荷物入れに仕舞いこみ、「依頼のものをたしかに渡したし、報酬も受け取った!」と言うと、南の方へ走り去った。
一瞬でも目を離すと、すでに別の場所に移っており、その姿は驚くほどあっという間に小さな人影になってしまい、見失ったほどだ。
精鋭の百犬隊を身内に持つバッシュくんとノアくんでさえ、少し驚いている。
「ヤツは『神速』の技能を獲得している」
そんな私たちにロデリックくんが言った後、「あの技能で上級の迷宮を探索している」と続けた。
「ヒトは見かけによらないのだ!」
「じゃあ、さっきのヒトはものすごく強いんですか」
と、シナップくんとノアくんが言うと、ロデリックくんがおかしそうに笑いながら言った。
「魔物を討伐できるかどうかを強さと呼ぶなら、ノア、シナップ、きみたちの方が強い。魔導術を使わずにヤツを倒せるだろうな」
「ええ?!」
困惑するノアくんと少し違って、バッシュくんが言った。
「ひょっとして逃げ回ってるの」
「その通りだバッシュ。ヤツは驚くべき速さで攻撃を避けるし、異常なほど逃げ足が速い」
「逃げ足」
神速……。
「すごいのかすごくないのか、よくわからないスゴさがあるのだ!」
そう言ったのはシナップくんだ。
「でも、それだとどうやって迷宮を攻略するんですか」
続けて言ったノアくんに、ロデリックくんが答えた。
「ヤツが狙うのは魔物から得られる素材や魔石ではない。ヤツが求めるのは未踏破の迷宮にある、『仕掛け』だ」
「そうか、罠の先にある宝や、手付かずの資源が目当てで潜っているのか」
ガイアスくんが言うと、ロデリックくんがうなずいて言った。
「それがほぼ正解と言って良いだろうな」
◇
ロデリックくんと青年の取り引きを見届け、再び歩きはじめてから数刻が経った。
朝からまとまった休憩を取らずに歩を進めている。
「そろそろ昼飯にしていい時間だ」
ガイアスくんが歩く速さを緩めながら言った。
道から少し移動して、よさそうな場所を見繕う。
「ここなら道にすぐに戻れるし、見晴らしが良いから魔物や魔獣にも対応しやすいわ」
四方に視界を遮るものもなく、魔物や魔獣からもそれなりの距離が取れている。冒険者らしき人影もない。
北の沿岸部に街があるらしいけど、今いる場所からは遠すぎて見えもしない。
沿岸沿いには他にもいくつか小さな漁港と港町があって、交易のため物資を運ぶ荷馬車がまれに通るそうだ。
ガイアスくんが先に荷をおろし、手頃な石を見つけて座った。
エレイナさんとガイアスくんは、夜が明ける前に私たちと見張りを交代して、そのまま起きて動いている。
疲れていて不思議ではない。
するとバッシュくんたちがノアくんと揃って
「エレイナさん、ガイアスさん、おふたりは少し休んでください」「休んで」「休むのだ」『のだ』
と言って、エレイナさんしか作り方を知らないスープ以外、せっせとお昼ご飯の準備をはじめたのである。
なんて良くできた子たちなんだろうか。
スープの下準備が終われば後は丁寧にアクを取り除いて、味を調えていくだけ。
味見でシナップくんが光れば、魔力が回復する効能付きのスープ作りは成功だ。
湯気と香りが立ちのぼるスープを、小皿に注いでシナップくんに手渡した。
シナップくんが美味しそうにそれを飲み干して、力強く言った。
「……美味しいのだ!」
お鍋のスープに日が反射するようにしてキラッと光った。
◇
まだ日差しの明るい時間帯。
それでも太陽はやや傾きはじめ、東へ続く途切れがちな道の上で、乾いた土が風に吹かれて舞い上がる。
道端に点々と塊ように生えた草花が、この辺りの雨の少なさを物語っていた。
東の飛行船乗り場へ向かおうとすれば、どうしても魔物や魔獣と対峙しなければならない、という事態は必ず起きる。
時にはその相手が“人”ということもあるわけだ。
都市から離れ、国の秩序を保つものが遠のけば、そこには国とは違う秩序が生まれる。
「こんな街もない場所にヒトがいるのだ」
「大方、迷宮攻略のために南の地辺りに派遣でもされて、力不足で逃げ落ち、身を持ち崩して盗賊に身をやつした連中だ」
ロデリックくんがにべもなく言った。
武器を手にしたヒトたちが、大勢で私たちを取り囲んでいる。食事を終え、再び東へ進むために道へ戻った際、ヒトに出会したのがきっかけだ。
布で顔の半分と頭を隠した人物が「やれ!」と号令をかけた。
やり過ごそうと素通りしたが、見逃してはもらえないようだ。
「マクスさん、お願いする」
「了解」
効くといいなあ。
そう思いながら、私は打ち合わせ通りに手持ちの地縛術を発動させる。
【地縛り!】
「!?」「?!」「!!」
◇
目の前に、シナップくんが用意した捕縛用のロープで、ぐるぐる巻きにされた盗賊のヒトたちがいる。
「さすがです!マクスさん」「おかげで一網打尽に出来た」
エレイナさんたちがほめてくれる。
私にしてみればスゴいのはきみたちだよと思うんだけど。
10数えるほどしか効果の続かない私の捕縛術で、何十人もいる武器を手にしたヒトをあっさり捕まえちゃうんだからね。
「お手柄だ、羊君」
私たちの目の前で、縛られたヒトたちが怒鳴り散らしている。
「こっちだって、縛り付けたくてやってるわけじゃ無いんだけど!」エレイナさんが怒って言った。
盗賊のヒトがした言い訳が彼女をひどく怒らせた。
──『魔物や魔獣や野生動物だって人を襲うじゃないか!生きるためだ!おんなじだろ!!?何が悪い!俺たちは間違ってない!!』
「荒くれものなのだ」
シナップくんがそう言いながら、危ないと思うのか、それでも少し興味深いのか、少し離れた場所から棒で盗賊の一人をちょん、とつついた。
「この様子では、大怪我するまで大人しくしてくれないでしょうね」
エレイナさんがため息混じりに言った。大怪我させるわけにはいかないから縛っているわけだけど、縄をほどけと口汚く罵ってくる。
それにしても。このヒトたちをどうしたものか。
◇
「よし、これでいいだろう」
腰に手をあて誇らしげに立つガイアスくんとエレイナさん。
そのすぐ横に、ジャックくん、シナップくん、ノアくん、バッシュくん、エドくんとが、結界の外に立っていた。
結界の中には縄を解かれた盗賊のヒトたち。
「ギルドに緊急用の照明弾と、伝鳩と魔紙伝鳩を使ってお前たちを通報した。この距離なら3日くらいで近くにいる冒険者か、衛兵が回収しに来てくれるから、死ぬことはない。安心しろ」
ガイアスくんが明るい声で説明している。
「結界は5日間魔獣と魔物から護ってくれる。水と食料も置いてある」
ガイアスくんの説明を聞きながら、盗賊のヒトたちが、自分たちの置かれた状況を理解して飲み込みはじめた。
「待て、待ってくれ!ここから出してくれ!」
「改心するから!」
結界の内側から手を出そうとしても、バッシュくんたちが構築した高密度の魔力の壁に阻まれている。
「この陣は内も外も頑丈です」
「たくさん魔石も使ったんだよね。頑丈さは白金のロデリックくんで検証済み」
バッシュくんとノアくんが円らな瞳で言った。
「良かったな、魔獣に囲まれても結界のなかにいる間は大丈夫だ!」
ガイアスくんがさらに明るい声で言った。
「俺たちの肉をわけてやるんだから、改心して達者で暮らせ」
そう言うと、ガイアスくんは私たちに、
「行こうか」と、促した。
最後に盗賊のヒトたちをエレイナさんが振り返って言った。
「回復薬も置いてるわ。死んじゃうと効かないから、気を付けてね」
開けた大地に乾いた土、魔物の影と吹きすさぶ風と沈み行く太陽。
次第に夜の闇が深まるなかで、魔獣の咆哮が響き渡った。
「念のため、次に小屋でも見つけたら、そこでも報告しておこう」
中間地点にあたる飛行船乗り場まで、かなりの距離があるけれど、その周辺までいけば多少ヒトが集まる場所は増えてくる。
ヒトが集まれば、衛兵さんやギルドの出張所なんかも設けられるからね。
「全く。お前たちのお人好しに私は呆れている」
ロデリックくんがガイアスくんたちを見ずに言った。
「バッシュ、ノア、犯罪者のために魔力を使い、魔石を使い。水と食料までくれてやって。自分たちのほうが命を落としかねない行為だとわかっているか」
そこでいったん言葉をきって、少し間をあけてロデリックくんは言った。
「私たち冒険者は衛兵でもなければ慈善活動家でもない」
「武器を持って人を襲う連中を野放しには出来ません」
「出来ないよ」
「……俺たちの誰かが街に行って報せれば確実だが、20を超える人数を連れていくのは無理だ。どのみち何日か、かかる」
◇
私たちは今、バッシュくんとノアくんが構築した『屈強なコテージ』の室内にいる。
私たちと食事を済ませたあと、ロデリックくんは予定通り狩りに出かけた。
予定と変わったのは、ジャックくんとガイアスくんも一緒に狩りに付いていったことである。
私はバッシュくんやエレイナさんたちと留守番だ。
「これならロデリックくんたちが帰るのを寝ずに待たなくてもいいからね」
バッシュくんがあくびをしながら言った。
『屈強なコテージ』は、魔導ギルドと魔導研究ギルドで共同開発中の結界系の魔導術だけれど、専用の魔力紙を使っても術者は相応の魔力を求められる、居住施設としての機能を持ち合わせた強力な結界陣だ。結界内にいるだけで魔力や体力も回復する。
術者が魔力で登録した相手なら、出入りも不自由が無いという柔軟な構造になっていて、ご丁寧にちゃんと出入り口が設けられている。
発動させると3日間利用できるけれど、今のようにすぐに移動するような状態では、もったいないとも思える魔導術でもある。
ある程度水なども使えるので、盗賊に水を分けられたのもこの辺りが効いている。
これでまだ試作中だというのだから、魔導ギルドと魔導研究ギルドの本気度を感じずにいられない。
バッシュくんたちが、エレイナさんと別の部屋で眠りについたと思われる頃、私は部屋の小窓からソッと外を見た。
琥珀色に光る満月の下、魔物や魔獣が動き回る影がちらつく。
王都を出発した直後の日よりも、その数の多さは明白だ。
魔物は昼も夜も無関係に動くことが多いけれど、魔獣や野生動物は時間帯で行動を変えるものが多い。
夜に活発になるのは多くの場合、肉食の野生動物や魔獣だ。
夜は長い。
◇
翌日の朝早く私が目を覚ますと、いつの間にか戻っていたロデリックくんたちが寝台で横になって眠っていた。
どうやら明け方近くに狩りを終えて帰ったらしく、外に解体されて保存紙で包まれた肉の塊や骨などが台に置かれてある。
肉以外に野草なども採集してきたようだ。
毛皮から、捕らえたのは大型の草食魔獣、黒アテルディーテらしい。ここから少し北上した場所に群れで生息している。
品質や人気、夜でも活発な捕らえにくさから、店だと毛皮も含め、高めで扱われる部類の魔獣だ。
この量を運びながら、長距離の移動まで出来るのはガイアスくんだけだろう。ロデリックくんが、やって出来なさそうでは無いけれど、やらないだろうな。
しばらくすると、エレイナさんたちも起きてきた。
結界の外には魔獣がいるけれど、草食なのでこちらに興味が無いようだ。とはいえ、うっかりこちらから近づいたりすると、身を護ろうとして豹変する可能性は高い。
「僕たちがなにもしなくても、別のことで気が立つ可能性もある。でも今は大丈夫そうだね」
バッシュくんがノアくんと伸びをしながら言った。
「おはようなのだー」『なのだー』
少し遅れてシナップくんとエドくんも起きてきた。
ジュエルスライムのエドくんに、朝陽が反射してキラリと光る。
魔物スライムや通常のスライムは、たぶんこんな風に光ったりしないと思う。
◇
結界内の『建物』、『屈強なコテージ』の厨房で、朝食の準備を始める。
本格的な高火力の調理は難しいけれど、簡単な煮炊きは十分に出来る設備が整えられている。
鍋に油をいれ、切った野菜や肉などの材料を入れて、火を通せば料理が仕上がってくる。
熱源は火力ではなく、魔力だ。
厨房と一体型の食堂に、私たちが座って食事するのにちょうどの大きさのテーブルが置かれ、その上に水を入れた湯呑茶碗が並ぶ。
食堂に焼かれたお肉の匂いが漂い始めると、ジャックくんたちも起きて、食堂に顔を出した。
食事中もエレイナさんが容器に水を貯めている。
移動を再開する前に水を確保しておきたいからだ。
魔力だけで水を用意するのは、川や海など水場でなければ技術的な難しさと魔力切れの不安が増す。
「水はこれ以上今日は出ないみたいですね」
ノアくんが言った。
日ごとに限度が設定されているらしい。
「水属性の魔力と、周辺環境が影響するので、この辺りの水が少ないということです」
「川とかの近くならもっと水が出るのか?」
「うん。その場合は水属性の魔力が水を引き寄せる感じ」
ガイアスくんの質問にバッシュくんが引き継いで答えた。
なるほど。どうしても水が手に入らないと魔力で水を合成するけど、それだと質量的に魔力が大量に消費されるから、あまり水が出せなくなるわけだ。
水ばかりに魔力を消費すると、結界の維持が出来ない。だから限度を決めているというところかな。
私たちは朝ごはんを食べ終えると、再び道にもどり、東へ進路を取った。
今日は1度に6度、支援魔術『強脚』を発動させることが出来ている。
魔力切れの症状は無く、魔術として使える魔力量が増えているのは明らかだ。
ジャックくんとロデリックくんは元から足が速いので、バッシュくんたちの支援魔術も使っていない。
彼らに使っても、私たちが置いていかれてしまうというのが大きな理由だ。私たちにバッシュくんたちの支援魔術を使って移動速度をあげることは可能だけれど、それでは鍛練としての効果が薄いとロデリックくんは考えている。
進む速度を合わせるため、まだふたりには支援魔術による強化をせずに進んでいる。
ガイアスくんも、ロデリックくんも、王都を出て以降も重装備に戻さず、街中での私たちのような軽装だ。
他国である東の大陸へ持ち込むことが出来ない、という話だけど、移動速度も考えたものだろう。
ジュエルスライムのエドくんが、支援無しでも速い……。
いくどか魔物や魔獣と遭遇し、移動の速度は削がれたものの、出発直後の日よりも移動の速さが上がっているのがわかった。
“慣れ”というのもあるかもしれない。
3度目の支援が切れたところで、昼前に一度大きめの休憩をすることになった。
「無理を続けると、後で疲労が押し寄せて“来る”」
椅子に腰掛け、やけに優雅な所作で湯呑茶碗に注がれたお茶を飲みながら、ロデリックくんが言った。
「ロデリック、お前、中年のおっちゃんみたいだな」
ガイアスくんが笑った。
休憩の間にガイアスくんがバッシュくんとノアくんに、黒アテルディーテの大きさの違う魔石を3つ渡す。
「使えそうか?」
「いいんですか?かなり品質の良い魔石ですよ」
「結界作りに魔力が必要だろ。使ってくれ」
「ありがとうございます」
シナップくんには黒アテルディーテの毛皮や骨を渡す。
「これは高く売れるんじゃないのかね?」
「シナップは魔術でイロイロ作れるだろ?それも使ってくれ」
「わかったのだ!」
「他にも野草や木の実も採って来た。羊君たちも、後でいいから視てくれたまえ。ジャックやガイアスの確認では心許ないからな」
「了解!」
◇
昼前の休憩を終え、飛行船乗り場を目指す私たちは、周辺にいる魔物や魔獣、野生動物を避けつつ再び東へ、東へ。
すでに支援魔術『強脚』を3回し終えた後なので、魔導書の注意書に書かれた身体への負担を考え、今日はもう支援魔術を使わずに移動している。
太陽は少し移動しているけれど、まだ低い位置にある。
青い空には白い雲と薄い水色の雲、それに虹色の雲がわずかばかり薄く上空で流れながら、穏やかに晴れている。
「肉の補充もすんでるから、とりあえず回避だ」
「りょうかーい」
遠くからでもわかるくらい大きな野生の牛が、草を食んでいるのが見える。
ウッシーのごとくおとなしそうに見えるが、野生である。
私たちは距離を保ちながら東へ進む。
時おり野生の牛の周りで草がキラリと輝くのは、魔力を貯えた野草を牛が選んで食べているからだろう。
そういう野草の中には、他より多くの魔力を宿すものも現れ、たまに魔力が光を放つ。
まだまだ先は長い。
けれど、振り返ってもホレスさまの領地である宿場町バベナさえ、もう、見えない場所まで来ている。
「そろそろ休む場所に行こう。近くにヒトが使えそうな小屋は見当たらないな」
休憩小屋には街などとの連絡手段が用意されていたりすることがある。馬を休ませる屋根付きの厩舎は時折設置されているのだけれどヒトが休めそうとは言えない。
東へ進路を取ったまま、道をやや離れて休憩場所になりそうなところを探すうち、いつの間にか太陽は高く登っている。
そうして昼時を迎える頃、ようやく魔物や魔獣と距離のある場所を見つけた。
魔物と魔獣の距離も近くなってきている。
ただ南側を見ると、この辺りよりも魔物も魔獣も多そうで、北側も少ないとは言えない状態だ。
「この先は休憩する場所を探すのにも工夫がいるな」
釜戸を作るために石を組み上げながら、ガイアスくんが言った。
「いっそ魔物だらけの方がわかりやすい」
◇
今日のお昼ごはんの準備はロデリックくんとガイアスくん、ジャックくんの3人に任せたものだ。
お昼の準備を任せる間に、私たちは彼らが採って来た野草の選別を行っていた。
昔から天麩羅や揚げ物、煮物に使われる野草のほか、水と一緒にすり潰して洗浄液として使える木の実。
特に目を引いたのが、ロデリックくんが摘んできた福鷺草の花だ。瑞々しくてつやつやとしているし、日中でわかりにくいけれど光っているかも。
「これは天麩羅や揚げ物以外にも、煮物やおひたしにして食べられる、季節のお野菜ですね」
幅広の葉に包まれるように、白い鷺のようにも見える小花が集まって咲いている、見た目に可愛らしい食べられる植物だ。
これも色々な食材でスープを試すと、効能が期待できるかもしれない。
私たちはちょっぴりそんな期待をしながら、植物の選別を終えた。
「いただきます」「いただきます!」
テーブルに並ぶのは、切り分けられた果物と、焼き上げられた厚切りの黒アテルディーテの肉、厚切りのトントン肉、厚切りの焼き野菜、凍らせておいたものを温め直した魔雉肉と野菜のスープ。大きめのお皿に並べて盛り付けられた焼き菓子。
果物はヴェルニカの特産品。中の実は匙で掬える柔らかさだ。
「三人ともお疲れさま。野草で食べられないものは無かったし、どれも煮物とかスープとか、料理に使える。魔力をたっぷり持った良質なのもあったわ」
「木の実には食べられるもの以外にも、洗浄効果のあるものがありました。こちらは魔力を多く含む、良質な実がほとんどです」
エレイナさんたちがそうやって報告すると、ガイアスくんがホッとした様子になった。
「調合に使えそうなものは採らずに、食料確保を優先したんだ」
ガイアスくんがそう言いながら、焼いた肉を口にいれた。
「暗がりだと、植物が魔力で光ったときはわかりやすい。魔物や魔獣と紛らわしいこともあるけどな」
「そういえば、少ないけど光りっぱなしの植物って、どうして光ってるのかしら。光るための魔力が必要だし、目立って良くなさそうに思うんだけど」
「そうですよね」
「派手な色で虫に見つけさせる植物もある。なんか都合がいいんだろ」
彼らのそんな会話を聞きながら、道の灯り替わりに大切に世話をされているであろう、街中でやさしく光る植物の光景が、ふと私の脳裏に浮かんだ。
◇
昼食を終えてからも私たちは移動を続ける。
太陽が傾いて沈むまで、休憩を挟みつつも東へ進路を取り続け、数度、魔物や魔獣と追いかけっこのようにしながら、休息場所を見つけた。
四方開けて見通しは良い。
岩や石が多く、薄く赤茶けた砂が目立つのは、東西南と海が無く、北の沿岸部からも遠いうえ、近くに高い山もないという立地が重なり、雨が少ない乾燥状態が続いているせいだろう。
「やっぱり、バッシュたちの『コテージ』は快適だな」
バッシュくんたちの結界陣『屈強なコテージ』の食堂の椅子で、ガイアスくんがくつろいだようすで言った。
大柄なので、手足を伸ばしてのびのびとはいかないものの、不自由は感じていないらしい。
実際私から見ても、ロデリックくんが、「なぜ最初から使わない」と言ったのに頷きたくなるくらいには、快適なはずだ。
「魔力が結構たくさんいるから、もったいないじゃない」
エレイナさんがバッシュくんたちに代わって言った。
3日間効果がある結界を、一晩のために使うのはもったいないと思うのも人情だ。
昼間も魔力を消費しているし。
厨房から美味しそうな匂いが漂ってきているのに気がついて、バッシュくんたちがエレイナさんと火加減を見に行った。
厨房は食堂と続き部屋になっている。
私たちも、料理を盛るお皿や湯呑茶碗を用意して、晩ごはんの準備の仕上げに取りかかった。
シナップくんとバッシュくん、ノアくんが順に料理が盛り付けられたお皿を運び、私やガイアスくんがそれを受け取ってテーブルに並べていく。
窓に魔物探知機能が備えられた『屈強なコテージ』は、塔型迷宮でお目見えしたときよりも進化していた。
食堂にいながらにして、外のようすが四方映像で見ることが出来るようになっている。これは一部の魔獣や、伝梟の見たもの聞いた音を記録し、再現する能力を参考に研究し組み上げられた技術だ。
さらに屋上が付き、弓など投擲が地上より高い位置から行えるようになった。
しかも、広さを変えるため設計図である魔方陣が書き込まれた魔力紙を組み合わせて大きな『屈強なコテージ』を構築、発動させるには、バッシュくんたちが緻密に計算を行い、矛盾無く式を整え魔術文字に変換する必要があったのが、今はより簡単に、術者の都合で組み合わせて使用できるように改良されているらしい。
「ボクたち現場の声が届きました」と、小さな胸をノアくんがはった。
魔導ギルドに行った際に、使用についての報告のほか、要望と提案もしていたそうだ。
残念ながら通信は近距離でしか備えていない。
「情報を受け取る中継点がまだ足りていないんだ」
バッシュくんが残念そうに言った。
魔紙伝鳩もあまり遠くへは飛ばせない。距離が遠いと力尽きてしまう。載せた情報が複雑過ぎても跳ばせないのである。
万能性を誇る魔力だけれど、取り扱うのには技術も量も必要で、思った通りにはなかなかならない。
魔力で身体が構成されているはずの魔物ですら、この世界を別段思い通りに出来てはいないだろう。
自分以外の何かが存在する以上、自分以外の何かの都合も存在するのだから。
窓から外を覗けば、丸い琥珀色の月が輝いて、魔物と魔獣と野生動物が暮らすこの地を照らしているだろう。
明かりが届くことも、届かないことにも、そこに月と太陽の意志は存在しない。
ふと気がついたようすでガイアスくんが言った。
「3日経たずに『コテージ』を解除した時に“オマケ”で、『魔力ポット』が出てきたみたいだが、魔力で還してくれたりはしないんだな」
「そうしたくても出来ない感じ」
バッシュくんが答えると、ノアくんがあとを続けた。
「一度色々な物に創り変えれる状態にした魔力は、圧縮して魔石に出来なくは無いんですが、時間と無駄な消費も激しいんです」
「ちっこい魔石にするより、使えるもので返した方が無駄がないわけか」
ガイアスくんが言うとバッシュくんが頷いて言った。
「うん。発動させた時点で魔力はほとんど使ってるから、出来上がる魔石はすごく小さくなる。その点、魔力ポットは何度かお湯をちょっと沸かしたら消えちゃって終わりの魔導具だけど、魔石も水も要らないし、役に立つからね」
バッシュくんが円らな瞳で言った。
夜も更けてくる時間。
「それじゃあ、私たちは先に休むわね。おやすみなさい」
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみなのだ」
『おやすみなのだ』
エレイナさんたちが揃って自分たち用の部屋に入っていく。
「俺たちも寝よう」
「そうだね」
私たちも自分たち用の部屋に入り、各々の寝台で横になった。
ロデリックくんは明日、また晩のうちに採集に出るつもりのようだ。新しい魔導具を試すために。
────────
────────
□共有アイテム□
◇主な食料の在庫
内訳(長期保存食料143食分)
『追加保存食78食分』
『保存肉(10袋入り)低温保存中』
『シュトロンガビス鹿肉7カロ低温保存中』
『黒アテルディーテ肉9カロ低温保存中』
『冷凍魚80カロ低温保存中』
『黒アテルディーテの肉2,990カロ低温保存中』
『コッコ鶏肉255カロ(低温保存中)』『トントン肉203カロ(低温保存中)』『塩漬け肉500カロ』『果物80カロ』『野菜260カロ』『塩漬け野菜400カロ』
◇冷凍中◇
『魔雉肉と野菜のスープ(少)』『魔雉肉と野菜のスープ』
◇嗜好品お菓子(魔導系回復あり)、各種調味料、未調理穀物10日分
『カマルの特産品はちみつ5個と焼き菓子セット2箱』
『食堂のぬいぐるみ(中)』『2名食事券』『2名宿泊券』
◇魔力回復ポーション(EX102本、超回復74本、大130本、中640本、小947本)
◇治癒ポーション(治癒薬EX107本、超回復69本、大880本、中2,060本、小4,565本)、薬草(治癒1,059袋)1,059袋、他
□各自アイテムバッグ
ガイアス (魔力回復薬小3本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本
ジャック (魔力回復薬小4本)(治癒薬EX2本、超回復4本、大10本)薬草(治癒5袋、解毒5袋)麻痺解除薬1本)
エレイナ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大6本、中1本、小3本)(治癒薬EX3本、超回復3本、小10本)薬草(治癒5袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
マクス (魔力回復薬EX3本、超回復5本、大5本、中5本、小9本)(治癒薬超回復5本、大5本、中10本、小18本)薬草(治癒18袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
バッシュ (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
ノア (魔力回復薬EX1本、超回復1本、大2本)(治癒薬EX1本、超回復1本)薬草(治癒1袋、解毒10袋)麻痺解除薬1本)
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』
□背負袋
ガイアス 『共有アイテム』『バッシュとノアの本』『エレイナ、バッシュ、ノア、シナップの荷物』『食糧』『魔導石』『入門!魔術』『魔術図鑑(魔力紙付)』
ジャック (魔力回復薬EX11本、超回復10本、大50本、中210本、小140本)(治癒薬EX1本、超回復85本、大35本、中80本、小120本)薬草(治癒10袋、解毒10袋)麻痺解除薬2本)『もしもの時の燻製肉』『魔導石』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』『野菜』『果物』
エレイナ (魔力回復薬EX3本、超回復10本、大20本、中50本、小100本)(治癒薬EX5本、超回復25本、大30本、中50本、小50本)薬草(治癒60袋、解毒20袋)麻痺解除薬2本、万能薬3つ)『お菓子』『加工魔石(高)』『魔導石』『長期保存食料2食分』
『保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』『野菜』『果物』『チーズ』
マクス (魔力回復薬大10本、中100本、小100本)(治癒薬超回復50本、大100本、中200本、小200本)薬草(治癒1,000袋、解毒30袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬4つ、万能薬4つ)『草』『魔導石』『図で解る魔導書』『焼き菓子セット1箱(7個入り残り2つ)』『長期保存食料1食分』『ロデリックの魔導書』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』『野菜』『果物』
バッシュ (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬5本、石化解除薬1つ、万能薬5つ)『カリカリフード』『魔導石』『長期保存食料2食分』『本』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』
ノア (魔力回復薬EX5本、超回復5本)(治癒薬EX5本、超回復5本)薬草(治癒25袋、解毒5袋)麻痺解除薬4本、石化解除薬2つ、万能薬5つ)『カリカリフード』『魔導石』『長期保存食料2食分』『本』『追加保存食23食分』『保存肉(10袋入り)冷凍中』
シナップ 『塔にあるもの全部』
ロデリック『私物とお菓子』『入門魔術』『魔導石』『長期保存食料12食分』『果物』
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