星の迷宮と英雄たちのノスタルジア

いわみね

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第2話 星が導く迷宮-1

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「走れ!全速力で逃げろ!!」

 時刻魔導具が人々に夜明けを教えてくれる頃、私たちは魔物に追われていた。
「くそ!とにかく走って全員、逃げるんだ!追い付かれるな!」
 おびただしい数の魔物の群れの気配を、この中の誰よりも近い位置で背にしているガイアスくんが叫んだ。

「アースバインド!」
「でかした!マクスさん!」
「マクスさん!さすがです!」
「これで反撃が出来るな!!」
「お前の反撃は後回しだジャック!まず全員連れて1まで全力で戻るんだ!」

 ━━私たちがなぜ大量の魔物に追われているのかを説明するには少々日を遡らなくてはいけないと思う。


 ◇◇◇◇◇

 洞窟内探索3日目、時刻魔導具が夜を示す頃

 私たちは洞窟に取り残されたパーティの救援と事態の解明、あわよくば解決を目指し、洞窟内を探索の末に、最深部と思われる場所に辿り着いていた。

 天井は高めで広さもあるその空間を、一通り灯りで照らして横穴などが無いことを確認する。

「………行き止まり?」
「誰もいない。……行方不明のパーティは何処に行ったの?」
「どこかで入れ違いになったのか?」

 ガイアスくんが丁寧に、光る魔石を置きながら壁や天井に灯りを向けて観察していく。

 壁や地面にもっと奥へ進めるような何かの仕掛けがあるのではと思い、丹念に見ていくのだが、これと言ったものが見当たらない。

 天井部分はわずかに隙間のような部分があって、チラと星明かりが見えた。これまでの道や空間と違い、ここは外とつながっている。しかしそれは人が出れそうな隙間にはとても思えなかった。

 どうしたものかと思っていると、ガイアスくんが動くのを止め、目を細めるようにして天井を見上げ、見つめ始めた。

「なぁ。これ、何か書かれてないか。みたいな、いや、記号か……?」
「絵……?」
 ガイアスくんのそばによって、同じように見上げてみる。
「……気のせいじゃないの?」
「所々に色の違うところがあるだろ?そのなかであの色の点々みたいなのだけ自然になったにしては不自然に等間隔な感じがするんだよ」

 言われて私は地面に横になる姿勢で天井を見てみた。なるべく離れて見るとバラバラの点々がつながるように見えるかもしれないと思ったのだけど……私はすぐに起き上がる。ちょっと気恥ずかしい。

 しかしジャックくんたちも同じ風に考えてくれたのだろう。しゃがんで天井の点々の真下から離れるようにして目を細めたりしている。「もう少し色の違いがはっきりしてたら良いのに。濃い色の他の部分にも目がいっちゃう」とエレイナさんが言った。
 私は思い付いて筆記具にガイアスくんが示している点だけを書いて抜き出し、紙を天井に向けて確認する。

「古代文字だ……」

 ガイアスくんに文字がや記号のように見えたのは、文字が初期の古代文字だったからだ。

 当時の魔導の技術の高さを現在で正しく推し量ることはできないが、魔導ギルドや魔導研究ギルド、それらに専門で携わる人達の多くは古代の人達の見識や技術を決して低く見ていない。私たちは他にも似たような箇所を見落としていないか探し始めた。

 何か意味のある文章であったり、或いは仕掛けになっているかもしれない。
「それにしてもガイアス、良く気がついたわね。私には実は今も良く見えてない」エレイナさんが感心したようにしてから「ごめん」と言った。私もエレイナさんと同じ感想を抱いていた。
 ガイアスくんは観察力だけでなく色を区別する力が強いのかもしれない。「いや、俺も考えすぎかなってくらいだった」

 それから私たちは辿り着いたこの行き止まりの空間を調べ直すことにした。

 報告のために引き返すことも考えたが、別の救援パーティが洞窟内に入るまであと1日と少ししか時間が残されていない。
 彼らの数名が使役する『使い魔』とも私たちは距離が離れすぎている。
 私たちが洞窟の入り口に今から急いで引き返してもギリギリそれを止めるのに間に合わないだろう。
 報告と探索をどちらも行うために私たちが二手にわかれ行動することも、2組のパーティが未だ行方知れずの洞窟内では危険だと思った。

 単に入れ違いなら、入り口、つまり出口へ続く道にガイアスくんが要所に置いた数日光る魔石が目印となって導く可能性もある。

 そう考えて、私たちは救出と解明のための洞窟内探索を続行し、予定通りそのまま次の救援パーティには入り口近辺で物資と食料と共に帰還者の救護にあたるため、待機してもらうことにしたのだ。

「休もう」気がつくと時刻魔導具の短い針が夜の遅い時間を指していた。

 もっと前の通路や天井にもこうした古代文字があったのかもしれない。ただそれは気付いた後だから言えることであって、それが本当に手掛かりになるものだという確証もない。
 それを今から根気よく調べていくのだ。

 ◇

 手鍋にお湯を沸かし燻製肉や乾燥させた野菜や乾燥させた豆をいれてスープを作りながら、各々主食の食料を取り出す。

 入り口近辺は交代で見張ることにし、あまり離れない位置に、ガイアスくんが運んでくれたテントを2つ組み立てた。
 私たちは久しぶりにまともに横になって眠る場所が出来たのだ。

 「ガイアス、これあげる」エレイナさんが自分の乾パンを1枚ガイアスくんに差し出した。テントがよほど嬉しかったらしい。

「お、いいのか?」ガイアスくんが笑顔で乾パン1枚を受け取った。
 なんだかほほえましい。
 そう思っていると「マクスさん、これあげる」とジャックくんが燻製肉を1つくれた。
 私のスープがどうやら口にあったらしい。良かった。
 私は「ありがとう」と言って、ジャックくんから燻製肉を受け取りそのまま食べた。
 気がつくとガイアスくんが私を凝視している。
 そして私に向かって一言「マクスさん、肉食べれるの?」と聞いてきた。

 ガイアスくんに限らず、羊人は見た目が二足歩行のほぼ羊なため、誤解する人はたまにいる。

 確かに私たち羊人のルーツとなった始祖獣である羊は草食なので、羊人も基本的に草食なのだけれど、『ヒト』になる仮定でいくらか肉体は雑食に適応して変化しているのだ。

 しかし、この事実はガイアスくんにとっていくらかショックな現実だったらしい。

 ジャックくんの方ははじめから知っている節があるけれど。


 ◇

 洞窟内で丸3日が過ぎて4日目の朝早くにテントを片付けて、私たちは早速洞窟内の調べ直しに取りかかっていた。
 地図とは別の紙に空間の壁、地面、天井で分けた見取り図を書き出して、それらをいくつかのエリアに区切って見終わったところにメモや印をつける。
 天井の隙間からは少しだけ光が射している。

「一番可能性がありそうなのは文字が見つかった天井だが、昨日一回見てるからな……先に別のところを確認してからにしないか?」というガイアスくんの提案に私たちも異論は無く、今日は地面の方を調べることになった。

 ガイアスくんが測量用のとても長い紐を使って調べる場所を囲う。

 昨晩以上に仕掛けがないか触ったり、コンコンと叩いたり押したりもして、一番目がいいガイアスくんが地面を観察する、という作業を交代制で繰り返した。

 けれどもめぼしいところの見つからないまま、時間が流れていった。

 それからお昼くらいになって、天井に数ヵ所ある隙間から細く日が射してきた。

 私たちは、外から射し込んできた日の光を綺麗だなと思ってから、いくらなんでもあの隙間から人が外へ出るのは無理だろうなぁとも思ったのだった。

「昼飯にしよう。腹がへった」

 全員、念のため入り口の辺りが見張れる位置に座り、昼食は火を使わず簡単に済ませてすぐに作業に戻る。

 日が傾き始めて外が薄暗くなる頃になっても私たちは作業を続けた。

 ようやく地面の半分くらいの作業を終えた頃、天井の隙間から見える外の世界はずいぶんと暗くなっていて、誰からともなく作業は一度中断した。

 夜になってふたたびテントを組み立て、食事にする。

「このペースだと地面を調べるのにあと1日はかかるな」
 ガイアスくんが水を使って乾パンを飲み込んでから言った。

「せめて無事かどうかくらいはわかればいいのにね」

 ジャックくんがエレイナさんに燻製肉入りのスープを黙って差し出した。


 ◇

 洞窟内探索5日目の朝、

 いよいよ私たちと別の救援パーティが洞窟内に入る予定の日がきた。もしかするともう洞窟内の入り口に来て既に待機しているのかも知れなかったが、正確な時間は準備の進み具合で前後する可能性もあって、わからない。

 ただ、どんなに遅くとも昼前とは聞いているから、私たちは昼食後に地形に変化が起きていないか念のため確認しに一旦ここを出ることにしているのだ。

 何か手掛かりがないかの再確認もかねて、それで何事もなければ戻って手掛かりを探す作業を再開するつもりでいる。

 私は懐から時刻魔導具を取り出した。
 魔具の盤面にはめ込まれた12個のとても小さな魔石が淡く白い光を放っている。
 ちなみに夜になるとこの光が透き通ったような蒼色に変わる。

 私たちはテントを片付けて作業を始め、終えたところに決めておいた紐や光る魔石を目印に置いて、紙にメモを取り次へ進む。

 それを昼時まで続けたところで、ジャックくんが地面に座ってその場でごろりと転がった。
 つられて私が転がり、ガイアスくんも転がった。エレイナさんは転がりはしなかったが、一緒に地面に座った。

 予定より早く作業が進んで、安堵したのか、疲れていたのか、その両方か。手掛かりが見つからないのが残念だけれど、それがわかって次へ進むことができるのだ。

 天井から綺麗な日の光が射し込んできている。

 ガイアスくんが言った。

「飯にしようか」

 ◇

 食事を終えて、私たちは時刻魔導具で昼の時間をだいぶ過ぎているのを確認してから、予定通り古代文字を見つけた場所を出た。
 来た道に戻ると小さな魔石は光を失っていたが、道に置かれたままになっている。

「見た感じこの辺りの地形が変わった様子はないな。崩れた石とかも見あたらない」
「道幅も角度も変わってないと思う」
 私たちは一応の確認をして、奥の行き止まりに戻ることにして、今度はその道中で地面や壁や天井に文字や画がないかを確認していった。

 なにも見つからないまま奥の行き止まりの空間手前まで戻って「3つくらい点みたいなのがあると何か意味があるんじゃないかと思えてくるよな……」とガイアスくんが壁面に向かってそう呟いたところで私たちは中で休むことにした。

 中に入る際に私はふと、出掛けている間に中の様子が違っていたりはしないだろうかと思ったが、そんなことはなかった。

 床というにはむき出しで荒い、所々岩肌のような地面の方は一部分を残してもうほとんど調べ終えている。

 私たちはほっとして、座った。
 天井の隙間から日がまだいくらか射している。

 水を飲みながら持ち寄った甘いお菓子を少量口にいれ、私たちはしばし休憩を取った。

 エレイナさんのお菓子は煮とかした砂糖でコーティングされた小さなビスケットで、少量だけど体力と魔力を即時回復させることが出来るらしい。
 ガイアスくんとジャックくんのは果汁と砂糖を煮とかして固めた飴玉だ。こちらもわずかだけど、失った体力と魔力を少し回復させる。
 薬草や回復ポーションのように怪我を即時に治癒出来たりはしないけれど、長く保存が出来て熱量も摂取出来る優れものだ。

 他にも異国のチョコラタというお菓子など、保存出来る期間が長いものをみんな持ってきている。ところでチョコラタは一部の地ではショコラ、チョコレイト等と呼ばれる人気のお菓子だ。

 そういうお菓子の中でも魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発したお菓子は、彼らの目標がおいしく食べれて薬草やポーションのように出来ないかというもののせいなのか、特になんでもないお菓子でさえ、魔力が回復する稀少な効果が見られることが珍しくない。

 私たちは今回、それらをなるべく選んで持ち込んでいる。

 ちなみに、過去へ遡ると何度か薬草やポーションとは別の効果が激しくでる食品が開発されたことがあるらしいけれど、安全性の問題が解決できず、実用に至らなかったらしい。

 休憩し始めてから時間が過ぎて日が傾き始めるのを感じ、私たちは作業を再開した。
 次は10に分けた壁面を順に調べていく。
 「天井に文字がある以上、壁の高いところにもそれらしいものがあるかもしれない」ということでガイアスくんが自前の梯子を出してきて調べることになった。私たちは彼が転落しないよう注意を払いながら、作業を進めていった。

 エレイナさんが時折ガイアスくんにビスケットや水を差しいれている。

 私はガイアスくんが気になったところを筆記具で書き留めていたのだが、天井の時のように文字のようなものは浮かび上がってこなかった。

 しばらくして日が落ちたのか外が暗くなったのがわかって、私たちはキリの良さそうなところで作業を中断することにした。

 テントを組み立て、いつでも休めるようにしてから、晩の食事の準備をする。その頃にはすっかり夜になっていて、時刻魔導具にはめ込まれた魔石が蒼く光っていた。

 作業を切り上げたガイアスくんが目を瞑ったり開いたり瞬きしてみたり、手を顔に当てたりする仕草をしているのを尻目に私はスープに乾燥させた野菜と燻製魚を入れていく。

 出入口辺りで身体をほぐすようにひねっていたジャックくんをエレイナさんが呼んできて、それぞれの主食を取り出した。

「今のところ手掛かりらしいものは見つからないな」
「可能性がある場所が絞られてきてるんだろ」
「わかってるよ」
「なら何でそんな表情かおしてるんだよ」
 そういってからジャックくんがスープの中の燻製魚を食べた。

「それと」ジャックくんが続けた。
「んん?」
「これ以上見つからないなら、文字が1つだけってことが、手掛かりで大丈夫なんじゃないのか?」

「あの文字1つで意味がある可能性があるということだね」私が言うとジャックくんが頷いてから、こうも続けた。
「意味が無い可能性もある。意味が無いのに意味を考えるのは無意味だ」
 ジャックくんに私は頷いた。

 私たちのやり取りを聞いていたエレイナさんが「私からもいい?」と言った。「いなくなったパーティの人達なんだけど、洞窟の外にもうでてるんじゃないかなって」

「いや、さすがにあの天井の隙間からはでれないんじゃないか?」ガイアスくんがそう言うと、ジャックくんがガイアスくんを制止するような仕草で言った。

「今までの地形の変化でこっち側に出入口みたいなのが出来たことがあったのかもしれない。天井に外と繋がる隙間があるみたいに」と言った。

 私は洞窟周辺地域のわかる地図を広げて、私たちが今いる位置に出入口があった場合を考えてみる。
「なるほど。それで山の反対側に出てしまってから洞窟の出入口が塞がったら、戻るか報告するにも時間がかかるかも知れないね」山を越えた場所に村はあるようだが、ギルドがあるような街まではかなりの距離がある。

 完全に封鎖される前に入っているから、ひょっとすると大事になっていると気付いていない可能性もあって、それで報告が後回しになっているとも考えられなくはない。

 あくまでも希望的な憶測だけれど。

「よし、それじゃあ、ここを調べ終えたら一度情報を整理しよう。これ以上なにも見つからなければ、それを含めて報告しに戻って、その上で洞窟北側の山を越えた地域の捜索を提案してみようか」
 何かはいると思われるのに魔物や魔生物、洞窟特有の動植物さえ見かけないなど、わからないことはあるが、ここがもし自然の洞窟という見た目とは異なる古代の遺跡とかなら、魔導ギルドや考古学の専門家を中心とした発掘作業や大掛かりな調査が必要になるだろう。

 ◇

 洞窟探索6日目の朝、私たちは外が明るくなるより早めに朝食を終えて、ふたたび作業に戻っていた。

 壁面を調べるのは地面の時とは違い、這うようにしたり立ち上がったりを繰り返さなくてもいいせいか、今までよりも心なしか楽で作業の効率も良い気がした。

「ここもこれ以上は何も見つけられない」と判断すると紙に記録して次に進む。

 昼を迎える頃になると10箇所に分けた壁面の調査はほとんど終わりかけになっていた。

「晩飯の時間頃に壁は終わりそうだな」ジャックくんが調べ終わった壁の方から、スタート地点にした出入口辺りまでを見回して言った。
 エレイナさんが「ガイアス、ちょっと休んだ方がいいよ」と言って水とビスケットをガイアスくんに渡した。
 今のガイアスくんは誰かが止めないとずっと作業を続けてそうな雰囲気があるのだ。

 けれどもその様子には前日に見えはじめていたような疲れた感じはなく、もらったビスケットをとても美味しそうに食べている。

 それでそのまま私たちは昼の休憩をすることにした。

 その頃には誰からということもなく、なんとなく、魔物や昆虫も、他の人が洞窟を出たような原理でどこかへ行ってしまったり入れ違いに私たちの目の届かないところに隠れてしまっているのかもしれないと思い始めていたと思う。

 こうなる前の洞窟も、もともと魔物は少なかったようだし。
 魔生物のほうなんてすぐに逃げ出してしまうような臆病な性質を窺わせる報告がされている。それなら暗がりを利用したり擬態したりとか、若しくは私たちの思わぬ方法で逃げ去ったのかもしれない。

 私のこの考えは、後で間違っていたことがわかるのだけれど、このときはそれが真相のように思うようになっていた。

 天井から射してくる明るい日の光が私たちを明るい気持ちにさせてくれていた。

「よし、俺はそろそろ戻るわ!お前らはもうちょっと休んでてくれ」ガイアスくんがふたたび壁に向かう。

「ダメだよ。一人で高いところは危ないし、みんなでやった方が早いよ」エレイナさんと私が立ち上がってガイアスくんの所へ向かう。ジャックくんの方はガイアスくんのいるところにだいぶ近くになった出入口辺りに一応の警戒のために立った。

 こうしてお昼頃にジャックくんが予想した通りに、私たちはその日の晩ごはんを迎える頃に、壁面を調べる作業を終えることができたのだった。

 その日の晩ごはんは洞窟内の探索を始めてから一番美味しく思えたんじゃないかなと私は思う。

 ◇


 7日目の朝も私たちは早めに朝食を済ませて、ついに天井を調べる作業をはじめていた。

 古代文字が見つかった天井部分は、どうしても少し期待が高まる。

 ちなみに天井の高さは立っている長身のガイアスくんの頭の上に、もう一人ガイアスくんが立っている、くらいの高さだと言えばわかりやすいだろうか?
「一番高いところは2ノーツ以上ある」
「ガイアス。天井を触って確認する時、お前はなるべく梯子を使わずにマクスさんやオレか、エレイナを肩車して届くところだけを触ってみるやり方にした方が安全だ。お前が梯子で上がるのは見るときだけにしておいてくれ」

「ジャック……心配してくれるのか」
「……それもあるけど。お前に上から落ちてこられたら、絶対に痛いだろ」
「確かにそうだな」

 そういうわけで、天井を調べる作業は、まずは私たちが交代でガイアスくんに肩車をしてもらい、届く範囲を触ってみることになった。罠等の危ない仕掛けに備えて、時折ガイアスくんに許可を貰ってから弓や剣で叩いてみたり手で引っ張ってみる。

 特になにも起きないことを粗方確認して、私たちが天井を調べ終わったなと思ったとき、ジャックくんが「ガイアス、あの端まで歩いていってくれ」と言いだした。
「お、なにか気がついたのか!?」
「今度はあっち」
 何回かガイアスくんがジャックくんを肩車して歩いた後
「ジャックお前、ひょっとして遊んでるのか」
 ガイアスくんが気づいたので、休憩にすることにした。

 昼食の後はいよいガイアスくんに天井をよくみてもらって仕上げだ。

 私とエレイナさんは先に野菜スープを作る。
 私が持ってきている乾燥させた野菜はまだ余裕があるし、魔物や魔生物に備えて薬草類をたくさん持ってきているので問題ない。
 私たちは各々チーズやナッツ、乾パンでお腹を満たしながら、天井の文字について考えてみた。
 ガイアスくんが見つけた文字は星と鳥を意味する古代文字なのだけれど、それとはべつにもうひとつ、数字の5を表してもいる。

 単なる模様として描かれたのだろうか?
 それともやはり意味があるのだろうか。

 ◇

 昼食を終えてガイアスくんが梯子を使って天井を近くから確認する。その間私たちは梯子が不安定にならないようにしっかり支えて下で待つ。壁のときよりもガイアスくんが姿勢を崩して転落する危険が大きい。

「無理はするなよ」
「わかってる」
「落ちてこないでよ」
「俺の心配をしてくれ」

 そんな軽口を言いながら天井の隙間の辺りに差し掛かったとき、不意に射し込んでいた日差しの一部が遮られた。

 見ると、ガイアスくんのすぐそばの天井の隙間から、フサフサとした薄茶色の何かが出て、すぐに引っ込んだ。

 ガイアスくんがあわてて姿勢を崩しそうになるが、なんとか堪えてくれた。「なんだ、何かいるぞ」フサフサしたものは見えなくなったが隙間から射し込む日差しはわずかに遮られたままだ。
 ガイアスくんが梯子から降りて、私たちと警戒体制にはいる。
 すると今度は隙間から白っぽい毛足の、小さな子犬が目を瞑ってグイグイと隙間から顔を押し込みながら言った。

「ん、狭いけど行けそう……」犬族の子供だ。
 私たちが驚いて様子を見ていると、犬族の子供が薄目の状態で「君たち、ガイアスって人のパーティであってるぅ?」と聞いてきた。

「ああ、あってるよ、俺がガイアスだ」
「良かった。僕は……ちょっと待ってね。いまそっちに行くから」

 そういってグイグイと頭を動かして天井の隙間からどうにか胴の部分まで出るのに成功して、長いロープのような紐でくくりつられた状態で洞窟の中まで入ってきた。

「僕はバッシュ。君たちの後に編成されて洞窟内に入った救援パーティのメンバーで、外からのアプローチを任されたんだ」
 そういってから1枚のカードを差し出した。見た目は見習いやスタンダードランクのカードに似た植物の模様だが、専門の分野に特化した知識や技能を有する者に与えられる特殊ランクのカードだ。

「それとこれ。デビスって人から君たちに。合流できたら渡してって頼まれたの」そう言ってバッシュくんがガイアスくんに1通の封筒、私に小さな袋を渡してくれた。
 袋の中には私が探していた素材と、短い添え書きが入っていた。私はそれを懐へ大事にしまった。
 それから私たちはデビスさんの手紙による説明を受け、バッシュくんにこれまでの経緯を報告した。
 バッシュくんはそれを黙って一通り聞き終わると
「なるほど、ありがとう」そう言って天井を見上げて「それだけ試して見つからないなら、たぶんここにある文字はあの1つだけだと思う。少なくともわかるように刻んだのはあれだけ」

 いつの間にかくくりつけていた紐を身体から外して天井の隙間から垂れ下がったロープをグイと1回だけ引っ張った。

「あと行方知れずになってた2組のパーティは無事が確認されてるよ。君たちの推測通り、この洞窟は君たちが使った入り口とは別に出入口が出来て、その時に脱出したらしい。ギルドのある街まで遠いところに出てしまったせいで、報告が遅れたんだって」とバッシュくんが言った。

 それを聞いてエレイナさんが「良かった」と呟いた。

「けど魔物や魔生物とかはそういういなくなりかたはしてないと思うよ」バッシュくんはそう言ってから私たちに向かって「食料はまだある?」と尋ねた。

「ああ。まだまだ大丈夫だ、それに他の2組分の食料も持ち込んでる」
「水の方はあんまり長くかかると不安だったけど、今すぐ困ったりしないくらいには」
 それを聞くとバッシュくんが「了解」そう言ってロープをグイグイと2回引いた。

「空になった水の容れ物があったら貸して。補充出来るよ。それからこの先は僕らもパーティに加わる」
 バッシュくんがそう言うと、天井の隙間から、ドサドサと小さいけれど割りと重さのあるアイテムバッグが2つ落ちてきた。
「この先?なに?俺たちもう帰るんじゃないのか?」

 するとバッシュくんが「なに言ってるのさ。まだ魔物や魔生物のことがわかってないし、君たちはあの天井の文字が何なのか気にならないって言うの?君たちが受けた依頼はこの洞窟の調査だよね?僕らは救援だけど、君たちが受けた依頼は調査と謎の解明と解決のはずだ。僕らは救援だけど」

 そう言うと私たちから受け取った水の容れ物を薄手の布袋に入れて紐で縛ってロープとつないで、ロープを3回引いた。スルスルと袋が上に持っていかれる。

 それから先ほど上から落ちてきたアイテムバッグのうちの1つを拾って中から数枚の小さな紙片を取り出して私たちに1枚ずつ手渡して言った。
「魔術鍵を自動で解除することができる僕らの専用魔導具だよ。緊急時に限って1度だけ君たちが使えるようにしてある」

 「緊急時……」

 どうやらバッシュくんは私たちと一緒にまだ洞窟の中を調べたいらしい。しばらく私たちが調べた壁の辺りや地面を、ふむふむと頷いては眺めて、コクりとまた1人頷くと、ガイアスくんや私たちを見回して「よく頑張ったよね。おかげでいつでも次に進める」と言った。

 しばらくすると、補充された水の入った袋が降りてきて、その後にさらにドサドサとたくさんの袋が無造作に落ちてきた。

 バッシュくんが袋の中を確認して「これだけあればしばらく大丈夫そうかな」そう言うと今度はグイグイ、グイグイっと4回紐を引いた。すると上の隙間から今度は薄茶色の毛足の短めの犬族の子供がロープを伝って降りてきた。
 最初に中に入ろうとして引っ込んだのはこの子だろうか。

「ボクはノア。バッシュと同じ魔導ギルドのメンバーです。よろしくお願いします」そう言って1枚のカードを僕らに提示した。ノアくんもバッシュくんと同じ特殊ランクらしい。

 ノアくんは少しの間バッシュくんから説明を受けてから頷いた。

「2人とも魔導ギルドのメンバーなんだな。魔導研究ギルドとはどんなところが違うんだ?」

 ガイアスくんがそう尋ねると
「大体似たような研究をしていますが、魔導研究ギルドはどちらかというと役に立つ製品とかの開発のために研究している人たちの組合です。ボクたち魔導ギルドもそういったことをしますが、それは結果で、ボクらのは魔術や古い魔導の仕組みとかの解明や新しい術式の構築がメインの研究なんです」と、ノアくんが丁寧に教えてくれた。

 へぇーと私たちが自分達よりもずっと年下の子供たちに感心している間に、ノアくんとバッシュくんが自分達の荷物をそれぞれまとめ終わった。ずいぶんと重そうになっている。

 天井の隙間から射す日差しはまだ強く、外はまだ明るい。

「依頼人のデビスさんの手紙には、探索を続行するか帰還するかの最終判断は俺たちに任せると書いてある。どうする?」
 ノアくんとバッシュくんが丸くて愛らしい瞳でみつめている。彼らの依頼はあくまでも救援であって、私たちが帰還するならそのまま同行し帰還しなくてはいけなくなるのだろう。
 おそらくデビスさんもそれがわかっていて『帰れ』とは書かなかったのだ。

「危険かもしれないぞ?いいのか?」
 ジャックくんが屈んだ姿勢でバッシュくんたちをみて言った。
「僕達が救援するよ!」
 幼いように見えても大人に混ざって救援メンバーに選ばれ、デビスさんから預けられたものをここまで持ってきたのだ。
「じゃあ、頼む」ジャックくんはそう言うと屈んだまま2人の頭をそれぞれ1度だけなでて、今度はたちあがって私たちを見た。

「決定だな」

 こうして、消息不明者全員の無事もわかり、新しいパーティメンバーを2人迎え、私たちは洞窟に残る謎の解明に挑むことになった。

 それからいくらもしないうちに私たちの洞窟内探索は激変した。

「すごいもんだな」
「本当に一瞬で違う場所に来ちゃった」
 私たちは一同感嘆の声をあげていた。

 無理もないことだった。
 だって私たちはバッシュくんとノアくんと出会ってすぐ、もう次の場所へと一緒に進んでいたのだから。

 『6』を意味する古代文字が刻まれた新たな場所へ、それも私たちにとって驚くべき技術『転送魔術』によって!

 
 ◇

 ━━『転送魔術』発動前

 天井の隙間からは日射しと共に長いロープが1本垂れ下がったままになっている。そのすぐ近くで、私たちはそれぞれ地面に布を敷いたりして座って話していた。
 ジャックくんは出入口付近を警戒しながら話を聞いている。
「俺たちはこれから一緒に洞窟の中を調査するわけだが、その前にいくつか教えてほしいことがある」
 水をほんの少し飲んでガイアスくんがバッシュくんたちに言った。

「まず知りたいんだが、この洞窟は一体なんなんだ?それを今から調べるんだって言うのは無しで頼む」

「それを今すぐ答えるのは僕らにとっても難しい質問だよ。質問が漠然としすぎていて今は答えられないから」
 バッシュくんがそう言ってから、さらに続けた。
「もっと具体的な質問にして欲しいな。そしたら頑張って答える。まずこの洞窟の何が知りたい?僕らも全部はわからないし、君たちがこの洞窟の何がわからなくて、何を知りたいのかもわからない。だから教えて」

 バッシュくんに言われてガイアスくんが言った。
「それもそうだな。じゃあ、まずあの天井の古代文字について知りたい。仕掛けはあるんだとは思うけど、さっきのバッシュの言い方だと、それ以上に聞こえた」

 バッシュくんとノアくんが頷いて、バッシュくんが話し始めた。

「興味を持ってくれて嬉しいよ。じゃあ、今からあの古代文字について簡単に説明するね」

 バッシュくんの『簡単』な説明によると、天井で見つかったあの文字は、点1つが実は無数の規則性のある点で描かれていて、その無数の点で古代の魔術式が描かれているのだそうだ。

 各地の遺跡でこの類いの発見がされていて、解読のため研究が進められてきたが、最近バッシュくんたちの研究チームが、一部だけれどその術式を特殊な方法で解析することに成功したそうだ。
 このタイプで描かれた魔術は普通に魔力を注いでも術が発動しないのだという。
「どうしてこの文字を選んで術式を描いたのかはわかりませんが、数字の5で意味を考えると、次は4か6と描かれてる場所に移動できる可能性が高いです」ノアくんが言った。

「それって転送魔術?」
 私たちは驚いてノアくんたちを見た。
 転送魔術というのは、一部の高位魔術士などの中に稀に使う人はいるから呼び名は知られているけれど、真似をしたり教えたり出来るものではないらしく、一般には存在しないのと同じような魔導技術だ。

 たまにそうした以外の人で似た効果の術を扱う人がいても、実際には転送というよりは移動であることが普通で、それさえも一般的には稀少な魔導技術であり、誰もが日常的に利用できるようになっていないのが現状だ。

 ましてや術者を介さずに行う転送魔術に至っては、多くの研究者たちに長年に渡って研究されながらも、いまだに原理はもちろん模倣の実現さえしていない。

 ノアくんがいうのが本当なら、その術式を古代の人達が意図的に、しかも術者がいなくても使えるように再現できていたことになる。

 そもそも使っている本人でさえどうやってるのかわかっていないと聞くくらいのものを。

 数千年も昔に?
 そんなことってあるだろうか。

「技術を伝えてきた人々の文明が途絶えて、今は失われた技術となっています。運良く発見されても正確に魔力を流さないと解析も発動も出来ません。そのため、これまでなかなか研究が進まなかったのです」

「解析して術を発動出来るようになっても、相変わらず原理はわかってないんだけどね」

 バッシュくんが笑った。

「他に気になることは?」
「魔物や魔生物がいないことについて。どうして外に逃げたとか、怖がって身をかくしてるわけじゃないと思う?」

「何気なく言ったつもりだったんだ。僕も確信や確証があっていったわけじゃない。なんとなくそう思ってるだけ。でも全く根拠のない思い付きとも違うよ」
「それ、聞いてもいいか?」
 ガイアスくんの質問にバッシュくんとノアくんが顔を見合わせた。
 それから「ここからずっと遠いところにいる僕らの仲間の犬族がね、遺跡に現れた似たような魔生物に最近襲われてるんだ。最初の頃は、ここのと似た感じだったみたい」
「ここのも放っておいたら凶暴化するのか?」
「断言は出来ないよ。まだ見てもいないもの」
「魔物や魔生物の正体に目星はついているのか?」
「それを今から調べにいくって言うのは無しなんだっけ!えぇとね。そうだな、発生した原因なら、僕ら考えてるよ」
「原因がわかってるのか」
「うぅん、いまはね、まだ推測でしかない。だから間違ってるかもしれない。僕らはそれを確認しにいきたいんだ」
「けど、ボクらだけじゃ確認しにいくための許可はでないです」
「確認出来たら、なんとかできそうか?」
「わからないけど、あの古代文字の転送魔術で行ける場所に原因があると僕らは思ってる」
 私たちも頷いた。

「その転送魔術はすぐ使えるのか?」
「うん、あとは僕達の都合しだいだよ」
 ガイアスくんの言葉にバッシュくんが答えた。

 それから時間を置かずにバッシュくんが丸く加工された厚さの薄い板を持って天井の文字の下に行く。
「準備はいい?」
 私たちが返事の代わりに、とても小さなバッシュくんの周りを囲むようにして立つと、バッシュくんが丸い板に軽く触れた。
 すると板から不思議な光が出てきて、天井の文字をその光が揺れながら丸く照らした。良くみないとわからないくらい薄かった文字が強く浮かび上がってきて、揺れていた光が次第に安定して止まった。
「実はね、この光には魔導技術的な意味はないんだ。ちゃんと魔力が注がれてるか確認するためのガイドみたいなもので………あ、着いたみたい!」
 バッシュくんが丸い板の説明をし終わらないうちに、私たちは視界に映る景色が様変りしたことに気がついた。

 上を見上げると、あったはずの古代文字が消えて、私たちの周辺には先ほどまでの洞窟内とはまるで違う光景が広がっていた。
 周囲は明るく、天井の隙間も、垂れ下がっていたロープも何処にも見当たらない。その代わりに天井には植物をもとにしてデザインされた明るい色調の美しい壁画が描かれている。そして私たちのすぐそばの人工的な壁面に『6』を意味する古代文字が大きめに、今度はくっきりと刻まれている。

 床は薄く青みがかった白が基調になっていて、誰かが掃除でもしているかのようにキレイで不思議な気がした。

「本当に一瞬で違う場所に来ちゃった」まずエレイナさんが感嘆の声をあげた。

 ◇

 私たちは事前にバッシュくんにいわれた通り、声がかかるまでなるべく周囲のものに触れないように気を付けながら、辺りを観察することにした。

 転送された場所は、施設か何かのロビーやエントランスを思わせる作りになっていて、ひろめの空間には私たちが座るのに良さそうな高さの物がいくつも並んでいる。もしかすると本当にそのように利用していたのかもしれない、と私は思いながらそれを眺めた。

 バッシュくんとノアくんがそれらをみたことのない魔導具で1つずつ調べている。それからそのうちの1つにバッシュくんがよじ登って、2人で顔を見合わせて頷いた。

 ノアくんがこちらを手招きしながらちょこちょこと近づいて私たちを呼びにきた。

「ここから、ここまではもうさわって大丈夫。仕掛けはあるかもしれないけど、さわったくらいじゃ仕掛けはどれも作動しないよ。本当はこの部屋全部、大丈夫な気がするけど、念のためにね。それと、もし何か見つけたら教えて」

 バッシュくんが手で範囲を示しながらそう言って、また2人であちこちを調べに戻った。

 どうやら彼らの魔導具は彼ら自身の魔力を動力源にしているらしく、魔力を回復させるポーションを2人とも飲んでいた。
 特にバッシュくんは大きく魔力を消費したようで、しばらく経って「今日は魔力切れ。休んでもいい?」と声をかけてきた。

 そうでなくても2人とも私たちのために外から洞窟までやって来て調査まで行っているのだ。
「ああ、疲れたら無理せず言ってくれ。俺たちも休んでいる」
「うん」

 時刻魔導具を確認すると、とっくに夜になっていた。
 洞窟では灯りを用意しないといつでも夜のようだったけれど、ここは明るくて、いつでも昼間のようなのだ。
 これは気を付けなくてはいけないと私たちは思った。

 ◇

 8日目の朝(遺跡2日目)

 バッシュくんたちの説明によると、洞窟は5つの地形パターンを持っていて、条件を満たすと地形が変わるシステムが構築されているらしい。
 調査の結果それを細かく設定したり管理している装置か何かが、この『6』のエリアの何処かにあって、それを調節するかすれば洞窟の地形が変わることを止めることが出来るということのようだ。外へ戻るのも同様らしい。
「今のところ推測だよ。間違ってるかも」バッシュくんが慎重に言う。
 「それより、今まで作動していなかったそのシステムが今さら動き出したのが大問題だよね」

 魔物や魔生物が現れただけなら、自然発生したとも考えられるけれど、洞窟が人工的な構造物でそのシステムが動き出したのだとしたら、誰か動かした人間がいる可能性が高い。

 バッシュくんによると「魔生物が現れたもう一ヶ所の森にね。そこは洞窟みたいに地形とかは変わったりしないけれど、奇妙な物体が発見されるようになったみたい。まだ数個らしいんだけど。同じような魔生物が現れるところでこんなの、すごく怪しいよね」

「バッシュたちの仲間を襲うようになった魔生物が現れたところにも、変なことが起きてるのか?」

 ガイアスくんの質問にバッシュくんたちがコクりと頷いた。
「でも僕ら自身は見てないから、詳しくわからない」
「だから怪しくてもなにも断定は出来ないんだよね」
「怪しいよね」バッシュくんとノアくんが交代で言った。

 朝食をすませて、私たちへの説明を一通り終えると、バッシュくんたちはまた調査のために戻っていった。

 壁面には1つ扉のように見える箇所があるけれど、今は開けることが出来ない。

 説明にあった装置のあるところへ続いているに違いないのだけれど。ジャックくんが「こじ開けちゃダメか?」とバッシュくんたちに尋ねたときに珍しく2人が怒っていたので、そういう意味でも無理に開けるのは不味い。

 奥できびきびと魔導具をあやつり調査を進めるバッシュくんたちを眺めていると、不意に「このままふたりが全部解決してくれそうな気がしてきた」とガイアスくんが呟いた。

 ジャックくんがいつの間にか燻製肉を食べだしているし、エレイナさんも飴玉をなめている。

 しばらく経ってバッシュくんたちが戻るまで、私たちは緊張感というものを何処かに捨て去るひとときを過ごすことができた。その罪悪感からだったのだろうか。
 戻ってきたバッシュくんたちに私たちは一斉に「お疲れ様です!」と上司でも迎えるかのごとく対応して2人のただでさえ丸い瞳をさらに丸くさせた。


 ◇

 ノアくんたちは私たちのところへ戻るとすぐに「このエリアの見取り図が見つかりました!」そう言って四角い黒い板のようなものを見せてくれた。

 ノアくんが板にそっとさわるとガラス質のような黒っぽい濃い色の表面に、複数の古代文字で画かれた文と見取り図と思われる図柄が、白い線画のように浮かび上がった。

「これは紙を使わずにメモをしたり複数の情報でも〈個別の情報〉として1枚の板にたくさん保管したり出来る記録用の魔導具みたい。その情報のなかに、簡易なものだけど見取り図があったんだ。それによると、僕らがいるのは図のだね」とバッシュくんが説明してくれた。
 ちなみにノアくんによると同じような用途の魔導具はすでにあるが、これとは別の仕組みなのだという。ノアくんは小さな板を何度も繰り返し眺めている。

「図でみると、僕達が探している装置はこの奥にあるスペースにあると思うんだ」バッシュくんが言った。
 見ると今私たちがいる空間と別に7個の似たような広さのスペースが向かい合うように配置されてあるのがわかった。
 その一つがどうやら洞窟内を管理する部屋になっているようで、そこだけ洞窟内の天井に画かれていたのと同じ『5』を意味する古代文字があてられている。

 バッシュくんが円柱形の椅子によじ登ってアイテムバッグから1枚ビスケットを取り出した。

 それを食べ終わると「この遺跡について、僕達ずいぶんわかってきたと思う。古代の人が何を考えてたのかはわからないんだけど」と切り出した。そして「この装置がありそうなスペース以外の5つは作られたとき、魔物が入れられていたみたい」と続けた。

「大昔の人は魔物を飼育してたの?」
「ん、飼育。飼育とは違うような。目的まで断定出来ないけど、昔の人達がここに魔物を集めてたのは確かだと思うよ」
 するとノアくんが「あんまり良い目的じゃなさそうだよね」とバッシュくんと顔を見合わせて言った。
 ノアくんはいつの間にかエレイナさんに抱き抱えられた状態で自分のビスケットを食べている。

「後の1つは何に使われてたんだ?ここだけ他より広く見えるが」ガイアスくんが聞くとバッシュくんが「人が泊まれるお客さん用の部屋だったみたいだよ」と答えた。
 それを聞いた私は、魔物を集めるのでなければ、宿屋さんか何かみたいだなぁと思った。

 話しているとしばらくしてバッシュくんが「だいぶ魔力が回復したみたい」と言った。それを聞いてノアくんが頷いた。
 どうやらまたすぐに調べものに戻る気らしい。
 それでガイアスくんが2人を引き留めた。

「そろそろ昼飯にしようぜ」
 時刻魔導具を見ると、昼時になっている。
 バッシュくんたちも気がついて、それぞれ自分の背負袋から食料を取り出した。
 ガイアスくんはいつものように栄養価の高い携行食や持参したチーズ等を水を飲みながら口に入れている。エレイナさんも乾パンやチーズ、それに乾燥させた果物、クルミ等だ。バッシュくんたちのは専用の袋に入ったお気に入りの食べ物らしく、2人とも美味しそうにカリカリと音をさせながら食べている。

 昼の食事が終わって少し休んだ後、やはり2人とも調査に戻って行ったが、その時「さすがにそろそろ装置のところに行きたいよね」「でもその前に仕掛けの方をはずさないと……でね……」「うん」とバッシュくんたちが話しているのが聞こえてきた。

 図を見ているだけだと、そこの扉を開けてそのまま通路をまっすぐ行けば良いだけに私たちには見えるのだけれど、実際には何か仕掛けがあって装置のあるところへ行けないようになっているのだろうか。気になるといえば、図の縮尺を信じると廊下がずいぶん広く見える。廊下や通路というよりは、まるで部屋みたいだ。

 ……そういえば魔物が入れられていたという部屋は、今どうなっているのだろう。
 私が思わず口に出した言葉に「俺もそれ気になってた」とガイアスくんが言いながら笑った。「さすがにもう魔物とかはいないだろうけど」「そうだよね」などと話していると「その事なんですが」とノアくんが話しかけてきた。
 そのすぐ後にバッシュくんもやって来た。
 2人とも何か書かれた資料のようなものを抱えている。

 どうやら報告したいことがあるようなので、私たちはバッシュくんたちの休憩も兼ねて集まって話を聞くことにした。

「この遺跡が造られた目的がだいぶわかりました。けど、問題はそれじゃなくて……」ノアくんが言ってから「やっぱり遺跡の仕掛けを動かした人がいるみたいなんだ」バッシュくんがそう続けた。

「ボクたちの最初の予想では、遺跡が偶発的に動き出した可能性も残ってると思っていたのですが」
「その可能性はもう無いと言っちゃっていいと思う」
「何でだ?」
 ガイアスくんの質問にバッシュくんが「これ」と言って何かを取り出して見せてくれた。
 見ると半透明の魔石と透き通った鉱物の結晶と金属を組み合わせて加工されたアクセサリーのように見える物体だった。

「これは魔力を充填してエネルギーとして繰り返し利用できる古代の魔導具の一種なんですが、満タンに充填しておいても少しずつ魔力は放出されてしまって新たに補充しない限り魔力は最終的に空っぽになります」「これは僕らがさっき、ここで見つけたものなんだけど、僕らなにもしないのに」
 そこまで言って2人が顔を見合わせる。
「俺たちがここに来る前に、充填した誰かがいるってことか」
 バッシュくんとノアくんがコクりと頷いた。

 さらにバッシュくんたちが続けた。
「あとね。装置には何重にも鍵がかけられてるんだ。でもそれはあんまり問題じゃない。それよりその前の、装置のあるところの扉にも仕掛けがあって」「罠が魔力で動くやつで、起動するための魔力が切れてればいいんだけど」この様子だと誰かが起動するように魔力を補充していそうだ。

 そこまで聞いたガイアスくんが「つまり中に入ろうとすると、装置に辿り着く前に罠にかかるかもしれないのか」と言うとバッシュくんが「そういう感じ」と答えた。

「それから、さっきマクスさんとガイアスさんが話してた魔物の件なんですが。部屋で魔物が大量発生している可能性があります」ノアくんの思わぬ発言に私とガイアスくんは思わず同時に「何で!?」と叫んでしまった。

 エレイナさんとジャックくんはなぜかあまり驚いた様子がない。予想していたのだろうか。
「なんでお前らは驚かないんだよ!」
「驚いていないわけじゃないぞ」
「驚いたけど」
 2人ともなんとなく予感があったらしい。
「私、魔生物の正体って、ここで飼われてた魔物なんじゃないかなって思ったのよ」「オレも」
「魔生物って新種の魔物とかじゃないのか!?」
「魔力の影響の度合いにもよると思いますが、元の時代より多少変化してる可能性はあるので、新種といえば新種かもしれないですね」「僕達、直接見たわけじゃないからわからないけどね」

 私とガイアスくんが驚いていると、ノアくんがジャックくんとエレイナさんに「大体はおふたりのイメージであってると思いますよ」と応じている。
「何千年も昔の魔物が遺跡で生き延びて大繁殖して溢れてるなんて誰が考えるんだよ……」ガイアスくんと私は互いに共感して頷きあう。
 するとジャックくんが「たまにあるじゃないか」と言った。
 彼が言っているのは山奥とか地下深くとか湖、古い遺跡や塔等に棲みついた昔からいる魔物が、たまに姿を見せて私たちを驚かす類いのことを言っているのだと思うのだけれど……。
 違うのだろうか。
「同じではないだろ」とガイアスくんが抵抗した。


「それでね。ここからが本題なんだ」

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