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第3話 星が導く迷宮-2
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「籠城戦?」
「うん。装置のある部屋の扉の魔式罠は、魔力はだいぶ減っちゃうけど、僕らのうちのどっちかがはずせるし、装置の多重魔術鍵もなんとか出来るはずなんだけど」
「1回で多重鍵を全部解錠出来なかった場合、再挑戦できるようになるまで、ボクたち、しばらくの間ここに完全に閉じ込められると思います」
「でも、時間が経つと再挑戦出来るのね」「はい」ノアくんが答えて、ガイアスくんが「しばらくの間ってどのくらい?」と質問した。
するとバッシュくんが「どのくらいかな」と首をかしげてしばらく思案してから「最低で数年か、長いと数百年くらい?」
ガイアスくんが飲んでいた水を噴き出して咳き込み、エレイナさんの手からはビスケットが落ちて「大分長い待ち時間だな」とジャックくんが呆れたように言った。
私の方は言葉もでない。古代の人は長命の種族だったのだろうか??
「うん。さすがにそんなに待ちたくないよね」
「それでボクたちが1回の挑戦で解錠出来なかった場合、もう1つのやりかたを選択することが出来ます」
「ここを造った人達ってさ、なに考えてたんだろうね」
バッシュくんが目を細めて小さな肩を竦めるようにした。
「もう1つのやりかたっていうのはさっき言ってた籠城戦のことか?」
「ん、結果として籠城戦になりそう……」
「装置の多重魔術鍵は5重になっているみたいなんですが、その鍵を解錠するための5つの管理者用の専用鍵が一応用意されてるみたいで。それを使えば待たなくても解錠出来るはずです」
「なんだ。それじゃあ、それを探して使えばいいんだな。おどかすなよ」ガイアスくんや私たちが安心しかけると
「それが、その」ノアくんがいい淀んで「専用鍵の予備が置かれてる場所が嫌らしいよね」とバッシュくんが続けた。
「ここで見つけた資料や情報を見ると、専用鍵は魔物を入れた部屋にそれぞれ1つずつ保管してたみたい」
「魔物に鍵を護らせていたのかも知れません」
「ノア。キミには悪いけど、それは僕違うと思う」バッシュくんが言って、「何でだ?」と、ノアくんの代わりにガイアスくんが聞いた。
「だって。装置の多重鍵解錠の失敗で誰にでも大事な専用鍵の保管場所の扉を開けられるようにするのは変だよ!」
するとノアくんが言った。
「自分の専用鍵を失くしちゃったり、管理者の誰かがうっかり解錠に失敗した時のためかも知れないよ」
「うっかり……?」
私たちはノアくんのその表現に、釈然としないものを感じたのだけれど、バッシュくんのほうは「ああ!そういうことあるある。ノア冴えてる」そう言って瞳を大きく見開いてポンと手をうった。
それから私たちに向き直って
「えぇと、そういうわけなんだけど。何かここまでで質問あったりする?」
バッシュくんたちの話で、装置の鍵の解錠は1度で成功させないとここでずいぶん待たなければならなくなるということがわかった。
その代わり確実に解錠するための専用鍵が魔物の部屋に保管されていて、入れるようになることも。だけどこれは事実上魔物と戦うことを意味していると言ってよさそうだ。
私は少し疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「さっきバッシュくんが言ってた、解錠に失敗すると『誰にでも』扉を開けられるようになるっていう『誰にでも』は、なかにいる『魔物』も含まれているのかい?」
私の質問にバッシュくんは少し目をパチパチさせた後すぐに
「魔物のほうに『扉を開ける』意志が無くても、極端に言うとぶつかっちゃったりとかで、開いてしまう可能性が生まれると思う。扉が開くのを邪魔するものがなくなっちゃうから」と答えてくれた。
「つまり解錠に挑戦するなら1度で成功させないと、そこらじゅうが魔物だらけになってしまうかもしれないってことか」
ガイアスくんがそう言いながら少量水を飲んだ。
「そうなる可能性は高そうだね」
「魔物の部屋がまだ施錠されている間に、バッシュとボクで1つずつ扉を開けて、全部の鍵を手にいれてから確実に装置を動かす方法もあると思います」ノアくんが言った。
そこまで聞いて
「バッシュが籠城戦という言葉を使った理由はわかった」
とガイアスくんが言った。
装置の多重魔術鍵の解錠をバッシュくんたちの力で成功させる以外は魔物相手の長期戦になってしまうのだ。
「装置を解除して操作する以外に洞窟や魔物をどうにかする方法は無いのか?」ガイアスくんがバッシュくん達に聞いた。
それに対しバッシュくんが少し申し訳なさそうに「今のところはその方法しか見つけられてない。それに僕らが外に出るにも、装置を操作して転送魔術式を発動させないと戻れないんだ」と説明してくれた。
魔物が襲ってこないなら話しは別だけれど、そう甘くは無いだろう。
解錠に失敗して魔物の部屋の施錠がはずされる理由を救済以外で考えるとしたら侵入者の排除だ。
管理者に従う魔物なら、失敗するのが管理者本人であって問題はない。
或は魔物を一掃する力を示すことで、ここの管理者である証とするのだろうか?それとも……
ガイアスくんが呟いた。
「うっかりに対するペナルティが激しぎるだろ……」
それから時刻魔導具が夜を教えてくれる時間まで、まだ少し話して私たちは晩の食事をすることにした。
「そうだ。籠城の拠点をどこにするかなんだけど」
背負袋から携帯用の食料を取り出しながらバッシュくんが言った。魔物との長期戦を考えるなら攻撃や防衛だけでなく私たちが負傷したときの治療や休息するための場所も確保しておかねばならない。
「ここ以外なら、装置のある部屋とお客さん用の部屋だよね。明日様子を見に行かない?」
見取り図ではどの部屋も大差のない広さに見えるが、資料によるとお客を迎えるために設けられたスペースは一番広くとられていて、中は仕切等で分けて使用されていたらしい。
ロビーのようになっているこの場所の状態から考えても籠城する場所として悪くないのかもしれない。
それとは別でバッシュくんたちは大昔の『お客さん用の部屋』に少し興味も湧いているようだ。実は私も興味がある。
「そうだな、明日みんなで見に行こうか。危ないところが無いのが確認出来たら拠点に使うのもありだ」
私たちはそのおかげで少しばかり行楽地にでも行くような気持ちでその日を終えたのだった。
◇
9日目(遺跡3日目)の朝
私たちが便宜上ロビーと呼ぶようになった空間の扉を開けて、装置のある部屋に繋がる通路へ出ると、見取り図で見えていたのよりも広さのある空間に迎えられた。
ロビーと同じように日中のように明るく、人工的に整えられた壁面と床は、白っぽく明るい色調で統一されている。
天井のほうにはロビーよりも少し色鮮やかな色を使用した植物柄があしらわれていた。
いくらか古さは感じるものの、数千年も昔の物だとは思えない。
すぐ近くの左手側には扉が1つ。入手した見取り図では7つの部屋が向かい合うように配されていたが、実際には右手側に5つの扉が見えている。
この5つ並んだ扉の内側のどこかから魔物が溢れるほど増えているのかと想像して、少し複雑な気持ちがするのを私は我慢した。
その一番奥、左手側には見取り図のように反対側の扉と向かい合う扉がある。
それが装置の置かれた管理部屋らしい。
扉の位置だけでは判断できないけれど、見取り図に描かれた廊下の広さと実際の差を考えると、差がないように描かれた空間の広さは実際の広さと違うかもしれない。
私たちがロビーを出てすぐの場所で待機している間、ガイアスくんが先に行って、扉に触らないように気をつけながら、通路に物理的な罠などが何もないのを確認する。
それからバッシュくんとノアくんが念のために予定外の魔術式などの仕掛けがないかも確認して3人で戻ってきた。
「大丈夫みたい」
「思ったより奥まで距離がある。測ってないが200ノーツ以上の距離があるかもしれないな」
通路の幅だけでもロビーの広さとあまり変わらない。
「装置の部屋の扉は案の定、魔式罠が仕掛けられてるらしいが、バッシュたちの魔力を温存するために今日はそのままにしてきた」
「僕ら今日はお客さん用の部屋を調べるから」
バッシュくんはそう言うとガイアスくんを見つめた。
ガイアスくんが「ん?」という顔をすると
「キミ、鈍いって言われない?」とバッシュくんが言った。
どうやらガイアスくんに扉を開けてもらおうと思ったらしい。
エレイナさんが笑いながらバッシュくんを抱き上げた。
いつの間にかノアくんはジャックくんの背負袋の上に乗っている。
「よし、開けるぞ」そう言って、やや緊張した面持ちでガイアスくんがゆっくりと扉を開けて先に中の様子を窺う。私たちも中へと続いた。
中へ入ると奥行きが5ノーツ程度、左手側が行き止まりになっていて、入ってすぐの右手側に向かって横に50ノーツくらい伸びた通路の奥に、扉の設けられていない出入り口が1つある。
その壁をガイアスくんとジャックくんが内と外から確認している。
そこから中は1部屋1部屋が先程までいたロビーを若干小ぶりにしたくらいのかなり広い部屋になっていて、入り口からまっすぐ奥へさらに部屋が続く構造になっていた。
部屋の数は5つ。そのうちの1つが最も広い空間で厨房のようになっており、棚等も数多く据え付けられている。
棚などがなければ4つの部屋が収まるくらいの広さがあり、どうも私が想像したような宿泊施設というよりも、家族が住むような住居に近い印象だ。ただ、その1部屋ずつがとても広い。
「1部屋でガイアスが400人以上入れそうなくらい広いわね」
エレイナさんがそう言ったのはおそらく大袈裟ではないように思う。
こうして一度全員でざっと見たあとバッシュくんが「それじゃあ、先に僕らで安全かどうか調べてくるね。細かく調べるのはその後で」そう言って、改めてガイアスくん達と奥へ入っていった。
◇
しばらくして「厨房みたいな部屋は4つの部屋全部と行き来が出来るようになってる」
ガイアスくんが背負袋にノアくんとバッシュくんを乗せるようにして、入って1つめの部屋で帰りを待っていた私たちに報告に戻ったのが昼頃。
「あと残り2部屋調べたらここの安全確認は完了だよ」
バッシュくんはそういうと、ノアくんと2人ガイアスくんに乗って調べ終えた厨房を案内してくれた。
私たちが厨房と呼んでいる部屋には本当に煮炊きの出来る大きめのかまどのようなものが3つあって、かまどに近い場所にはいくつか作業台も設けられている。どうも本当に調理場として利用していたようで、壁際だけでなくいくつも棚が据え付けられていて、金属製の大きな鍋や寸胴なども見つけた。
見ただけだと使い方のわからない調理器具もある。
部屋の中央よりの少し端によったところには、食事の出来そうな大小のテーブルや椅子も並んでいて、私たちはそこに一度荷を置いて昼の休憩をすることにした。
バッシュくんもノアくんも魔力をだいぶ使ったらしく、食事と一緒に魔力を回復させるポーションも飲んでいる。
今日中にあと2部屋も調べるつもりのようだ。
それから「僕らの専門外だけど、昔の人の調理法が書かれたメモとかが残ってた。竹ちゃんに見せたら喜びそう」と言って、古代文字が書かれた古い紙や記録用の魔導具をいくつか見せてくれた。
竹ちゃんというのは友達だろうか。
それから2人ともふたたびガイアスくんに乗って別の部屋に調査に向かっていった。
◇
ガイアスくん達が他の2部屋を調べに行っている間に、私たちは安全の確認された厨房の設備を試してみることになった。
ガイアスくんには「棚に残ってる瓶詰めや食糧は念のため食べたりしない方がいいと思うぞ」とだけ注意されたが、私はお腹を壊す覚悟があれば大丈夫だろうかと思ってしまった。
もちろんすぐに魔物戦に備えてやめておこうと私は思い直したことは言うまでもない。
部屋の中の物には隠されていたようなのもあったらしく、私たち全員で軽く見て回った時にはなかった陶製の保存容器や木製の箱等がたくさん並べられている。
どれも大昔の人たちが本当に使っていたかもしれないものばかりだ。一体どんなものを食べていたのだろう。
案外今の我々と同じようだったかもしれない、等と考えを巡らせるとすこし面白い。
かまどの側には水を貯めたり排水も出来そうな石で出来た設備がそれぞれに据えられていて、水の出そうな筒のようなものまで程よい高さについているというのに、肝心の水の出し方がよくわからなかった。
バッシュくんたちも仕掛けがないか調べたり、試しにエレイナさんが水属性の魔力を流して『呼び水』のようなこともしてみたけど、それでもダメだった。
残念だけど古いので使えなくなっているのかもしれない。
排水の出来そうな箇所は他にも数ヵ所に据えられていて、水さえなんとか出来れば快適に過ごせそうな気がした。
厨房から各部屋に繋がる出入口には4つとも扉は無く、代わりに布等が引っかけられそうな造りになっており、1つは最初に入った部屋への通路で、残りの3つは書斎のような場所と寝室らしい場所へ、あと何に使うか明確でない見た目に応接室のような部屋へ繋がっている。
明るさは足りているけれど、陽射しや外が見える窓が無いようなのが残念だ。私がそう思っていると
「窓でもあれば良かったな。いくら広くても壁ばっかりじゃ滅入る」ジャックくんがそう言って、エレイナさんがジャックくんに同意して笑った。
しばらくそうやって厨房を確かめていると、ガイアスくんが休憩のためノアくん達を両肩に乗せて戻ってきた。
「なあバッシュ、ノア、お前達ちょっと重くなってないか?」とガイアスくんが首をかしげている。するとバッシュくんがガイアスくんから顔を反らした。
私とジャックくんがノアくん達の背負袋を掴んでみると
「重……」
「ボクらのアイテムバッグ、見た目よりたくさん入るから……」
ノアくんが少しばつが悪そうに言った。
どうやら興味を引いたものをバッグに詰めていっていたらしい。
ガイアスくんは重くなった理由がわかって「なんだ」と笑っている。2人の見た目に変わりがないのに短時間で何倍も重さが変わったので、気になっただけらしかった。
ジャックくんはその何倍も重さが変わった様子を聞いてバッシュくんたちに言った。「荷物を一回整理しろ」
バッシュくんとノアくんがショックを受けているのを見て、ジャックくんが続けて言った。「ちょっとくらいならオレたちも運ぶのに協力してやるから。でないとお前ら、自分のバッグの重さで歩けなくなるぞ」
それからしばらく時間をかけて、私たちはバッシュくんたちの背負袋の中身を整理して袋に仕分け、その殆どをガイアスくんに預けた。
「よし、お前達さえ良いんならまだまだ預けてくれて構わないぞ」とにかくガイアスくんが頼もしい。
そして魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発したバッグは重ささえどうにか出来れば凄いアイテムだ。重ささえ気にならないのなら、既に凄いアイテムだ。ノアくんとバッシュくんとガイアスくんの3人を見ながら私たちはそう思うのだった。
そして荷物の整理を終えたバッシュくんが「それじゃあガイアス君、そろそろまた安全確認の続きをしに行こう」とガイアスくんに声をかけた。「休憩はもういいのか?」とガイアスくんに尋ねられたバッシュくんとノアくんが顔を見合わせて「おやつも食べたしね」「美味しかったね」と話してからガイアスくんに向き直って「うん。それに、あと少しだから」と返事をした。
◇
時刻魔導具が晩時を知らせてくれる頃、残りの2部屋の安全の確認も終えてバッシュくんたちがガイアスくんと厨房で待つ私たちのところへ戻ってきた。
「危ない仕掛けとかは見つからなかったから大丈夫」バッシュくんたちが戻ってすぐにそう言って「これで一応5部屋全部確認はし終えたぞ」とガイアスくんが教えてくれた。
エレイナさんが「お疲れ様」と声をかけ、私たちは作っておいた野菜スープをテーブルに用意して、それぞれ晩ごはんの食料を取り出した。今日は少量、穀物や芋も煮ている。
私が持ち込んでいた乾燥野菜はこのスープを作った分でだいぶ減ったけれど、薬草類は1つも使わずにすんでいて、まだまだ安心だ。
私が水や食材を頭のなかで整理していると、ガイアスくんが他の部屋の様子を報告してくれた。
「奥の寝室っぽい部屋は寝具に使えそうなのがベッドの土台くらいだ。見た感じ特に何もなかった。一番奥は書庫みたいに本棚が置かれてる。もう1つの部屋は床や天井、壁までちょっと豪華な造りに見えるが、それ以外は広いだけで特別な物は見当たらなかった」
「もっと細かく見ていけば、この厨房みたいに隠し戸棚とか床収納みたいなのが見つかるかもしれないよ。探してみる?」
バッシュくんに聞かれて私たちは顔を見合わせた。
期待薄かもしれないが籠城になったときの役に立つものが見つかるかもしれない。「探すとしても、あとは明日だ」
ガイアスくんがそう言って背負袋からテントを取り出した。
「ロビーまで戻ってもいいけど、ここの方が広いからな」
私たちは各々自分の荷を確認して来る日に備える。
◇
10日目(遺跡4日目)
朝食をすませて私たちは『応接室』と名付けた部屋に入った。
事前に確認していたとおり、他の空間に比べて少し凝った豪華な造りにである以外、置かれているものも少なく特に何もあるようには見えない。
「そこに置かれてる卓上も調べてみたが特に何もなかった」
部屋の四隅にそれぞれ置かれた同じデザインの卓上を指してガイアスくんが言った。
私たちも試しに動かしてみたり持ち上げて確認してみたりしたが、めぼしい仕掛けは見つからなかった。
床には『星』を意味する古代文字を装飾のようにデザインに使った敷物がしかれていて、これも念のためにめくってみたけれど、床下の収納等は見つからなかった。
「床下に何かあるかもって思ったんだけどな」
バッシュくんが私たちの気持ちを代表するようにそう言った。
気を取り直して『寝室』の方へ行くとマットや布の敷かれていない状態の大きなベッドに使うような長方形の四角い物が6個置かれている。試しにガイアスくんが動かしてみると動いたそうなので、私もちょっと触ってみた。
「………?」びくともする気配がないんだけど……
「……ガイアスくん、これ本当に動くの?」
素材が石のようなもので出来ていて動かせる気がしない。
「動かせる!」
私がよほど疑うような顔をしてしまったのだろう。
ガイアスくんが四角い物体を両腕で抱えるようにして掛け声と共に、動かすどころか、持ち上げた。
エレイナさんが「これ、動かせたの?!」と驚いている。
「ガイアスくん、疑ってすまなかった。凄い」
「いやいや」
「凄いでしょ!ガイアス君は力持ちなんだ」
なぜかジャックくんとバッシュくんとノアくんが誇らしげにしている。
「そうだガイアス、これで出入口にバリケードを作れるんじゃないか?」
ジャックくんがそう言ってバッシュくんとノアくんが期待の眼差しでガイアスくんを見つめている。
ここを籠城戦の拠点とした場合、最初の出入口は1ヶ所だけだけど、前衛のガイアスくんやジャックくんが負傷した場合、一度私たちはこの空間の奥まで後退しなければならない。
そうなると、中まで魔物に侵入されてしまうだろう。
その時、厨房にある4つの出入口がそのままだと、後退した私たちが回り込まれたり囲まれたりする恐れが出てきてしまう。
それを防ぐために出入口を障壁で塞いでしまうのは良い手のように思う。
これだけ重い物で塞いでしまえば簡単には破れない。
するとガイアスくんが「それ時間稼ぎになるのか?」と怪訝そうな表情をしたので「お前以外に簡単には動かせないから大丈夫だと思う」とジャックくんが言った。
ジャックくんの言う通り重さや強度だけで考えると簡単に突破される気はしないけれど、置き方によって倒れやすさは変わるかもしれない。
「障壁に使う石材が倒れないよう、奥にある棚も使って障壁の足場を安定させれば、隙間を埋めて補強することで強固な障壁にならないだろうか。それなら状態に応じて出入り口を私たちの都合である程度増減できるとおもうのだけど、どうだろう」「なるほど」
例えば基本のイメージとして、石材ベッドを横に倒したものを2つ使って縦向きの石材ベッド1つをサンドして固定する感じだ。周囲をさらに棚などで補強。石材ベッドは6個あるのでこれで2つの入り口を塞いで障壁にする。
何処にいつ、どのタイミングで利用するかなど、実際にどのように障壁を作るかについては、何度も計画を再考し直してもいいと思う。
「魔物の強さと数がどのくらいになってるかも気になるな」
私たちは『お客さん用の部屋』を拠点とする場合のことを話し合いながら、一番奥の『書斎』へ向かった。
『書斎』の出入口は『寝室』と『厨房』への出入口だけで2箇所。『寝室』と『応接室』と入口からすぐの『1番目の部屋』の出入口がそれぞれ3箇所あるのと比べると1つ少ない。
これなら魔物との戦闘になった場合、防衛に適していると言えそうだ。
『書斎』には広い空間の壁際から中央に向かって、多くの本が所蔵される書棚がある一方、半分ほどしか本で満たされていない書棚や空いた書棚も一部あった。そのうち4つの書棚は天井と床に敷かれたレールの可動式で、それ以外の書棚は別の部屋へ移動可能だ。
その他に長方形のテーブルと長椅子等が置かれている。
「しまわれてた資料を読むと、ここは古代の人の娯楽施設のようなものだったみたい」
「洞窟に魔物を放って狩りをするような娯楽で、そのための魔物を閉じ込めて入れてたのがあの部屋。今あちこちに現れてる魔生物はその当時使ってた魔物を放つための通路とかを通じて出てきてると僕たちは考えてる」
「そんな風に聞くと魔物とはいえかわいそうだな」
ガイアスくんが言った。
「同情してるとやられるぞ」
「わかってる」
「全部の魔物とは言わない。けど、ここの魔物は大人しい類いじゃないと思うよ。それと、現れてた魔物を見かけなくなったのはここを誰かが動かしたせいだと思う」
バッシュくんが言った。
「洞窟に関してだけなら長い年月放置されていてた通路がこの施設の再起動で正常化して閉じた可能性があります」とノアくんが補足した。
「キミたちが洞窟で見た『動く何か』はここを動かした誰かだった可能性があるよね。今のところ僕らの憶測で、本当かわからないけど」とバッシュくんが言った。
森や、バッシュくんたちの仲間の住む遺跡近くは、洞窟の地形に変化が現れてからも魔生物は現れている。遺跡施設の再起動で出口が閉じたと言いきるのは、まだ彼の言うとおり早計だ。
話ながら書斎をいくらかみているうち、いつの間にか昼時になっていて、私たちは一度『厨房』に戻って昼食にすることにした。
バッシュくんたちの荷物がまた増えている気がしたけれど、先ほどのガイアスくんを見た後の私は、彼らがガイアスくんと仲良く荷物を分けあうその様に対してなにも思わなくなっていた。
その時の私はエレイナさんが「……『書斎』の棚ってあんなにスカスカだったかな」と心の中で首をかしげていたのを知るよしもなかった。
◇
昼食の後、私たちは遺跡の装置を確認しに、装置のある管理部屋までやって来ていた。
バッシュくんたちが入口扉の魔式罠を解除して、ガイアスくんと先に部屋の中へ入り、私たちもその後に続く。
中に入るとガイアスくんの側で、魔力を消費したバッシュくんとノアくんが魔力回復ポーションを飲みながら休憩している。
中はこれまでの部屋とは雰囲気が違い天井は白に近い灰色、床は灰色ががかった薄い青色。
壁は青みのある淡い緑色で全体に少し暗い印象だ。
いずれも無地で特に気になるような模様が見当たらない。
この部屋も特に何かしなくても、明るさが足りている。
部屋の中央より手前には深い藍色の塔のようなオブジェクトが立っている。全体に螺旋状の装飾が施されていて、高さは長身のガイアスくんより少し高い1ノーツちょっとだ。螺旋の装飾には、良くみると小さな古代文字が無数に刻まれている。
きれいなので私たちが見つめていると、休んでいたバッシュくんがぴょんと立ち上がって、私たちの側までやって来て言った。
「これがこの遺跡の操作をする装置だね」
そう言うと、バッシュくんはガイアスくんの肩によじ登って、アイテムバッグから折り畳んだ用紙を1枚取り出した。
取り出した用紙を広げて、私たちにも確認出来るように塔型のオブジェクトと並ぶように紙をかざす。
用紙にはこの塔型のオブジェクトによく似た絵柄が描かれていて、古代文字で文章が書かれてある。
彼らが『ロビー』で見つけた『操作装置』の説明書の一部だ。
「この螺旋のところに魔力を流せるようになってる。今はまだ流さないけど」
そういってバッシュくんは説明書をたたみ直してアイテムバッグにしまい直した。この藍色の塔のようなオブジェクトが遺跡の操作装置で間違いないようだ。
装置のある中央より奥には収納棚と背の高い長方形の棚らしきものがいくつも並んでいるのが見えるけれど、こちらはそれ以上はまだわからない。
中に入ってすぐに見える場所にこの装置らしきものがあったので、そちらの確認を優先して、奥はこの後見に行くところなのだ。
「割りとあっさり装置が見つかって良かったな」とガイアスくんが笑った。
後は万一の時の籠城戦に備えれば私たちの準備は完了だ。
拠点をどこにするかは既に意見がまとまっているけれど、決定は『装置のある部屋』も確認してからにしようということになっている。
ジャックくんが出入口を確認し「扉はガイアスが盾を構えて立つとおそらく敵は通れないし、通さないだろうから良いとして」
そう言いながらすぐ前方に見える『魔物の部屋』の扉を見た。
出入口の外側で戦うことを想定した場合、反対側の壁までの距離が近すぎて、ジャックくんが移動できる範囲が狭い。
『魔物の部屋の扉』が近すぎて奥行きがない上、背後以外の全方位から数で圧されることにもなる。
出入口内側で戦う場合に対峙する魔物の数が少なくて済むのは、どの部屋にも言えることだ。
エレイナさんは「足場を作って弓や攻撃魔術で後方から魔物の数を減らすのは出来そうだけど、ここは『ロビー』と比べて少し狭いのが気になるかな」
万一前衛のガイアスくんやジャックくんが回復の追い付かないダメージを受けても、後方の私たちを庇い後退できない、ということが起きることを気にしている。
魔物の侵入を許した時を考えると、私たちが逃げる場所が少ない。
それを防ぐため、ガイアスくんたちが無理をする恐れがある。
……せめて私にもう少し耐久力があったり、何か凄いスキルでもあれば私も前に出て戦えるのに。
「そういえば、少しの間だけなら相手の動きを止める魔術が使えるんだけど、何かの役に立つかな」と私が言ってみると、バッシュくんたちが一斉に私を見て口々に「そんなこと出来るの」「時間はどのくらい」「属性は何ですか」「すごい」「さすがです」「役に立たないわけない」「効果範囲は」最後にバッシュくんが「詳しく教えて」と意見をまとめてくれて私は自分の地属性魔術の詳細を説明をはじめた。
うまく役に立つといいのだけれど。
「それじゃあ、最後にここの安全確認の仕上げに行ってくる。拠点にするかどうかは、この奥も見てからにしよう」
ガイアスくんがそういうと、バッシュくんが扉の付近で、まだ部屋全体を見回している私たちに「装置より奥にはまだいかないでね」と声をかけながら、ノアくんと一緒にガイアスくんの両肩に乗せられ奥へと向かった。
この部屋も他と同様、広さの割に置かれてあるものは少ないのだが、それでも『お客さん用の部屋』の『応接室』ほど、置かれた物が少ないわけでもない。
奥のほうには細長いテーブルや椅子、縦長の箱があるのが見えている。ここが遺跡を操作したりする管理部屋なら、この遺跡や魔物についての情報が見つかる可能性は高い。
天井くらいまで高さのある棚等もいくつもあって、部分的に棚によって空間が仕切られたようになった箇所もある。
そのせいで装置より向こう側へ行ってしばらくすると、ガイアスくんたちの姿が私たちから見えなくなった。
ここからでも棚はいくつも見えているので、仕掛けがないかの確認だけでもすぐに終わりとはいかないだろう。
残されたエレイナさんとジャックくんと私は3人で装置より奥へは入らないよう気をつけながら、室内を観察したり、壁の分厚さなんかを一緒に見ていた。
壁の厚さは『ロビー』や『お客さん用の部屋』に比べて極端には変わらないけれど、『ロビー』より少し厚みがある。
装置からすこし離れた場所から壁際に小さめで背丈の白っぽい灰色のテーブルが3つと、丸味を帯びた四角くいクリーム色の椅子が複数置かれている。テーブルの大きさに対して椅子の数が少し多く、数えてみると18個ある。
椅子は僅かに弾力があって不思議な触り心地だ。何で出来ているんだろう。
装置の方も素材は何かよくわからない。巨大な宝石か、鉱物か何かで出来ているように見え、思わず触ってみたくなるのを我慢した。
私が触れたくらいではなにも起きないので大丈夫なのだけど、すごく畏れ多い気がしたのだ。
壁や天井、床も、気をつけてよく見ると、材質に魔鉱石が含まれているらしく微かに光を放っている。
遺跡が造られた当時、今より魔鉱石が豊富だったのかもしれない。
しばらくそうやって部屋を観察し終えたころ
ガタン!バサバサッ
と、部屋の奧から物が落ちるような音がして、間を開けず
「うぁ!」「ノア!バッシュ!」
バッシュくんとノアくんの悲鳴があがってガイアスくんの声が聞こえてきた。
物音と悲鳴に驚いた私たちが、あわてて彼らのもとへ向かおうとすると
「待て!来るな!」と私たちの行動を察したガイアスくんの声が聞こえて、時間を置かずに「ジャック!お前は来てくれ!」と続いて、ジャックくんがすぐさま向かう。
その間にも奥から金属や物がぶつかる音が何度か聞こえてきて、わずかだけれど棚が揺れた。音が聞こえる度にエレイナさんが少しずつ奥へ近づいている。手を離したら今にも行ってしまいそうだ。
残された私とエレイナさんが何が起きているのかわからないで不安でいると、バッシュくんとノアくんが、私たちのほうへ走ってきた。
「バッシュちゃん!ノアちゃん!良かった無事で」エレイナさんが2人を抱き上げた。怪我をしている様子はない。
「棚に僕らの気づかない転送魔術の仕掛けがあって、そこから知らない人が出てきた……」「ボクら話そうとしたんだけど……」「その前に体力と魔力を向こうの魔導術でだいぶ吸いとられちゃって動けなくされた」
ガイアスくんは応戦して、駆けつけたジャックくんがバッシュくんたちを手当てして逃がしたらしい。
金属や物がぶつかる音はまだ続いている。
相手も物理的に攻撃可能な武装をしているのだ。
その上、魔力や体力まで奪う魔術も使用する。
問答無用の敵意に魔導系との相性の悪さで、ガイアスくんがジャックくんだけを呼んだ理由がわかった。
エレイナさんと私が顔を見合せ、エレイナさんが抱き上げていたバッシュくんたちを後ろに下ろし、弓の準備をする。「ガイアスとジャックなら大丈夫だと思うんだけど」
エレイナさんがそう言って笑ったのと殆ど同じに、何かが倒れたような音を最後に、聞こえていた音が止んだ。
◇
「痛い痛い痛い痛い痛い!あの腐れた侵入者どもめ……!!」
そう呟きながら部屋の奧から姿を現したのは、ジャックくんでもガイアスくんでもなかった。
現れたのは黒い霧に包まれた……身体中に鱗のように薄い金属のような物を身に付けている、人とも魔物とも区別のつかない姿の異質さを思わせる何者か。
眼をギラギラとギラつかせながら、ゆっくりと歩いてくる。
「ガイアス、ジャック!」エレイナさんが叫んだ。返事はなく2人は現れない。棚や物が死角を作って2人の状態の確認も出来ない。
異質なそれが私たちの方へ手を向けようとするのを見てすかさずバッシュくん達が魔力を放出した。
【二重奏!】
バッシュくんとノアくんが同時に魔術式を発動させた。
私たちの前に現れた何者かがなにか呟いている。
しかし、今度はよく聞き取れない。
ただ、バッシュくんたちの魔術を受けて、ハッキリ表情を歪めてから、あちらも詠唱し始めている。
魔力と体力を奪う術だ。
力が抜けそうになる感覚がある。
このままでは直に動けなくされて、不味い。
「あんまり効果がない、止めるのがやっと、というか少し押し返されてる」
「ボクたちより魔力が強いってこと?」
「わからない」
バッシュくんが呻くように言った。
そういえばバッシュくんたちも弱体化の術式を使えるのだと言っていた。同じような効果の魔術で彼らが対抗してくれているのなら、その間にこの状況を、私とエレイナさんで何とかしなければいけない。
魔物の方は片腕の手首から先に爪のような形状の金属の武器を身に付けている。
詠唱をやめてあの爪のような武器で向かってこられると厄介だ。
エレイナさんも風属性や水属性魔術を試したが、こちらも効いていない。予想通り、魔導系との相性が悪い。
「けど、これならどう?!」
エレイナさんはそう言うと、狙いを定めるため少し後退し短弓を構えて引いた。
私も短剣を構え、魔物の動きを封じることを試みて地属性魔術を行使するため詠唱した。
「アースバインド!」
すぐにでもガイアスくんたちのもとへ行きたい。だがこの黒い霧を纏った何者かが邪魔で彼らのもとへ行くことが出来ない。
せめて動きを止めることができれば、誰かがガイアスくん達のところへ向かえるかもしれない。今すぐ手当てすれば、助けられるはずだ。
「?!」「マクスさんの魔導が効いてる!」バッシュくんが叫んだ。「あいつ術も使えなくなってる!」
え、そうなの?
勿論そのつもりで詠唱したのだけど。
ちょっと意外で私自身が驚いた。効果のある魔術で良かった。
けど、私の地属性魔術『アースバインド』の効果は一時的なものだ。
「さっきも説明したけど、これは10数えるくらいしか効果が続かない!発動中に次を撃っても効果は追加されない」
足止めの間、私はここを離れられない。
私の言う意味を察して、バッシュくんとノアくんがガイアスくん達のところへ救援に走る。
その間もエレイナさんが弓で容赦することなく射る。矢の刺さった部分から魔物特有の黒い霧のようなものが噴き出しはじめた。万一にもバッシュくんたちを追わせるわけにいかない。
私のこの魔術式はダメージにならないが代わりに、術が効いている間相手は詠唱も儘ならない。
この間にガイアスくんたちを手当てする……
私は魔力回復ポーションで先ほど魔術で奪われ失った魔力を回復させ、再度詠唱した時、奥へ行ったばかりのバッシュくんたちが、2人だけで走って戻ってきた。
ガイアスくんたちは現れない。
……まさか
「ガイアス君達、2人とも魔術でどこかに移動させられたみたい。そんなに遠くじゃないはず」「ボクらの『追跡』で追えます」バッシュくんとノアくんが報告してくれた。
「さては、ガイアスとジャック2人が相手だと敵わないと思って飛ばしたのね!」
エレイナさんがほっとした表情で言った。
「近くにいるなら、さがさなくてもそのうち戻ってくると思う」
私は頃合いをみて再び詠唱した。
「キミからみて僕らが『侵入者』なのはきっと事実だから、言い分があるなら聞くよ。けど問答無用で攻撃されるのはごめん被る」そう言いながら、傷口から噴き出す黒い霧を確認してバッシュくんたちが、対魔物用の魔導具を取り出した。
一般的に黒い霧は魔物の体内で変質してしまった魔力だと考えられていてるが、黒い霧即ち魔物であるのかは今はまだよくわかっておらず断定されていない。人の魔力が変質して黒い霧のような物になる事例も確認されているからだ。
しかし、バッシュくんたちが対魔物用の魔導具を取り出した途端に私のほうに凄まじい負荷がかかるのがわかった。
ヒトなのか魔物なのかわからないこの『何者か』が術から逃れようと抵抗しているのだ。詠唱も儘ならないはずの相手から『忌々しい、羊人ふぜいが……!』と声がして私はビクリとする。
私は『抵抗』に抗う。ガイアスくんやジャックくんがいない今自由になられては困るのだ。
今にも術が解かれそうなのを堪え、再度詠唱しようとした時、魔物が私の拘束から脱け出し、私だけでなく、側にいたバッシュくんたちまで弾き飛ばした。効果の切れるタイミングと詠唱がずれてしまった。それでも私はなんとか詠唱を途切れさせずに続ける。エレイナさんは短弓を構え直し、バッシュくんたちも魔導具を起動させた。
私たちがそうするのと殆ど同時にガイアスくんとジャックくんが走って戻ってきた。それで魔物は分が悪いと思ったのだろうか、辛うじて動かした手で懐から何かを取り出したかと思うと、私たちの前からかき消えるようにいなくなった。
後には黒い霧の残滓のみ。
◇
「情報を整理したい」
ヒトのような魔物と遭遇し、それを退けたあと私たちは『お客さん用の部屋』の『厨房』まで戻って話をしていた。
バッシュくんとノアくんは大丈夫だと言って聞かないのを一先ず落ち着かせてテントの中で休ませている。
治療アイテムを使ったため体力や魔力は回復しているが、強引に体力や魔力を奪われた際に受けた疲労ダメージは、それでは治せない。
「さっきの魔物みたいなやつについてなんだが、転送魔術で出てくるなり攻撃してきた」ガイアスくんがそう言って、少しだけ水を飲む。
話をしようとしたバッシュくんやノアくんに対して最初から体力や魔力を奪う術式を使っていて応戦せざるをえなくなったという。
「悪い……」ガイアスくんが俯きがちにそういった。
バッシュくんたちへの攻撃を許してしまったことに対するものだろう。
ジャックくんが彼らのところへ着いたときには床にノアくんとバッシュくんが倒れていて、ガイアスくんが応戦している状態だったらしい。
私の魔導術は運良く効果があったけれど、こちらの魔術が効きにくいのは厄介だ。ただ、「身体的な強靭さならそれほどでもなかった」というのが2人の見立てで、傷口から黒い霧が噴き出すのを見た私も、彼らのいう通りの印象を受けていた。
魔物の黒い霧が、私たちにとっての出血に相当するなら、黒い霧を纏って現れた魔物は、ガイアスくん達との交戦でダメージを負っていたことがうかがえるし、ガイアスくんたちが私たちに合流したところで魔物が逃走したのも、それを裏付けている。
問題は魔物が使った魔導術だ。
相手の体力や魔力を奪う魔術もだが、対象を一瞬で離脱させてしまう魔術。大して遠くへは移動させられないのだとしても、別のところへ飛ばされてしまうだけで厄介だ。
結局正体もわからずじまいで逃げられてしまった。
けれど「魔物の部屋に飛ばされてたら不味かった」とジャックくんが言うのを聞いて、移動先は指定できないのかも知れないなと私は思った。
使用にも制約がある可能性が高い。
もし無制限に使えるならやったのではないだろうか。
でも、油断はできない。
それからしばらく時間を空けてバッシュくんたちがやってきた。2人とも、もう大丈夫そうだけれど、エレイナさんはまだ心配そうにしている。無理もない。
痛い思いなどはしなかったのがまだよかったのだろうけれど、ジャックくんによれば2人とも一時は動けなくなっていたというのだから。
当のバッシュくんたちは、そんなことなかったかのように「さっきの魔物なんだけど」キビキビと分析してきた結果を私たちに報告してくれた。どうもテントで休んでいなかったらしい。
「残っていた『黒い霧』は魔物の成分で間違いなさそう。ヒトみたいな姿をしていたけど、さっき僕らが遭遇したのは確かに『魔物』だった」「専門の機関に調べてもらわないと、どんな魔物なのかまで詳細はわからないですが、少なくとも言い伝えられてるような魔神とか、魔人とかじゃありません」私たちが頷きながら耳を傾ける。
「それと、たぶん『三朗太』はここの装置を動かしてない」
バッシュくんが断言したのを聞いて私たちは頷いた。
頷いてから、一応確認のため聞いた。
「三郎太?」
「他の『魔物』と区別するためにボクらが名前をつけました」
「確かに、全部『魔物』で表現すると、どの『魔物』なんだよって、わかりにくくなるもんな」「はい」
「それで、三郎太が装置を動かしてないっていうのは?」
「もし『三郎太』に管理者としての権限があるなら、あんな1回限りの転送魔術の仕掛けじゃなくて、管理者用の出入口や装置を使って入ってくると思うんだ。せっかくあちこち魔力も充填してるんだし」「なるほど。別に何者かがいる可能性のほうが高いんだな」
『三郎太』が使用した転送魔術式は『三郎太』が逃げた後に確認すると消失していた。予め指定した場所に1度だけ移動できる、逃走時に使ったような魔導具を使用したと思われる。
「うん。『三郎太』はその何者かと知り合いかもしれないけど」
洞窟や森から魔生物が現れるようになったのは古代遺跡の老朽化のせいで、その後に遺跡の機能を復活させて回っている何者かがいる。そのせいで洞窟の地形の変化や森に奇妙な物体が現れる現象が起きている。一体何が目的なのだろう。
バッシュくんたちは魔生物に襲われるようになった犬族の仲間たちのことも気になっているようだ。
「まだわからないことはあるが、俺たちに出来ることっていうのは限られてきたな」ガイアスくんはそう言うと一息ついた。
私たちは今後の予定を大まかに相談し、拠点を『お客さん用の部屋』に決定して数日かけて籠城のための準備を進めることにした。
時刻魔導具を見ると日が傾くにはまだ早い時間で『拠点・お客さん用の部屋』内でそれぞれ晩ごはん時まで自由行動をすることになった。
バッシュくんたちはエレイナさんと『書斎』で見つけた本を熱心に読んで、ビスケットを食べながら3人で紅茶を飲んでいる。
ノアくんは紙質や表装等も面白いらしく、興味深げに見ている。2人ともフサフサとした尻尾が時折愛らしくパタパタ揺れる。
装置の置かれた部屋からも資料を持ってきているようだ。
ふと見るとジャックくんも1冊の本を熱心に眺めている。
本の背には『星』と『魚』を表す数字が刻印されているのでシリーズものの本のようだ。
私も『書斎』から本を借りようかと思い行ってみると、書棚の中に本が殆ど見当たらなかった。よく見ると部屋の隅にたくさんの本が纏められている。
なるほど、しらぬ間に中の本は棚を拠点で使うために移動させたのか。私の視界に1人で背負袋を背負って腕立て伏せをしているガイアスくんの姿が映った。
ガイアスくんは働き者だ。
それから晩ご飯時の時間が近づいて来る頃になって、各々自分の主食を取り出し食事の準備を始める。
今日は薬草と燻製肉を使ったスープだ。
乾燥野菜はまだあるけれど、とうとう薬草を試してみたくなってしまった。ちなみに薬草も燻製肉も洞窟に入る前に新しく仕入れた少し上等なものだ。
「薬草って野菜代わりになるのね」「いけるな」「美味しいね」
薬効は薄れてしまって、少しばかりもったいないかもしれないけれど、お腹を満たしてその上評判も悪くないようだし、良かった。
いよいよ私たちは帰還に向けて『装置』の解錠に挑戦するための準備を始める。
◇
11日目(遺跡5日目)
朝食の後、私たちが魔物との籠城戦に備え忙しく動き回ってから、昼との間に1度休憩を挟んで寛いでいた時のこと。
「ガイアスくん、ちょっとキミに折り入って頼みたいことがあるんだ」バッシュくんとノアくんが、見馴れない魔導具を持ってガイアスくんと話している。
「これは僕らの身体機能を計測して数値化する魔導具の試作品なんだけど、ちょっと試してみない?出た数値も記録したい」
「へぇ、面白そうだな!試してもいいぞ」
「じゃぁ、ここを持って……」「よし」「ありがとう」「ありがとうございます」しばらくやり取りをしたあと2人は続いてジャックくんの方へも同じように話して、今度は私の方にもやって来た。何でも『基準値』や『平均値』となる数値を決めるのにサンプルも集めているのだそうだ。
今は結果が出るまで少し時間がかかるけれど、ゆくゆくは好きなときに手軽に計測してその場で結果を確認できる物にしていきたいのだと説明してくれた。「ありがとう」「ありがとうございます」「どういたしまして」それからエレイナさんにも同じようにやり取りをしてから嬉しそうに2人でテントに戻っていった。
昼前にはまた集まってガイアスくんたちと籠城戦になった場合に想定しておかなければいけなさそうなことについて相談し合う。
強さも勿論気になるけれど、最も気になるのは魔物の数だ。
「部屋の実際の広さ、魔物の大きさや性質によるので断定は出来ませんが、1つの部屋が『ロビー』くらいの広さと仮定するだけでも、おそらく1部屋に1600体くらいいると思った方が良いと思います。場合によってその倍以上」
「通路の距離から考えて、実際には1部屋が『ロビー』よりもっと広い可能性が高いです。その場合少なくて2000体最悪10000体以上」「1部屋でそんなにいるのか?!」
「劣悪な環境下でも平気な魔物なら、重なりあうように増えてるかもしれない」「なるほど」
「資料によるとこの施設はある程度自動で稼働できていたようで、使用されなくなってからもしばらく人知れず動いていたみたいです」
しばらく……どのくらいだろう。
そういえば、古い割に綺麗だとは思っていたのだけれど。
「そう言えば今も勝手に動いてるんだよな。大昔の文明って言っても侮れないな」
「昔の古い文明ですが、長い期間かけて発展していたようなので……技術は世代を越えて継承されて……」ノアくんの話をガイアスくんが感心しながら聞いている。
「なるほど寿命が長い魔物ならこの遺跡に残った機能があればそれで生き残れるのか」
「魔物については、まだわかっていないことが多いけど、少なくとも僕達と生体が違っているから。大気中の魔力を取り込むだけで活動出来る魔物もいるくらいだよ」
それから私たちは実際魔物の強さがどの程度かわからないこともあって、最低10日、ひとまず30日から50日くらいの籠城を覚悟して準備を進めることになった。
◇
昼食を終え、私たちはカチャカチャと音をさせながら荷を運んでいた。『厨房』で見つけた木箱等を利用して、使えそうなものをまとめているのだ。瓶詰めや陶製の容器には食べれそうなものがあるが、よほどの緊急時でない限り用心して食べたりはしない。
食料に関してはもともと多めに持ち込んでいることもある上、水も食料もバッシュくんたちと合流出来たときにも補充してもらえたのが非常に大きく、今はどちらも緊急性を感じにくい。
とはいえ『厨房』には水の出そうなところはあるのに水が出ないのが現実なので、放置すれば必然的にいずれ問題になってくる。
そのため今のうちに対策しておく必要があるのだ。
いざとなればエレイナさんとバッシュくんたちが水属性の魔術を使用できるため、水を用意しようと思えば出来るのだけれど、魔力を消費するのでいくらでもというわけにもいかない。
そこで籠城準備中の就寝時の自然回復をあてにして、余った魔力で「夜に水を作っておく」やり方で備えることになった。
彼らの魔力が私たちの命綱のようなもので成功の鍵であると言えるだろう。そのため魔力回復ポーションもこれまで以上に貴重品である。
「また『三郎太』みたいなのが来たら困るからな」と特にガイアスくんが用心している。私たちはバッシュくんたちからもらった緊急用の魔術鍵を各自で確認する。対策しても、万一施錠されたままの扉の内側に移動させられた場合はこれで脱出を試みる。
小休憩を挟みながら時刻魔導具で日が傾き始める少し前まで作業をし、箱に『使えそうなもの』『そうでないもの』に分けて私たちは一度きちんと休むことにした。
「お疲れさま」エレイナさんが用意してくれた飲み物をみんなで飲む。香りも良く美味しい。「これ美味しいな。エレイナ、こんなのも持ってきてたならもっと早く出してくれて良かったんじゃないか?」とガイアスくんが笑って言うと「まだ先がわからなかったし、勿体ないじゃない」とエレイナさんが笑って返した。
エレイナさんが飲ませてくれたのは、魔導研究ギルドと商人ギルドが開発した粉末をお湯などに溶かして作る微量だけど魔力回復効果のある飲み物だ。
私も飴やビスケットなど彼らの共同開発商品は持ってきているけれど、飲み物は通常の水しか持ってきていない。
ガイアスくんたちも同じだろう。
エレイナさんによると持ってきた飲み物の効果は魔力回復だけではなく、魔術への耐性や身体的な耐久の上昇が微増ながらあって、それが長時間継続するらしい。
なるほど。それは確かに日常的に使うのは少しもったいない気がする。
休憩の後は、またしばらく箱に分けていく作業に戻る。
バッシュくんたちが使う用の箱も専用に作っていて「これ、使っちゃうと後でギルドとかの人に怒られちゃうかもしれないね」「僕らと彼らの命を守る『救援』のためだもの。仕方ない、仕方ない」「そうだよね。仕方ないよね」「うふうふ」「うふふ」と話しているのが聞こえてきた。
それから、晩の支度を始めるくらいの時間には、今ある水や食料の量と中身の確認が出来た。
私は薬草類、胡桃やナッツなど木の実類、乾燥させた果物、エレイナさんは種子、木の実、チーズなどの保存食、ジャックくんが燻製肉の類いをそれぞれ主食と別で多めに持っている。
ガイアスくんはそれらを全体的に持参していて特に穀物を中心とした食品を一番たくさん運んできている。
その他、各自で高熱量を摂取可能な食品や嗜好性の高いお菓子類がかなりある。他にも調理を必要とするけれど、塩漬け肉や塩漬けの魚穀類、芋、乾燥させた野菜、豆類もある。
バッシュくんとノアくんは高栄養食を中心に私が見たことの無い救援のためのポーション類も食料以外でかなり持ち込んでくれているし頼もしい。自分達専用の『総合栄養食』や水分補給や食事の代わりになる変わったポーション類も持ってきている。
「計画的にやれば全員ギリギリまでひもじい思いはしなくてすみそうだな」と、ガイアスくんが満足げに言った。
ポーション類や薬草類も食料として考えて良いなら、なかなか餓えることは無さそうだ。
「明日からは拠点と障壁作りだな」
◇
12日目(遺跡6日目)
「よし、ここはひとまず、これくらいにして補強は後だ」
私たちは早朝から『魔物の部屋』の扉の前に重ねるように予め横倒しにした棚をいくつか置き、重心が低くなるように重石代わりに物を詰めたり積み上げていた。
魔物の部屋の扉の施錠が外れた場合に備え、扉が全て開くまでの時間差を作る障壁作りをしているのだ。
全く開かないようでも少し都合が悪いので、微調整出来るように作る。
2つの扉にある程度の障壁を作ったところで一度休憩に戻り朝食を食べてから、今度は拠点の『第1ゲート』『第2ゲート』として決めた場所に木箱などを運び込む。
『第2ゲート』にも木箱を運び『第1ゲート』奥に急拵えだけど休める場所を設け、拠点らしくなってきたところで時刻魔導具が昼時を教えてくれる時間になった。
「飯にしよう。腹が減って動けなくなりそうだ」
◇
昼食を終え、私たちは『第3ゲート』『第4ゲート』『第5ゲート』にも使える物を分け入れた木箱を運び込んでいく。
それぞれ簡素になるけれど、休憩場所を設けていくつもりだ。
『厨房』は『第1ゲート』周辺での作業が多い今は利便性を考えるとなかなか塞げない。そのため『第2ゲート』『第3ゲート応接室』の『厨房』への出入口は、拠点作りがもっと進んでから、ガイアスくんが石材のベッドの障壁で塞ぐ予定になっている。
もし障壁を突破、或いは破壊された場合は魔物に『厨房』から内部まで侵入される可能性がある。
この場合、『第4ゲート寝室』か『第5ゲート書斎』へ移動して迎え撃つ手はずになっている。
『第1ゲート』の出入口と各ゲートをつなぐ出入口にはバッシュくんやノアくんの魔力を注ぐことで完成する回復と防衛の魔方陣を敷いている。魔方陣構築のためにバッシュくんたちが魔力をだいぶ消費してしまったところで、私たちは休憩をとることにした。
『第2ゲート』との出入り口近くに空き木箱を利用して作った出来たての『第1ゲート休憩所』の勝手を試すのに丁度よいという話しになって、早速休憩に使ってみると、急拵えにしては悪くない。
『応接室』や『書斎』等のような広さは無いけれど、座れるのは勿論、ガイアスくんが数人いても横になれるスペースがあるのでこれならいざというときでも休める。バッシュくんたちの用意してくれている回復と防衛の魔方陣が側にあるのも心強い。
長期戦を考えると休める場所の設営は重要な要素になるため出来る限りの工夫を考えている。
『第2ゲート』を中心とした各部屋には水や食料、薬草類を含む回復系の魔導アイテムなど物資の補給線として利用する準備を進めている。
木箱などを運び込んでいるのはそのためで、籠城戦でアイテムの残量をなるべく気にしないようにするために、今は食事以外、魔導アイテムを消費しての回復は控えて、運びやすく、なおかつ使いやすいよう整理し保管している最中だ。
「強引に魔力や体力を回復させたり重傷でも治癒出来る魔導系の薬品やアイテムは無駄にはしたくない」
「後退することになっても放棄するのはもったいない!」
という総意によって、保管場所は移動させやすい出入口、籠城戦最中でも体力や魔力をなるべく自然に回復出来るように工夫も考えている。
「今から惜しまず使ってもいいのはこのくらいだな」
エレイナさんが『厨房』で沸かしたお湯で用意してくれた飲み物を飲みながら、私たちは木箱に集めた保存食や嗜好品を確認している。
木箱に集めたのは、即時に重傷を治癒したり大きく魔力を回復させたりは出来ないけれど、どれも癒しの効果の高いものだ。
しかも美味しい。
ただ、どれもお湯や火を使った方が飲みやすくて、食べやすい。
例えば今飲んでいる飲み物がそうで、粉末を溶かして飲むのだけど、水よりお湯を使った方が溶けやすい。
『厨房』以外でもお湯を用意出来るように工夫しない限り、『厨房』への出入口を2箇所塞いだ籠城戦が始まると使う機会は失くなるか、減るのは間違いない。
それで今のうちに使っていいものとして、木箱にまとめたのだ。うまく利用できれば水の確保や魔導系の回復アイテムの節約に寄与する。
「最終『砦』になるのは『第4ゲート寝室』か『第5ゲート書斎』だ」
ガイアスくんの言葉に私たちが頷いた。
障壁を破られずに『第4ゲート寝室』までを守ることが出来ていれば出入口は1つ。
しかし『第2ゲート』の石材ベッドの障壁を破られ『厨房』への魔物の侵入を許すと、私たちは『第4ゲート寝室』の出入口から魔物の襲撃を受ける可能性が出てくる。
そのため『第2ゲート』の障壁が破られた時点で、速やかに『第4ゲート寝室』へ移動し、3箇所の出入口のうち2箇所をガイアスくんと私で一時的に封鎖する。
ジャックくんはまっすぐに『第5ゲート書斎』へ移動し、『厨房』への出入口を封鎖することになっている。
その間にバッシュくん、ノアくん、エレイナさんが『書斎』に入り、その後、ガイアスくんと私も『第5ゲート書斎』に向かい『第4ゲート寝室』への出入口をガイアスくんが塞ぐ。
私たちがそこまで確認してから
「『書斎』まで後退させられるつもりはない」
ガイアスくんとジャックくんが揃って言った。
ちなみにジャックくんは初め『第2ゲート』の障壁が破られ『厨房』へ魔物が侵入した場合、自分がそこで迎え撃つか『厨房』で戦おう、という提案をしたのだけれど、それはガイアスくんとエレイナさんにあっさり却下されてしまった。
エレイナさんに至っては「下手したらガイアスとジャックしか生き残らないじゃない!」と憤慨していた。
『第1ゲート休憩所』でのお茶の時間の後は『各ゲート』の仕上げと障壁の補強だ。
そのあとはみんなで『ロビー』へ移動する。
ガイアスくんとジャックくんの守備範囲や攻撃範囲、お互いに何が出来て何が出来ないのかを改めて確認しておこうという話になったのだ。
それからしばらく『ロビー』でガイアスくんとジャックくんの手合わせを見せてもらった後、私たちは再びお客さん用の部屋、『拠点』に戻った。
晩の食事の用意をする時間になるころ、『厨房』ではバッシュくんたちがなにやら忙しそうにしている。
今日は魔方陣のためにたくさん魔力を消費したので魔力を必要としないことをしているのだという。2人とも「何をしてるかは、後のお楽しみだよ」と言っていたので、楽しみにしよう。
エレイナさんのほうは水属性魔術で水を補充していて、飲み水に関しては『三郎太』との遭遇からわずか2日でずいぶん確保していた。昨夜から早速バッシュくんたちと一緒に余った魔力を使って補充していたようだ。
かまどでお湯も沸かせるのでずいぶん生活が良くなった。
晩の食事にはエレイナさんと私が乾燥豆を使った煮物と乾燥野菜と薬草のスープ、刻んだ燻製魚を穀物と一緒に炊き上げたものをテーブルに用意して、それぞれの主食を取り出して晩ご飯にした。
それからしばらくはみんなで起きていて明日も拠点作りの合間に『ロビー』に行くことを確認してから、その日は休むことになった。
さっきまで空だった筒やビン数本にも水が入って栓がされている。
「うん。装置のある部屋の扉の魔式罠は、魔力はだいぶ減っちゃうけど、僕らのうちのどっちかがはずせるし、装置の多重魔術鍵もなんとか出来るはずなんだけど」
「1回で多重鍵を全部解錠出来なかった場合、再挑戦できるようになるまで、ボクたち、しばらくの間ここに完全に閉じ込められると思います」
「でも、時間が経つと再挑戦出来るのね」「はい」ノアくんが答えて、ガイアスくんが「しばらくの間ってどのくらい?」と質問した。
するとバッシュくんが「どのくらいかな」と首をかしげてしばらく思案してから「最低で数年か、長いと数百年くらい?」
ガイアスくんが飲んでいた水を噴き出して咳き込み、エレイナさんの手からはビスケットが落ちて「大分長い待ち時間だな」とジャックくんが呆れたように言った。
私の方は言葉もでない。古代の人は長命の種族だったのだろうか??
「うん。さすがにそんなに待ちたくないよね」
「それでボクたちが1回の挑戦で解錠出来なかった場合、もう1つのやりかたを選択することが出来ます」
「ここを造った人達ってさ、なに考えてたんだろうね」
バッシュくんが目を細めて小さな肩を竦めるようにした。
「もう1つのやりかたっていうのはさっき言ってた籠城戦のことか?」
「ん、結果として籠城戦になりそう……」
「装置の多重魔術鍵は5重になっているみたいなんですが、その鍵を解錠するための5つの管理者用の専用鍵が一応用意されてるみたいで。それを使えば待たなくても解錠出来るはずです」
「なんだ。それじゃあ、それを探して使えばいいんだな。おどかすなよ」ガイアスくんや私たちが安心しかけると
「それが、その」ノアくんがいい淀んで「専用鍵の予備が置かれてる場所が嫌らしいよね」とバッシュくんが続けた。
「ここで見つけた資料や情報を見ると、専用鍵は魔物を入れた部屋にそれぞれ1つずつ保管してたみたい」
「魔物に鍵を護らせていたのかも知れません」
「ノア。キミには悪いけど、それは僕違うと思う」バッシュくんが言って、「何でだ?」と、ノアくんの代わりにガイアスくんが聞いた。
「だって。装置の多重鍵解錠の失敗で誰にでも大事な専用鍵の保管場所の扉を開けられるようにするのは変だよ!」
するとノアくんが言った。
「自分の専用鍵を失くしちゃったり、管理者の誰かがうっかり解錠に失敗した時のためかも知れないよ」
「うっかり……?」
私たちはノアくんのその表現に、釈然としないものを感じたのだけれど、バッシュくんのほうは「ああ!そういうことあるある。ノア冴えてる」そう言って瞳を大きく見開いてポンと手をうった。
それから私たちに向き直って
「えぇと、そういうわけなんだけど。何かここまでで質問あったりする?」
バッシュくんたちの話で、装置の鍵の解錠は1度で成功させないとここでずいぶん待たなければならなくなるということがわかった。
その代わり確実に解錠するための専用鍵が魔物の部屋に保管されていて、入れるようになることも。だけどこれは事実上魔物と戦うことを意味していると言ってよさそうだ。
私は少し疑問に思ったことを聞いてみることにした。
「さっきバッシュくんが言ってた、解錠に失敗すると『誰にでも』扉を開けられるようになるっていう『誰にでも』は、なかにいる『魔物』も含まれているのかい?」
私の質問にバッシュくんは少し目をパチパチさせた後すぐに
「魔物のほうに『扉を開ける』意志が無くても、極端に言うとぶつかっちゃったりとかで、開いてしまう可能性が生まれると思う。扉が開くのを邪魔するものがなくなっちゃうから」と答えてくれた。
「つまり解錠に挑戦するなら1度で成功させないと、そこらじゅうが魔物だらけになってしまうかもしれないってことか」
ガイアスくんがそう言いながら少量水を飲んだ。
「そうなる可能性は高そうだね」
「魔物の部屋がまだ施錠されている間に、バッシュとボクで1つずつ扉を開けて、全部の鍵を手にいれてから確実に装置を動かす方法もあると思います」ノアくんが言った。
そこまで聞いて
「バッシュが籠城戦という言葉を使った理由はわかった」
とガイアスくんが言った。
装置の多重魔術鍵の解錠をバッシュくんたちの力で成功させる以外は魔物相手の長期戦になってしまうのだ。
「装置を解除して操作する以外に洞窟や魔物をどうにかする方法は無いのか?」ガイアスくんがバッシュくん達に聞いた。
それに対しバッシュくんが少し申し訳なさそうに「今のところはその方法しか見つけられてない。それに僕らが外に出るにも、装置を操作して転送魔術式を発動させないと戻れないんだ」と説明してくれた。
魔物が襲ってこないなら話しは別だけれど、そう甘くは無いだろう。
解錠に失敗して魔物の部屋の施錠がはずされる理由を救済以外で考えるとしたら侵入者の排除だ。
管理者に従う魔物なら、失敗するのが管理者本人であって問題はない。
或は魔物を一掃する力を示すことで、ここの管理者である証とするのだろうか?それとも……
ガイアスくんが呟いた。
「うっかりに対するペナルティが激しぎるだろ……」
それから時刻魔導具が夜を教えてくれる時間まで、まだ少し話して私たちは晩の食事をすることにした。
「そうだ。籠城の拠点をどこにするかなんだけど」
背負袋から携帯用の食料を取り出しながらバッシュくんが言った。魔物との長期戦を考えるなら攻撃や防衛だけでなく私たちが負傷したときの治療や休息するための場所も確保しておかねばならない。
「ここ以外なら、装置のある部屋とお客さん用の部屋だよね。明日様子を見に行かない?」
見取り図ではどの部屋も大差のない広さに見えるが、資料によるとお客を迎えるために設けられたスペースは一番広くとられていて、中は仕切等で分けて使用されていたらしい。
ロビーのようになっているこの場所の状態から考えても籠城する場所として悪くないのかもしれない。
それとは別でバッシュくんたちは大昔の『お客さん用の部屋』に少し興味も湧いているようだ。実は私も興味がある。
「そうだな、明日みんなで見に行こうか。危ないところが無いのが確認出来たら拠点に使うのもありだ」
私たちはそのおかげで少しばかり行楽地にでも行くような気持ちでその日を終えたのだった。
◇
9日目(遺跡3日目)の朝
私たちが便宜上ロビーと呼ぶようになった空間の扉を開けて、装置のある部屋に繋がる通路へ出ると、見取り図で見えていたのよりも広さのある空間に迎えられた。
ロビーと同じように日中のように明るく、人工的に整えられた壁面と床は、白っぽく明るい色調で統一されている。
天井のほうにはロビーよりも少し色鮮やかな色を使用した植物柄があしらわれていた。
いくらか古さは感じるものの、数千年も昔の物だとは思えない。
すぐ近くの左手側には扉が1つ。入手した見取り図では7つの部屋が向かい合うように配されていたが、実際には右手側に5つの扉が見えている。
この5つ並んだ扉の内側のどこかから魔物が溢れるほど増えているのかと想像して、少し複雑な気持ちがするのを私は我慢した。
その一番奥、左手側には見取り図のように反対側の扉と向かい合う扉がある。
それが装置の置かれた管理部屋らしい。
扉の位置だけでは判断できないけれど、見取り図に描かれた廊下の広さと実際の差を考えると、差がないように描かれた空間の広さは実際の広さと違うかもしれない。
私たちがロビーを出てすぐの場所で待機している間、ガイアスくんが先に行って、扉に触らないように気をつけながら、通路に物理的な罠などが何もないのを確認する。
それからバッシュくんとノアくんが念のために予定外の魔術式などの仕掛けがないかも確認して3人で戻ってきた。
「大丈夫みたい」
「思ったより奥まで距離がある。測ってないが200ノーツ以上の距離があるかもしれないな」
通路の幅だけでもロビーの広さとあまり変わらない。
「装置の部屋の扉は案の定、魔式罠が仕掛けられてるらしいが、バッシュたちの魔力を温存するために今日はそのままにしてきた」
「僕ら今日はお客さん用の部屋を調べるから」
バッシュくんはそう言うとガイアスくんを見つめた。
ガイアスくんが「ん?」という顔をすると
「キミ、鈍いって言われない?」とバッシュくんが言った。
どうやらガイアスくんに扉を開けてもらおうと思ったらしい。
エレイナさんが笑いながらバッシュくんを抱き上げた。
いつの間にかノアくんはジャックくんの背負袋の上に乗っている。
「よし、開けるぞ」そう言って、やや緊張した面持ちでガイアスくんがゆっくりと扉を開けて先に中の様子を窺う。私たちも中へと続いた。
中へ入ると奥行きが5ノーツ程度、左手側が行き止まりになっていて、入ってすぐの右手側に向かって横に50ノーツくらい伸びた通路の奥に、扉の設けられていない出入り口が1つある。
その壁をガイアスくんとジャックくんが内と外から確認している。
そこから中は1部屋1部屋が先程までいたロビーを若干小ぶりにしたくらいのかなり広い部屋になっていて、入り口からまっすぐ奥へさらに部屋が続く構造になっていた。
部屋の数は5つ。そのうちの1つが最も広い空間で厨房のようになっており、棚等も数多く据え付けられている。
棚などがなければ4つの部屋が収まるくらいの広さがあり、どうも私が想像したような宿泊施設というよりも、家族が住むような住居に近い印象だ。ただ、その1部屋ずつがとても広い。
「1部屋でガイアスが400人以上入れそうなくらい広いわね」
エレイナさんがそう言ったのはおそらく大袈裟ではないように思う。
こうして一度全員でざっと見たあとバッシュくんが「それじゃあ、先に僕らで安全かどうか調べてくるね。細かく調べるのはその後で」そう言って、改めてガイアスくん達と奥へ入っていった。
◇
しばらくして「厨房みたいな部屋は4つの部屋全部と行き来が出来るようになってる」
ガイアスくんが背負袋にノアくんとバッシュくんを乗せるようにして、入って1つめの部屋で帰りを待っていた私たちに報告に戻ったのが昼頃。
「あと残り2部屋調べたらここの安全確認は完了だよ」
バッシュくんはそういうと、ノアくんと2人ガイアスくんに乗って調べ終えた厨房を案内してくれた。
私たちが厨房と呼んでいる部屋には本当に煮炊きの出来る大きめのかまどのようなものが3つあって、かまどに近い場所にはいくつか作業台も設けられている。どうも本当に調理場として利用していたようで、壁際だけでなくいくつも棚が据え付けられていて、金属製の大きな鍋や寸胴なども見つけた。
見ただけだと使い方のわからない調理器具もある。
部屋の中央よりの少し端によったところには、食事の出来そうな大小のテーブルや椅子も並んでいて、私たちはそこに一度荷を置いて昼の休憩をすることにした。
バッシュくんもノアくんも魔力をだいぶ使ったらしく、食事と一緒に魔力を回復させるポーションも飲んでいる。
今日中にあと2部屋も調べるつもりのようだ。
それから「僕らの専門外だけど、昔の人の調理法が書かれたメモとかが残ってた。竹ちゃんに見せたら喜びそう」と言って、古代文字が書かれた古い紙や記録用の魔導具をいくつか見せてくれた。
竹ちゃんというのは友達だろうか。
それから2人ともふたたびガイアスくんに乗って別の部屋に調査に向かっていった。
◇
ガイアスくん達が他の2部屋を調べに行っている間に、私たちは安全の確認された厨房の設備を試してみることになった。
ガイアスくんには「棚に残ってる瓶詰めや食糧は念のため食べたりしない方がいいと思うぞ」とだけ注意されたが、私はお腹を壊す覚悟があれば大丈夫だろうかと思ってしまった。
もちろんすぐに魔物戦に備えてやめておこうと私は思い直したことは言うまでもない。
部屋の中の物には隠されていたようなのもあったらしく、私たち全員で軽く見て回った時にはなかった陶製の保存容器や木製の箱等がたくさん並べられている。
どれも大昔の人たちが本当に使っていたかもしれないものばかりだ。一体どんなものを食べていたのだろう。
案外今の我々と同じようだったかもしれない、等と考えを巡らせるとすこし面白い。
かまどの側には水を貯めたり排水も出来そうな石で出来た設備がそれぞれに据えられていて、水の出そうな筒のようなものまで程よい高さについているというのに、肝心の水の出し方がよくわからなかった。
バッシュくんたちも仕掛けがないか調べたり、試しにエレイナさんが水属性の魔力を流して『呼び水』のようなこともしてみたけど、それでもダメだった。
残念だけど古いので使えなくなっているのかもしれない。
排水の出来そうな箇所は他にも数ヵ所に据えられていて、水さえなんとか出来れば快適に過ごせそうな気がした。
厨房から各部屋に繋がる出入口には4つとも扉は無く、代わりに布等が引っかけられそうな造りになっており、1つは最初に入った部屋への通路で、残りの3つは書斎のような場所と寝室らしい場所へ、あと何に使うか明確でない見た目に応接室のような部屋へ繋がっている。
明るさは足りているけれど、陽射しや外が見える窓が無いようなのが残念だ。私がそう思っていると
「窓でもあれば良かったな。いくら広くても壁ばっかりじゃ滅入る」ジャックくんがそう言って、エレイナさんがジャックくんに同意して笑った。
しばらくそうやって厨房を確かめていると、ガイアスくんが休憩のためノアくん達を両肩に乗せて戻ってきた。
「なあバッシュ、ノア、お前達ちょっと重くなってないか?」とガイアスくんが首をかしげている。するとバッシュくんがガイアスくんから顔を反らした。
私とジャックくんがノアくん達の背負袋を掴んでみると
「重……」
「ボクらのアイテムバッグ、見た目よりたくさん入るから……」
ノアくんが少しばつが悪そうに言った。
どうやら興味を引いたものをバッグに詰めていっていたらしい。
ガイアスくんは重くなった理由がわかって「なんだ」と笑っている。2人の見た目に変わりがないのに短時間で何倍も重さが変わったので、気になっただけらしかった。
ジャックくんはその何倍も重さが変わった様子を聞いてバッシュくんたちに言った。「荷物を一回整理しろ」
バッシュくんとノアくんがショックを受けているのを見て、ジャックくんが続けて言った。「ちょっとくらいならオレたちも運ぶのに協力してやるから。でないとお前ら、自分のバッグの重さで歩けなくなるぞ」
それからしばらく時間をかけて、私たちはバッシュくんたちの背負袋の中身を整理して袋に仕分け、その殆どをガイアスくんに預けた。
「よし、お前達さえ良いんならまだまだ預けてくれて構わないぞ」とにかくガイアスくんが頼もしい。
そして魔導研究ギルドと商人ギルドの共同開発したバッグは重ささえどうにか出来れば凄いアイテムだ。重ささえ気にならないのなら、既に凄いアイテムだ。ノアくんとバッシュくんとガイアスくんの3人を見ながら私たちはそう思うのだった。
そして荷物の整理を終えたバッシュくんが「それじゃあガイアス君、そろそろまた安全確認の続きをしに行こう」とガイアスくんに声をかけた。「休憩はもういいのか?」とガイアスくんに尋ねられたバッシュくんとノアくんが顔を見合わせて「おやつも食べたしね」「美味しかったね」と話してからガイアスくんに向き直って「うん。それに、あと少しだから」と返事をした。
◇
時刻魔導具が晩時を知らせてくれる頃、残りの2部屋の安全の確認も終えてバッシュくんたちがガイアスくんと厨房で待つ私たちのところへ戻ってきた。
「危ない仕掛けとかは見つからなかったから大丈夫」バッシュくんたちが戻ってすぐにそう言って「これで一応5部屋全部確認はし終えたぞ」とガイアスくんが教えてくれた。
エレイナさんが「お疲れ様」と声をかけ、私たちは作っておいた野菜スープをテーブルに用意して、それぞれ晩ごはんの食料を取り出した。今日は少量、穀物や芋も煮ている。
私が持ち込んでいた乾燥野菜はこのスープを作った分でだいぶ減ったけれど、薬草類は1つも使わずにすんでいて、まだまだ安心だ。
私が水や食材を頭のなかで整理していると、ガイアスくんが他の部屋の様子を報告してくれた。
「奥の寝室っぽい部屋は寝具に使えそうなのがベッドの土台くらいだ。見た感じ特に何もなかった。一番奥は書庫みたいに本棚が置かれてる。もう1つの部屋は床や天井、壁までちょっと豪華な造りに見えるが、それ以外は広いだけで特別な物は見当たらなかった」
「もっと細かく見ていけば、この厨房みたいに隠し戸棚とか床収納みたいなのが見つかるかもしれないよ。探してみる?」
バッシュくんに聞かれて私たちは顔を見合わせた。
期待薄かもしれないが籠城になったときの役に立つものが見つかるかもしれない。「探すとしても、あとは明日だ」
ガイアスくんがそう言って背負袋からテントを取り出した。
「ロビーまで戻ってもいいけど、ここの方が広いからな」
私たちは各々自分の荷を確認して来る日に備える。
◇
10日目(遺跡4日目)
朝食をすませて私たちは『応接室』と名付けた部屋に入った。
事前に確認していたとおり、他の空間に比べて少し凝った豪華な造りにである以外、置かれているものも少なく特に何もあるようには見えない。
「そこに置かれてる卓上も調べてみたが特に何もなかった」
部屋の四隅にそれぞれ置かれた同じデザインの卓上を指してガイアスくんが言った。
私たちも試しに動かしてみたり持ち上げて確認してみたりしたが、めぼしい仕掛けは見つからなかった。
床には『星』を意味する古代文字を装飾のようにデザインに使った敷物がしかれていて、これも念のためにめくってみたけれど、床下の収納等は見つからなかった。
「床下に何かあるかもって思ったんだけどな」
バッシュくんが私たちの気持ちを代表するようにそう言った。
気を取り直して『寝室』の方へ行くとマットや布の敷かれていない状態の大きなベッドに使うような長方形の四角い物が6個置かれている。試しにガイアスくんが動かしてみると動いたそうなので、私もちょっと触ってみた。
「………?」びくともする気配がないんだけど……
「……ガイアスくん、これ本当に動くの?」
素材が石のようなもので出来ていて動かせる気がしない。
「動かせる!」
私がよほど疑うような顔をしてしまったのだろう。
ガイアスくんが四角い物体を両腕で抱えるようにして掛け声と共に、動かすどころか、持ち上げた。
エレイナさんが「これ、動かせたの?!」と驚いている。
「ガイアスくん、疑ってすまなかった。凄い」
「いやいや」
「凄いでしょ!ガイアス君は力持ちなんだ」
なぜかジャックくんとバッシュくんとノアくんが誇らしげにしている。
「そうだガイアス、これで出入口にバリケードを作れるんじゃないか?」
ジャックくんがそう言ってバッシュくんとノアくんが期待の眼差しでガイアスくんを見つめている。
ここを籠城戦の拠点とした場合、最初の出入口は1ヶ所だけだけど、前衛のガイアスくんやジャックくんが負傷した場合、一度私たちはこの空間の奥まで後退しなければならない。
そうなると、中まで魔物に侵入されてしまうだろう。
その時、厨房にある4つの出入口がそのままだと、後退した私たちが回り込まれたり囲まれたりする恐れが出てきてしまう。
それを防ぐために出入口を障壁で塞いでしまうのは良い手のように思う。
これだけ重い物で塞いでしまえば簡単には破れない。
するとガイアスくんが「それ時間稼ぎになるのか?」と怪訝そうな表情をしたので「お前以外に簡単には動かせないから大丈夫だと思う」とジャックくんが言った。
ジャックくんの言う通り重さや強度だけで考えると簡単に突破される気はしないけれど、置き方によって倒れやすさは変わるかもしれない。
「障壁に使う石材が倒れないよう、奥にある棚も使って障壁の足場を安定させれば、隙間を埋めて補強することで強固な障壁にならないだろうか。それなら状態に応じて出入り口を私たちの都合である程度増減できるとおもうのだけど、どうだろう」「なるほど」
例えば基本のイメージとして、石材ベッドを横に倒したものを2つ使って縦向きの石材ベッド1つをサンドして固定する感じだ。周囲をさらに棚などで補強。石材ベッドは6個あるのでこれで2つの入り口を塞いで障壁にする。
何処にいつ、どのタイミングで利用するかなど、実際にどのように障壁を作るかについては、何度も計画を再考し直してもいいと思う。
「魔物の強さと数がどのくらいになってるかも気になるな」
私たちは『お客さん用の部屋』を拠点とする場合のことを話し合いながら、一番奥の『書斎』へ向かった。
『書斎』の出入口は『寝室』と『厨房』への出入口だけで2箇所。『寝室』と『応接室』と入口からすぐの『1番目の部屋』の出入口がそれぞれ3箇所あるのと比べると1つ少ない。
これなら魔物との戦闘になった場合、防衛に適していると言えそうだ。
『書斎』には広い空間の壁際から中央に向かって、多くの本が所蔵される書棚がある一方、半分ほどしか本で満たされていない書棚や空いた書棚も一部あった。そのうち4つの書棚は天井と床に敷かれたレールの可動式で、それ以外の書棚は別の部屋へ移動可能だ。
その他に長方形のテーブルと長椅子等が置かれている。
「しまわれてた資料を読むと、ここは古代の人の娯楽施設のようなものだったみたい」
「洞窟に魔物を放って狩りをするような娯楽で、そのための魔物を閉じ込めて入れてたのがあの部屋。今あちこちに現れてる魔生物はその当時使ってた魔物を放つための通路とかを通じて出てきてると僕たちは考えてる」
「そんな風に聞くと魔物とはいえかわいそうだな」
ガイアスくんが言った。
「同情してるとやられるぞ」
「わかってる」
「全部の魔物とは言わない。けど、ここの魔物は大人しい類いじゃないと思うよ。それと、現れてた魔物を見かけなくなったのはここを誰かが動かしたせいだと思う」
バッシュくんが言った。
「洞窟に関してだけなら長い年月放置されていてた通路がこの施設の再起動で正常化して閉じた可能性があります」とノアくんが補足した。
「キミたちが洞窟で見た『動く何か』はここを動かした誰かだった可能性があるよね。今のところ僕らの憶測で、本当かわからないけど」とバッシュくんが言った。
森や、バッシュくんたちの仲間の住む遺跡近くは、洞窟の地形に変化が現れてからも魔生物は現れている。遺跡施設の再起動で出口が閉じたと言いきるのは、まだ彼の言うとおり早計だ。
話ながら書斎をいくらかみているうち、いつの間にか昼時になっていて、私たちは一度『厨房』に戻って昼食にすることにした。
バッシュくんたちの荷物がまた増えている気がしたけれど、先ほどのガイアスくんを見た後の私は、彼らがガイアスくんと仲良く荷物を分けあうその様に対してなにも思わなくなっていた。
その時の私はエレイナさんが「……『書斎』の棚ってあんなにスカスカだったかな」と心の中で首をかしげていたのを知るよしもなかった。
◇
昼食の後、私たちは遺跡の装置を確認しに、装置のある管理部屋までやって来ていた。
バッシュくんたちが入口扉の魔式罠を解除して、ガイアスくんと先に部屋の中へ入り、私たちもその後に続く。
中に入るとガイアスくんの側で、魔力を消費したバッシュくんとノアくんが魔力回復ポーションを飲みながら休憩している。
中はこれまでの部屋とは雰囲気が違い天井は白に近い灰色、床は灰色ががかった薄い青色。
壁は青みのある淡い緑色で全体に少し暗い印象だ。
いずれも無地で特に気になるような模様が見当たらない。
この部屋も特に何かしなくても、明るさが足りている。
部屋の中央より手前には深い藍色の塔のようなオブジェクトが立っている。全体に螺旋状の装飾が施されていて、高さは長身のガイアスくんより少し高い1ノーツちょっとだ。螺旋の装飾には、良くみると小さな古代文字が無数に刻まれている。
きれいなので私たちが見つめていると、休んでいたバッシュくんがぴょんと立ち上がって、私たちの側までやって来て言った。
「これがこの遺跡の操作をする装置だね」
そう言うと、バッシュくんはガイアスくんの肩によじ登って、アイテムバッグから折り畳んだ用紙を1枚取り出した。
取り出した用紙を広げて、私たちにも確認出来るように塔型のオブジェクトと並ぶように紙をかざす。
用紙にはこの塔型のオブジェクトによく似た絵柄が描かれていて、古代文字で文章が書かれてある。
彼らが『ロビー』で見つけた『操作装置』の説明書の一部だ。
「この螺旋のところに魔力を流せるようになってる。今はまだ流さないけど」
そういってバッシュくんは説明書をたたみ直してアイテムバッグにしまい直した。この藍色の塔のようなオブジェクトが遺跡の操作装置で間違いないようだ。
装置のある中央より奥には収納棚と背の高い長方形の棚らしきものがいくつも並んでいるのが見えるけれど、こちらはそれ以上はまだわからない。
中に入ってすぐに見える場所にこの装置らしきものがあったので、そちらの確認を優先して、奥はこの後見に行くところなのだ。
「割りとあっさり装置が見つかって良かったな」とガイアスくんが笑った。
後は万一の時の籠城戦に備えれば私たちの準備は完了だ。
拠点をどこにするかは既に意見がまとまっているけれど、決定は『装置のある部屋』も確認してからにしようということになっている。
ジャックくんが出入口を確認し「扉はガイアスが盾を構えて立つとおそらく敵は通れないし、通さないだろうから良いとして」
そう言いながらすぐ前方に見える『魔物の部屋』の扉を見た。
出入口の外側で戦うことを想定した場合、反対側の壁までの距離が近すぎて、ジャックくんが移動できる範囲が狭い。
『魔物の部屋の扉』が近すぎて奥行きがない上、背後以外の全方位から数で圧されることにもなる。
出入口内側で戦う場合に対峙する魔物の数が少なくて済むのは、どの部屋にも言えることだ。
エレイナさんは「足場を作って弓や攻撃魔術で後方から魔物の数を減らすのは出来そうだけど、ここは『ロビー』と比べて少し狭いのが気になるかな」
万一前衛のガイアスくんやジャックくんが回復の追い付かないダメージを受けても、後方の私たちを庇い後退できない、ということが起きることを気にしている。
魔物の侵入を許した時を考えると、私たちが逃げる場所が少ない。
それを防ぐため、ガイアスくんたちが無理をする恐れがある。
……せめて私にもう少し耐久力があったり、何か凄いスキルでもあれば私も前に出て戦えるのに。
「そういえば、少しの間だけなら相手の動きを止める魔術が使えるんだけど、何かの役に立つかな」と私が言ってみると、バッシュくんたちが一斉に私を見て口々に「そんなこと出来るの」「時間はどのくらい」「属性は何ですか」「すごい」「さすがです」「役に立たないわけない」「効果範囲は」最後にバッシュくんが「詳しく教えて」と意見をまとめてくれて私は自分の地属性魔術の詳細を説明をはじめた。
うまく役に立つといいのだけれど。
「それじゃあ、最後にここの安全確認の仕上げに行ってくる。拠点にするかどうかは、この奥も見てからにしよう」
ガイアスくんがそういうと、バッシュくんが扉の付近で、まだ部屋全体を見回している私たちに「装置より奥にはまだいかないでね」と声をかけながら、ノアくんと一緒にガイアスくんの両肩に乗せられ奥へと向かった。
この部屋も他と同様、広さの割に置かれてあるものは少ないのだが、それでも『お客さん用の部屋』の『応接室』ほど、置かれた物が少ないわけでもない。
奥のほうには細長いテーブルや椅子、縦長の箱があるのが見えている。ここが遺跡を操作したりする管理部屋なら、この遺跡や魔物についての情報が見つかる可能性は高い。
天井くらいまで高さのある棚等もいくつもあって、部分的に棚によって空間が仕切られたようになった箇所もある。
そのせいで装置より向こう側へ行ってしばらくすると、ガイアスくんたちの姿が私たちから見えなくなった。
ここからでも棚はいくつも見えているので、仕掛けがないかの確認だけでもすぐに終わりとはいかないだろう。
残されたエレイナさんとジャックくんと私は3人で装置より奥へは入らないよう気をつけながら、室内を観察したり、壁の分厚さなんかを一緒に見ていた。
壁の厚さは『ロビー』や『お客さん用の部屋』に比べて極端には変わらないけれど、『ロビー』より少し厚みがある。
装置からすこし離れた場所から壁際に小さめで背丈の白っぽい灰色のテーブルが3つと、丸味を帯びた四角くいクリーム色の椅子が複数置かれている。テーブルの大きさに対して椅子の数が少し多く、数えてみると18個ある。
椅子は僅かに弾力があって不思議な触り心地だ。何で出来ているんだろう。
装置の方も素材は何かよくわからない。巨大な宝石か、鉱物か何かで出来ているように見え、思わず触ってみたくなるのを我慢した。
私が触れたくらいではなにも起きないので大丈夫なのだけど、すごく畏れ多い気がしたのだ。
壁や天井、床も、気をつけてよく見ると、材質に魔鉱石が含まれているらしく微かに光を放っている。
遺跡が造られた当時、今より魔鉱石が豊富だったのかもしれない。
しばらくそうやって部屋を観察し終えたころ
ガタン!バサバサッ
と、部屋の奧から物が落ちるような音がして、間を開けず
「うぁ!」「ノア!バッシュ!」
バッシュくんとノアくんの悲鳴があがってガイアスくんの声が聞こえてきた。
物音と悲鳴に驚いた私たちが、あわてて彼らのもとへ向かおうとすると
「待て!来るな!」と私たちの行動を察したガイアスくんの声が聞こえて、時間を置かずに「ジャック!お前は来てくれ!」と続いて、ジャックくんがすぐさま向かう。
その間にも奥から金属や物がぶつかる音が何度か聞こえてきて、わずかだけれど棚が揺れた。音が聞こえる度にエレイナさんが少しずつ奥へ近づいている。手を離したら今にも行ってしまいそうだ。
残された私とエレイナさんが何が起きているのかわからないで不安でいると、バッシュくんとノアくんが、私たちのほうへ走ってきた。
「バッシュちゃん!ノアちゃん!良かった無事で」エレイナさんが2人を抱き上げた。怪我をしている様子はない。
「棚に僕らの気づかない転送魔術の仕掛けがあって、そこから知らない人が出てきた……」「ボクら話そうとしたんだけど……」「その前に体力と魔力を向こうの魔導術でだいぶ吸いとられちゃって動けなくされた」
ガイアスくんは応戦して、駆けつけたジャックくんがバッシュくんたちを手当てして逃がしたらしい。
金属や物がぶつかる音はまだ続いている。
相手も物理的に攻撃可能な武装をしているのだ。
その上、魔力や体力まで奪う魔術も使用する。
問答無用の敵意に魔導系との相性の悪さで、ガイアスくんがジャックくんだけを呼んだ理由がわかった。
エレイナさんと私が顔を見合せ、エレイナさんが抱き上げていたバッシュくんたちを後ろに下ろし、弓の準備をする。「ガイアスとジャックなら大丈夫だと思うんだけど」
エレイナさんがそう言って笑ったのと殆ど同じに、何かが倒れたような音を最後に、聞こえていた音が止んだ。
◇
「痛い痛い痛い痛い痛い!あの腐れた侵入者どもめ……!!」
そう呟きながら部屋の奧から姿を現したのは、ジャックくんでもガイアスくんでもなかった。
現れたのは黒い霧に包まれた……身体中に鱗のように薄い金属のような物を身に付けている、人とも魔物とも区別のつかない姿の異質さを思わせる何者か。
眼をギラギラとギラつかせながら、ゆっくりと歩いてくる。
「ガイアス、ジャック!」エレイナさんが叫んだ。返事はなく2人は現れない。棚や物が死角を作って2人の状態の確認も出来ない。
異質なそれが私たちの方へ手を向けようとするのを見てすかさずバッシュくん達が魔力を放出した。
【二重奏!】
バッシュくんとノアくんが同時に魔術式を発動させた。
私たちの前に現れた何者かがなにか呟いている。
しかし、今度はよく聞き取れない。
ただ、バッシュくんたちの魔術を受けて、ハッキリ表情を歪めてから、あちらも詠唱し始めている。
魔力と体力を奪う術だ。
力が抜けそうになる感覚がある。
このままでは直に動けなくされて、不味い。
「あんまり効果がない、止めるのがやっと、というか少し押し返されてる」
「ボクたちより魔力が強いってこと?」
「わからない」
バッシュくんが呻くように言った。
そういえばバッシュくんたちも弱体化の術式を使えるのだと言っていた。同じような効果の魔術で彼らが対抗してくれているのなら、その間にこの状況を、私とエレイナさんで何とかしなければいけない。
魔物の方は片腕の手首から先に爪のような形状の金属の武器を身に付けている。
詠唱をやめてあの爪のような武器で向かってこられると厄介だ。
エレイナさんも風属性や水属性魔術を試したが、こちらも効いていない。予想通り、魔導系との相性が悪い。
「けど、これならどう?!」
エレイナさんはそう言うと、狙いを定めるため少し後退し短弓を構えて引いた。
私も短剣を構え、魔物の動きを封じることを試みて地属性魔術を行使するため詠唱した。
「アースバインド!」
すぐにでもガイアスくんたちのもとへ行きたい。だがこの黒い霧を纏った何者かが邪魔で彼らのもとへ行くことが出来ない。
せめて動きを止めることができれば、誰かがガイアスくん達のところへ向かえるかもしれない。今すぐ手当てすれば、助けられるはずだ。
「?!」「マクスさんの魔導が効いてる!」バッシュくんが叫んだ。「あいつ術も使えなくなってる!」
え、そうなの?
勿論そのつもりで詠唱したのだけど。
ちょっと意外で私自身が驚いた。効果のある魔術で良かった。
けど、私の地属性魔術『アースバインド』の効果は一時的なものだ。
「さっきも説明したけど、これは10数えるくらいしか効果が続かない!発動中に次を撃っても効果は追加されない」
足止めの間、私はここを離れられない。
私の言う意味を察して、バッシュくんとノアくんがガイアスくん達のところへ救援に走る。
その間もエレイナさんが弓で容赦することなく射る。矢の刺さった部分から魔物特有の黒い霧のようなものが噴き出しはじめた。万一にもバッシュくんたちを追わせるわけにいかない。
私のこの魔術式はダメージにならないが代わりに、術が効いている間相手は詠唱も儘ならない。
この間にガイアスくんたちを手当てする……
私は魔力回復ポーションで先ほど魔術で奪われ失った魔力を回復させ、再度詠唱した時、奥へ行ったばかりのバッシュくんたちが、2人だけで走って戻ってきた。
ガイアスくんたちは現れない。
……まさか
「ガイアス君達、2人とも魔術でどこかに移動させられたみたい。そんなに遠くじゃないはず」「ボクらの『追跡』で追えます」バッシュくんとノアくんが報告してくれた。
「さては、ガイアスとジャック2人が相手だと敵わないと思って飛ばしたのね!」
エレイナさんがほっとした表情で言った。
「近くにいるなら、さがさなくてもそのうち戻ってくると思う」
私は頃合いをみて再び詠唱した。
「キミからみて僕らが『侵入者』なのはきっと事実だから、言い分があるなら聞くよ。けど問答無用で攻撃されるのはごめん被る」そう言いながら、傷口から噴き出す黒い霧を確認してバッシュくんたちが、対魔物用の魔導具を取り出した。
一般的に黒い霧は魔物の体内で変質してしまった魔力だと考えられていてるが、黒い霧即ち魔物であるのかは今はまだよくわかっておらず断定されていない。人の魔力が変質して黒い霧のような物になる事例も確認されているからだ。
しかし、バッシュくんたちが対魔物用の魔導具を取り出した途端に私のほうに凄まじい負荷がかかるのがわかった。
ヒトなのか魔物なのかわからないこの『何者か』が術から逃れようと抵抗しているのだ。詠唱も儘ならないはずの相手から『忌々しい、羊人ふぜいが……!』と声がして私はビクリとする。
私は『抵抗』に抗う。ガイアスくんやジャックくんがいない今自由になられては困るのだ。
今にも術が解かれそうなのを堪え、再度詠唱しようとした時、魔物が私の拘束から脱け出し、私だけでなく、側にいたバッシュくんたちまで弾き飛ばした。効果の切れるタイミングと詠唱がずれてしまった。それでも私はなんとか詠唱を途切れさせずに続ける。エレイナさんは短弓を構え直し、バッシュくんたちも魔導具を起動させた。
私たちがそうするのと殆ど同時にガイアスくんとジャックくんが走って戻ってきた。それで魔物は分が悪いと思ったのだろうか、辛うじて動かした手で懐から何かを取り出したかと思うと、私たちの前からかき消えるようにいなくなった。
後には黒い霧の残滓のみ。
◇
「情報を整理したい」
ヒトのような魔物と遭遇し、それを退けたあと私たちは『お客さん用の部屋』の『厨房』まで戻って話をしていた。
バッシュくんとノアくんは大丈夫だと言って聞かないのを一先ず落ち着かせてテントの中で休ませている。
治療アイテムを使ったため体力や魔力は回復しているが、強引に体力や魔力を奪われた際に受けた疲労ダメージは、それでは治せない。
「さっきの魔物みたいなやつについてなんだが、転送魔術で出てくるなり攻撃してきた」ガイアスくんがそう言って、少しだけ水を飲む。
話をしようとしたバッシュくんやノアくんに対して最初から体力や魔力を奪う術式を使っていて応戦せざるをえなくなったという。
「悪い……」ガイアスくんが俯きがちにそういった。
バッシュくんたちへの攻撃を許してしまったことに対するものだろう。
ジャックくんが彼らのところへ着いたときには床にノアくんとバッシュくんが倒れていて、ガイアスくんが応戦している状態だったらしい。
私の魔導術は運良く効果があったけれど、こちらの魔術が効きにくいのは厄介だ。ただ、「身体的な強靭さならそれほどでもなかった」というのが2人の見立てで、傷口から黒い霧が噴き出すのを見た私も、彼らのいう通りの印象を受けていた。
魔物の黒い霧が、私たちにとっての出血に相当するなら、黒い霧を纏って現れた魔物は、ガイアスくん達との交戦でダメージを負っていたことがうかがえるし、ガイアスくんたちが私たちに合流したところで魔物が逃走したのも、それを裏付けている。
問題は魔物が使った魔導術だ。
相手の体力や魔力を奪う魔術もだが、対象を一瞬で離脱させてしまう魔術。大して遠くへは移動させられないのだとしても、別のところへ飛ばされてしまうだけで厄介だ。
結局正体もわからずじまいで逃げられてしまった。
けれど「魔物の部屋に飛ばされてたら不味かった」とジャックくんが言うのを聞いて、移動先は指定できないのかも知れないなと私は思った。
使用にも制約がある可能性が高い。
もし無制限に使えるならやったのではないだろうか。
でも、油断はできない。
それからしばらく時間を空けてバッシュくんたちがやってきた。2人とも、もう大丈夫そうだけれど、エレイナさんはまだ心配そうにしている。無理もない。
痛い思いなどはしなかったのがまだよかったのだろうけれど、ジャックくんによれば2人とも一時は動けなくなっていたというのだから。
当のバッシュくんたちは、そんなことなかったかのように「さっきの魔物なんだけど」キビキビと分析してきた結果を私たちに報告してくれた。どうもテントで休んでいなかったらしい。
「残っていた『黒い霧』は魔物の成分で間違いなさそう。ヒトみたいな姿をしていたけど、さっき僕らが遭遇したのは確かに『魔物』だった」「専門の機関に調べてもらわないと、どんな魔物なのかまで詳細はわからないですが、少なくとも言い伝えられてるような魔神とか、魔人とかじゃありません」私たちが頷きながら耳を傾ける。
「それと、たぶん『三朗太』はここの装置を動かしてない」
バッシュくんが断言したのを聞いて私たちは頷いた。
頷いてから、一応確認のため聞いた。
「三郎太?」
「他の『魔物』と区別するためにボクらが名前をつけました」
「確かに、全部『魔物』で表現すると、どの『魔物』なんだよって、わかりにくくなるもんな」「はい」
「それで、三郎太が装置を動かしてないっていうのは?」
「もし『三郎太』に管理者としての権限があるなら、あんな1回限りの転送魔術の仕掛けじゃなくて、管理者用の出入口や装置を使って入ってくると思うんだ。せっかくあちこち魔力も充填してるんだし」「なるほど。別に何者かがいる可能性のほうが高いんだな」
『三郎太』が使用した転送魔術式は『三郎太』が逃げた後に確認すると消失していた。予め指定した場所に1度だけ移動できる、逃走時に使ったような魔導具を使用したと思われる。
「うん。『三郎太』はその何者かと知り合いかもしれないけど」
洞窟や森から魔生物が現れるようになったのは古代遺跡の老朽化のせいで、その後に遺跡の機能を復活させて回っている何者かがいる。そのせいで洞窟の地形の変化や森に奇妙な物体が現れる現象が起きている。一体何が目的なのだろう。
バッシュくんたちは魔生物に襲われるようになった犬族の仲間たちのことも気になっているようだ。
「まだわからないことはあるが、俺たちに出来ることっていうのは限られてきたな」ガイアスくんはそう言うと一息ついた。
私たちは今後の予定を大まかに相談し、拠点を『お客さん用の部屋』に決定して数日かけて籠城のための準備を進めることにした。
時刻魔導具を見ると日が傾くにはまだ早い時間で『拠点・お客さん用の部屋』内でそれぞれ晩ごはん時まで自由行動をすることになった。
バッシュくんたちはエレイナさんと『書斎』で見つけた本を熱心に読んで、ビスケットを食べながら3人で紅茶を飲んでいる。
ノアくんは紙質や表装等も面白いらしく、興味深げに見ている。2人ともフサフサとした尻尾が時折愛らしくパタパタ揺れる。
装置の置かれた部屋からも資料を持ってきているようだ。
ふと見るとジャックくんも1冊の本を熱心に眺めている。
本の背には『星』と『魚』を表す数字が刻印されているのでシリーズものの本のようだ。
私も『書斎』から本を借りようかと思い行ってみると、書棚の中に本が殆ど見当たらなかった。よく見ると部屋の隅にたくさんの本が纏められている。
なるほど、しらぬ間に中の本は棚を拠点で使うために移動させたのか。私の視界に1人で背負袋を背負って腕立て伏せをしているガイアスくんの姿が映った。
ガイアスくんは働き者だ。
それから晩ご飯時の時間が近づいて来る頃になって、各々自分の主食を取り出し食事の準備を始める。
今日は薬草と燻製肉を使ったスープだ。
乾燥野菜はまだあるけれど、とうとう薬草を試してみたくなってしまった。ちなみに薬草も燻製肉も洞窟に入る前に新しく仕入れた少し上等なものだ。
「薬草って野菜代わりになるのね」「いけるな」「美味しいね」
薬効は薄れてしまって、少しばかりもったいないかもしれないけれど、お腹を満たしてその上評判も悪くないようだし、良かった。
いよいよ私たちは帰還に向けて『装置』の解錠に挑戦するための準備を始める。
◇
11日目(遺跡5日目)
朝食の後、私たちが魔物との籠城戦に備え忙しく動き回ってから、昼との間に1度休憩を挟んで寛いでいた時のこと。
「ガイアスくん、ちょっとキミに折り入って頼みたいことがあるんだ」バッシュくんとノアくんが、見馴れない魔導具を持ってガイアスくんと話している。
「これは僕らの身体機能を計測して数値化する魔導具の試作品なんだけど、ちょっと試してみない?出た数値も記録したい」
「へぇ、面白そうだな!試してもいいぞ」
「じゃぁ、ここを持って……」「よし」「ありがとう」「ありがとうございます」しばらくやり取りをしたあと2人は続いてジャックくんの方へも同じように話して、今度は私の方にもやって来た。何でも『基準値』や『平均値』となる数値を決めるのにサンプルも集めているのだそうだ。
今は結果が出るまで少し時間がかかるけれど、ゆくゆくは好きなときに手軽に計測してその場で結果を確認できる物にしていきたいのだと説明してくれた。「ありがとう」「ありがとうございます」「どういたしまして」それからエレイナさんにも同じようにやり取りをしてから嬉しそうに2人でテントに戻っていった。
昼前にはまた集まってガイアスくんたちと籠城戦になった場合に想定しておかなければいけなさそうなことについて相談し合う。
強さも勿論気になるけれど、最も気になるのは魔物の数だ。
「部屋の実際の広さ、魔物の大きさや性質によるので断定は出来ませんが、1つの部屋が『ロビー』くらいの広さと仮定するだけでも、おそらく1部屋に1600体くらいいると思った方が良いと思います。場合によってその倍以上」
「通路の距離から考えて、実際には1部屋が『ロビー』よりもっと広い可能性が高いです。その場合少なくて2000体最悪10000体以上」「1部屋でそんなにいるのか?!」
「劣悪な環境下でも平気な魔物なら、重なりあうように増えてるかもしれない」「なるほど」
「資料によるとこの施設はある程度自動で稼働できていたようで、使用されなくなってからもしばらく人知れず動いていたみたいです」
しばらく……どのくらいだろう。
そういえば、古い割に綺麗だとは思っていたのだけれど。
「そう言えば今も勝手に動いてるんだよな。大昔の文明って言っても侮れないな」
「昔の古い文明ですが、長い期間かけて発展していたようなので……技術は世代を越えて継承されて……」ノアくんの話をガイアスくんが感心しながら聞いている。
「なるほど寿命が長い魔物ならこの遺跡に残った機能があればそれで生き残れるのか」
「魔物については、まだわかっていないことが多いけど、少なくとも僕達と生体が違っているから。大気中の魔力を取り込むだけで活動出来る魔物もいるくらいだよ」
それから私たちは実際魔物の強さがどの程度かわからないこともあって、最低10日、ひとまず30日から50日くらいの籠城を覚悟して準備を進めることになった。
◇
昼食を終え、私たちはカチャカチャと音をさせながら荷を運んでいた。『厨房』で見つけた木箱等を利用して、使えそうなものをまとめているのだ。瓶詰めや陶製の容器には食べれそうなものがあるが、よほどの緊急時でない限り用心して食べたりはしない。
食料に関してはもともと多めに持ち込んでいることもある上、水も食料もバッシュくんたちと合流出来たときにも補充してもらえたのが非常に大きく、今はどちらも緊急性を感じにくい。
とはいえ『厨房』には水の出そうなところはあるのに水が出ないのが現実なので、放置すれば必然的にいずれ問題になってくる。
そのため今のうちに対策しておく必要があるのだ。
いざとなればエレイナさんとバッシュくんたちが水属性の魔術を使用できるため、水を用意しようと思えば出来るのだけれど、魔力を消費するのでいくらでもというわけにもいかない。
そこで籠城準備中の就寝時の自然回復をあてにして、余った魔力で「夜に水を作っておく」やり方で備えることになった。
彼らの魔力が私たちの命綱のようなもので成功の鍵であると言えるだろう。そのため魔力回復ポーションもこれまで以上に貴重品である。
「また『三郎太』みたいなのが来たら困るからな」と特にガイアスくんが用心している。私たちはバッシュくんたちからもらった緊急用の魔術鍵を各自で確認する。対策しても、万一施錠されたままの扉の内側に移動させられた場合はこれで脱出を試みる。
小休憩を挟みながら時刻魔導具で日が傾き始める少し前まで作業をし、箱に『使えそうなもの』『そうでないもの』に分けて私たちは一度きちんと休むことにした。
「お疲れさま」エレイナさんが用意してくれた飲み物をみんなで飲む。香りも良く美味しい。「これ美味しいな。エレイナ、こんなのも持ってきてたならもっと早く出してくれて良かったんじゃないか?」とガイアスくんが笑って言うと「まだ先がわからなかったし、勿体ないじゃない」とエレイナさんが笑って返した。
エレイナさんが飲ませてくれたのは、魔導研究ギルドと商人ギルドが開発した粉末をお湯などに溶かして作る微量だけど魔力回復効果のある飲み物だ。
私も飴やビスケットなど彼らの共同開発商品は持ってきているけれど、飲み物は通常の水しか持ってきていない。
ガイアスくんたちも同じだろう。
エレイナさんによると持ってきた飲み物の効果は魔力回復だけではなく、魔術への耐性や身体的な耐久の上昇が微増ながらあって、それが長時間継続するらしい。
なるほど。それは確かに日常的に使うのは少しもったいない気がする。
休憩の後は、またしばらく箱に分けていく作業に戻る。
バッシュくんたちが使う用の箱も専用に作っていて「これ、使っちゃうと後でギルドとかの人に怒られちゃうかもしれないね」「僕らと彼らの命を守る『救援』のためだもの。仕方ない、仕方ない」「そうだよね。仕方ないよね」「うふうふ」「うふふ」と話しているのが聞こえてきた。
それから、晩の支度を始めるくらいの時間には、今ある水や食料の量と中身の確認が出来た。
私は薬草類、胡桃やナッツなど木の実類、乾燥させた果物、エレイナさんは種子、木の実、チーズなどの保存食、ジャックくんが燻製肉の類いをそれぞれ主食と別で多めに持っている。
ガイアスくんはそれらを全体的に持参していて特に穀物を中心とした食品を一番たくさん運んできている。
その他、各自で高熱量を摂取可能な食品や嗜好性の高いお菓子類がかなりある。他にも調理を必要とするけれど、塩漬け肉や塩漬けの魚穀類、芋、乾燥させた野菜、豆類もある。
バッシュくんとノアくんは高栄養食を中心に私が見たことの無い救援のためのポーション類も食料以外でかなり持ち込んでくれているし頼もしい。自分達専用の『総合栄養食』や水分補給や食事の代わりになる変わったポーション類も持ってきている。
「計画的にやれば全員ギリギリまでひもじい思いはしなくてすみそうだな」と、ガイアスくんが満足げに言った。
ポーション類や薬草類も食料として考えて良いなら、なかなか餓えることは無さそうだ。
「明日からは拠点と障壁作りだな」
◇
12日目(遺跡6日目)
「よし、ここはひとまず、これくらいにして補強は後だ」
私たちは早朝から『魔物の部屋』の扉の前に重ねるように予め横倒しにした棚をいくつか置き、重心が低くなるように重石代わりに物を詰めたり積み上げていた。
魔物の部屋の扉の施錠が外れた場合に備え、扉が全て開くまでの時間差を作る障壁作りをしているのだ。
全く開かないようでも少し都合が悪いので、微調整出来るように作る。
2つの扉にある程度の障壁を作ったところで一度休憩に戻り朝食を食べてから、今度は拠点の『第1ゲート』『第2ゲート』として決めた場所に木箱などを運び込む。
『第2ゲート』にも木箱を運び『第1ゲート』奥に急拵えだけど休める場所を設け、拠点らしくなってきたところで時刻魔導具が昼時を教えてくれる時間になった。
「飯にしよう。腹が減って動けなくなりそうだ」
◇
昼食を終え、私たちは『第3ゲート』『第4ゲート』『第5ゲート』にも使える物を分け入れた木箱を運び込んでいく。
それぞれ簡素になるけれど、休憩場所を設けていくつもりだ。
『厨房』は『第1ゲート』周辺での作業が多い今は利便性を考えるとなかなか塞げない。そのため『第2ゲート』『第3ゲート応接室』の『厨房』への出入口は、拠点作りがもっと進んでから、ガイアスくんが石材のベッドの障壁で塞ぐ予定になっている。
もし障壁を突破、或いは破壊された場合は魔物に『厨房』から内部まで侵入される可能性がある。
この場合、『第4ゲート寝室』か『第5ゲート書斎』へ移動して迎え撃つ手はずになっている。
『第1ゲート』の出入口と各ゲートをつなぐ出入口にはバッシュくんやノアくんの魔力を注ぐことで完成する回復と防衛の魔方陣を敷いている。魔方陣構築のためにバッシュくんたちが魔力をだいぶ消費してしまったところで、私たちは休憩をとることにした。
『第2ゲート』との出入り口近くに空き木箱を利用して作った出来たての『第1ゲート休憩所』の勝手を試すのに丁度よいという話しになって、早速休憩に使ってみると、急拵えにしては悪くない。
『応接室』や『書斎』等のような広さは無いけれど、座れるのは勿論、ガイアスくんが数人いても横になれるスペースがあるのでこれならいざというときでも休める。バッシュくんたちの用意してくれている回復と防衛の魔方陣が側にあるのも心強い。
長期戦を考えると休める場所の設営は重要な要素になるため出来る限りの工夫を考えている。
『第2ゲート』を中心とした各部屋には水や食料、薬草類を含む回復系の魔導アイテムなど物資の補給線として利用する準備を進めている。
木箱などを運び込んでいるのはそのためで、籠城戦でアイテムの残量をなるべく気にしないようにするために、今は食事以外、魔導アイテムを消費しての回復は控えて、運びやすく、なおかつ使いやすいよう整理し保管している最中だ。
「強引に魔力や体力を回復させたり重傷でも治癒出来る魔導系の薬品やアイテムは無駄にはしたくない」
「後退することになっても放棄するのはもったいない!」
という総意によって、保管場所は移動させやすい出入口、籠城戦最中でも体力や魔力をなるべく自然に回復出来るように工夫も考えている。
「今から惜しまず使ってもいいのはこのくらいだな」
エレイナさんが『厨房』で沸かしたお湯で用意してくれた飲み物を飲みながら、私たちは木箱に集めた保存食や嗜好品を確認している。
木箱に集めたのは、即時に重傷を治癒したり大きく魔力を回復させたりは出来ないけれど、どれも癒しの効果の高いものだ。
しかも美味しい。
ただ、どれもお湯や火を使った方が飲みやすくて、食べやすい。
例えば今飲んでいる飲み物がそうで、粉末を溶かして飲むのだけど、水よりお湯を使った方が溶けやすい。
『厨房』以外でもお湯を用意出来るように工夫しない限り、『厨房』への出入口を2箇所塞いだ籠城戦が始まると使う機会は失くなるか、減るのは間違いない。
それで今のうちに使っていいものとして、木箱にまとめたのだ。うまく利用できれば水の確保や魔導系の回復アイテムの節約に寄与する。
「最終『砦』になるのは『第4ゲート寝室』か『第5ゲート書斎』だ」
ガイアスくんの言葉に私たちが頷いた。
障壁を破られずに『第4ゲート寝室』までを守ることが出来ていれば出入口は1つ。
しかし『第2ゲート』の石材ベッドの障壁を破られ『厨房』への魔物の侵入を許すと、私たちは『第4ゲート寝室』の出入口から魔物の襲撃を受ける可能性が出てくる。
そのため『第2ゲート』の障壁が破られた時点で、速やかに『第4ゲート寝室』へ移動し、3箇所の出入口のうち2箇所をガイアスくんと私で一時的に封鎖する。
ジャックくんはまっすぐに『第5ゲート書斎』へ移動し、『厨房』への出入口を封鎖することになっている。
その間にバッシュくん、ノアくん、エレイナさんが『書斎』に入り、その後、ガイアスくんと私も『第5ゲート書斎』に向かい『第4ゲート寝室』への出入口をガイアスくんが塞ぐ。
私たちがそこまで確認してから
「『書斎』まで後退させられるつもりはない」
ガイアスくんとジャックくんが揃って言った。
ちなみにジャックくんは初め『第2ゲート』の障壁が破られ『厨房』へ魔物が侵入した場合、自分がそこで迎え撃つか『厨房』で戦おう、という提案をしたのだけれど、それはガイアスくんとエレイナさんにあっさり却下されてしまった。
エレイナさんに至っては「下手したらガイアスとジャックしか生き残らないじゃない!」と憤慨していた。
『第1ゲート休憩所』でのお茶の時間の後は『各ゲート』の仕上げと障壁の補強だ。
そのあとはみんなで『ロビー』へ移動する。
ガイアスくんとジャックくんの守備範囲や攻撃範囲、お互いに何が出来て何が出来ないのかを改めて確認しておこうという話になったのだ。
それからしばらく『ロビー』でガイアスくんとジャックくんの手合わせを見せてもらった後、私たちは再びお客さん用の部屋、『拠点』に戻った。
晩の食事の用意をする時間になるころ、『厨房』ではバッシュくんたちがなにやら忙しそうにしている。
今日は魔方陣のためにたくさん魔力を消費したので魔力を必要としないことをしているのだという。2人とも「何をしてるかは、後のお楽しみだよ」と言っていたので、楽しみにしよう。
エレイナさんのほうは水属性魔術で水を補充していて、飲み水に関しては『三郎太』との遭遇からわずか2日でずいぶん確保していた。昨夜から早速バッシュくんたちと一緒に余った魔力を使って補充していたようだ。
かまどでお湯も沸かせるのでずいぶん生活が良くなった。
晩の食事にはエレイナさんと私が乾燥豆を使った煮物と乾燥野菜と薬草のスープ、刻んだ燻製魚を穀物と一緒に炊き上げたものをテーブルに用意して、それぞれの主食を取り出して晩ご飯にした。
それからしばらくはみんなで起きていて明日も拠点作りの合間に『ロビー』に行くことを確認してから、その日は休むことになった。
さっきまで空だった筒やビン数本にも水が入って栓がされている。
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