星の迷宮と英雄たちのノスタルジア

いわみね

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第6話 氷れる魔物たち

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 第1の作戦で後方の私たちが魔力をほとんど使いきって、魔物をジャックくんとガイアスくんに任せて休憩を始めてから、それなりの時間が経ってきた。
 エレイナさんからもらった魔力を微量回復させる効果つきのビスケットも食べ終わると、いつの間にかガイアスくんが大盾を防御結界前方に立てたまま私のとなりに置かれた木箱に座っている。
 先ほどからしばらくの時間、ジャックくんとガイアスくんは交代していない。
 魔物を全てジャックくんに任せ、ガイアスくんが私たちと一緒に休憩出来る程度に、前方で無数にうごめいていた魔物たちが、ジャックくんによって凍らされ、動けない状態になってきていた。
 その頃合いを見計らい、防御結界の中で魔力を回復させた私が地属性魔術【アースバインド】で通路の2番目の魔物の部屋辺り、ジャックくんの『氷結』が届いていない位置の魔物の動きを塞き止めた。

 私たちが立てた第2の作戦の実行の開始である。

 ちなみに『氷結』というのは、ジャックくんの火属性魔術を剣に付与し、攻撃対象とその周囲の熱を奪い、凍らせていく技能スキルだ。
 私の『アースバインド』よりも効果が現れるのに時間がかかる代わりに長い時間、対象の動きを封じることが出来る。

 魔物たちは私の地属性魔術から解放されるとすぐさま、同胞であるはずの魔物を踏み台のようにして踏みつけて、こちらに向かって前進して飛びかかってくる。

 そういうときの魔物の動きは素早いけれど、ジャックくんの動きはそれをはるかに上回る。
 助走を必要とせず高く飛び上がり、足で魔物を叩き落としたり、通路の奥まで蹴り飛ばしたりもしてしまう。
 剣が間に合わないとき、反射的にそうしているようだ。
 自身の肘なども武器にするし、魔物を投げ飛ばしたりもしている。
 『氷結』が付与された剣で攻撃された魔物は、彼の剣撃に耐えられない時は倒され、そうでない魔物は徐々にだが凍らされてしまう。

 次第に私の地属性魔術『アースバインド』で発生した渋滞と、ジャックくんの『氷結』の能力で凍らされた魔物で出来上がった障壁によって、まだ扉内側にいる魔物たちが出てこれないほどになっていった。

 その間に、私と同じく防御結界内で魔導ギルドと商人ギルドが共同開発した〈ビスケット〉で魔力をいくらか回復させたバッシュくんとノアくん、エレイナさんの3人が【二重奏】と【風刃】と弓矢での連続的な攻撃で魔物を倒していき、再び私たちの魔力が減少したところで、前方で凍りついていた魔物たちをガイアスくんたちが凪払っていく。

 凍らされた魔物は時間とともに『氷結』が解けて動きが活発になるため、動き出す前に倒しきるか『氷結』で凍らせるかしなければ再び襲ってくる。

 回復した魔力で魔物たちをまとめて倒し、私たちが魔力を使い終えたところで、前方に溢れるように現れる魔物たちをジャックくんが再び凍らせ、魔物がほとんど前進できなくなったところで

「この作戦はこの1回で、もうやめないか」
 と、エレイナさんに差し出された温かい飲み物の入った容器を両手で持って、カタカタと震えながらガイアスくんが言った。

「そうだね。この作戦は、この1回で充分なんじゃないかな」
 と、私とエレイナさんもガイアスくんに同意する。

 私たちの周囲の気温は著しく低下し、大気中の水分が凍って冷気の白い煙のようになっている。
「そうだな。この方法は準備が出来るまでに時間がかかるしな」
 私たちの意見を聞いて、ジャックくんが頷いた。

「何言ってるんだい、キミたち。この方法を取るのが一番効率よく、手早くこの籠城戦を切り抜けられるに違いないのに」バッシュくんがそう言うと、今度はノアくんが「これで寒いのは乗り切れるかと」と言いながら、私たちに1つずつ火属性の魔石を優しく手渡してくれた。

 2人ともいつの間にか暖かそうな上着を身に付けている。
 彼らに準備不足はない。
「ジャックさんが魔物や魔物の周囲から奪った熱を、一部魔力に戻して吸収させた魔石です。少しずつ、熱を放出するように加工されていますが、もし熱すぎたら布などにくるんで使用してください」

 ノアくんが丁寧に魔石の使い方の説明をしてくれた。
 
 私たちの次なる対魔物作戦は、ジャックくんの〈凍らせる能力〉で魔物を凍らせ、動きが鈍った魔物で障壁を作り上げ、通路が魔物で一杯になったところをまとめて倒していく、というものだったのだけれど。

 実際にやってみると想像を越えて

「寒いんだよ」

 第1の作戦ではバッシュくんたちの大量の魔方陣で発動させた『二重奏』と私の『アースバインド』とエレイナさんの『風刃』、ジャックくんとガイアスくんの攻撃でまず魔物の数を減らす。
 次に、ジャックくんの『氷結』で攻撃を行いつつ、魔物やその周囲を固まらせ、その間に第1の作戦と似た手順で魔物を倒していく。
 魔物たちの動きが鈍い間に、落ちている魔石を回収していけば回復もさせず確実に数も減らせる……。

 というのが第2の作戦だったのだけれど。

 まさかこんなに冷えるとは思っていなかったのだ。
 私たちが甘く考えてしまっていたのもあるだろうけど、ガイアスくんから事前に聞いたり演習で見せてもらったのと、ジャックくんの『氷結』の印象はだいぶ違うような気がする。

 私が思うにバッシュくんたちから属性魔術について色々教えてもらった成果で、ジャックくんの火属性魔術が上達して、何か違う術になりかけているのではないかなと思う。

 それとも、たくさんの魔物を凍らせたせいで、いつもと違う感じになっただけなのだろうか?

「バッシュ、魔物の動きは確かに鈍っているし、この作戦に効果はあるが、魔物だけじゃなくて俺たちの動きも鈍くなってるぞ」
 ガイアスくんが寒さに震えながら言った。

 旧知の仲であるはずのガイアスくんでさえ適応できていない。

 今現在、5つの『魔物の部屋』のある通路手前側付近は予定どおり、ジャックくんの『氷結』で凍りつけられた魔物たちが障壁代わりになっている。

 ジャックくんは火属性の魔力を武器に付与して、攻撃と同時に熱を移動させ、対象を凍らせたり、発火させることも出来る。
 ちなみに凍っているのは魔物だけでなく、周囲の気温も下がっている。そのおかげで通路の私たちがいる付近は全て凍ったようになっていた。

 魔物の部屋の扉出入口にも凍りつけられた魔物がいるので、部屋の中の魔物も塞き止められたようになっているし、ここまでの過程でジャックくんが、かなりの数の魔物を倒したことがうかがえる。
 凍りつけられた魔物はまったく動けないわけでは無いが、その動きは極めてゆっくりになっていて、ほとんど動けておらず、後ろの凍っていない魔物に押されている感じだ。
 魔物の様子からしばらくは大して前に進んで来そうにない。
 バッシュくんたちの防御結界もある。
 私たちはひとまず『拠点内』の『第2ゲート』まで戻って、これからどうするのか相談しなおすことにした。

 時刻魔導具を確認すると、もう昼時になっている。

 ◇

 寒さに耐えかねる格好で、『第2ゲート』まで戻ると、寒さはいくらか和らいで、私たちはホッとした。

 それから早速、昼食のため魔冷保存庫から食料を取り出し、厨房から持ってきた金属の容器を利用して作った簡易の炉で調理済みの食材を温めるため、火をつけてお湯を沸かしながら、炉の火に手をかざす。

 暖かい。

 気を取り直したガイアスくんが「全員でここまで戻れるくらいの休憩時間を作る意味を兼ねるんなら、時々やるのも悪くないかもしれないな。ジャック次第だがどう思う?」
 休憩場所の椅子に座って、冷めてしまった飲み物を飲みながら、ジャックくんに聞いた。
 するとジャックくんが、ガイアスくんに頷いて
「オレもそれがいい。実は思ったより魔物を凍らせるのに時間がかかったんだ」
 ジャックくんの発言にガイアスくんがちょっとだけ戸惑った表情を見せた。
 ジャックくんには自覚がないかもしれないが、あんまり頑張らないくらいが、ガイアスくんの知っている、ジャックくんの技能スキル『氷結』なのかもしれない。

 こちらの印象は別にして、ジャックくん本人によると、魔物の動きを止めるまで凍らせるために、これまで遭遇してきた魔物と比べて、時間も魔力も多めに必要としたらしい。
 そのせいで、ジャックくんの魔力もちょうど切れた頃合いだったという。
 ジャックくんから様子を聞いたバッシュくんとノアくんが互いに顔を見合せ、「ここの魔物の身体には水分がほとんど含まれていないのかもしれないね。一概には言えないし、他の原因もあるかもしれないけど」と言って私たちの作戦変更に理解を示してくれた。

 魔術耐性も関係があるのかもしれない。
 魔力は色々なものに干渉し、作用するので、必ずしも一定の結果が得られるわけではないことがある。

「早く終わらせる必要があるのは安全のためなのに、早く終わらせたいために無理をするんじゃ本末転倒だよね」
 バッシュくんが自分に言うように呟いた。

 話している間に食べ物が温まったので『第2ゲート』の休憩場所のテーブルへ運んで、私たちは食事にすることにした。

 テーブルや椅子は『厨房』で見つけた木箱と大きめの板を組み合わせて、椅子はそのまま利用している。

 そこに温めた調理済みの穀物、塩漬けの魚を調理したもの、乾燥野菜を利用した炒め物や、甘辛い味付けの芋、豆等の保存食も用意する。
 そこに乾燥果物を水で戻して煮詰めた甘物や砂糖を使っていない薄い生地の『厨房』で作ったビスケットも添えて、飲み物を並べていく。
 甘くて温かい飲み物を飲むと、先ほどまでの寒さが嘘のように思えた。

 気がつくとガイアスくんがノアくんとバッシュくんを抱き抱えている。どうやら彼らを抱き締めていると温いらしい。
 それをエレイナさんが生暖かい目で見つめている。

 食事を終えて魔物の様子を見て来てくれたジャックくんによると、魔物たちが先ほどより半ノーツほど、こちら側に進んできているという。
 時刻魔導具の短い針がメモリ1つ分動くくらいの時間で、半ノーツ。
 時間が経てば、だんだんと『氷結』は解けて早まって来そうだけど、それはどのくらいの時間だろう。

 私がそう考えていると「どのくらいの時間、魔物たちが凍ってる状態でいるのか観察してみない?効果時間が判れば、より計画的に休めるようになるよね」と、バッシュくんたちが提案した。

 一晩中とはいかなくても、夜間にも全員で休息が取れるようになれば、籠城戦の序盤だけでなく終盤までバテずにやっていける可能性が高い。

 こうして私たちの『氷結作戦』はちょっぴり微調整しながら続行することが決まった。
 エレイナさんが寒さ対策に通路側の出入り口を布で仕切っている。
 そのあとは魔物について事前の予想との違いや、気がついたことを報告し合い、情報がまとまってきたところで、「それじゃあ、魔物が動けてない今のうちに、わかってることを確認するぞ」と、ガイアスくんが言った。

 先ほどまで食事するのに使っていたテーブルには、5つの小さめの袋が置いてある。
 袋の中には魔物が遺した魔石や素材が入っている。
 ジャックくんが集めて回収してくれたものだ。

 魔物が落とした魔石のほとんどは指先程の小さな欠片で、3つの袋に入っている。
 大体で数えてみると1,000個に少し足りなかったが、すべての魔物が魔石を遺すわけでないことや、回収出来たのが手前1つ目の扉範囲内で限られたことを考慮すると、昼前までに20,000体かそれに匹敵する相当な数の魔物を倒したことになる。

 素材の方は2袋で500個ほど。5種類の素材が入っていて、そのうちの1種類を見て、私はあれ?っとなった。

 懐にしまっている、商人ギルドのデビスさんからもらった素材を取り出して、見比べてみる。
 バッシュくんやガイアスくんたちも気がついて、全員が魔物の落とした素材に注目した。
 特別に輝いてるとか、そういう見た目はしていない。
「これ、マクスさんが探してた素材と同じもの?」
「そうみたい」
 私はようやく合点がいって素材を眺めた。

 この素材は遺跡近くの古い地層で稀に見つかる、珍しいものだけど、その一方で古い地層に限らず、採集場所は存在している。
 だから今の今迄、古代の魔物が落としたものだなんて、考えたこともなかった。

 ただ、珍しいこともあって、どう形成された物質なのかずっと不明で謎の素材だったとは聞いている。

 それがこんなにたくさん。
 私は平たい黒炭のような硬い塊を手のひらに乗せて見つめた。
 新しく生成されたものが見つからないような素材だったら、古代の魔物とも結びつけていたかもしれないんだけど。

 私が少し呆けたようになっていると、ガイアスくんたちが興味深そうにどんな素材なのか知りたがった。

 それでデビスさんが私の求める条件に合った素材として探してくれた物の、これまでの発見場所や、何に使えるものなのかを私が説明するとバッシュくんたちはもちろん、エレイナさんもすごいと驚いた。
 この素材は特殊な製法で液状になること。一度液状化して再び固体になると、もとには戻らないが、その代わりに強い靭性と撥水性を持つようになる。
 金属や木材への塗布に止まらずそれを液状のうちに布や糸、繊維質に染み込ませれば、吸湿性も備えた非常に強い布製品の作成が可能になること。
 また別の製法を組み合わせることで自己修復や防寒具としても、今あるものより非常に優れた製品が作成出来るようになること。
「今はまだ実験の最中で、可能性なんだけどね」と、念押しはしながらも、私は友人の受け売りを一生懸命説明したのだった。

 ◇

「よし!倒せた数や落とす素材以外に、魔物のことで判ってるのは、魔物の耐久や力が一定な訳じゃないことと、弱ると魔石で回復すること、『氷結』は効果があるが、耐性みたいなのがあるかもしれないってことで問題ないか?」
 私たち全員がガイアスくん言ったことに頷いた。
「あとは検証中の魔物の属性だな」
 そう言ってガイアスくんがテーブルに本を2冊置いた。
 本の背には星の意味を持つ数字がそれぞれ刻まれている。
 ジャックくんとバッシュくんたちが『書斎』で見つけた本だ。
 中にはここの魔物について書かれてあって、各魔物の部屋に属性と思われる古代文字があてられていることが判明している。
 ただ、今わかっているのはそれだけで、本当にそれが魔物の属性を表しているのかどうかは、はっきりしていない。
「焦らず検証していこう」

 バッシュくんたちの魔方陣で発動させた『二重奏』の効果は絶大で、私たちの籠城戦初日の出だしは上々で始まっている。

「魔物が落とした素材の数と魔石の数は1500程度だが、通路に落ちたままになってる分も考えると魔石だけで5,000個分以上確実に倒しきっている。つまりドロップ率をかなり高く見積もっても5,000体以上、2割程度のドロップ率だと考えれば25,000体から素材分も考慮すると35,000体くらい倒しきってる計算だ」

「俺の体感ではここの魔物は4、5体に1個くらい魔石や素材を落としているように思う」
 ガイアスくんのこの発言に、ジャックくんも頷いた。

 倒しきらなかった魔物は魔石で回復しているかもしれないけどそれ以上に倒しきった数が多い。

「魔物の総数が実際はどのくらいか知りたいが、今のところよくわからない。予想の50,000体を軽く越えている可能性を真面目に考えた方がいいのかもしれないな」
 これにはバッシュくんとノアくんが頷いた。
 バッシュくんたちは通路の奥までの距離と扉の位置から、魔物の部屋の広さを『ロビー』の倍以上の広さで想定している。
 魔物の部屋の広さを直接確かめることが出来たわけではないけれど、なんとなく魔物が通路に出てくる勢いにおさまる気配も感じられていない。
 今は凍っていて動きが遅くなっているだけという印象はこの場の全員が持っている。

 けれどバッシュくんたちの魔方陣で『二重奏』を発動出来る回数の上限は既に越えてしまったので、今後は別の方法を工夫しない限り、このペースで魔物を倒し続けることは出来ない。
 かといって周辺の気温が低い状態で長時間、連続で戦い続けるのにも、かなりの無理が必要になる。

 『三郎太』や『何者か』が乱入したり、魔物が変化する可能性も考えると悠長な戦いかたをしていられないという、数だけでない問題もある。魔物はヒトや動植物に比べ魔力や環境の影響を受けた変化を起こしやすい。

 今のところ魔物自体の強さや脅威度は高くないけれど、とにかく数が多いというのが相変わらず問題だ。
 予想を越えて魔物の総数が多いなら、先にこちらの方が崩れてしまう可能性が高い。

 ただ、ここにいる魔物はお互いに連携を取ったり、仲間がやられて助けに入るとか、そういったことは、今のところしていない。助け合わない代わりに倒された魔物が遺した魔石を吸収することで回復したりしている。
 それが数で圧倒的に劣勢に立たされている私たちにとっては厄介であると同時に、優位に働いている部分でもある。

 私たちがそうやって頭を悩ませていると、ジャックくんが不意に言った。
「魔物が変化したらそんなに不味いか?」
「そりゃあ、不味いだろ。大体そういう場合強くなるっていうのが相場だからな」とガイアスくんが返事して、エレイナさんや私も頷いた。
 魔物が強くなれば倒しにくくなって、戦況が長引いてしまう。
 魔物の脅威度が増すのは、前線で直接魔物と対峙するガイアスくんやジャックくん達の命に関わることではないか。

 一方でガイアスくんに抱き抱えられたバッシュくんたちは、ジャックくんの言葉に目を丸くしてから思案し始めた。
 そして少しして、
「魔物が今より強くなっても平気?」
 バッシュくんたちがガイアスくんを一度見上げてから、ジャックくんに向かって話しかけた。

 ジャックくんが頷いて、ガイアスくんも頷いた。

 「もし今よりここの魔物が強くなったとしても、オレ達の状態はよほどのことがない限り、いまと大した差が無い」
 ジャックくんが言った。
「バッシュたちもそうじゃないのか?お前達の魔導術は、相手が強いほど効果的に働く術だ」ジャックくんが続けて言った。

 そういえば、バッシュくんたちの『二重奏』は割合ダメージだった。私はハッとする。

 仮に今対峙している魔物の体力が500から1,000程度と仮定して、1から3回の攻撃で倒しているとするなら、魔物の体力が750から1,000ちょっとに上昇しても、やはり2、3回で倒せるし、今の魔物の火力では彼らにほとんどダメージを与えられていない。

 もし、これを逸脱した魔物が現れても、バッシュくんたちの『二重奏』があればあっという間に魔物の体力は減らせてしまう。

 防御結界もあり、ここまでの準備で『拠点』の『ゲート』内には回復の魔方陣も設置してある。食料も長期戦に備えて60日分用意している。
『厨房』には、まだ未調理の穀物を6日分ほど残していて、回復アイテムも『各ゲート』に準備している。

 そもそも、『魔生物』の脅威度が不明だったため、私たちはある程度ランクの高い『魔物』を想定して準備をして計画を練ってきた。

 魔物が多少強くなっても今と大差が無く倒せるなら、早く数を減らすよりも、確実に数を減らしていく方が負担の少ない良い戦略なのかもしれない。

「もし、魔物達にボクらの『二重奏』が『三郎太』みたいに効きが悪くなったら」ノアくんが心配そうに言うと、ジャックくんは迷い無く言った。

「救援してくれればいい。それでガイアスは永遠にでも戦えるからな」
 バッシュくんたちがガイアスくんをキラキラした瞳で見上げた。期待に応えるようにガイアスくんが「永遠は無理だが、まあ、救援してくれれば戦えるぞ!」と断言して、私たちの次の方針は固まった。

 ◇

「時刻魔導具の短針2つ分は休む時間が作れそうだな」
『第1ゲート』出入り口の『防御の陣』の防御結界内でガイアスくんが呟いた。

 通路の気温はまだ低いままだけど、魔物は凍らされてから、時刻魔導具の短針が目盛り3つ分動くくらいの時間で通常通り動けるようになっていた。
 魔物たちはすでに活発に動き回り、ジャックくんに飛びかかったり、こちらへ突進してくる。
 短針が目盛り2つ動く頃にはかなり動けるようになっているようだったので、凍らせてから、休憩のため、この場を離れるのなら、その時間の範囲でここまで戻る必要があるということだ。

 私たちの前方にはガイアスくんの大盾が置かれ、結界外側ではジャックくんが『氷結』は使わずに戦っている。倒しても倒しても扉からは魔物たちがあふれでているのを、バッシュくんたちが記録メモしている。

 ジャックくんの『氷結』が解けるまでの時間を計っているのだ。毎回同じような結果が得られれば、問題なく休める時間が割り出せる。魔物の行動パターン等も調べている。

「次は僕も凍らせるのを手伝う」そう言ったのはバッシュくんだ。
 時刻魔導具が夕刻を知らせる頃になると「それじゃあ、始めよう!」とバッシュくんが魔物たちに向かって、凍結魔術を発動させた。ジャックくんも魔力を少し回復させるポーションを使い、剣に『氷結』を魔術付与エンチャントした。
 2人に標的にされた魔物の動きが急速に遅くなり、私たちの周囲の温度が下がり始める。

 寒い
 
 冷えるのは避けられないが、計画的にガイアスくんやジャックくんも寒さ対策した『拠点内』で休息出来るようになる可能性が高い。

 ある程度前方の魔物の動きが鈍ったのを確認して「あとはまかせて」とバッシュくんとジャックくんが言ったところで、2人を通路に残し、私とガイアスくん、エレイナさんとノアくんの4人で『第2ゲート』の休憩場所まで一度戻り、晩の食事を整えて2人が戻るのを待つことにした。

 寒くなっているのでガイアスくんが休憩場所を少し移動させて『第2ゲート』に急遽テントを設営した。「これで気温差があっても快適に過ごしやすくなるだろう」と満足そうだ。

 私はエレイナさんと『厨房』でお湯を沸かし、温めた食べ物をガイアスくんとノアくんが『第2ゲート』まで運んでいく。
 テーブルに6人分の食事が並んだ頃「ただいまー」という声と共に、バッシュくんがジャックくんの頭の上に乗った状態で戻ってきた。
 全員が揃ったところで、温めた薬草のスープと穀物、蒸かした芋、乾燥させた野菜と塩漬けの肉を使った料理で食事にする。
 温かい飲み物も用意してある。
 バッシュくんがそれをとても美味しそうに飲み干した。
 ジャックくんもバッシュくんも、2人ともどことなく、ホカホカとした感じで帰ってきているのだけれど、比例するように『第2ゲート』の温度が下がっている気がする。
 食事を終えるとジャックくんが袋に入れた魔石と素材をテーブルに置いて、それを昼間の分と合わせて確認すると、魔石は1,603個、素材の数は552個程になっていた。

 それとは別に、魔物の熱を魔力に戻して吸収させた火属性の魔石が6つ。
 ジャックくんとバッシュくんの報告によると、確かにここの魔物は凍らせるのに時間も魔力も多く必要とするものの、ふたりがかりで、手前の魔物を凍らせるだけなら、大変な作業にはならなかったらしい。

「数を倒しきるのを同時にやるのは2人だけだと難しいけど」
「凍らせるだけに撤するなら楽だった。あれなら時刻魔導具の短針の目盛り3つ分くらい大丈夫なんじゃないか」
 と、2人は揃って報告をしてくれた。
 
 それで私たちは時刻魔導具を確認し、頃合いを見てガイアスくんと私が先に2人で通路の魔物達の動きを見張ることに決めた。

 魔物達の動きを確認しつつ、時刻魔導具の短針が目盛り2つ進むのをまず目安にして、ジャックくんと私が見張り役を交代する。そのあとは、しばらくガイアスくんとジャックくんの2人で頑張ってもらう段取りにして、ひとまず全員、一度横になってテントで休むことになった。

 ノアくんがくれた火属性の魔石がほどよく熱を放出して暖かい。何て心地のいい暖かさなんだろう……

 ……暖かい。まずい。
 このままテントのなかで布にくるまってると熟睡してしまう。

 私がそっと起き上がりテントの外へ出ようとすると、ガイアスくんも起きていて、私たちは温かい飲み物をもって、早めに通路の魔物の様子を見に行くことにした。

 そこでガイアスくんと私は通路の変わり果てた光景を見て驚かされることになる。
 防御結界『防御の陣』を避けて1つ目の魔物の部屋の扉付近からかなり奥のほうまで魔物達がびっしりと凍りついて、開いた扉には氷柱が下がって、極寒地帯さながらである。

「おいおい……」
「これは」

 通路の途中からは凍りついた魔物が積み上がって氷の壁のようにされていてその先の魔物の様子まではわからなくなっていた。

「どうやったんだこれ」
「バッシュくんが水属性の魔術を使って、それをそのまま凍らせていったのかも知れないね」

 魔物を覆う水の量は多くないけれど、きれいに透き通った氷で魔物がコーティングされたようになっている。
 その氷の表面はしっかりと凍っていて、すぐには解けそうにない。
 ガイアスくんが試しに拳でコンコンと軽く叩いてみたりしている。「時刻魔導具の短針が3つ分どころじゃなく、これじゃあ、しばらく動けないだろう」ガイアスくんが呆れたように言った。

『第2ゲート』に戻ってきたときのふたりがホカホカとした感じだったことが思い出される。

 もしかしてだけど、魔物や周囲から熱をもらって、ほどよく暖まっていたのではないだろうか?

 予定よりも魔物が凍っていたことに驚きはしたものの、魔物が動けない状態であることを確認出来たので、私とガイアスくんがひとまず、木箱に座ることにした。

「今のここの状態を考えると、時刻魔導具の短針が5つ進むくらいは大丈夫そうだ」

 寒さ対策で持ってきた布を頭から被り、暖をとろうと飲み物を口にしようとしたとき、私とガイアスくんは、手に持った飲み物の表面がうっすらと凍っているのに気がついた。

 先ほどまで熱いくらいだった飲み物が低温にさらされ凍り始めている。

「ダメだ!ここにいると俺たちも凍る!」
 私たちは慌てて『第2ゲート』内まで戻ることにした。

 ◇◇

 籠城戦初日の推定魔物討伐数26,000体~36,000体、素材獲得数552個(赤青黄白黒)、魔石の欠片1,603個(大中小)

 ☆共有アイテム☆

 主な食料59日分
 嗜好品お菓子類(回復あり)、嗜好品、お菓子類(回復無し、あと僅か)、未調理穀物6日分
 魔力回復ポーション(EX132本、超回復112本、大270本、中1038本、小1,512本)
 治癒ポーション(EX132本、超回復254本、大1,020本、中2,420本、小5,018本)、薬草(治癒2,216袋、解毒120袋)2,336袋、他

 ☆各自アイテムバッグ、背負袋☆
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