あめいろ物語

いわみね

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ウワサを頼りに

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 どれほど歩けば、見えてくるのか。
 幾度空を見上げれば、辿り着けるのか。
 
 青年が大陸の果てにあるという、幻の迷宮を探してはや三年という月日が流れていた。

「ウワサを真に受けてここまで来てしまったのは良いけれど……」
 見渡す限りの草原に、迷宮の入り口らしきものはみつからない。
 青年の名はリカルド。
 探索者ギルドに籍を置きながら旅をし、ようやくウワサの条件と合う地にやって来ていた。

「北に高くそびえる山、湖、そして五つの高い塔を中心とした街の南にあると言う大草原。……今はもう街は無いけれど、かつて魔塔を拠点として栄えた都市があったらしい……」

 懐から地図を取り出し北側を見ると、遠くに霞んで連なった山が見えた。

(噂では偉大な魔術師の遺産が眠る迷宮は、大草原の地下深くに隠されているとかなんとか……)

 道中、魔物や盗賊にまで襲われ、危険を掻い潜ってやって来たのだからと、草原で野営をしながら入り口を探しはじめて三日が経っている。
 草原の入り口からはもう遠く、引き返すのにも三日は要する場所まで来ていた。

「食料も尽きてきた。一度引き返さないと」
 手持ちの食料を確認し、リカルドがため息を吐いた。

「おおーい!りかるどーー!」
 不意にリカルドを呼ぶ声が聞こえてきた。
 ウワサを頼りにした迷宮探しに、根気よく付き合ってくれている相棒のダルクだ。

「ダルク!何か見つけたのか、入り口か?!」
 相棒の呼び声に、思わずリカルドの期待が高まった。
 ウワサでしか知られていない迷宮となれば、高確率で未踏破のダンジョンだ。質が良ければ名声と一攫千金の両方が手にはいる。
 そして何よりもリカルドが欲しいもの。
 それは、見たことの無い土地や場所を見つけるという浪漫だ。

「いや、入り口はまだ見つけてない。けど……兎に角、来てくれ!」

 ダルクの姿は、背の高い草に紛れて見えにくかったが、声のする方を見ると、草間に紛れて人がいるのがわかる。
 リカルドが急いでその方角へ駆けつけようとした時、別の方向からもダルクの声が聞こえてきた。

「リカルド!」
「えっ?」

 リカルドがもう一方の声がした方に顔を向けた。

 その瞬間、ゴゥッと音がしてリカルドの顔を掠めるように光る球が飛んできて、通りすぎた光球が草むらに落ち、辺りの草が燃え上がった。

「リカルド!」「リカルド!」

 その間もリカルドを呼ぶダルクの声が、二方向から聞こえている。
(どちらかが偽のダルクということか?!今の攻撃はその仲間?)

 リカルドが剣を構え、辺りに注意を払った。
 相変わらず、二人のダルクの声が自分を呼んでいる。

「ダルク!こっちは襲撃を受けて手が放せなくなった!そっちから来てくれ」
「えええ?」
「わかった!すぐに行くよ!待っててリカルド!」

 一方は渋るような返答。
 もう一方は大慌てな様子で返事が返ってきた。

(声の方向からして光球で襲ってきたのは、どちらでもない)

「敵は遠隔で光球を撃ってきた。そっちも気を付けてくれ」
「了解」
 しばらくして草をかき分けて現れた声の主。

 一人はダルク本人。
 そしてもう一人は石のような素材で出来た顔に、金属製の手足。

「魔導人形!」
「なんだコイツ、ぼくの声真似をしてるのか?!」
 驚いているダルク本人とリカルドを無視するように、魔導人形がダルクの声真似で話しかけてくる。

『大丈夫かい、リカルド!怪我は?敵はどこ!?』

 ぎこちない動きでペタペタとリカルドの身体を触り、無事の確認をするダルクの声で話す魔導人形。

『良かった、どこも怪我は無いね』
 魔導人形はそう言うと、あっという間に光球を撃ってきた魔物を見つけ出し倒してしまった。

 敵か味方かもわからない。

「おい、りかるど。この魔導人形はなんだ?」
『ぼくはダルク。リカルドの相棒のダルク』
「はあ?なに言っているんだ!ダルクはぼくだ!」
 本物のダルクが呆れたように大声をあげた。
 すると魔導人形が、
『ダルクが二人……つまり、どちらかはニセモノ。偽ダルク、覚悟!魔導ビーム!』

「うわあああ!?」

 魔導人形の光線をダルクが必死で避けるのを目の当たりにしながら、リカルドは気づいた。

(まさか、これは古代魔導技術か?この魔導人形は一体……)


 ◇

 ──数刻後

「ここ、見てくれ」

 本物のダルクについてやって来た場所で、リカルドがしゃがみこんで、地面を触る。

 リカルドが魔物に襲われる前に、ダルクがリカルドを呼んだのは、ここを見せるためだったらしい。

 魔導人形は、ダルクに向かってビームを何度か発射すると、急に元気を失くして動かなくなった。

 魔力が尽きたのだと判断して、その隙にリカルドたちはこの場所までやって来ていた。

 (硬い石面に文字が刻まれた部分がある。これは……)

「迷宮発見とはいかないけど、これも悪くない発見じゃないか?」
 地面を調べるリカルドの後ろで、ダルクが言うと、リカルドが立ち上がった。

「ダルク!これは発見であると共に希望だよ!俺たちは新たな迷宮の手がかりを掴んだんだ」

 瞳を煌めかせるリカルドを見て、ダルクが苦笑いをした。

 三年探して見つからない迷宮。
 さすがにそろそろ諦めるのかと思っていた頃合いのダルクだったが。

(ぼくの相棒はどこ迄も、ウワサの迷宮を追いかけていくつもりらしい)

「そうとわかればダルク!」
「なんだ?相棒」
「さっきの魔導人形のところへ行ってみよう」
「え?何でそうなるんだよ」

 驚いたダルクが尋ねると、リカルドが言った。
「あの魔導人形が使った魔術は古代魔術だ。おそらく身体にも古代魔導技術が使われている」
「古代の迷宮の手がかりになるかもしれないってことか」
「うん」

 話が決まると二人は早速、置き去りにした魔導人形の元へ向かったが、魔導人形の姿はどこにも見当たらなくなっていた。


 ◇


 ──その頃──


『リカルド。ボクノ大切ナアイボウ……一緒ニ旅ヲ』

「ああ、そうだね。彼は君の大切な相棒だ。三日間でそう学んでしまったんだ。でも君はダルクじゃない。だから僕が君に本当の名前をあげよう」

『名前……本当ノ……』

 ローブの人物は魔導人形に優しく微笑んで、杖を振った。
 薄暗い一室で、光が魔導人形を包む。

「さあ、お行き。本当の名前を呼んでもらいに」


 さらに数日後──


 巷は正体不明の魔術師のウワサで持ちきりだ。

 ウワサを聞き付けて、ダルクが目を輝かせてリカルドに言った。
「リカルド、聞いたか?ウワサの魔術師の話!本当の名前を呼んでもらうために迷宮を探す旅をしてるらしい。ものすごい古代魔術を自在に使うって話だ!」
「俺も聞いた!迷宮の手がかりを持っているかもしれないな!ダルク!早速準備と食料の買い出しに行こう」
「おう!」

 ウワサを手がかりにした、二人の迷宮探しの旅はまだまだ終わらない。


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