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離れがたき君
しおりを挟む持ち主に幸運をもたらすティーカップ
それは実業家だった彼女のお祖父さんの形見だというティーカップ。
「本当にいいの?そんな大切なものを僕がもらっても?」
「ええ。貴方に使って欲しくて」
彼女は優しく微笑みながらそう言って、明るく美しい淡い水色のティーカップを贈ってくれた。
けれど、君はもういない。
大切なティーカップを処分してしまうことを、許してほしい。
──もう決して、誰の手にも渡らないように。
◇
◇
◇
「こんなところに店があったのか」
賑やかな通りから少し離れた静かな路地裏で、青年は古道具屋を見つけて呟いた。
彼の名前は佐藤ユウキ。
仕事の都合で、地図にも載らない辺境の小さな町に引っ越してきたばかりだ。
店の窓から店内を少しだけ見たユウキが興味を引かれて中に入ると、角に淡い水色の上品なティーカップを見つけた。
彼がティーカップをケース越しに見ていると、店の主人が近づいて柔らかな物腰と口調で話し始めた。
「そのティーカップには持ち主に幸運をもたらすという、逸話があるんですよ」
ユウキはすでにカップを気に入っていたので、それを聞きすぐさま購入することを決めた。
カップを買ってから数日も経たないうちに、幸運が訪れた。
1度却下されたユウキの企画が突然見直され、新たなプロジェクトとして起ち上げられたのだ。
『ユウキ!おめでとう』
伊東カナミが電話越しに明るい声で祝う。
カナミとユウキは中学から高校までを共に過ごし、大学では離れることになったが、友人関係は続いていた。
ユウキが少しだけ遠慮がちに言った。
「カップのおかげかな」
『そんなわけないでしょ!ユウキの実力に決まってるじゃない』
通話を切った後、ユウキは嬉しくてたまらない。
「運が向いて来たかもしれない」
その後も、幸運が次々訪れるようになった。
何をしても、最終的にうまくいくのである。
そんな時、ユウキは後輩の不運を耳にした。
ユウキはふと思った。
(まさかカップのせいじゃないよな)
ユウキの不安を肯定するかのように、周囲の不運が続いた。
幸運の代償。そんな不安が頭をよぎる。
『もう!ユウキは考えすぎだよ!』
カナミに懸念を否定してもらい、ユウキの心が落ち着く。
通話を切った後、ユウキは幸せな気持ちで眠りについた。
1年経ってもユウキの幸運は止まらなかった。
ユウキの幸運が増すほどに、周囲で起きる不運が深まった。その度ユウキはカップのせいではないかと不安になったが、カナミに相談すると、決まって彼女はユウキの不安を明るく否定した。
「幸運はユウキが自分で掴み取ったものなんだから、自信を持ちなさい!」
ユウキも成功を手放すことが恐ろしくて、カップを手放すことも棄てることも出来ないでいたため、カナミの言葉に安心を求めてすがっていった。
2年経って、成功を喜んでくれた唯一無二の友人、カナミまで不幸に見舞われ、ついには死んでしまった。
ユウキはカナミを喪った悲しみに暮れた。
そんなある日のこと。
突然ユウキの前に見知らぬ男が現れた。
どこで嗅ぎ付けたのかカップのことを知っていて、真剣な表情で警告した。
「ティーカップを早く手放しなさい。手遅れにならないうちに」
◇
◇
ティーカップのことを否定してくれる友人はもういない。
店の主人にティーカップの真実を確かめに行くにも勇気を出せずに、ユウキは罪悪感と不安な夜を過ごしながら暮らすことになった。
淡い水色のティーカップに注がれた紅茶を飲みながら、眠れない夜を過ごす。
彼女の死が最終的にこれ以上ない自分の幸運に繋がるのだと信じて。
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