【番外編・完結】神獣の花嫁〜かの者に捧ぐ〜

一茅苑呼

文字の大きさ
2 / 16
宴もよう〜花嫁に告ぐ〜

【二】

しおりを挟む
「私があの時……お前がまだ“仮の花嫁”であるうちに、元の世界に帰ることを強く勧めていれば───」

「百合子さんに、責任はないですよ。決めたのは私ですし」

“陽ノ元”に来て日が浅いうちであれば、咲耶が深く思い悩むこともなかっただろう、と。

憂いを帯びた眼差しを半ば伏せる黒い“花嫁”に、咲耶は覆い被せるように否定した。

話題を変えるため、徳利を両手に掲げる。

「さ、呑んでください。にごり酒と清酒、どっちにしますか?」

「……お前のさかずきは水か」

「私、下戸なもので」

「では私も」

「いえいえ、百合子さんは遠慮なさらずに。ささ、どうぞおひとつ」

にっこりと笑って見せれば、めずらしく表情を和らげて百合子が微笑んだ。

「では少し、いただこう」

困ったようにも見える笑みに、咲耶は一瞬、手元を狂わせかけながらも、なんとか酌をする。

「……なぜ震えている」

「や、百合子さんが綺麗すぎてまぶしくて、つい……」

「ハクコを従えておきながら、いまさら何を言う」

「あはは……。あれ、闘十郎さん、は……っと」

あきれたように咲耶を見返す美女の、右隣にいたはずの少年が、いつの間にやら“眷属”の輪に加わっている。

「放っておけ。端で観ているより一緒に楽しむのが好きな男なのだ」

「ああ、なるほど。
それにしても……あかねさん達、遅いですね」

咲耶の左側には、茜と美穂の席が用意してあった。
そのうち来るだろうと始めたはいいが、さすがに何かあったのかと心配にもなってくる。

「お前は、美穂が先日まで屋敷から出られなかった事情を、知らなかったのだな?」

「はい……犬朗から聞いて、びっくりしました」

「詳しいことは?」

「いえ。でも、変だなと思ってたので、そういう意味では納得したというか……」

最初におかしいと思ったのは、咲耶がひと月ほどの眠りについた時だ。

美穂が咲耶の身を案じ【百合子に様子を見てきて欲しいと頼んだ】と聞き、違和感を覚えた。なぜ、美穂自身が来ないのかと。

「美穂さんの快活な印象からして出不精って感じじゃなかったし……それで、何か事情があるのかもって考えてました」

“神獣の里”のおさであるヘビ神───香火彦かがひこから、この二十数年間、
「屋敷から出てはならぬ」という“禁忌”を課せられていた赤い“花嫁”。
それが、当のヘビ神の“毛脱けぬけ”により、恩赦という形で解禁されたらしい。

「香火彦がやったことで自分にゃカンケーねぇって、煌の奴が言ったんだと。
……っとに、身勝手な言い分で振り回されるよなあ、この国の“花嫁”サマ方はよぉ」

美穂のことだけでなく、咲耶のことまでもを嘆きながら犬朗がそう話してくれた。
だが肝心の、そもそもなぜ美穂が、そんな“禁忌”を背負うはめになったのかは、犬朗も聞いていないようだった。

手にした盃をあおったのち、百合子が深く息をつく。

「……美穂が己の“神力”を、軽んじた行いを為したから、だそうだ」

咲耶は記憶の片隅にあった、美穂の『過ち』として虎次郎こじろうから聞かされた話を思いだす。

───あの女は、“神力”を手に入れた当初、誰かれ構わず子を授けまくったらしい。
飢饉ききんの年と相まって、多くの『口減らし』や『間引き』を【生んだ】そうだ───。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

自己肯定感の低い令嬢が策士な騎士の溺愛に絡め取られるまで

嘉月
恋愛
平凡より少し劣る頭の出来と、ぱっとしない容姿。 誰にも望まれず、夜会ではいつも壁の花になる。 でもそんな事、気にしたこともなかった。だって、人と話すのも目立つのも好きではないのだもの。 このまま実家でのんびりと一生を生きていくのだと信じていた。 そんな拗らせ内気令嬢が策士な騎士の罠に掛かるまでの恋物語 執筆済みで完結確約です。

孤独なもふもふ姫、溺愛される。

遊虎りん
恋愛
☆☆7月26日完結しました! ここは、人間と半獣が住んでいる星。いくつかある城の1つの半獣の王と王妃の間に生まれた姫は、半獣ではない。顔が『人』ではなく『獣』の顔をした獣人の姿である。半獣の王は姫を城から離れた塔に隠した。孤独な姫ははたして、幸せになれるのだろうか。。。

捕まり癒やされし異世界

蝋梅
恋愛
飲んでものまれるな。 飲まれて異世界に飛んでしまい手遅れだが、そう固く決意した大学生 野々村 未来の異世界生活。 異世界から来た者は何か能力をもつはずが、彼女は何もなかった。ただ、とある声を聞き閃いた。 「これ、売れる」と。 自分の中では砂糖多めなお話です。

お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚

ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。 五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。 ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。 年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。 慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。 二人の恋の行方は……

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

処理中です...